- Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
- / ISBN・EAN: 9784166610334
作品紹介・あらすじ
冷戦、ポスト冷戦とはケタ違いの大波が日本を襲う!生き残れ、日本!!安倍晋三が信頼を寄せる「本物のインテリジェンス」が分析した圧倒的サバイバル戦略論。誤解を恐れずに敢えて言おう。南シナ海で今起きていることは、中国にとって「満州事変」となる可能性がある──。今年半年で、著者のもとには、海外からの巧妙に仕組まれたスパムメールが27件届いた。新聞記者を装うなど実に高度なもので、それほどまでに世界のサイバー戦は苛烈さを増している。帰ってきたロシアの熊、「イスラム国」の出現、劣等感と不健全なナショナリズムに苛まれ、米国の虎の尾を踏んだ中国、凋落が囁かれる米国、従来戦術が失敗しつつある韓国・・・・。この複雑極まりない国際情勢は、「ある視点」を導入することによって実にクリアに見えてくる。そこから日本の「本当の敵」もその正体を現す。米国防総省には長い間秘密のベールに隠された部署があった。ネットアセスメント局(ONA)。その初代にして事実上の最期の室長がネットアセスメントの第一人者、アンドリュー・マーシャルである。表舞台に出ることや手柄を嫌悪し、めったに人前に姿を現さなかったマーシャルを人は「伝説の老軍師」「国防総省のヨーダ」と呼んだ。このマーシャルのネットアセスメントこそ、冷戦を勝利に導いた真の功労者であり、ソ連はマーシャルに敗れた。従来型の情報分析やCIAの情報網は、経済力などの視点を軽視し、ネットアセスメントを前にその脆弱性、不確実性を露わにした。そのマーシャルは早くも90年代以降中国に並々ならぬ関心を持っていた。この本のもう一つの挑戦は、未だ知られざるネットアセスメントの全貌を紹介し、その手法を中国に応用することを試みることだ。状況判断を誤ることは、国家の「死」に直結する。今、「ポスト・ポスト冷戦」の熾烈なサバイバル競争の幕が開く──。
感想・レビュー・書評
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ソ連共産主義の崩壊と冷戦の終結によって世界にもたらされたものは、平和と民主主義ではなくナショナリズム(民族主義・国益主義)による新たな戦争である。周辺諸国で自己主張を繰り広げ、南シナ海で領海侵犯を繰り返す中国、「反日」を国是として慰安婦問題などにより日本の併合時に受けた恩を仇で返し続ける韓国、自国第一主義へと転換し「世界の警察官」からの撤退を宣言したアメリカ... 日本にとって最大の敵とは、これらの状況を正しく理解せずに対応出来ないでいる「自分自身」であるという提言。外務省OBの著者が、戦後70年を経た現在の日本が対峙している「国難」への打開策を講じた快作。
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タイトルから想像したものよりも穏やかな内容。冷静な分析。
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元外交官の宮家氏が今後の日本の外交について語った一冊。
言ってることは元外交官だけあって現実に忠実な反面、特に真新しい分析や視点はないのが残念。 -
国家間の戦略的対立の中長期的趨勢を、軍事以外の人口、統計、経済学なども踏まえて総合評価し、それを政策に反映するシステムをネットアセスメント(総合戦略評価)という。米国防総省のアンドリュー・マーシャルは米国の脅威となり得る国との戦略的対立・競争の長期的趨勢について正確な分析を歴代の国防長官に提供してきた。日本にも東アジアで台頭する中国の本質を正確に分析・評価するためにネットアセスメント的な手法が必要である。
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「日本の敵」 の以下の骨子に共感。
・日本の敵は日本自身(のガラパゴス型保守主義)
・自衛官の名誉を尊重 すべきだ
・今こそ日本は平和と安全のために正しいリスクを取れる国になるべきだ -
作者の自慢話が多すぎるが、東西冷戦というイデオロギー対立から民族主義対立への移行という構図は、昨今の中韓の動きを見ると理解出来る。
でも最後は今回の安保法案と安倍政権への是認は理解し難い。何だか論理が唐突に飛躍した感がある。また自衛隊がプロフェッショナルな存在である事も理解し難い。そうあってほしいという願望は分かるが、幹部クラスは国民を守るという意識(単純なエリート意識だけかもしれない)は有れども現場は一つの職業を選択した程度の意識だけなのでは。 -
マーシャルの「ネットアセスメント」に力点を置いているような書き出しだが、この「ネットアセスメント」なるものはイマイチよく分からない。
むしろ欧州・ロシア、中東、更には中央アジアと中国の分析の方が面白い。
クリミア問題については、「ウクライナのフィンランド化」や「ドイツのメルケル首相やフランスのオランド大統領には、強大な武力を背景に断固として自己主張を強めるプーチン大統領に対し宥和政策を続ける他に有効な手段がない」と冷徹な目を向けている。
またEUについて、「欧州のEUはロシアに対抗するだけでなく、ドイツを封じ込めるための組織である」と述べるとともに、ギリシャ問題に関連して「ドイツは大きな犠牲を払ってでも、ユーロを守らなくてはならない。それはユーロが本質的に政治的通貨であるからだ。同様にEUもその本質は経済的合理性に基づく共同体ではなく、政治的連帯である。米露間での埋没を恐れる欧州のエリートたちにとって、ユーロやEUを潰す選択肢など始めからありえないのだ」とズバリ本質をついている。
また中東については、IS運動とは民族を超えたイスラムという国際的イデオロギーの衣を纏いながら、その本質は民族主義的要素を含んでいる」として、アラブがその統治能力を大幅に低下させているのに対して、トルコとイランの台頭が著しい。
特にトルコはこれまで民主化を進め、冷戦時にはNATOの一員として「ソ連封じ込め」の一翼を担い、欧州の一員となりことを切望してきたが、欧州はEU加盟を拒否し続けてきた。その傷心のトルコがイスラム化を進め、中東地域での影響力拡大を優先しているのは偶然ではないと、鋭い指摘をしている。
中東でのブッシュ政権の最大の失敗は、近代市民社会のような政治的成熟のない国に欧米型の「自由化」による「民主化プロセス」を求めたこと、またオバマは中東でのリーダーシップを発揮する気がないと指摘している。
まだ他にも中国と中央アジアとの関係など、面白い見立てがいくつもあり、現代の世界情勢を知る格好の羅針盤と言える。 -
最新兵器を持つ新しい部隊の数が急激に増えても、全体の戦闘能力は直ぐには向上しない。それどころか、親ソビ、新編成、新戦術に習熟するうにはざっと50年はかかる。
中央アジアは米中ロの戦場となっていた。 -
著者の講演を聞いたことがあるのだが、地政学の観点から見た現在の世界情勢を、とても分かりやすく説明して頂けた。
外務省に永らく勤められていて、中東での駐在も長かったという著者の経験に基づく事例や分析は、相当に迫力がある。
その点は本書も同じく、主題のひとつとなっている中国のネットアセスメント分析は大変説得力が高い。
世にはあまり知られていない米国国防総省アンドリュー・マーシャルが永年かけて作り上げた分析手法を垣間見ると、今のメディア報道に踊らされる国民の安易な思い込みや反応が、以下に浅はかなものなのかとぞっとしてしまう。
ネットアセスメント分析による米国の中国への戦略検討は、いまは圧倒的な優位を保持しているが、結局は中国が米国に追いつく可能性とスピードの考え方という問題に帰着するという。
中国としては回避してきたつもりだろうが、南沙諸島の問題は、徹底的な分析を続けてきた米国の、ある意味虎の尾を踏んでしまった事件なのかもしれないと著者は示唆している。
また冷戦構造と独裁体制のもとで、永年抑えこまれていた民族主義の復活が与える世界情勢への影響がもう一つの主題。
アラブの春が招いた混乱、アメリカが進めた民主化の失敗、クリミアのロシア併合の動きなど全てが民族主義から出てきた問題だという。
考えてみれば、第一次世界大戦の発端となったセルビア人のオーストリア皇太子射殺だって、民族主義の軋轢から起きたもの。
イデオロギーに振り回された冷戦時代が、例外的な時代だったと言えるのかもしれない。面白かったのは世界中で民族主義が台頭しているのに対して、対局にあるのがアメリカの状況だという。
移民社会で十分に民族が混ざり合い、基本的な人権・平等を第一に掲げて発展してきたアメリカでは中々起こりようがない民族主義も、ワシントンのロビー活動の中でだけ渦巻いているというのが印象的である。
朝鮮半島の地政学的解説も適切だろう。
中華世界との関係を優先せざるを得ず、北朝鮮と戦争には成り得ない事情を抱えている韓国の現状。
日本人はこういった事情をもう少し理解すべきなのだろう。
最後には日本の進むべき道として、中国を抑止しながら韓国との和解を進めることを上げ、リスクを取れる国となることを主張し、自衛隊の在り方で結んでいる。
「日本の敵」という題だが、それは日本自身だというのも、進むべき道を考えたら納得できる意見である。
こういったプロフェッショナルな方の意見は、もっと多くの国民が冷静に拝聴しなくてはならないと強く感じた次第。