- Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167110116
感想・レビュー・書評
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★5.0
「我々は君のことを差別しなきゃならないんだ。」
これは、強盗殺人犯の弟である直貴に対して、直貴の勤める会社の社長が言い放った言葉です。
直貴の肉親は兄の剛志だけ。その兄は直貴が大学に行けるように、その一心で強盗に入りますが、運悪くその現場を家主に見つかり、衝動的に殺してしまいます。
初めは兄に対して申し訳ないと思う直貴でしたが、初めて掴みかけた夢であった音楽を失い、愛した女性との結婚を諦めざるを得なくなり、職場でも異動させられてしまう中で、段々と兄のことが憎く感じ、「強盗殺人犯の弟」というレッテルを貼られた自分の人生のことを何度も何度も諦めてしまいます。
兄のしたことは決して許されることではない。けれどその犯罪は自分を助けるために生じてしまったもの。そんな直貴の葛藤を感じたり、自分の力で手に入れたものを兄のせいで次々に失ってしまう過程は、読んでいてものすごくしんどかったです。
ですが、この小説のすごいところは、「差別は当然」という本当の現実に私たちを向き合わせてくるところです。
その意味が分かるのは、皮肉にも直貴の奥さんと娘がある事件の被害者になったことが要因でした。加害者の親が謝りに来ても、直貴は加害者自身とその親を含め、決して許すことはできませんでした。そうして初めて、社長が言っていた「差別はね、当然なんだよ。犯罪者やそれに近い人間を排除するというのは、しごくまっとうな行為なんだ。」という言葉の意味を理解します。
世間では、差別や偏見のない世界が道徳的に正しいとされています。けれど身近に加害者に近しい人間がいると知ったとき、私たちは彼らを差別せずにいられるのでしょうか?
この小説は、とても重いです。また、知りたくなかった現実を直視させてきます。加害者に近しい人間は、自分は全く悪くないのに、苦しんでもがいて生きていく方法を見つけていかないといけないこと。犯罪者は、自分だけじゃなくて身内にまで同じような苦しみを味わせることを知らないといけないこと。それでも、いつかは剛志と直貴がたくさんの壁を乗り越えて、昔のように語り合える日が来ることを望んでしまう私は、世間からどう見えるのでしょうか。 -
古本屋で50円で売っていたのを見て買った一冊。
感動しました。
涙が出てきました。
家族に犯罪者がいるっていう立場ではないので、犯罪者の弟としての気持ちはわからない。
想像してもその立場にならないとわからない苦しさがたくさんあるんだと思う。
この弟の最終的な判断は正しいのかどうなのかはわからない。
多分その答えはでないんじゃないかと感じた。
いろいろ考えてさせられる小説でした。 -
犯罪者家族の物語。
重たいテーマで色々と考えさせられます。
ラストは期待したものではなかったので★一つ無くしました。
そこが気に入ったら★5つなんですけど。。。
でも書評見ると結構皆さんこのラストで涙したりするんですねえ、うーん。 -
犯罪加害者の家族の苦悩の人生、差別や偏見を一生背負っていくことになる。重たくて、途中何度も心が苦しくなりましたが、とにかく惹き込まれて、一気読みしました。
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今まで読んだ本の中で、自分の生き方についてこんなに考えさせられた本はなく傑作でした。前半から苦しくなる内容が続き、最後まで普通の生活の幸せを得られることはなかった。それが加害者やその家族が受ける罰や差別、偏見、そして消えない罪であることを教えてくれる。
どうやって生きるか?何かあった時にどうけじめをつけていくのか?償いとは?ベストな答えはなく、一生考えていかないといけない。
主人公はずっと人間くさく悩み続けます。そして、最後に小さくて震える兄を見て、また悩み続ける道を選ぶ気がしました。 -
おそらく、小説を読んで涙が出たのはこの本が初めてかもしれない。
理不尽な差別に、どうやって生きていけばいいのかもがき、それでも生きていかなければならない苦しさを存分に味わった弟と、本当の罪とは何なのかを知った兄。
最後の最後、その二人が初めて交わる展開にそれまで読んできたページが思い起こされて、涙が止まらなかった。
登場人物では、白石由美子の存在が大きい。
彼女には登場初期から好感が持てた。
素晴らしい女性だと思う。
そして、直貴も彼女に出会えたことは、そのどん底の人生の中で珠玉の出来事だったと思う。 -
弟の為にと強盗殺人を犯して獄中生活を送る兄、剛志。彼の罪を背負いながら差別を受け続ける弟、直貴。切なすぎる物語。
人と人はどうしてこんなにも分かり合えないのだろう。毎日顔を合わせていても、正直な人の気持ちを汲み取ることは難しい。手紙のやりとりでは相手の気持ちを理解することなんて限界がある。そう感じた。
しかし、剛志にとって連絡する手段は月1度の手紙だけだった。償いと励ましだと信じて、弟と遺族へ手紙を送り続ける。きっかけがあり、それは彼らにとって苦しみを悪化させていたことに気づく。獄中生活でさえ苦しい日々、残酷な事実を突きつけられた彼の気持ちを考えると、悲しくて仕方がなかった。彼には「救い」が存在しないのではないかとさえ思った。
読み進めていくうちに、何かが少しずつ芽生え始めている感触があった。
ラストシーンは涙なしでは読めない。希望はどこかに必ずあると思えた。