アンネの伝記 (文春文庫)

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制作 : Melissa M¨uller  畔上 司 
  • 文藝春秋 (2000年5月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167136284

アンネの伝記 (文春文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  「アンネの日記」スピンオフ。客観的な視点から書かれているので、本家よりも状況の把握がしやすい。何よりも日記が完結した後に拘束された状況の描写が生々しく、証言から得られた収容所での各人物の様子や終戦後の後日談もとてもよくわかる。また日記の記述では混乱しやすい人間関係も本書では系図も用いて説明している。ただし完全版ではない日記とは人物名が違っていることは注意したい。

     アンネ・フランクをめぐる作品には付き物である当時のドイツ政権についても政治的視点から書かれている。偽りの民主主義、「国民のために」という常套句、対抗勢力への圧力、集会・言論の自由の破棄、ユダヤ人へのヘイト、人命の軽視、体制に対する疑念を口にする者への対応、他国への挑発的言動、芝居がかった演説、国民の不安と沈黙などなど…。こうした歴史的事実と現在のある国の状況を重ね合わせて何も感じないヒト達はほんとに大丈夫なのだろうか。

     当時のナチスの横暴までやられればどんなに鈍感な国民でも政治に関心を持たざるを得ないだろう。しかし、そこまであからさまな振舞いを見せない物事への対応はそうした抵抗をさせないための巧妙なテクニックではないかと思う。当時のドイツは連行するさい、あるいは収容所内において劣悪な環境を維持することによって「気力」を奪っていった。自尊心を失わせることによって抵抗する意思すら失わせたのである。現代においてはもうすでに「抵抗する気力」が奪われている、と言ってしまっては言い過ぎであろうか。「政治に期待しない」「政治に関心がない」「誰がやっても同じ」そういった街頭インタビューでの発言は為政者の思惑に合致している、と言ってしまうことは認識不足と反論されて然るべきであろうか。政治に話を及ばせなくても、あらゆるところに存在する偏見、それのもととなる画一的な価値観などによって個性を奪われる。その結果失われる「気力」があることも想像に難くない。収容所で行われた尊厳の剥奪は普段の日常から行われているとは考えられないだろうか。気付いたときにはもう何もできなくなる。気力を奪い、抵抗が生じない状況を作り、その隙にルール自体を変えてしまえばどんなに横暴なことを行っても大義名分がつく。

     歴史から学ぶ反省も一つだけではない。「もう戦争はしない」という反省もあれば「もう戦争に負けやしない」という反省もある。表面上の謙虚さに騙されてはいけない。また世界的ベストセラー「アンネの日記」と今日の中東問題と関連も、氾濫する美辞麗句との対比で注意しておきたい。

     ドイツだけに限らず、あるいは公に明らかになっている争い事だけに限らず、こうした一連の歴史的出来事から間違いなく学ぶことができる一つの教訓。それは「権力を持った人間は怖い」ということ。「自由」は全身全霊を賭けて死守すべきものである。

  • もう一歩、くわしく知りたい方におススメです。

    アンネ・フランクを知る人、家族やいとこ、友人たちのその後が、文末にまとめられています。

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