手紙 (文春文庫 ひ 13-6)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167110116

感想・レビュー・書評

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  • 身内が強盗殺人の罪を犯したら、あなたはどうしますか?
    他人の命を強引に奪ったのは自分ではないけれど、罪を犯した人間と同じ「血」が通っている。そんな人間には、もはや幸せになる権利は無いのでしょうか?

    そんなテーマで綴られた本作は、終始重苦しく読者に問いかけて来る。
    大学進学の夢、バンドでメジャーデビューする夢、恋人、就職─たくさんのものを「殺人犯の家族」と言う理由で諦めざるを得ず人生から奪われた強盗殺人犯の弟。

    一方兄も罪の重さに苦しむ。何とかして弟を大学に行かせてやりたい。そのためにどんな手段を使ってでも、金が欲しかった…人を殺めた事実、突如家族を奪われる悲劇、殺人犯の身内として突如人生を奪われる現実。どれもが辛く、読んで思い悩んだ。

    物語の最後は、ただただ切ない。奇跡的な逆転劇などない。
    救いはないけれど、それぞれがそれぞれの荷を背負って生きていく。

  • ★5.0
    「我々は君のことを差別しなきゃならないんだ。」
    これは、強盗殺人犯の弟である直貴に対して、直貴の勤める会社の社長が言い放った言葉です。

    直貴の肉親は兄の剛志だけ。その兄は直貴が大学に行けるように、その一心で強盗に入りますが、運悪くその現場を家主に見つかり、衝動的に殺してしまいます。
    初めは兄に対して申し訳ないと思う直貴でしたが、初めて掴みかけた夢であった音楽を失い、愛した女性との結婚を諦めざるを得なくなり、職場でも異動させられてしまう中で、段々と兄のことが憎く感じ、「強盗殺人犯の弟」というレッテルを貼られた自分の人生のことを何度も何度も諦めてしまいます。

    兄のしたことは決して許されることではない。けれどその犯罪は自分を助けるために生じてしまったもの。そんな直貴の葛藤を感じたり、自分の力で手に入れたものを兄のせいで次々に失ってしまう過程は、読んでいてものすごくしんどかったです。

    ですが、この小説のすごいところは、「差別は当然」という本当の現実に私たちを向き合わせてくるところです。
    その意味が分かるのは、皮肉にも直貴の奥さんと娘がある事件の被害者になったことが要因でした。加害者の親が謝りに来ても、直貴は加害者自身とその親を含め、決して許すことはできませんでした。そうして初めて、社長が言っていた「差別はね、当然なんだよ。犯罪者やそれに近い人間を排除するというのは、しごくまっとうな行為なんだ。」という言葉の意味を理解します。
    世間では、差別や偏見のない世界が道徳的に正しいとされています。けれど身近に加害者に近しい人間がいると知ったとき、私たちは彼らを差別せずにいられるのでしょうか?

    この小説は、とても重いです。また、知りたくなかった現実を直視させてきます。加害者に近しい人間は、自分は全く悪くないのに、苦しんでもがいて生きていく方法を見つけていかないといけないこと。犯罪者は、自分だけじゃなくて身内にまで同じような苦しみを味わせることを知らないといけないこと。それでも、いつかは剛志と直貴がたくさんの壁を乗り越えて、昔のように語り合える日が来ることを望んでしまう私は、世間からどう見えるのでしょうか。

  • 古本屋で50円で売っていたのを見て買った一冊。

    感動しました。
    涙が出てきました。

    家族に犯罪者がいるっていう立場ではないので、犯罪者の弟としての気持ちはわからない。

    想像してもその立場にならないとわからない苦しさがたくさんあるんだと思う。

    この弟の最終的な判断は正しいのかどうなのかはわからない。
    多分その答えはでないんじゃないかと感じた。

    いろいろ考えてさせられる小説でした。

  • 犯罪者家族の物語。
    重たいテーマで色々と考えさせられます。
    ラストは期待したものではなかったので★一つ無くしました。
    そこが気に入ったら★5つなんですけど。。。
    でも書評見ると結構皆さんこのラストで涙したりするんですねえ、うーん。

  • 強盗殺人の罪を犯した兄を持つ直貴が進学、恋愛、就職、夢をつかもうとするたびに犯罪者の弟という運命を突きつけられる。人の絆や贖罪をテーマにした作品。
    自分が直貴の立場だったら、直貴の周囲の人間の立場だったらと登場人物に自分を置き換えた場合に、自分はどんな行動、態度をとれるだろうかなどいろいろ考えさせられる作品でした。

  • 犯罪加害者の家族の苦悩の人生、差別や偏見を一生背負っていくことになる。重たくて、途中何度も心が苦しくなりましたが、とにかく惹き込まれて、一気読みしました。

  • 今まで読んだ本の中で、自分の生き方についてこんなに考えさせられた本はなく傑作でした。前半から苦しくなる内容が続き、最後まで普通の生活の幸せを得られることはなかった。それが加害者やその家族が受ける罰や差別、偏見、そして消えない罪であることを教えてくれる。
    どうやって生きるか?何かあった時にどうけじめをつけていくのか?償いとは?ベストな答えはなく、一生考えていかないといけない。
    主人公はずっと人間くさく悩み続けます。そして、最後に小さくて震える兄を見て、また悩み続ける道を選ぶ気がしました。

  • もう剛志の最初の手紙を読んだ瞬間から涙がぽろぽろと...笑
    中学校の時に「人権」についての作文を書きなさいと宿題を出されて、その時に書いたのがこのお話にも通じる「犯罪者に果たして人権はあるのか」というものだったので、何年か越しに再び深く考えさせられました。
    差別はだめなことだとみんな教えられてるし、わかっているはずなのにどうしてなくならないものなのか。でも実際に直貴のような人が現れたら私は、心から仲良くしたい、はたまた結婚しようとおもえるのかどうか不安になってしまいました。
    犯罪を犯した人は許してはいけないし、ましてや剛志のような強盗殺人なら差別されても文句は言えないけど、でもその兄弟を、一緒になって虐げるのはそれとこれとは別じゃないかと強く感じました。
    でも実際に凶悪犯罪のニュースを見ると、犯人はもちろんのことですが、関係のない家族のことも恨んでしまうことが何回もあったのを思い出し、「なんだ。自分も結局だめだと思ってることをしているじゃないか」と悲しい気持ちにもなりました。
    でも剛志は、許されないことしたのは間違いないし、それなのに呑気な手紙ばかり送り続けていることに腹も立ちますが…それでも何故か恨めない、そんなキャラクターでした。
    あと由美子が一途で優しくて...泣
    最後はもう号泣間違いなしです。今でも思い出すと目頭が熱くなります。

  • おそらく、小説を読んで涙が出たのはこの本が初めてかもしれない。
    理不尽な差別に、どうやって生きていけばいいのかもがき、それでも生きていかなければならない苦しさを存分に味わった弟と、本当の罪とは何なのかを知った兄。
    最後の最後、その二人が初めて交わる展開にそれまで読んできたページが思い起こされて、涙が止まらなかった。

    登場人物では、白石由美子の存在が大きい。
    彼女には登場初期から好感が持てた。
    素晴らしい女性だと思う。
    そして、直貴も彼女に出会えたことは、そのどん底の人生の中で珠玉の出来事だったと思う。

  •  弟の為にと強盗殺人を犯して獄中生活を送る兄、剛志。彼の罪を背負いながら差別を受け続ける弟、直貴。切なすぎる物語。

     人と人はどうしてこんなにも分かり合えないのだろう。毎日顔を合わせていても、正直な人の気持ちを汲み取ることは難しい。手紙のやりとりでは相手の気持ちを理解することなんて限界がある。そう感じた。

     しかし、剛志にとって連絡する手段は月1度の手紙だけだった。償いと励ましだと信じて、弟と遺族へ手紙を送り続ける。きっかけがあり、それは彼らにとって苦しみを悪化させていたことに気づく。獄中生活でさえ苦しい日々、残酷な事実を突きつけられた彼の気持ちを考えると、悲しくて仕方がなかった。彼には「救い」が存在しないのではないかとさえ思った。


     読み進めていくうちに、何かが少しずつ芽生え始めている感触があった。

     ラストシーンは涙なしでは読めない。希望はどこかに必ずあると思えた。



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著者プロフィール

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者χの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。

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