新装版 夕陽ヵ丘三号館 (文春文庫) (文春文庫 あ 3-6)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (579ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167137113

感想・レビュー・書評

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  • 時は高度成長期。郊外にある一流商社の社宅に住む家族同士のあれやこれや。決して遠い昔の話ではない。「家族にまつわるあれこれ」今もどこかに変わらぬ片鱗が残る。

    子どもの受験、不登校、夫の学歴による出世等々、生々しい話題てんこ盛り。人は比較の中で自分の位置を確認したい生き物であるのはいつの世も同じ。

    当時人々は階級・身分制度から解放され、「モーレツ」に頑張るサラリーマンたちが立身出世レースに励んだ。
    一方で生活を豊かにかつ、簡便化する家電の普及により、主婦の生活様式も一変する。有り余る時間や余暇をいかに過ごすか。

    女性は夫や子どもに尽くし、主婦の頑張りの成果は夫の出世や子どもの進学で測る。

    夫とは? 男とは? 妻とは? 女性とは? 幸せとは?
    追いつけ追い越せと戦後復興にまい進してきた日本社会の末端組織である「家族」「家庭」の変容が垣間見える実に興味深い1冊だった。

    橋田壽賀子さんの「渡鬼」のような確執にまみれた家族と隣人たちのエピソードで、苦笑いの連続。

    1970年に毎日新聞に掲載され、1971年から約半年にわたり八千草薫さん主演でTBSドラマ化されていた。記憶が薄っすら蘇る世代笑。

    「社宅」という狭い限定されたコミュニティの中の比較は本来、局所的なもの。それにも関わらず、家庭同士の競争にいったん巻き込まれると、それがすべてとなる。

    他人の動きに敏感になり、◯◯でなければならないと視野狭窄になり強迫的な観念から逃れられない。まるで蟻地獄。

    さらに油を注ぐのは噂話。伝聞が形を変えて一周周り、別ものの出来事となって戻ってくる。あるある…。

    実態不明の伝聞や、出所が曖昧なTwitterなどで怒りが増幅する現代と何ら変わりがない。

    私自身は海外駐在時、夫の会社のご夫人たちや子どもの日本人学校のママさん達とあった苦々しい思い出が重なって読み進んだ。

    分限を維持する、或いは今以上の豊かさを手に入れるためには階層移動のごとく、教育へ投資するというのは今の韓国や中国も同じ。日本以上に過熱した教育熱を目の当たりにした。事の是非は別として。

    教育は選択肢を増やすためにはとても有効かつ有益な手段ではあるが、それが目的となる危うさは付きまとう。翻弄されてはいけないよなあ。

    まして夫の立身出世は運が大きい。仕事ができる人が偉くなるとは限らないし、あの人が?というタイプがちゃっかり役員になったりもする笑。

    作品の舞台となった社宅のある場所は、一説にとても馴染みのある神奈川県の某団地とのこと。調べてみると、私が勤務していた会社の社宅もその近くにあったので、がぜん親近感。

    気持ちの良い話ではなかったけれど、読ませる文章はさすが有吉さんでした。

  • 1971年出版との事、舞台は戦後の高度成長期。
    小さな話にどんどん尾鰭が付いて大げさに伝わっていく様は小説だからではない。本当にそうなるのだ。私も団地暮らしだったのでわかるがご近所って本当に怖い。
    序盤は面倒な奥様方の人間関係の渦に放り込まれた音子に同情するものの、話が進むにつれて彼女自身も“面倒な奥様”と化していく様子に少々うんざりしながら読んだ。同性目線で見てもこんな奥様、夫子供はたまったものじゃないぞ。
    だが主婦にとっては『夫が総てで子供が総て』。という音子の言い分に独身の私も妙に頷いてしまった。著者はなんでもない日常を面白く書くと母が言っていたが、579頁丸ごと なんてことない一人の主婦の数年間の社宅暮らしの日常である。ラストは爽やかに終わるがこの人たちのことだもの、またひと悶着あるに違いない。
    ところでら抜き言葉はこの時代から浸透しだしたんだな。

  • 一般の主婦の日常。電化製品が出回りだし、家事が簡単になったがその分時間が空いて社宅での付き合いに右往左往する。
    できる女性を読んでいただけに物足りなさを感じるが家の中だけが自分の世界ではこうなるんだろうなぁ
    今も昔も変わらないのが分かる。

  • 社宅の事情。
    たぶん自分は関わることのない世界。夫の会社の社宅で、夫人方とのお付き合いノウハウ、子育てのこと、学校のことなど。なんにせよ良い教訓にもなる内容だった。
    相手には相手の事情があって、時にこちらが思うほど事は深刻でなくて、それを勝手な勘違いで空回りしてしまう言動。考え過ぎずポジティブに、笑顔でスマートに生き抜きたいもの。

  • 評価は5.


    内容(BOOKデーターベース)
    一流会社勤務の夫の転勤に伴い、東京で憧れの社宅暮らしをスタートした音子。喜びも束の間、社宅内の人間関係に振り回されてゆく。一人息子・悟の教育問題、見栄と欺瞞に満ちた主婦同士の情報戦に追い詰められ、焦った音子は愚かな行動に出るが―痛烈な人間描写、現代のドラマが大迫力、傑作長編エンターテインメント。

    親は、子どもの地位=自分の地位と勘違いしてしまうし、子どもの勉強が出来れば、親の理想通りに進めば親のストレスはすごく減る。でも、本当は健康で元気ならOKなのだが・・そんな暇な母親の日常をつらつらと綴った話だったがやはり大作家!面白かった。

  • 団地のドロドロ!とにかく口は災いの元である。私もこれから親になるけど、子供の進路、夫の仕事の話はご法度だと思った。嫉妬って怖い。

    男の子の子育てって難しそう。性のこととかあんまり学校のことはなさなかったりとか。男親を頼ったり、見て見ぬ振りっていうのも大事だなぁ。

    読んでるだけで疲れた。

    もらったお中元をデパートで変えてもらったり横流しなんてことが…と社会的背景も面白く読んだ。

  • 2017/5/13

  • 商社の社宅に住む主婦達の狂想曲。
    社宅には住んでいなかったものも、商社員の息子としてなかなか身に包まされる話でした。
    世代的にはうちの両親より15-20歳くらい上世代が描かれていて、ある程度実感のある民俗誌を読んでいる気分でした。

  • これエンタメと言うより恐怖小説だね。多少の時代の古さはあるけど、有吉佐和子の描く人間の愚かさ滑稽さ、今でも本質は変わらないのでは。
    LINEでの無視や、裏サイトでの陰湿なイジメを聞くと、この小説で語られている社宅の世界となんら変わらない。

    夫婦間のやりとりなども、うちと驚くほど似ている。

  • まだ3冊しか読んでないけれど、有吉佐和子は女の黒い部分、どうしてもマウンティングしてしまう生態、嫉妬、妬み…を描くのが上手い。というか、恐ろしい。
    ただ、あまり盛り上がりに欠けて、少し消化不良。エンタメ小説としては中途半端。大きな事件が起きるか、主人公(お嬢様育ちで世間知らずの部分あり)が発狂するか、誰かに制裁がくだる、などあって欲しかった。

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著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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