不平等との闘い ルソーからピケティまで ((文春新書))

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610785

作品紹介・あらすじ

「ピケティが示した不平等の歴史的な展開を、さらに歴史的に俯瞰する。格差論の未来のために!」――『21世紀の資本』共訳者・山形浩生氏 推薦フランスの経済学者トマ・ピケティによる大著『21世紀の資本』が公刊されたのは2013年。その後、ノーベル経済学受賞者のスティグリッツやクルーグマンらの推薦もあって英訳から火がつき、瞬く間に世界的にベストセラーになりました。しかし、どうしてそのような大ブームになったのでしょうか?実は、すでに下地はできていたのです。高度成長を終えた先進国のなかでは、ピケティしかり、日本の「格差社会」「大衆的貧困」ブームしかり、明らかに「不平等ルネサンス」とでもいうべき学問的潮流が起きていたのでした。それではいったいいつ、経済学者たちの「不平等との闘い」は始まったのでしょうか? 本書では、ピケティ的な意味での「市場経済の中での不平等(所得や資産の格差)」に焦点を絞り、その歴史を紐解きます。まずは18世紀にフランス革命の思想的後ろ盾となった、ジャン=ジャック・ルソーと、そして“神の見えざる手”で知られるアダム・スミスから議論を始め、マルクス経済学、近代経済学、ピケティの下準備となった期間「不平等ルネサンス」、現代のピケティまで、260年間におよぶ不平等と闘った学問的軌跡を追っていきます。

感想・レビュー・書評

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  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685525

  • トマ・ピケティの『21世紀の資本』(2014年、みすず書房)が日本でも広く話題となった状況のなかで刊行された数多くの本のひとつですが、著者が「あとがき」で述べているように、ピケティの解説書ではなく「不平等との戦い」というテーマの経済学史における変遷をたどり、このテーマが現代においてあらためてとりあげられることになった文脈を明らかにしている本です。

    本書ではまず、ルソーとスミスの対立にまでさかのぼり、ルソーが私的所有制度のもとでの分業が不平等を生み出すことを問題視したのに対して、スミスは市場メカニズムを通じて全体としての豊かさが実現できることに目を向けたことが説明されます。つづいて、マルクス経済学を瞥見し、新古典派経済学の誕生へと、経済学史のメイン・ストリームが解説されます。とりわけ、労働者と資本家の対立というマルクス経済学の基本的な構図が、新古典派経済学においては解消され、不平等というテーマも経済学者たちの主要な関心からしりぞいていった経過が論じられます。その後、現代の経済学において不平等をめぐる問題にふたたび注目が集まった経緯が解説され、ピケティの著書がそうした大きな文脈のなかでどのような位置づけをもつのかということが論じられています。

  • ルソーとスミスからピケティまで、経済学における不平等に関する論述を俯瞰した一冊。それに対して、ご本人はどのような意見を持っているのか不明なのが、日本の学問の不幸です。

  • 理解に多くの前提を必要とする。どこに定点を見出すかによってスタンスに違いが出てくる。語られること以外の要素が大きな問題であるよう。その問題は底が抜けているので語られない気がする。処方を見出して共有するの難しそうだというのが率直な感想。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記はこちらに書きました。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=7679

  • 【目次】
    目次 [003-007]

    第0章 はじめに――ピケティから、ルソーとスミスへ 009
    経済的不平等論はいつ始まったのか/ルソー『人間不平等起源論』/スミス『国富論』/「成長か格差か」という議論の原型/資本主義の中の不平等談義/本書の構成

    第1章 スミスと古典派経済学――「資本主義」の発見 027
    アダム・スミスの新しさ――「資本主義」のイメージ/資本主義のもとでの不平等

    第2章 マルクス――労働力商品 039
    マルクスの先駆性――「労働力」の発見/「労働価値」で「搾取」を捉える/労働の搾取と利潤/マルクスが「労働力」の存在を主張した理由/技術革新が失業者を生み続ける?/不平等の原因は「資本蓄積」にあり/技術革新の思想家マルクス

    第3章 新古典派経済学 061
    民主化の時代と新古典派経済学の成立/古典派経済学と新古典派経済学の違い/「収穫逓減」とは何か/新古典派が見出す「誰もが資本家になりうる」可能性/マーシャルの「人的資本」という視点

    第4章 経済成長をいかに論じるか 079
    古典派・マルクスンにおける「典型的な状況」/新古典派にとっての「典型的な状況」/新古典派的な定常状態/新古典派はなぜ成長と分配問題への関心を低下させたか/経済成長の核心/技術革新と生産性との関係

    第5章 人的資本と労働市場の階層構造 103
    新古典派の金融システム論――労働者はなぜ資本家になりえるとされたのか/株式という仕組み/薄れゆく「労働問題」――労働経済学の変化/労使関係の変容/「発展段階論」による歴史変化の説明/二通りの格差/労働者間の格差は「人的資本」の格差である/「人的資本」はチームのもの?/抜き差しならない「生産と分配」の不可分性/「不平等ルネサンス」前夜

    第6章 不平等ルネサンス(1)――「クズネッツ曲線」以後 141
    「不平等ルネサンス」とは何か/「生産から分配へ」と「分配から生産へ」/はっきりしない「成長と分配」の理論

    第7章 不平等ルネサンス(2)――成長と格差のトイ・モデル 146
    「成長と分配の理論」のモデルを考える/資本はどのように蓄積されていくのか/資本市場の有無は経済成長にどのように影響するか/格差は温存されるか、平等化が実現するか/技術革新をモデルに組み込む

    第8章 不平等ルネサンス(3)――資本市場の完成か、再分配か 183
    資本の遍在をどのように解消するのか/「人的資本」は資本市場になじむのか/効果的な再分配政策は政治的に選ばれるのか/不平等は悪なのか?――ルソーとスミスの対決からピケティへ

    第9章 ピケティ『21世紀の資本』 205
    ピケティは『21世紀の資本』で何を論じたか/インフレーションのプラスの効果を重視するピケティ/「r>g」は歴史的にみて常態である/ピケティ『21世紀の資本』四つのエッセンス

    第10章 ピケティからこころもち離れて 227
    ピケティの論敵たちは「不平等」をどのように考えるのか/ピケティの「平等」についてのスタンスは揺らいでいる?/ピケティが論じていない格差問題

    おわりに [241-244]
    あとがき(2016年3月 稲葉振一郎) [245-248]
    参考文献 [i-vi]

  • もっぱら、現代でのピケティの議論に至る「分配」を巡っての経済学の長い歴史の一般的な解説である。このテーマが全世界と数百年の時を経て、幾人もの偉大な思想家と経済学者によって考察されてきても、いまだ誰にも全貌を見通しよく把握することのできない、人間の最大のテーマの一つ(生命とはなにか、とか、宇宙とはなにか、とか・・に匹敵する)であることがわかる。
    新書とは思えない難しい内容であり、例えば、経済システムについての理解が現代社会の舵取りにはマストな教養インフラであったとしても、こういうことが政府部内や立法府でまともに議論できるようになるとは思えない。実際の政治システムや民意の形成では、「専門家」が否定され叩きのめされ、素朴な感情論で共感を得る政策しか生き残らない。社会システムでは「知の格差」の解消、トリクルダウンこそが必要だ。

  • 【不平等は悪なのか? 二六〇年の経済学史を追う】なぜ不平等は生まれるのか? どうすれば平等に近づけるか? 経済学者たちが問い続けてきた二六〇年間の議論が、この一冊で分かる!

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著者プロフィール

1963年、東京都生まれ。一橋大学社会学部卒業。東京大学大学院経済研究科博士課程単位取得退学。岡山大学経済学部助教授を経て、現在、明治学院大学社会学部教授。 専門は、社会哲学。 著書に、『経済学という教養』(東洋経済新報社、増補版/ちくま文庫)、『「資本」論』(ちくま新書)、『「公共性」論』(NTT出版)、『社会学入門』(NHKブックス)『不平等との闘い』(文春新書)、『宇宙倫理学入門』(ナカニシヤ出版)、『政治の理論』(中公叢書)など多数。

「2018年 『「新自由主義」の妖怪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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