新装版 されどわれらが日々 (文春文庫) (文春文庫 し 4-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167102050

作品紹介・あらすじ

1955年、共産党第6回全国協議会の決定で山村工作隊は解体されることとなった。私たちはいったい何を信じたらいいのだろうか-「六全協」のあとの虚無感の漂う時代の中で、出会い、別れ、闘争、裏切り、死を経験しながらも懸命に生きる男女を描き、60〜70年代の若者のバイブルとなった青春文学の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 今まで読んだことのないような種類の本を初めて手にしたきっかけは池袋のジュンク堂の一角にあった本棚だった。
    本音屋と書かれたその本棚には黒い本が立ち並び
    自分の本音と向き合うため、タイトルも見ずに本を買うというものだった。

    読んでみての感想だが、
    今までの自分だったら第1章の途中で
    積読と化しているだろう。

    どうしても文章が馴染まないのは
    知識に乏しい想像しずらい時代の話だからだろうか。

    それでも最後まで読破できたのは
    ところどころ共感のできる、または、
    言語化できていなかった気持ちを表してくれていた
    ことに感動できたからだろうか。


    この本を読み終えた時に初めて表紙と帯をみたが、
    この本を読み終えてマッチングアプリを
    登録できる人はどのような解釈で
    この本を閉じたのかがとても気になった。

  • 六全協以後の虚無感の漂う時代の中で自らのアイデンティティーに揺れる若者達を描いた1964年の芥川賞受賞作。予想に反して私小説的な要素が強い作品だったけど、地下潜行を契機に自虐的な観念に迫られてついに自ら命を絶った学生の挿話は心を打った。

  • 「自殺する勇気がなければ、死ぬまでは生きていく他はない。」

    節子が自殺を選ばなかったことは一つの救いのように思える。

  • 昭和47年に読。当時の雰囲気とインテリの思考を知り、ある気分に浸ったのを思い出す。

  • 「されど我らが日々」

     私はその頃、アルバイトの帰りなど、よく古本屋に寄った。


     荷物を送り出してがらんとした部屋の中に、夕暮れが入ってきた。この部屋で暮らすのもあと一日二日だ。だが、それでいい。私たちは毎日毎日全てのものに別れ、それによって、私たちの視野はなおのびやかになるだろう。
     少し湿っぽくなってきたようだ。窓を閉めよう。東北の方は、まだきっと寒いのだろう。雨の日など、節子の傷の痕は痛まないだろうか。もし痛むのなら、抱いて暖めてやりたいのだが_。


    「ロクタル菅の話」

     ねえ、君。君はロクタル菅を知っているかい。


     「アノトキノオマエハドオシタカ」
     「アノトキノオマエハドオシタカ」

  • 今さらって感ですが、ストーリーを例によって忘却、で、もう一度読むとまあ、こそばゆくなんか気恥ずかしい。

    斎藤美奈子さんが『文庫解説ワンダーランド』に「党」だの「六全協」だのの解説ぬきでは現代の若い人にはわからないだろうと書いているが、それはわたしにはないけども(やや同時代なので)でも、革命的暴力にあこがれながらもそこまで没入できない弱さがあったのに、党が路線変更したので肩透かしをされ悩む、なんて言ってる不甲斐ない弱さはわからない。

    そんな語り手(大橋文夫)がアンニュイになって大学に戻り普通の就職を目指して、あげく幼馴染と普通に婚約までして、でもなんだかぎくしゃくって、甘ったれもいいところだろう。その婚約者が自立してしまうのは当たり前なんだよ。(婚約者の名は節子!この時代よくヒロインに使う名だよね、と気がつく。例、三島由紀夫『美徳のよろめき』)

    『チボー家の人々』のような大河小説で、登場人物の目線が多岐にわたっていれば一場面としてよいのかもしれない。それに構成が自殺と離別の後、手紙で知らせる形式というのは、漱石『こころ』でも無理っぽかった気がするしね。この作品が芥川賞で当時ベストセラー・・・。それでわたしも読んだのだけどね。まあ、作品丸ごと昭和のやわな青春のかたみ。

  • 1964年上半期芥川賞受賞作。全体のスタイル、そこから受ける感慨は鷗外の『舞姫』を想起させる。すなわち、すべてが終ったところからほろ苦く青春が回想される構図が。時間の彼方にあるものは、やはりそれだけでロマネスクである。あるいは、太宰の『晩年』を想わせもする。この小説が執筆された時、作家は29歳であったが、小説内世界においても、また作家自身の諦念においても、若々しさよりは、それを過ぎてしまった感覚が濃密だからだ。そして、六全協の敗北感よりも、むしろより個的な中での世代的連帯と共感とを回想しているかのようだ。

  • 1964年(昭和39年)の芥川賞受賞作。物語の舞台はさらにそれを10年ばかり遡った、学生運動が盛んだった頃。これくらいの年代の話というのは、現在の読者側としては実は一番距離が取りにくい気がします。いっそ江戸時代以前になっちゃえばもはや歴史はファンタジーだし、明治大正の文豪作品なんかだと、時代背景が違ってもそこに普遍的なものを見出せたりしますが、昭和・・・私はもちろん昭和生まれだけれど、60数年あるうちの自分が生まれるより前で、なおかつ戦後、くらいのことが一番遠い時代のことのように感じる不思議。

    この作品の中で描かれている時代の大学生たちは、自らの思想や信念のために命を賭け、積極的に政治に関わり、自分たちに国を変えることができると信じて行動している。それはそれであの時代の流行のようなもので、彼らの多くはただ理想に酔って踊らされてるだけという見方もできるのだけれど、果たして現代のツイッターだのラインだのに依存して四六時中空虚な「繋がり」ばかりを求めている若者たちに、この熱さ(暑苦しさともいえる・苦笑)は理解されないだろうなあ。かくいう自分自身でさえ、はたしてそれくらいの年齢の頃なんて、自分の半径数メートルのことだけでいっぱいいっぱいで、国や政治のことなんて考えていませんでした。

    作中に3通の手紙が出てくるのですが、そのうち2通は遺書、3通目は遺書でこそないものの書いた本人は自殺しそこなって入院中の病院で書いている。いずれの自殺の理由も、現代の私たちからすれば「そんな理由で死ななくても・・・」といったようなことばかりで(とはいえ同世代の方なら納得できるのかというとそれはまた別のような気も)、みな理想家で理屈屋で、観念的な理由で死にたがるので、素直に共感するのはちょっと難しい。かといって、まったく理解できないかというとそういうわけでもなく、むしろ現代人が何も考えなさすぎるんでしょうね。

    「普遍的な青春」とは何か、なんてどうでもいいことをつらつら考えさせられました。

  • 何と言っても佐野の遺書である。

    信じた筈の主義主張を裏切ってしまった時、或いは信じた理想が誤っていた時、もう一歩踏み込んで「信じる」と云う行為をしてしまった時、私は過去に対してどう「落とし前をつけ」れば良いだろうか? の筋で読むと、参考の一つにもなろうか。

    これに対する曾根の評「佐野は主観に溺れていた」「桃色の幻想か、黒い壁のどちらかで、……現実とは、何の関係もないもの」は果たして妥当だろうか。「健全な/自然な悟性」の存在を認めず、ただ「悟性A」「悟性B」「悟性C」…があるに過ぎない、と云う見地からすれば、主観に溺れると云うよりも、別の悟性がある事から目を逸らしてしまったのが間違いだったのだろうか。

    相対主義を貫くと云う方針は見えた所で、過去とどう決着をつけるかの答えは見付かりそうにない。それこそ「本当の自分を探しに行く」節子の様に。

  • 夏目漱石の「こころ」を読んだ時の感覚に似ている。大学闘争という事象を経て、さまざまに内面と向き合うその心の在りようが、ナルシズム的と言ってしまえなくもないが、それを超えて真摯で辛辣で読んでいて胸が震わされる。それでいて、恋をすることの喜びや哀しみのみずみずしさが端々で描かれ、そこにもまた胸を震わされる。
    少し前の本にはなるが、全くもって色褪せない名作と思う。

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著者プロフィール

作家、ドイツ文学研究者。
1935(昭和10)年1月 東京生まれ。
武蔵高校から東京大学へ進学、工学部から転じて独文科卒。
1960(昭和35)年 東京大学大学院独文科修士修了、同大文学部助手。
1961(昭和36)年「親和力研究」で日本ゲーテ協会ゲーテ賞。
 翌年より2年間、西ドイツ・フランクフルト大より奨学金を得て、留学。
1964(昭和39)年『されどわれらが日々─』で第51回芥川賞。
 東大助手を辞し、西ベルリンなどに滞在。帰国後、都立大講師、助教授を経て
1969(昭和44)年4月 東京大学文学部助教授、のち教授。文学部長を務める。
1994(平成6)年3月 定年退官、名誉教授。4月、共立女子大学文芸学部教授。
2004(平成16)年3月 同上定年退職。

「2019年 『〈改訂増補版〉詩に映るゲーテの生涯』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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