戦争を始めるのは誰か 歴史修正主義の真実 (文春新書 1113)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166611133

感想・レビュー・書評

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  • 馴染みの無い事実に驚かされる一方で、論理性が見えない記述もちらほらあり、いろんな意味で興味深い書。

    ヒトラーをめぐる評価の基本スタンスには共感できる。すなわち「ヒトラーは悪魔だった。しかし1938年までの段階では、彼はドイツを立て直した強力なリーダーとして世界的に評価されていた。われわれはその当時の視点に立脚して彼とドイツを見なければ、正しい歴史評価は行えない。」というもの。当然な話だが難しい。

    ヒトラーが英国と戦争中にソビエトとの戦争(つまり二正面戦争)に突入したのは英国に戦う理由を喪失させるため、との一部歴史家の説明にまったく腹落ちできないでいたが、この書を見るとなんとなく理解できた。

    しかし、当初ヒトラーにポーランド侵略の意図は無かったという主張はどうだろう?確かにヒトラーは、ポーランドに対し当初一貫して対話姿勢をとったという事実は重要だろう。しかし、「我が闘争」でうたっている「共産ソ連とその衛星国の支配」を実行するためにはポーランドを支配下に置かねばならず、矛盾しているように聞こえる。
    またチャーチルがいなければ欧州戦争は独ソの局地戦に終始したはず、という主張と、ダンツィヒ回廊をめぐるポーランドの頑固と英国の(無謀な)対ポーランド安全保障が日本における300万人の犠牲をもたらした、という主張は論理がわからず首肯もできない。

  • 『#戦争を始めるのは誰か 歴史修正主義の真実』

    ほぼ日書評 Day514

    「民間人への空爆、潜水艦による攻撃」、「女や子供を含む民間人が空からの爆撃で無慈悲にも殺された」、これは東京大空襲や広島・長崎の原爆に関する記述ではない。FDR(フランクリン・ルーズベルト)が(ピカソのゲルニカでも知られる)ドイツ軍によるスペイン内戦時の空爆を指して、極悪非道と評した際のものだ。

    本書は、歴史修正主義と題しつつも、ナチの賛美やホロコーストの事実を否定するものでは全くない。その結論を一言で表せば、FDR(フランクリン・ルーズベルト)とチャーチルがいなければ、第二次世界大戦は起きなかったということにつきる。

    ベルサイユ条約で大幅に国力を削がれたドイツ再興の過程で、ポーランド侵攻やスペイン内戦への介入等、欧州域内での局地戦は起きえるものの、英国、さらには米国や、ましてや日本をも巻き込んだ「世界」大戦まで発展することはなかったのだ。

    それを「世界大戦」にまで拡大せしめたのは、冒頭紹介したドイツへの非難を口にしたFDRやチャーチルの好戦性、さらに具体的にはドイツや日本をけしかけ、なんとか戦争に持ち込もうとする各種画策によろところが大きい。

    「釈明史観」、すなわち今日の我々が知っている「歴史」から逆算して、第二次大戦の負の要因をヒトラーという独裁者に全て押し付け、大戦をこの狂気の悪魔を封じ込めるための正義の戦いというように、過度に単純化する考え方に対し、歴史を動かした各局面に立ち戻り、そこでのリアルタイムでのキーステークホルダーの発言を丹念に拾うことで、その綻びを顕にする記述姿勢は好感が持てる。

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  • 要するにナチスドイツの脅威より共産主義の拡大を警戒すべきであった、という観点から歴史を見直し、チャーチルやF.D.ルーズベルト(やチェンバレンら実際の政治家等)の誤った判断がなければ第2次世界大戦はなかったはずなのに、と過去の現実を修正するのが歴史修正主義なのか? と思わせる。
    第2次大戦は共産主義者(ある部分ではユダヤ(借金を補填してもらうなど、チャーチルはユダヤ系富豪たちと親密だったということを記した節が「チャーチルの策謀」と題されていたりする。))の謀略だと言いたいのか? と途中思ったが、そんなことまでは言わず、英独開戦までの事象を割と淡々と記述して終わった。
    ただ、第1次も第2次も、ドイツのせいではない、とは言いたいのはわかった。実際、第1次大戦はドイツが主導して始めた、という刷り込みって、別にないような? 第2次大戦の大元はベルサイユ体制の不公正さというのも、教科書でもそう習ったような。
    しかし、ベルサイユ体制への固執を満洲問題にまで適用するのは違和感ありあり。たらればで言えば、日本が介入しなければ国共合作も起きなかった、つまり中国の共産化は防げたかも、と言えてしまうのでは。
    たらればだったら、ヨーロッパ戦線についても、ドイツの東進を英をはじめとする第三国が許容したら、確かに独ソ戦争でおさまった(両国の間にある小国は壊滅…)かもしれないが、ヒトラーとスターリンという両キャラを考えると、19世紀までのように適度(?)なところで終戦にならなかったのでは。ソ連のほうが勝つ可能性だってあったと思うのだが、そしたら、反共陣営からしたら実際よりもっと悲惨な事態だったのでは? ヒトラーが勝ったとして、超強国となったドイツに(ドイツが西には一切進まなかったとしても)仏英が耐えられるだろうか? 結局泥沼化していたのでは(それでもアメリカさえ参戦しなければ「世界大戦」にはならないようだが)。日本についても、アメリカを参戦させないことが肝要なら、挑発に耐え、真珠湾など起こさなければよかったのに、欧米の権益を侵さないのは言うまでもなく…という話になりそう。
    ポーランドやチェコスロバキアの状況の記述は新鮮だった。しかし、ダンツィヒ(グダニスク)をドイツに渡したほうが、つまりみんなのために自国が犠牲を払えばよかったんじゃん、と後知恵で言われても、今の日本に置き換えて考えれば、きわめて難しいのは自明だと思うが。
    引かれているのが2次文献(もしかして修正主義の著作ばかり?)ばかりで、孫引きも多いのが気になった。著者はなく編集方針かもしれないが、参考文献一覧がないのも不便だと思う。

著者プロフィール

日米近現代史研究家。北米在住。1954年静岡県下田市出身。77年東京大学経済学部卒業。30年にわたり米国・カナダでビジネスに従事。米英史料を広く渉猟し、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作が高く評価される。著書に『日本開国』『日米衝突の萌芽1898-1918』(第22回山本七平賞奨励賞受賞)(以上、草思社)、『アメリカ民主党の欺瞞2020-2024』(PHP研究所)、『英国の闇チャーチル』『ネオコンの残党との最終戦争』『教科書に書けないグローバリストの近現代史(茂木誠氏との共著)』(以上、ビジネス社)など。訳書にハーバート・フーバー『裏切られた自由(上・下)』(草思社)など。

「2023年 『オトナのこだわり歴史旅 伊豆半島編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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