働く女子の運命 ((文春新書))

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610624

感想・レビュー・書評

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  • 本書は女性・職場・社会との連関を、近現代史、特に法令・政策の観点でまとめられている。自分自身は均等法施行後に就職したことと業界の関係もあり、日々の仕事の中でジェンダーギャップをこれまで感じる機会はほとんどなかった。しかしそれは、社会一般から見ればかなりレアな例だということが一読してわかった。そうした背景もあり、女性と労働のレリバンスは課題意識になかった。本書では女性にまつわる現行の制度が先人たち(特に女性)の労苦の上に成立していることが、史的に説明されている。まだまだ問題が山積している現代社会に、こうした諸問題に取り組める人材が、各所で求められる。とすれば大学教育が果たせる役割はまだまだ大きい。

    本書の題名がやや本文と距離感がある。やはり編集部側の意向なのだろう。

  •  ①女性の労働史・日本型雇用の生成史に関する歴史的記述、②日本型雇用がいかに女性の活躍を難しくしているかという現状の分析、の両点につき興味深い分析がなされている本だと思います。
     ①まず、第一点について。日本のメンバーシップ型の雇用が、戦時中の皇国勤労観を基礎として、戦後の労働運動の成果として受け継がれたという記述など、さまざまな面白い歴史的記述がなされていました。
     ②第二点について。日本のメンバーシップ型雇用は、銃後の女性によって支えられた男性をモデルに組み立てられたものであるがゆえに、男女平等も、女性がそうした男性のように働くことができる平等とされており、育児や家事などの負担を負う女性の活躍を難しくしていることが指摘されています。
     育介法での労働時間規制(17・18条)への言及などを通して、無限定な労働義務を課す日本型メンバーシップ雇用の異常性が炙り出されていく過程が非常に面白い記述となっていました。あとがきで「本書の特徴」として、女性労働を「徹頭徹尾日本型雇用という補助線を引いて、そこから論じたところにある」としていますが(250頁)、むしろ、女性労働を補助線にして日本型雇用を論じた本といった印象があります。
     本書で指摘されているとおり、ジョブ型雇用にはスキルのない若者の雇用問題もあるので、問題は簡単ではないと思います。

  • 性別による差別以前に、日本では法律で労働時間の上限が定められてないことを知って驚いた。てっきり、週40時間と決められてると思っていたけれど、筆者の言う通り、それ以上は残業になる、と線引きする区切りのことで、それ以上働けない、という時間ではない。

    女性がまともに働ける状況になるには、まず、そもそもの仕事に対する考え方が今とは別のものにならなきゃいけない。
    職務を遂行する技能のある労働者として、欧米の会社で働いてみたいと思った。

  • 著者の新しい労働社会を読んだ際も思ったが、現在問題となっている様々な労働関係の問題を考えるに際して、メンバーシップ型雇用システムという概念は、補助線として抜群の切れ味を有している。本書は、その概念をもとに、働く女子について考察が加えられている。ただ、メンバーシップ型雇用システムという観点から考えると、女性労働の問題は、必ずしも女性労働に原因があるのではなく、雇用システムの問題が女性にしわ寄せされているということがよくわかる。これは、東京医大の入試不正操作の際に起こった議論でも感じたことと相似形であった。さて、切れ味鋭い女性労働問題の解説の後、では果たして、どのような道を今後女性の労働は、また、日本の労働社会は、進んでいくべきなのか、そこに至って初めて、この問題は解きほぐしがたい、錯綜したものであると気づかされたのだった。

  • 女性労働問題の本質は総合職正社員の実質残業無制限と転勤無制限制にあるということ。 だからこれに対応しにくくなる子持ち女性は疎外される。 女性の権利保護よりも労働時間規制が大事 組合が派遣社員の権利保護に消極的なように歴史的には女性労働者の権利保護にも消極的だったということも知りえた。 雇用問題の議論にも流行り廃りがあり、自分がどのような制度的文脈のもとで仕事をしてきたのか改めて認識できた。女子社員に対する自分の考え方もこの文脈の影響を無自覚的に受けてきたのだということに気付けたのも良かった。(人は皆、過去の理論の奴隷) 関連法案の紹介。過去の判例など無味乾燥にならぬように引用されていて参考になる

  • 労働問題の専門家による、女性の労働環境を中心に日本の雇用システムについて論じた本。精緻な調査に基づく学術的な内容となっている。特に、女性の雇用のあり方について、明治から現代に到るまでの経緯についての記述が興味深かった。
    「(女工の出発点 富岡製糸場)当時の女工たちは誇り高い士族の子女で、十台半ばの若さながら、その賃金は校長並みで、食事や住居など福利厚生も手厚く、まさにエリート女工でした」p32
    「1870年代末には女工の出身は主として農村や都市の貧しい平民層に移行し、生家の家計を助けるために口減らしとして労働力を売る出稼ぎ女工が主になりました」p33
    「(1932年 社会局監督課)男子労働者の賃金は自己及び家族の生活を支持すべきものでありますが、婦人労働者の賃金は家計を補助するにすぎないものと一般世間が考え、婦人労働者自身もそんなものと考えて居る事が婦人労働者低賃金の最大の理由であります」p43
    「(市川房枝、山高しげり)大政翼賛会で、「むしろ女子を徴用せよ、躊躇はご無用、未婚女子は待っている」と、女子労務動員を積極的に求めました」p47
    「(上坂冬子 BG論)女子社員は職場の花といわれるのが常識でした。花は枯れたら生けかえるべし。女子社員は25歳をすぎると、はっきり冷遇されたものです。たとえば入社3年目くらいまでは給料も順調に上がります。が、25~29歳の女性の給料は少しも上がらなくなり、35歳をすぎると若い頃より減ってしまうのです」p56
    「業務計画立案等の高度の判断力を必要とする業務は逐次昇進して幹部従業員となる男子職員のみに行わせ、結婚までの腰掛とみなされた女子職員には高度の判断力を必要としない補助的業務のみを行わせるという男女差別的労務管理を前提とします」p66
    「20世紀初頭の日本では年功的な賃金制度など存在せず、基本的に技能評価に基づく職種別賃金でした。しかし第一次大戦後、大企業に子飼い職工を中心とする雇用システムが確立するとともに、長期勤続を前提に定期昇給制が導入され、これが年功賃金制の出発点になります」p72
    「(小池理論)守勢に回らざるを得なかった年功制を、欧米の職務給と同じように合理性のあるものとして、いやむしろ産業資本主義段階にとどまっている古臭い職務給に比べて独占資本主義段階にふさわしい新しい仕組みとして打ち出すことを可能にした」p128
    「終身雇用的原理のもとでは、長期勤続を期待できる男子労働者と比べて、結婚、家庭責任等のために短期に退職する可能性及び確率の高い婦人労働者は、企業にとっては不安定な労働力とみなされる。日本ではこのことは致命的なハンディキャップとなる。そこで経営者は、彼女等に男子と同じ訓練費用を投資することや責任あるポストに登用することをためらう。一方、女子側は、本格的な仕事を与えられない挫折感から、結婚や出産を好機として未練なく退職することになる。こうして悪循環が繰り返される」p139
    「(女子の長期勤続は歓迎されない)女子の従事する仕事の内容と賃金額との乖離が年とともに大きくなるからである。経営者は、女子にいつまでもいすわられてはソロバンに合わないと計算するし、同僚の男子労働者は、女子はワリが良すぎると嫉妬し、白眼視する。そこから、わが国特有の、女子の若年定年制、なるものも生まれる(労組は支持)」p140
    「(女子の再就職)資格やかつての就業実績は活かされないまま、パートという名の臨時的労働者としての生活に甘んじなくてはならないのが実態である」p142
    「もともと欧米は男女平等で日本は差別的だったなどということは全くありません」p144
    「女性は、男性並みに働くことを条件に総合職、基幹職として活躍していきますが、それができない多くの女性は、一般職という安住の地から非正規労働という下界に追いやられていきます」p246

  • (後で書きます。良書。本文中に参考文献紹介あるが、巻末参考文献一覧が無いのが残念)

  • タイトルで読者を選んでしまっているが、日本の雇用政策や歴史などを整理されており、非常に勉強になった。重要な内容が多く再度読み返したい。

  • 結局、他の社会システムと同様、設計は全て男目線。男から見た女、という視点で社会は動いている、動かされている。
    女性は本当に多くの制約の中で人生の決断をしているんだと感じた。正解もないし、ロールモデルもないし、制度も整っていない。社会全体を考えた時に、圧倒的にもったいない状況を作っているのが男自身であると思う。でもその状況を変えてしまうと自分たちに不利な状況を作りかねないと思ってるから考えようとしていない。この連鎖を食い止める行動が必要なんだと思う。

    男女雇用機会均等法が制定されたのは1985年。若年雇用問題の中心課題ですらジェンダーバイアスに満ちた議論のまま。
    女性の「活躍」は、今の社会の文脈では男性正社員並みという含意を引きずってしまう。やめよう、そんなの。

  • 今なおなぜ”女子”が働きづらいのか、明治期からの女子の働き方、日本の雇用(男性の)の歴史を概観することで、今の”女子”の置かれた状況をあぶりだす。

    欧米では日本より女性が働きやすくなっており、M字型も台形型になっているが、それはそう昔のことではなく60年代になってからだという。その源泉は賃金に対する考え方で、欧米では企業の中の労働をその種類ごとに職務(ジョブ)として切り出し、その各職務を遂行する技能(スキル)のある労働者をはめこみ、それに対して賃金を払う。経理のできる人、旋盤のできる人といったように。なので女性の労働問題は、女性の多い職種はおおむね賃金が安く、男性の多い職種(管理職とか)に女性も進出する、ということであったという。

    それに対し日本は、会社のメンバーを募りメンバーはどんな職務内容でもやるというやり方。しかも賃金は労働者の生活を保障するべきものである、という生活給思想が根本にある。それは大正11年に呉海軍工廠の伍堂卓雄の発表した「職工給与標準の要」であるという。それは第二次大戦中、戦後の労働運動の中でも継承された。扶養手当の思想はここから始まっていたのだ。

    そして85年に均等法ができるが、それは世界的に男女平等が進められた時代で、欧米はジョブ型に立脚して女性の雇用を進めたのに対し、日本は生活給という日本型雇用・会社のメンバーとして一丸で働くという立脚点で進められた点にねじれがある、というのだ。

    日本型の女性労働の平等化は会社のためなら深夜でも外国でもいとわず、どんな仕事でもやります、という男性の土俵に女性も乗せるもの。均等法から30年、ワークライフバランスという言葉がむなしく響く。

著者プロフィール

1958年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業、労働省入省、欧州連合日本政府代表部一等書記官、東京大学客員教授、政策研究大学院大学教授を経て、現在は労働政策研究・研修機構労使関係・労使コミュニケーション部門統括研究員。主な著書・訳書に、『日本の雇用と労働法』(日経文庫、2011年)、『新しい労働社会――雇用システムの再構築へ』(岩波新書、2009年)、『労働法政策』(ミネルヴァ書房、2004年)、『EU労働法形成過程の分析』(1)(2)(東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター、2005年)、『ヨーロッパ労働法』(監訳、ロジェ・ブランパン著、信山社、2003年)、『日本の労働市場改革――OECDアクティベーション政策レビュー:日本』(翻訳、OECD編著、明石書店、2011年)、『日本の若者と雇用――OECD若年者雇用レビュー:日本』(監訳、OECD編著、明石書店、2010年)、『世界の高齢化と雇用政策――エイジ・フレンドリーな政策による就業機会の拡大に向けて』(翻訳、OECD編著、明石書店、2006年)ほか。

「2011年 『世界の若者と雇用』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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