独裁者プーチン (文春新書 861)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166608614

作品紹介・あらすじ

プーチンといえば、柔道好きで親日的しかもキレる男というイメージですが、その実像はまったく逆です。実は、水戸黄門ばりの「国民との対話」を通して、ばらまき政治を繰り広げており、元KGB中佐だけあって諜報機関をつかった支配はかなり前近代的。これまで12年間の独裁に続き、さらに6年その地位にある隣国の独裁者について、我々はもっと知るべきではないでしょうか。

感想・レビュー・書評

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  • 本書はロシアを率いるプーチン氏に迫ったものです。個人的には今度から彼の声を日本語に吹き替える際には、池田秀一氏に一任していただきたいと思っております。「ダークヒーロー」としても彼は魅力的です。

    日本とロシアの政治を比べてみて、気がつけば為政者がころころ変わる一見『平和』な世界と、ロシアのように三権分立もへったくれもなしに一人の独裁的な人間が実質的に国家を動かしていき、その周りには時として命を落としかねないような『愛と嫉妬』の渦巻く政治の世界。政治がむしろダメだからこそ、国民が政治に関心を持つ社会と、安定したいい生活や国家の安全、さらには経済的なものを保障する代わりに政治に関心をできるだけ持たないように『仕向けられる』ロシアの社会。どっちがいいのかは僕は判断がつかないところですが、本書は2012年に大統領に返り咲き、2期12年にわたって長期政権を維持する可能性すら出てきた『ロシア中興の祖』であるプーチン氏の実像に迫ったものです。

    もちろん彼の『魅力』は『KGB出身』ということに始まる『ダークヒーロー』とも言うべき「資質」や彼のたどった足跡などを豊富なエピソードや肉声を通じ、その人物像に迫りながら、なぜスパイ出身の政治家が強力無比な「皇帝」に成り上がることができたのか、その謎を追ったという意味であまり日本にいては本来知りうることができないような話が紹介されているという意味で、面白い文献だな、と思って読んでおりました。

    彼の政治はバラマキやド派手な政治パフォーマンス。さらには『国民との対話』という『水戸黄門』ばりの演出が尽くされた勧善懲悪の4時間以上にも及ぶテレビ出演など、裏を返せば『衆愚政治』とも取れるようなお話で、事実ここには書かれておりませんが彼の体制になってウオトカが安く手に入るというのもその一例なのでしょう。そんな彼がどのようにして『権力の座』についたのか?それはある種の『運』のようなものも左右しているのではなかろうかと、読んだあとにはそう思っております。

    ヨーロッパとの距離を縮め、アメリカに対しては毅然とした姿勢をとり、資源大国として存在感を増し続け、『新・帝国主義国家』として21世紀に『甦る怪物』として君臨するロシアを率いる『皇帝』およびその周辺に鋭く迫ったものとして国際関係、特にアジア・ユーラシア方面に関心のある方は一読なされてみては、いかがでしょうか?

  •  プーチンが首相から大統領に復帰した2012年3月4日に行われたロシア連邦の大統領選挙前後のタイミングで執筆された本。

     著者の名越氏は2023年11月11日の講演の中で「プーチンは過去の選挙を踏み台とし権力基盤を強固なものにしてきた」とコメントしていたが、名越氏自身も2012年当時はここまで独裁色が増すとは思っていなかったのではないだろうか。

     名越氏は講演の中で「(ロシアは)メディアがしっかりしないといけない」と言っていたが、この本の中では次のような記述がある。

    『2006年10月に銃殺された改革派記者、アンナ・ポリトコフスカヤは死の半年前、改革派集会で演説し、「プーチン体制下で言論の自由の復活はあり得ない。ロシアの記者も力を失った。メディアがしっかりしなければ、国家は病む」と現状を嘆いた。記者がしっかりしていれば、腐敗汚職、要人の縁故主義、法の恣意的運用はこれほど進まなかっただろう。数千万人が利用するソーシャルメディアが今後、どこまで体制に風穴を開けるかが注目点だ。』

     ロシアのソーシャルメディアは10年で風穴を開けられなかったのだろうか。


    以下、文藝春秋の紹介文。

    --引用--
    ~誰も知らない隣国の独裁者の素顔~
    世界の注目を集めつづけるプーチンだが、この「隣国の独裁者」の素顔は意外に知られていない。本書では豊富なエピソードや肉声を通じ、その人物像に迫る。貧しい労働者階級の家庭で育ったプーチンは、子供のころからの夢であったKGBに入るが、鳴かず飛ばずの中佐止まりだった。その後、ひょんなことからサンクト・ペテルブルクの副市長となり、中央政界に出てとんとん拍子に出世する。長年ノーマークの存在だったために、その経歴には謎も多い。資源依存型の経済運営で国策企業に側近たちを送り込むなど、あらゆる利権をクレムリンで掌握、外交面でも徹底した首脳外交で武器輸出のセールスマンとしても活躍してきた。一方、ジェット機を操縦したり虎退治をしたり、あるいは「国民との対話」という4時間以上のテレビ出演といった派手なパフォーマンスなどをみせるなど、メディア操作にも長けている。――世界の運命のカギを握る「黒い皇帝」の野望の原点がここに。 
    --引用終わり--

    (2023年11月26日 読了)

  • そこかしこに今日のウクライナ侵攻を予感させる記述がある。なお、この書籍は2012年刊行と、ウクライナ侵攻の10年前である。私は大学時代を北海道で過ごしたので北方領土返還には思い入れがある。この本を読んで、このままでは北方領土は戻らない、それどころか、ツァーリプーチン一世となれば、北方領土は尖閣諸島なみの危険な地域になりそうだと哀しみが深まるばかり。2022年6月14日、未だウクライナ戦線の見通し立たないなかで記録

  •  ここ最近、ロシアという国やその国民について、またその指導者プーチンについて関心があったので手に取ってみた本。本書の帯の、「金正恩、胡錦濤より怖い!ロシア『黒い皇帝』知られざる素顔」という表現が興味をそそるものだった。
     それにしてもプーチンは良くも悪くも強い指導者だ。ロシア主導の事件があるたびに発せられる世界中からの非難の声など、彼にはどこ吹く風であるようにも見受けられる。少し前には、アメリカのオバマ大統領に次いで「世界で二番目に影響力のある人物」と言われていたが、アメリカの衰退が著しい今となっては、もはやプーチンは、世界で最も影響力のある政治家であるといっても過言ではない。
     本書によると、プーチン自身、自らのロシア史の研究を通じて、世界最大の領土を持ち、独裁と専制の歴史に覆われたロシアを統治するには、強力なカリスマ、つまり「強い手」が必要だとみなしているという。そして、その発想が自らを頂点とする「垂直統治機構」、見方によっては独裁的な体制の構築につながったのだという。またプーチンは、強権的な統治と石油価格の高騰に伴う経済成長により、ロシアの政治と社会を安定させ、はじめて大衆消費社会をもたらし、疲弊したロシアを再び大国に押し上げた。しかし、ロシア国内においてプーチンのカリスマは、その強権的な手法や汚職の蔓延によりここ数年ではネット社会を中心に失墜しているともいう。
     本書は「黒い皇帝」の素顔に、批判を交えながら迫る。もっとも、終戦時の不幸な歴史を思うと、私はロシアについては非常に複雑な気持ちになってしまうが、今日のような中国の覇権主義的な台頭を考えると、日本は日米同盟を堅持しつつも、ともに中国の存在を警戒するロシアとは良好で準同盟的ともいえる関係を今後築いていく必要があるように思われる。ウクライナ情勢が緊迫する今、アメリカをはじめとする世界のロシアへの眼差しが厳しくなる中、安倍政権が日ロ首脳会談の開催などにどのような対応をしていくのか注目している。
     しかし、この手の本となると、やっぱり個人的には佐藤優の方が好きかな。自分のようなあまりロシアやプーチンについて知らない者には、この本は入門書としては悪くないが。

  • 【由来】
    ・amazonで「プーチン」関連本

    【期待したもの】
    ・こういう側からのものも読んでおかなきゃね。
    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】

  • 2012年刊行。著者は元時事通信所属、拓殖大学海外事情研究所教授。タイトルどおりプーチンの人物評伝だが、最近、特にリーマンショック以降のメドベージェフ政権下におけるプ主導の露外交のありようが興味を引く。軍事的には米国に、経済的には中国に劣後しているようだが、その中で強か、かつ大国主義に彩られるプーチン外交が具体的に解説される。日露関係論は余り新味とはいいがたいが、プーチンのスタンスとエリツイン政権時の日本外交の失策のために交渉が何も動かなくなったことに起因するか。なお、プーチンのTV利用の強かさにも言及。
    KGB出身だが、出世せず、同盟国東ドイツへの派遣経歴でスパイとしての能力的な疑義。エカテリーナ女帝やピョートル大帝に敬意を払う大国志向。エネルギー重視と製造業軽視。ばら撒き政策。TVの支配と利用、TVでの討論会から見える、政治家の中では抜群に優れた記憶力と体力、水戸黄門ばりの弱者優先のパフォーマンス。

  • 2014年10月6日読了。

  • プーチンについて否定的に書かれている。

  • 「元スパイ」。それだけで充分魅力的なのである。そういう人が
    国のトップに立つ。ロシアならではだろう。

    ウラジーミル・プーチン。ロシアの国家元首。イタリアの前首相で
    あったベルルスコーニも興味深い人物だったが、プーチンの前
    ではその影もかすむ。

    元KGBとは言え、派遣されていたのは旧東ドイツなのでスパイと
    しては決して敏腕ではない。そんなプーチンが何故、ロシアの
    トップに立つようになったのか。

    本書はプーチンの生い立ちから、実力者が逃げ出して人材不足に
    陥っていたエリツィン政権末期に表舞台に登場し、大統領1期目から
    現在のプーチンの政治までをかなり批判的に取り上げている。

    2期目の終盤、憲法改正をせず子飼いのメドベージェフを後継指名
    した時から、大統領へ返り咲くのではないかと思っていた。そして、
    事はその通りに進んでいる。

    しかし、今回の大統領就任に当たっては前回とは異なりかなりの
    逆風が吹いた。大統領選前からロシア各地では大規模な反プーチン・
    キャンペーンが繰り広げられ、支持率も1期目・2期目ほどには
    上がっていない。

    それでも私はプーチンが好きである。夏になるとメディアで取り上げ
    られる「プーチンさんの夏休み」を毎年楽しみにしている。

    バタフライで泳ぎ、白馬を駆り、釣りを楽しみ、ボートを漕ぐ。大抵は
    上半身裸で、柔道やサンボで鍛えた裸体を晒している。こんな国家
    元首、他にはいないぞ。

    戦闘機を操縦したと思えば、潜水艦で潜り、レーシングカーを操り、
    ピアノを弾いて歌う。なんとまぁ、才能に溢れていることか。

    私のパソコンの画像フォルダにはプーチンのいろんな画像が詰め
    込まれている。

    ソ連邦は崩壊し、民主主義国家になったはずのロシアだが、それは
    あくまでも建前だ。プーチン流民主主義は、権力の一極集中である。
    勿論、それはプーチンが握っているのだ。

    「金儲けするのはいいが、政治には口出しするな」とオリガルヒを
    脅し、側近は自身の出身地サンクトペテルブルグ出身者で固める。

    ロシアの帝政はロマノフ朝で終焉を迎えたが、プーチンは現代に
    甦ったツァーリ(皇帝)である。さぁ、プーチン王朝の終焉を見届け
    ようではないか。

    尚、本書はロシアとプーチンの政治の流れを知るには最適。笑う
    ことのないプーチンだが、柔道の金メダリスト・山下泰裕氏といる
    時には満面の笑みを見せるらしい。

    う~ん、これは見てみたい。山下氏の後ろに隠れてこっそりと
    覗いてみたいぞ。あ…でも、うっかり目があったらあの眼力で
    秒殺されるかもだ。汗。

  • 他の方のレビューにもありますが、作者は特に意見を提示するというわけでもなく、淡々とプーチンについて述べているという本です。
    政治事情に疎い私にとってはプーチンについて知りたかった事がまとめられていて良いと思いました。

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著者プロフィール

(なごし・けんろう)
1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語科卒業。時事通信社に入社、バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。現在、拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。

「2022年 『ゾルゲ・ファイル 1941-1945』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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