- Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
- / ISBN・EAN: 9784166603947
作品紹介・あらすじ
日本の文明開化を先導した偉大な思想家福沢諭吉は、アジアを蔑視し中国大陸への侵略を肯定する文章をたくさん残している。それを理由に福沢を全否定しようとする動きも絶えない。確かに現在も刊行されている福沢の全集にはその種の文章が多数収録されている。しかし、それを書いたのは本当に福沢本人なのか。もし、誰かが福沢の作品ではないものを福沢の真筆と偽って全集にもぐりこませていたとしたら…。この巧妙な思想犯罪の犯人は一体誰なのか。
感想・レビュー・書評
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「市民的自由主義者」か「侵略的絶対主義者」かで評価の分かれる福澤だが、その真実を明らかにしようとする試みで、結論としては正しいのは前者であり、後者は創られた福澤像であるという事を史料的な根拠を示しながら論じている。その犯人は石河幹明であり、無署名記事や全集の編集過程で後者の福澤像が創り上げられ、後世の研究者がそれを活用(誤用?)していく事により増幅していったという内容である。
史料批判の歴史研究でありながら、ちょっと謎解きミステリー的なテイストもあって読み物としては面白いし、説得力のある内容ではあると思う。ただし、不可解なのは石河の暴走?を福澤はなぜ止められなかったのか?という点であり、福澤が『時事新報』を息子に継がせたいがために権力者である石河の横暴を黙認したのではないか?というオチにはなっているのだが、それはそれで情けないという印象もある(本件に限らず、福澤は子供達に大変甘いところがあり、タダの親バカに思える部分が多々ある)。
「市民的自由主義者」か「侵略的絶対主義者」の論争は今でも続いているようであるが、前者派が慶応や丸山系である東大法学部で、後者派が東大文学部といった源流の違いによるある種のイデオロギー対立によって引き起こされているというのは興味深く、特に後者の立場はツールとして福澤思想を利用している側面が大きいように思えた(そう思わせるのが著者の意図なのだろうが)。
他方、福澤をナショナリストと評する一派も存在するわけで、これは後者的解釈を肯定的に評価しての事なのだろうが、となると、この三つ巴の論争は後者を巡る解釈論争が盛り上がってしまい、前者が埋没してしまっているような印象も受ける。これも「リベラルの分裂」故の結果なのかもしれないが。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
福沢諭吉が遺したアジア蔑視の論説は「本当に福沢諭吉が書いたものか」について解明を試みた本。
本書は、福沢諭吉全集や福沢諭吉のアジア観を論じたさまざまな本をもとに、福沢諭吉のアジア観が本人の思想か別の人物の思想かを読み解いていきます。 -
偉人伝を知らない
新聞評論のことなのか? -
後書だけを読んでみても要旨ははっきり分かるが、いづれにしても一万円札に君臨する人物の全集編纂、或いは病気などの情報がかくも杜撰に取り扱われてきたということに驚く。著者の意図は分かるが、やはりあの大きな面へはしっかりした近代批判の文脈においてチャレンジしなければならない。
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[ 内容 ]
日本の文明開化を先導した偉大な思想家福沢諭吉は、アジアを蔑視し中国大陸への侵略を肯定する文章をたくさん残している。
それを理由に福沢を全否定しようとする動きも絶えない。
確かに現在も刊行されている福沢の全集にはその種の文章が多数収録されている。
しかし、それを書いたのは本当に福沢本人なのか。
もし、誰かが福沢の作品ではないものを福沢の真筆と偽って全集にもぐりこませていたとしたら…。
この巧妙な思想犯罪の犯人は一体誰なのか。
[ 目次 ]
第1章 『時事新報』の「我輩」たち(日本近代最大の文章家・福沢諭吉と『時事新報』の創刊 福沢の甥・中上川彦次郎と後年の外交官・波多野承五郎 ほか)
第2章 『福沢全集』はいかに編纂されたか(一八九八年・福沢編纂の明治版『福沢全集』 一九二五年・石河編纂の大正版『福沢全集』 ほか)
第3章 検証・石河幹明は誠実な仕事をしたのか(全ては『福沢諭吉伝』の執筆依頼を受けた時に始まった 大正版『全集』と『福沢諭吉伝』の関係 ほか)
第4章 一九三二年の福沢諭吉(『福沢諭吉伝』が描く福沢像 『福沢諭吉伝』が描かない福沢像 ほか)
第5章 何が「脱亜論」を有名にしたのか(一八八五年・『時事新報』紙上に掲載される 一九三三年・『続福沢全集』に収録される ほか)
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
『福沢諭吉の真実』なんて題名なもんだから、どんなスキャンダラスな内容かと思ったら。
全然違いました。むしろ煩悩だらけの僕の負け。orz
日本の文明開化の先駆者であり、塾生・塾員の師たる福沢諭吉の著書に、『思想家』とは思えないほどのアジア各国を蔑視した記述が。
果たしてこれは福沢諭吉の真筆なのか。それとも別の人間が成りすまして書いたものなのか。推理小説形式で読める本。
多分本当なんだと思うけれど、何分100年近い隔たりがあるだけに、書物上でしか確認できず。死人に口無し、とも言うし。
更に僕個人として orz なのが、この本に出てくる、『福沢諭吉の真実』を追うために取り上げられた書籍は、大部分が読んだ事が無い&読破した事がある書籍は皆無。
全く以って読む資格ナシなのだが、逆にこの本の分析を踏まえた上で読むのも一つの醍醐味かと。