気張る男 (文春文庫 し 2-28)

著者 :
  • 文藝春秋
3.43
  • (4)
  • (15)
  • (25)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 192
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167139285

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 東の渋沢栄一、西の松本重太郎。
    ひとつの国としての将来を見越したうえで実業家に徹した渋沢栄一にくらべ、
    松本重太郎は、頼ってくる人の手を払わず、支え続けることで成長し、破綻した。
    良い意味でも悪い意味でも人物重視。
    松本重太郎が一時期成した財は渋沢栄一を超えたが、その最期には大きな違いがある。


    国のことを思う気持ちはあれど、人当たりが良いとはいえない性格上、中央へおもねることができない。
    その不器用な性格が人を惹きつけ、すべてを失った後もそれを支えたいと思う人が現れたのだとう。

    そして孫の重治はこの血のつながらない祖父、重太郎の意思を引き継いだように「気張って」生きた。

    この重治という人物もとても興味深い。
    没落したとはいえ大実業家であった重太郎の孫であり、松方公爵家の縁戚でもある重治は、
    けれど生涯一ジャーナリストとしてその職責以上の功績を残している。

    自国だけではなく、広い視野を持って将来を憂い、力をつくした人。
    「気張る男」であった重太郎の精神がここで受け継がれたのか、と思うと心が熱くなる。

    渋沢栄一を扱った「雄気堂々」。そして同時代に生きた松本重太郎を扱ったこの「気張る男」
    このふたりの大実業家の考え、生き方、性格を比べるのもおもしろい。
    そこに見えてくるものに悲しくもなるけれど。


    おもしろかった。その言葉以上のインパクトがあった。


    作品紹介
    “十歳にして、赤貧から志を持って家出。銀行、鉄道、紡績、ビール会社など、次々と創業し、“西の渋沢栄一”と言われた松本重太郎。関西実業界の帝王として名をはせた彼だったが、その後、倒産で私財をことごとく手放すことになる。常に走りつづけた男の、潔い生涯と、次の世代に受け継がれたその精神を描いた傑作長篇。 ”

  •  城山三郎の本に外れはない!

  • 西の松本、東の渋沢と呼ばれたらしいが、渋沢栄一の名前は知っていても、松本重太郎の名前を知っている人は少ないのではないか? 幕末~明治維新、日清・日露戦争にかけて、第百三十銀行(安田銀行に合併)、大阪紡績(東洋紡績)、南海鉄道、山陽鉄道(JR西日本)、日本火災保険、大阪麦酒(現・アサヒビール)など、松本がつくった。

  • 明治初期、関西一の財界人の松本重太郎。
    関東の安田善次郎は、東大の安田講堂寄付などで、よく知られているが、関西に在住している割に、松本重太郎の話を、余り聞かされたことが無かった。
    孫の重治は、東京の国際文化会館創立に尽力を、つくした人物であるのに、、、。
    鉄道、銀行、紡績会社、次々と、手を広げて行く重太郎。
    実業界の帝王となる。
    10歳から、走り続けて、名を残し、財を残せるはずだったのに、倒産で、全ての私財を手放す、潔さ。

    本当に、テレビで、銀行の不始末での倒産で、頭を深々と下げた日本長期信用銀行の頭取なんか、銀行を駄目にした張本人で、ありながら、しっかりと、自分は、10億円近い退職金を手にしているのである。
    自分の身が可愛いという人物との比較に、松本重太郎のそして、其の精神を受け継いで行った人々は、今の時代に居ないのか!

    バブルで、踊らされて、その借金を上手に逃れた経営者や、頭取達は、この人物を見習っていたら、今の日本の経済も、違っていただろうと、思った本であった。

  • 西の渋沢栄一といわれた松本重太郎の話。
    国際文化会館を開いたのが、彼の孫とは知らなかった。

  • 松本重太郎の子供から、死ぬまでの物語とその気性を受け継いだ孫の話。
    「よっさよっさほいさ」と走り抜けた。
    ウシ 親娘に会うことで、人生の大きな転機を迎える。
    時運だけで、儲けることに疑問を持つ。
    そして、銀行を設立するに奔走する。
    ユニークな銀行として、評価される。
    次々に、事業を広げて行く。鉄道、紡績、麦酒会社・・・
    その貪欲さは、なんだろうと思うほど。
    頼まれれば、断ることができない。
    しかし、重太郎を補佐する有能な人材が育たなかった。
    日本紡績が、事業の失敗をすることで、
    すべての財産を失い、借家に住むことに。

    重太郎は、協力者に恵まれなかったが、妻 浜 が素晴らしい。
    この堂々とした 浜が、あっぱれだ。

    大阪の企業の創世記。走り抜けた 松本重太郎。
    すくい上げる 城山三郎の丹念さ。

  • ・西の渋沢栄一と呼ばれた松本重太郎を描いた作品。

    ・当人、貧しく厳しい環境に生まれ乍ら、十歳にして村を出、以来商売に気張る。

    ・やがて銀行業、更に鉄道業、紡績業と事業を拡大し莫大な財産を築く。

    ・商才はあるものの、当人やや社交性に欠け、情報収集円滑に出来ず時流を読み切れず、銀行破綻。

    ・松本の気張る生き方及び当時の安田善次郎のことよく知れる作品。

    ・一方で文章淡白に過ぎ、時流を読み切れず情報収集を怠った松本の経営者としての責任、甚大。

    ・以上勘案し、本作品の星3と致したい。

  • 西の渋沢栄一といわれた「松本重太郎」のお話。
    以前、大阪に転勤していた身として、後は親が岡山
    出身と言うことで色々な関西の会社の創業話が
    でてきて楽しめました。

    特にこの時代は鉄道や銀行がやっぱりものすごく
    ニーズがあったらしい。これっていつの時代も
    かわらず、距離と時間を短縮できる産業は
    大流行するんですね。。(確かに企業も生活も
    生産性をあげるには上記の2つの要素の能率を
    あげるのが一番)

    この主人公はおすすめレビューに記載した
    「高橋是清と井上準之助」に記載されていた
    起業家と起業家の創立した銀行が当該会社の
    機関銀行化するモデルケースでした。

    でもその当時はしょうがないよね。みんなが
    初めての市場経済に突入したのだから。

  • 関西の経済人で、明治に鉄道からビール会社と様々の会社を起し、日本の発展に貢献した松本重太郎氏について書かれた小説。

  • 主人公の松本が、渋沢栄一に対し「悉皆出します」と、そして借家へいくというこの責任の取り方・・・。自己破産すれば同じと言えば同じですが・・・社会企業家としては素晴らしいです。

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1927年、名古屋市生まれ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。57年『輸出』で文學界新人賞、59年『総会屋錦城』で直木賞を受賞。日本における経済小説の先駆者といわれる。『落日燃ゆ』『官僚たちの夏』『小説日本銀行』など著書多数。2007年永眠。

「2021年 『辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

城山三郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三島由紀夫
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×