手紙 (文春文庫 ひ 13-6)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167110116

感想・レビュー・書評

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  • 兄弟の絆としがらみ… 社会で生きる人が避けて通れない永遠のテーマ!社会派ミステリーの名作 #手紙

    ■レビュー
    犯罪者家族をテーマに兄弟の絆を描いた社会派ミステリー。
    いつもの東野先生どおり、シンプルな構成、読みやすい文体でどんどん読めてしまいます。ミステリー要素は少なめですが、社会派小説としてとてもよくできた作品です。

    本作のテーマはなかなか重い…登場人物の社長が狂言回しになっていて、読者に分かりやすく伝えてくれます。自分がごまかし、敬遠してきた課題に対して、真正面から問題提起してきますね。

    特に主人公が社会から卑屈になっていく様、愛する家族への疎ましく思う様、そして人生に思い悩む苦しむ描写が読んでいて辛くなりました。
    それでも兄弟二人それぞれが、勇気をもって結論を出し、未来に歩んでいく姿はとても心を打ちましたね。

    本作とてもバランスが取れた良い作品ではあるんですが… ごめんなさい、自分としてはもう一歩踏み込んでほしかった。
    この問題は小説や映画だけでなく、ノンフィクション、ドキュメンタリー、人文社会学でも散々議論があるテーマです。読み手にもっと危機感や使命感を訴えるようなエピソードや展開があれば、もっともっと作品に深みがでると思いました。

    ■推しポイント
    ・最初の恋人との逸話
    私も若いころに、恋心をいだいては行けない人を好きになってしまったことがあります。自分が見初められないのであれば仕方ないですが、両想いであるにも関わらず一緒になれない辛さ、皆さん分かります?ねぇねぇ

    「心が荒む(すさむ)」という言葉がありますが、まさにこうなります。

    ・主人公の最後の手紙
    私の両親はいつも仲が悪く、いつもケンカばかりしていました。
    客観的にみると父が一方的に悪いことが多いため、私はよく母親側について糾弾していました。しかし姉は父の肩をもって、私と母親に反撃をしてきます。常々家族中が言い合いなっていたものです。

    それでも父も姉も良いところもいっぱいあり、今でも大好きです。

    主人公の最後の手紙は、未来への覚悟を決めるというだけでなく、自分自身を消し去ってしまうという負への挑戦が伝わってきました。果たして自分が同じ立場ならできるのでしょうか。

  •  本書は、手に負えない困難な問題に直面した人物の、苦悩や決断を濃密に描いた物語です。
     全編を通じて要所に挟み込まれる手紙。これは、資産家老女の強盗殺人で服役中の兄から、孤独に一人で生きる弟への月一回の律儀な手紙でした。

     父母を亡くした後、弟の大学進学実現のため奮闘する兄が凶悪犯罪を犯し、その犯罪行為の直接原因が自分であるが故に悩む弟‥。
     弟は兄の愛情を理解し感謝するものの、〝凶悪犯の弟〟という事実が、何をするにも壁となり立ちはだかります。バイト先、音楽活動、恋人‥と、偏見と差別が付き纏い、全てやむ無く諦め希望の光が見えてこない描写は切ない限りです。

     自分が加害者家族だったらどうするのか? 隠し通すのは、保身か信頼への裏切りか? 身近にそんな当事者がいたらどう関わるのか? 読み手も難しい問題を投げかけられているかのようです。
     犯罪行為があれば、加害者本人が罰せられるのは当然ですが、加害者家族も長い間社会的に罰せられるのですね。このどうしようもない事実を突きつけられ、考えさせられました。

     加害者家族のその後の生活・その先を、真正面から描き切り、テンポよく読め、淡々とした描写にも関わらず、人間の内面に深く切り込んだ「読者自身に判断・選択を問う物語」だと感じました。一読、熟考の価値がありますね。

    • Manideさん
      NO BOOKさん、こんばんは。

      これはいい作品ですよね〜

      私は映画も見たんですが、玉山鉄二がすごいいい感じで、すごい泣けました。

      悲...
      NO BOOKさん、こんばんは。

      これはいい作品ですよね〜

      私は映画も見たんですが、玉山鉄二がすごいいい感じで、すごい泣けました。

      悲しい作品ですよね。
      2023/11/08
  • 東野作品の有名作を読了。
    加害者家族の苦悩と差別の現実が描かれた作品。
    強盗殺人の罪で服役中の兄を持つ弟。
    彼の視点での事件後の人生。
    幸せをつかもうとにする度に「殺人犯の弟」という現実で壊れ。
    辛いけどこれが現実なんだと思う。
    犯罪は被害者は元より、自身の家族も社会的に殺してしまう。
    だから犯罪は絶対にやってはいけない。
    そう強く思った作品でした。

  • なんて作品なんだろう。東野圭吾さんの作品、まだ3作品めだがびっくり。想像していたミステリじゃない。
    兄·剛志は弟の大学資金を得るため強盗を企て、殺人を犯してしまう。そこから、弟·直貴の人生が1ヶ月ごとに届く兄からの手紙に沿って展開されてゆく。まるで流れる小川のような読み心地。
    元は弟の将来のためであったはずなのに、兄が犯した罪が弟の人生の中で障壁となっていく。直貴は兄を恨むも恨めず、行き場のない諦めとともに人生を生きている。出会いや気付きを経て、直貴の兄への向き合い方も徐々に変化してゆく様が描かれている。
    テーマが重いため簡単に自分の感情を移入できないが、きっと、正解なんてどこにもなくて。向き合い続ける他ないんだろう。
    よく紹介されているのを目にして読んだが、とてもよかった。

  • 武島剛志と直貴は二人きりの兄弟。
    弟の大学進学のための金がほしくて、剛志は空き巣を思いつき、強盗殺人の罪を犯してしまう。

    世間から見れば、犯人が捕まればそれで終わり。
    自分に危害が及ぶことはないと確信できれば、それで事件について思い返すことはないでしょう。
    けれど被害者家族(遺族)、加害者家族にとってはそれは不可能なのです。
    逃げるにしろ向き合うにしろ、自分でその事実との関わり方を考えさせられます。

    罪を償うのは罪を犯した者だけであるはずなのに、世間の目はそれを許さない。
    途中直貴が本当に気の毒でしたが、もし自分の周りに同じような人がいたら自分はどう接するだろうと考えると、やはりあまり関わらないようにするだろうと思います。
    直貴に非はなくても、きっとどこかで差別してしまうのだろうと思いました。

  • 久々の東野圭吾作品。

    昨年「白鳥とコウモリ」を読んだときに目にした「白夜行」「手紙」...新たなる最高傑作東野圭吾版「罪と罰」とのキャッチコピー。

    それ以来、どこがでずっと気になっていた本書をようやく手にとりました。

    重くて、辛くて、深い。

    「Aではない君と(薬丸岳)」をすぐに思い出しましたが、比較すると☆4つが妥当かな。

    本作の主人公は武島直貴。

    二人兄弟の兄・剛志は弟(直貴)の大学進学の為の金を得るために空き巣に入り、家人に見つかってしまい衝動的に殺めてしまう。

    直貴はそれ以来、強盗殺人犯の弟として人生を苦しめられることに。

    説明
    内容紹介
    武島剛志と直貴は二人きりの兄弟だった。
    弟の大学進学のための金がほしくて、剛志は空き巣に入り、強盗殺人の罪を犯してしまう。
    服役中の剛志から直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く。
    しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる。
    ある職場で疑いをかけられ、倉庫に異動させられた直貴のもとに現れた男性は、「差別はね、当然なんだよ」と静かに言うのだった――。
    年月が流れ、家族を持った直貴は、ついにある決意をする。
    人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。
    犯罪加害者の家族を真正面から描き、映画化(主演・山田孝之)、舞台化もされ、感動を呼んだ不朽の名作。文春文庫史上最速でミリオンセラーとなり、200万部を売り上げるベストセラー。
    内容(「BOOK」データベースより)
    強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く…。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き切り、感動を呼んだ不朽の名作。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    東野/圭吾
    1958年、大阪生まれ。大阪府立大学電気工学科卒。エンジニアとして勤務しながら、1985年、「放課後」で第31回江戸川乱歩賞受賞。1999年、「秘密」で第52回日本推理作家協会賞受賞。2003年、本書「手紙」が第129回直木賞候補となる。2006年、6度目の候補作である「容疑者Xの献身」で第134回直木賞受賞。同書は第6回本格ミステリ大賞、2005年度の「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」各第1位にも輝いた。幅広い作風で活躍し、圧倒的な人気を得ている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  •  映画を酷評した人もいるが、沢尻エリカさんの演技とても良かったし、素直に感動した。
     本も忘れられない1冊になっている。
     不器用にしか生きられなかった兄。世間に貼られたレッテルに苦しむ弟。
     人と対する時に私は何をその人の中に見るのだろう。すくなくとも、偏見では見たくないと思っている。

  • 弟を大学へ進学させるため、必死で働くが体を壊して働けなくなり、盗みに入った家で殺人を犯してしまった兄。
    刑務所から弟へ手紙を書き続けるが、それが、殺人犯を兄に持つ弟を苦しめることになっていく‥

    差別や偏見がこの世から無くなることはない。
    みんな、犯罪という恐ろしいものから離れた安全な所に身を置いていたいから。
    それは、無意識のうちにとる危険回避の本能のようなものなのかもしれない。

    幸せをつかもうとするたびに、重くのしかかる「犯罪者の弟」というレッテル。
    わかってはいても、読んでいて辛く、やりきれない気持ちになった。

    大半の人が本当のことを知ると途端に離れて行く。でも、そのことを知った上で寄り添ってくれる人もいた。
    捨てる神あれば拾う神ありだ。
    そしてその人たちのおかげで本当に大切なことに気付き、また一歩前へ踏み出す。

    本作はミステリーではなく犯罪加害者の家族を正面から描いた人間ドラマだ。

  • 犯罪加害者家族への偏見や差別についてが主要なテーマなので、重いです。読んでいて辛くなりました。

  • 弟のために強盗殺人犯の兄と、差別を受けながら生きることになった弟。「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる過酷な現実。犯罪者の兄を持つ加害者家族の苦悩を描いた作品。

    犯罪加害者家族が味わう差別や偏見、贖罪といった重たいテーマを描き切った作品。正々堂々と生きることの難しさを感じます。

    「差別は当然ある」

    進学、恋愛、就職と、幸せを掴もうとするたびに「強盗殺人犯の弟」というレッテルが重くのしかかる。そんなことは知らない兄は一ヶ月に一度、弟に手紙を書く。その行為が次第に弟を苦しめることになる。その度に突きつけられる「強盗殺人犯の弟」という現実。

    切っても切れない兄弟の絆。加害者家族の苦難。犯罪は被害者は元より自身の家族も社会的に殺してしまう。これが現実。胸が締め付けられました。

    本作は、とても考えさせられる内容ですし、落ち込んでいるときに読むことはおすすめできませんが、多くの人に読んでもらいたい。そんな作品です。

著者プロフィール

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者χの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。

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