彼らはなぜ国家を破滅の淵に追いやったのか 昭和陸海軍の失敗 (文春新書 610)

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  • Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166606108

感想・レビュー・書評

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  •  視察先への移動時間に読むために、本棚からぱっと選び出して鞄の中に放り込む。三年ほど前の本ではなかったか。再読。

     ちょっと左傾かなと思われる半藤一利や保阪正康、また、右傾かなともいわれる秦郁彦、福田和也、防衛大学関係の平間洋一、戸部良一等々、なかなかの識者。現代ではこの時代を考証する最強メンバーであろう。

     感想は陳腐なものになってしまうが、結論から言えば、この本を読んででさえも、なぜあのような戦争に突入してしまったのか、一つの理由に帰することはできない。ヒトラーに全てを帰結してしまったドイツと決定的に違うところであろう。

     石原莞爾はあまりに天才が過ぎるがために、誤解されている節もあるが、決してヒットラーではない。東条英機は、逆にあまりに小さ過ぎる。

     さて、先の大戦にまつわる本を読んでいると、ことごとく共通しているのは、服部卓四郎と辻政信の評判の悪さ。詳細は、本書はじめ歴史書に委ねるが、なぜ、こんな暴走コンビが・・・と気が重くなる。

     参謀本部作戦課長として、無謀な戦争の絵を描いた服部は、戦後、すかさずGHQにおもねり、日本の悪口を書きなぐった「大東亜戦争全史」(GHQ戦史部編纂)をまとめあげた。

     現代に繋がる、先の大戦は全て日本が悪であるという呪縛に拘泥されている人に、しかも、そのことさえ気づいていない人に、意識しようがしまいが、しっかりと覆いかぶさっているものである。

     服部は、自分でシナリオを書いた戦争を、「日本」という国の責任にしてしまうことによって、自分の責任をうやむやにしてしまおうとする。

     服部とコンビであった辻政信は、連合国からの戦犯追及を逃れるため、インドシナ半島、中国さらには日本国内にてずっと隠れていた。広田弘毅と正反対である。

     ほとぼりが冷めた頃に、表れ、その潜伏の体験を書き上げベストセラーに。

     常人ではない。

     尚、辻政信はその後、参議院全国区から出馬し、三位で当選。いやはや・・・。強靭な生命力である。

     では、なぜ、そのような人物がそんなことをできたのか。跋扈できたのか。その疑問を解いていく作業こそが、私たち日本にとって、今後、平和を守っていく一つの鍵となっていくのかもしれない。

     最尾に、辻政信についての人物評で面白い記述があった。

     戸部氏の言葉。
     「辻は、その場に応じて『正論』を巧みに使える才能があり、それで生き残ったのではないか」

     保阪氏の言葉。
     「作家の杉森久英は『辻政信』という著書の中で、「彼のする事なす事は、小学校の終身の教科書が正しいという意味で正しいので、誰も反対しようがなく。彼の主張は常に、大多数の無言の反抗を尻目にかけて通るのであった」と書いています」

     組織がおかしくなるのは、そんな人物を淘汰できなくなってきたときであろう。組織とは、外的要因よりも内的要因から崩れていくことが多いとは、まさにそのことを指すのであろうか。

     改めて、胸に刻み込む。

      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
    (2010年7月25日)

     今朝の朝刊、地元紙を見て、思わずホウッと声をあげてしまった。
     私が昨晩書いたばかりの辻政信のことが出ていたからだ。

     記事の出だしがこうだ。

     「”作戦の神様”とあがめられる一方、無責任参謀と非難する人もいて、評価が極端に分かれる人」

     そうだろうか。私がこれまで目にしたいくつかの文献を思い起こしても、辻政信のことを、”作戦の神様”とあがめたものは一つもない。この記者さんの勉強不足もしくはリップサービスであろう。

     おそらくは、記事でわざわざ””(コーテーションマーク)で括っていることから想像するに、記者さんも、その評価については懐疑的でいくらかの皮肉を込めて記述しているのであろう。

     ただ、記事中に、「戦功を重ね」とあるように、現場のまさに戦場においては、勇猛であったことは事実のようだ。だからこそ、一般兵士の間では、評判は良かった。後に、国会議員選挙で当選を重ねたことからも、現場に出て、一般大衆の心をつかむことはうまかったのであろう。それは大いなる魅力だ。

     辻政信。歴史家や研究者の間では、大変厳しい評価しかされてはいないが、経緯はともかくとして潜伏紀行文(?)なるものをもってしてベストセラー作家となり、衆議院議員に4回も当選し、その後、参議院全国区で第三位で当選。

     戦争論、組織論、人物論等々、研究の題材としては、興味の尽きることのない人物である。

  • 「硬直した人事」、「既得権益優先の論理」、「トップのリーダーシップのなさ」等々、指摘されていることはいちいち尤もだと思うのだが、いちばん不思議なのは、そうやって指摘されていること(特に人事)が、いまもって日本の組織のあらゆるところで行われているということ。
    どうしてなんだろう?
    つまりは、そういうことがいちばん日本人の心性には合っているということなのではないか。失敗の指摘よりも、そんなことの方が気になった。

  • 同質が陥る病理と、平常と異常の違いを認知識別できない限りはどの組織も衰えていくんだな。

  • 太平洋戦争の陸海軍の有名どころの人物像、能力がよくわかります。複数の識者が多様な角度から説明するので、偏りもあまりないように思います。

  • 陸軍海軍分けて、識者がそれぞれの軍人や組織の何が問題で昭和の戦争を日本は戦うことになり、負けたのかについて語り合う。

  • その名の通りの本。論述というよりは鼎談をまとめたもの。

  • 『失敗の本質』の裏にある人と組織の問題点がよく分かる。大局感があって先が見える人程、上から煙たがられ出世しないと言うのは現代の組織にも当てはまりそう。
    過去の失敗の教訓が全く活かせない日本の組織って何だ?

  • 本当にこの手の本は大好き。もっと熱く色々な軍事官僚について語ってほしい。

  • 駆逐艦の艦長に名将が多かったという。駆逐艦に乗るのは、士官学校とかの学校の成績が、必ずしも優秀ではなかった人たち。彼らは、ハンモックナンバー(成績順)ではなく、現実の中で鍛え上げられ、臨機応変に場にあたっていった結果、能力が磨き上げられていったのだという。

    でも一方で、やっぱり陸大その他、軍の学校で成績優秀な人たちの中にも名を残している。単純に世の中、成績じゃないとも言い切れない。

    陸軍よりも海軍の方が、評判はいい印象がある。でも、陸軍では餓死者が何万人も出た一方で、海軍ではそういうことはほぼなかったという。

    あれこれ読んで感じたのは、先の戦争は誰が悪かったというよりも、日本人全体の在り方によって突入していったのだな、ということだ。そして同じことが、現在の社会、あるいはもっと身近な自分のまわりにも連続したものとしてあると思う。

    歴史を学ぶって、面白いね。

  • 色んな人が昭和陸海軍の失敗を分析した一冊。

    当然ながら、失敗したのは有能な人物が少なかった、あるいは登用されなかったということなのだが、士官学校でエリート教育が行われている以上、当然中には優秀な軍人もいるわけで、それがうまく活用されなかったことがかえすがえすも残念。。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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