松井石根と南京事件の真実 (文春新書 817)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166608171

作品紹介・あらすじ

南京事件の罪を問われ東京裁判で処刑された松井石根を、中国人は今も「日本のヒットラー」と呼ぶ。著者はこの悲運の将軍の生涯を追いながら、いまだ昭和史のタブーとされる事件全貌の解明に挑む。

感想・レビュー・書評

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  • 南京大虐殺で殺害された人数は30万人とも言われるが、実際のところ当初よりその数字については根拠に乏しく、何を以ってか正確な数とするかは未だ分からない。ただ歴史の事実として、当時の日本と中国の外交関係と日本軍の進軍の跡を辿れば、南京に対して帝国陸軍が侵攻し兵士だけでなく民間人に死者が出たのは間違い無いだろう。それが誰の手によって行われたのかすら、未だもって謎は残っている。そこにも日本軍兵士の中にも軍規を破り殺害や強姦などを犯した者もいるだろうし、中国側にも撤退を許さず味方を殺害したり、攻め込んでくる日本軍に対して糧秣を渡さないよう民家を焼き払う行為もあったであろう。何も大小程度の差こそあれ両軍が民間人に対して犯した罪である。
    これを戦時下において逐次厳密に処理するのは難しく、だからと言って仕方ない事だと無視する事は出来ない。広く捉えれば、全てはそこに至る戦争の過程に原因があり、さらには両当事者の関係性を正常に維持できなかった政府、そしてその政府を選んだ国民にまで責任は広がる。その結果の一部が南京という当時の首都機能の破壊に繋がり、そこに暮らす人民の殺害を引き起こした。
    こうなるとその責任を誰に求め誰を処罰すべきかという話になるのだが、本書「松井石根と南京事件の真実」は責任を負って東京裁判で絞首刑となった松井石根の中国に対する考え方、戦争との向き合い方について新書にしてはページ数はやや多く、多くの逸話を以て我々に教えてくれる。
    我々が認識する松井石根とは南京攻略の指揮官、事件の首謀者としてのものが大半であろうが、本書では親中派として中国との和を実現しようと、蒋介石との関係に苦悩する姿が見えてくる。表面的にはあれだけの(数字については未確定ではありながら)事を起こしておきながら、中国との未来建設的思考を持つのは俄かに信じ難いが、中国に対する強い思い入れと国民党政府の態度に起因する軍事行動と、その反動の大きさが松井に強く衝撃を与えていたことがよくわかる。
    松井は死刑になる最後の瞬間まで中国との恒久的な和平、親交を願っていた事が容易に想像できるのだが、歴史とは残酷なもので、彼を刑場の露として葬り去る。前段に書いた様に、誰に責任があるかを考えた時、真に和平を願いながら歴史の大渦に抗いきれなかった人間と、遠い地に居ながら好き勝手言う人々。確かに兵士を統率統制不十分の罪は大きく許されるものでは無い。だが1人に責任を押し付けることも間違えている。国民全員が考えなければならない問題である。
    戦犯問題は戦勝国の好き勝手に行われた印象が強く、インドのパール判事が言うように、事後法に基づく審判は裁判のあるべき姿である罪刑法定主義の原則を覆す惨事である。だが本質を見極めれば国民全員を裁くのは不可能であり、中には戦争に心底反対しながら不当な扱いを戦時中に受けた人々も居るから、それを正確に選別する事など時間的にも作業量的にも無理だ。わかりやすく間違いの無いところで1人に負わせ処断した事はある意味では正しい。それを靖国合祀問題に取り上げて議論する事も間違いでは無い。だがその1人の犠牲者に全てを負わせて自分たちは蚊帳の外と言うのは虫が良すぎる。現在もなおロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザ侵攻など多数の戦争が継続されている。国民は皆自分の意思を強く声に行動に出さなければならず、それを放棄する事は太平洋戦争に一喜一憂した時代の国民と変わらない。あなたはどう考えるか、そう問いかけてくる一冊である。

  • 読む前と後では、松井石根に対するイメージがガラリと変わった。そこまで、中国の事を考えていたとは、思ってもみなかった。

  •  本書は、極東軍事裁判でA級戦犯として処刑された「松井石根」を扱ったものである。
     「松井石根」という軍人の経歴と思考を詳細に追いかけた内容には、それなりの興味をもてたが、「南京戦」の「虐殺はなかった」という結論には苦笑せざるを得ない。そうかこれが「マボロシ派」というものなのか。
     「日中友好論者への道」や「大アジア主義」の内容は、当時の日本がなぜあれほどまでに中国侵略に傾斜していったのかの経過と考え方が書かれている。ただこれを読んでも、今から振り返って、なぜ当時の日本が、膨大な軍事費と多大な人命を投じてまでも中国にのめり込んでいったのかは、不明としか言いようがないと思えた。
     「上海戦」「南京戦」「占領後の南京」などには、まるで正常な戦闘のみで「虐殺」はなかったかのように書かれているが、第十軍の「捕虜は取らない方針」や、「軍規の崩壊」「松井石根の涙の訓示」等を知っていれば、本書の考察が、最初に結論ありきの、相当無理がある内容であることは一目でわかる。
     「南京大虐殺」が、現在の中国共産党が主張するように「30万人以上」の人数であるとはなかなか思えないが、昭和59年(1984年)に旧陸軍士官の親睦団体「偕行社」が取り組んだ調査と研究の中で「会員を中心とする参戦者の証言と戦闘詳報などの記録類を大 規模に発掘整理し」、総括部分で畝本正巳氏が「虐殺数を三千乃至六千」、板倉由明氏が「一万三千」との虐殺数を発表し、両論併記するとともに、「中国人民 に深く詫びるしかない。まこと相すまぬ、むごいことであった」と発表したという。
     現在から見れば、被害者が10人や100人でも大虐殺である。南京において相当数の「虐殺」が行われたことは間違いがないだろう。
     なぜこのような「虐殺」が起きてしまったのかとの考察こそが必要であるだろうし、またなぜ本書のような「マボロシ派」が繰り返し出てくるかという事も別の意味で興味深い。
     かつて中国と日本が戦争し、双方で大きな犠牲が生じた事実は隠すべくもなく、政治の敗北であることも間違いがない。
     この巨大な国富と人命を投じた「国家的過ち」がどこから生まれたのかはぜひ知りたいところである。本書にそれを求めることは無理であるとはおもうが、「松井石根」がどのような人物であるかをある程度知ることはできたと思えた。

  • 所謂「南京大虐殺」、その「首謀者」松井石根に興味がある人には必読書と言っても過言ではない。
    松井大将への共感を秘めながらも抑制の効いた筆致で300ページに及ぶ長文であるが飽きずに読み進む事が出来た。
    「そもそも孫文の革命を助けたのは日本ではないか」、その後「抗日」へ転向する支那を背景に松井大将の足取りが展開される。
    「南京事件」については様々な評価があるが、本書は真実を突いてゐると小生は見る。
    筆者はルポライターと称してゐるが、ルポライターの域を越えた文章家だ。
    末尾の文章は印象に残る。
    「先の大戦における最大の皮肉は何か?  松井石根の存在。」
    「『歴史は繰り返さない。ただ、韻を踏むだけだ。』という巷間の警句が、深い闇の継ぎ目から発せられた因果の糸のようにして、現世を縛ろうとするのである。」

  • 読んだ方いい本ではある。中国との付き合い方は難しいね。

  • 日教組教育で江戸時代から昭和までポンととばされる日本史ですが
    この本で気になってすごい調べました。
    全部真実でツイッターにこの本は南京以前にかなりの中国人による日本人虐殺があったんですねってつぶやいたら、在日さんに切れられました。
    在日さんいるの忘れてました。

  • 南京の真実ってなんだろう。
    東京裁判ってなんだったのだろう。
    歴史って難しい。

  • 松井石根が終生日中親善を祈念していたというのはこの本で初めて知りましたが、ただこのくらいの日中友好論者は他にもたくさんいたでしょうから、これをもって贖罪とすることはできないと思います。それに、やはり軍の枢要にいた人物として、そういう思想を抱きながらも軍の暴走を止められなかった責任は多分に負わなければならないとも思います。肝心の南京大虐殺ですが、本書を読む限り、そんなことはなかったと言えます。史実としては松井が命じたりしなかった、組織だった虐殺はなかったというところだと思いますが、叙述が淡々としすぎていて、その辺りのところがわかりにくかった気がします。もちろん本書は素直に松井の人生を追ったものであって、南京大虐殺の審議の問題を取り上げた本ではありませんから、当然なのかもしれませんが。また松井の心情は理解できるとしても、もう少し中国側の動きや民衆の感情にも目配りをしてもらいたかったと思います。結局、おセンチな友好論は歴史の大きな流れの前では簡単に押し流されてしまうのでしょうか?

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著者プロフィール

早坂隆
1973年、愛知県生まれ。ノンフィクション作家。『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)をはじめとするジョーク集シリーズは、累計100万部を突破。『昭和十七年の夏 幻の甲子園』(文藝春秋)でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。他の著作に『指揮官の決断 満州とアッツの将軍 樋口季一郎』(文春新書)等。主なテレビ出演に「世界一受けたい授業」「王様のブランチ」「深層NEWS」等。Twitterアカウント:@dig_nonfiction

「2023年 『世界のマネージョーク集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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