新装版 鬼平犯科帳 (7) (文春文庫) (文春文庫 い 4-58)
- 文藝春秋 (2000年6月9日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167142599
作品紹介・あらすじ
「長谷川平蔵と自分とが、もう切っても切れぬ間柄になってしまったことに、私は気づかざるを得ない」(作者の言葉)。ますます円熟味をました筆先から次々と新しい鬼平像が描き出される…。「雨乞い庄右衛門」「隠居金七百両」「はさみ撃ち」「掻掘のおけい」「泥鰌の和助始末」「寒月六間堀」「盗賊婚礼」の七篇を収録。
感想・レビュー・書評
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『雨乞い庄右衛門』
盗賊の頭の雨乞い庄右兵衛は、病を得て田舎で療養に入っていた。江戸に残した妾のお照は一味の若い男を寝所に引き込んでいた。
庄右兵衛は最後の勤めをしようと江戸に上がる。そしてその後を付ける男たち。
『隠居金七百両』
長谷川辰蔵は、火付盗賊改方の長官鬼平の長男だが、刀の腕はからっきし、悪友に教えられた女遊びに明け暮れるお気楽人生を歩んでいる。
辰蔵が今目をつけているのは茶屋の小女のお順。しかしお順の父次郎助は、盗賊のお頭白峰の田四郎の隠居金を預かっており、そのためにお順は男たちに誘拐されてしまう。
『はさみ撃ち』
薬種屋「万屋小兵衛」の女房おもんは、貸本屋の友蔵との屋敷内での色ごとに夢中になっていた。
しかしこの友蔵は盗賊一味の引き込み役で、屋敷に入り込むためにおもんに近づいたのだった。
そんな二人の情事と、小細工を仕込む友蔵の様子を主の小兵衛が盗み見てつぶやく。「ふ…盗人をやめた盗人の家へ、現役(いまばたらき)の盗人がへえってきやがった。これは面白くなってきた」
==昔気質の盗賊の鮮やかな手際。このような話は読んでいてもスッキリします。
『搔堀のおけい』
「あっしはこのままじゃあ、おけいのアマに取り殺されてしめえます」
盗賊から足を洗い、今では鬼平の密偵を努めている大滝の五郎蔵に泣きつくのは、昔面倒を見た盗賊引き込み役の砂井の鶴吉。おけいという女に可愛がられすぎて成婚尽き果てているという。
搔堀のおけいは、目を付けた金満家に取り入り妾や女房に収まり大金を盗み出すという一人場たら気を続けている。四十を超えてもなお男たちを骨抜きにする女の魅力を持っていたが、今まで散々男におもちゃにされた体の不満を若い鶴吉を可愛がることで発散させていた。
===この時代に、一人で男を渡り情事と盗みで生きてきた女が、心底可愛いと思って若い男を抱きつくすというのもなんとも物悲しいと感じる。
『泥鰌の和助始末』
若くてグレていた頃の鬼平、その友人岸井左馬之助は、剣客の松岡重兵衛に道を正してもらったことがある。その松岡重兵衛は盗賊の仕事を手伝いながら生き甲斐のない退屈な日々を送っていた。
そんな松岡重兵衛に近づくのは泥鰌の和助。泥鰌の和助は大工でとして目を付けた屋敷の普請に関わり忍び込むための細工を弄しては盗賊一味にその情報を売っていた。
そして泥鰌の和助は最後の大仕事をしようとする。自分の一人息子を死に追いやった大店への復讐を行うのだ。
松岡重兵衛が盗みに関わっていると察した昔の義理と、盗賊改としての勤めに揺れる鬼平と左馬之助。
===鬼平の長男辰蔵が出てきますがまだまだ青二才。シリーズが進むと少しは成長するのだろうか。まあ同じく青二才だった兎の忠吾もだんだん面白みのある働けるやつになっているので、辰蔵もちっとは物になるのかなあ。
『寒月六間堀』
非番の鬼平は、息子の仇討ちをしようとする井口瀬兵衛老人を知る。この頃の武士の仇討ちは、父や兄の仇を討つことが掟であり、子や弟妹や妻などの仇を討つことは変則だったのだ。
ボロボロの服で食うにも困るその日暮らしを贈りながら二十年かけて息子の仇を追うこの老人に、鬼平は身元を告げずに助太刀を申し入れるのであった。
===身分を隠して弱気を助けるってまさに時代劇だ。しかし自由だな、江戸時代のお勤め。
『盗賊婚礼』
昔気質の盗賊には鉄則の三箇条があった。「人を殺めぬこと、女を手込めにせぬこと、盗まれて難儀をする者へは手を出さぬこと」
それを正しく守る傘山の弥太郎のような盗賊はすでに時代遅れとなりつつある。
そんな傘山の弥太郎のところへ、大阪を拠点とする鳴海の茂蔵が渡りを付けてくる。
先代の傘山と鳴海との間で、互いの倅と娘とを娶せようと約束を交わしていたのだ。しかし義賊たる掟を守る傘山の弥太郎とは違い、鳴海の繁蔵はならず者を雇い忍び込んだ家人を殺し女を犯す急ぎ働きへ方向転換をしていたのだ。
===鬼平は昔気質の義賊たる盗人には一定の敬意を示し、彼らも鬼平を正しく怖れます。このような盗賊が出てくる話は感じよく読めます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鬼平犯科帳 (7)
この巻では、鬼平さんの長男・辰蔵さんも頑張っております。(「隠居金七百両」、「泥鰌の和助始末」)
とはいえ、まだまだ父上には到底及ばず。このちょっと頼りないけど憎めないところが、“兎”の忠吾さんと似ていますね。
それにしても、鬼平シリーズを読んでいると、江戸中至る所に“盗人又は元・盗人”が居るなぁ・・。と思ってしまいます。 -
まだ一人前でない鬼平の息子辰蔵が頻繁に登場する。それにしてもよく昼間から酒を飲むなあ。11.8.19
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寒月六間堀より
つまりは、人間というもの、生きていくにもっとも大事なことは‥‥たとえば、今朝の飯のうまさはどうだったとか、今日はひとつ、なんとか暇をみつけて、半刻か一刻を、ぶらりとおのれの好きな場所に出かけ、好きな食物でも食べ、ぼんやりと酒など酌みながら‥‥さて、今日の夕餉には、何を食おうかなどと、そのようなことを考え、夜は一合の寝酒をのんびりとのみ、疲れた躰を床に伸ばして、無心にねむりこける。このことにつきるな。
鬼平の言葉は味わい深く、身に染みます。常に場面が目に浮かび、映画的でもあります。 -
雨乞い庄右衛門
隠居金七百両
はさみ撃ち
搔掘のおけい
泥鰌の和助始末
寒月六間堀
盗賊婚礼
「雨乞い庄右衛門」左馬之助に国貞を渡すことになった平蔵の顔を想像すると面白い。
解説に「「行間に絵のある」文章」とあり、なるほどと思った。 -
前の巻から、話が柔らかくなったような気がする。すいすい読み進む。
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鬼平犯科帳 七巻。
今回は、平蔵さんの息子 辰蔵が、ちょいちょい出てくる。
へたれっぷりが、おぼっちゃん。という感じがしてしまう。
平蔵さんも、大変だ。。 -
掟に従いつとめをする真の盗賊というのは、もはや職人の域だなと思いました。
元盗賊の老人の元に忍び込んだ盗賊が返り討ちにあう、「はさみ撃ち」が面白かった。「泥鰌の和助始末」で惣七に「虫けらめ!」と言い放った鬼平さんかっこいい。今回は息子の辰蔵も頑張ってました。辰蔵のへたれっぷりは誰に似たのやら。
鬼平さんが人生の終わりを感じさせるようなことを久栄さんにこぼすシーンが切なかった。このシリーズ先は長いけど、どんな風に完結するんだろうなぁ。楽しみなような、怖いような。 -
今回の鬼平も安定の面白さ。
隠居金七百両、泥鰌の和助始末が面白かった。
どちらも鬼平の息子が事件に絡んでくるのだが、鬼の平蔵も息子の前では悩んだり、放蕩息子を少し見直したり、我が子可愛いさに。。。といった父親の横顔を
覗かせている。
また、泥鰌の〜では、恩師と慕っていた人間をお縄にする葛藤も描かれていて、仕事としての鬼平と1人の素の人間としての鬼平がよく表現できているのが、興味深い。 -
単なる「正義は勝つ」に終わらない鬼平ならではの人情味っぽい雰囲気がある話が多い気がした一冊でした。5、6巻に比べると7巻のが好きだったかな。それにしても、あんなにちょこちょこ元盗賊を配下にいれて大丈夫なんだろうか…。無駄な心配と思いつつ気になってしまうのでした。