ランゴリアーズ (文春文庫 キ 2-19 FourPastMidnight 1)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (716ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167148188

感想・レビュー・書評

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  • 「ランゴリアーズ」はまずその設定が面白い。真夜中のジャンボジェット機で目覚めたら乗客の大半が消失しているという絶望的な展開に、ジェット機が降り立ったのは謎の異世界。迫りくる異形の怪物ランゴリアーズの恐怖と、ハリウッド映画ばりの一大スペクタクルである。登場キャラクターも素晴らしく、妻の死を引きずる機長ブライアン、ランゴリアーズの襲来を予言する盲目の少女ダイナ、表向きは英国大使館員だが裏の顔は凄腕の工作員ニック、タフガイに憧れる音楽学校のヴァイオリンの天才少年アルバート・エース。異常事態の謎を解くミステリ作家ボブ・ジェンキンス。薬物中毒の少女に赤シャツの紳士、ワンナイトラブを目論む妙齢の女性など、それぞれがしっかりと役割を持っており、いきいきと動き回っている。

    異世界の正体が通常の時間軸から切り捨てられた過去の世界というのは面白く、普通の人間では知覚できず、音が反響しなかったり煙草の味がしない無味乾燥の世界というのはとても不気味だった。またそんな世界の謎を解き明かす検証タイムは、昔読んだ時は退屈で投げ出したのだが、今読むとその手続そのものにワクワクしてしまう。危機が迫っているのに緊迫感がないと当時は思っていたが、趣向が変わったのだろう。恐怖に対する人間の知力の真っ向勝負であり、異常な世界の法則を見つける作業はバランスを損なわなければ十分に緊迫感は維持できるし、狂気に囚われたクレイグ・トゥーミーという男がいるので薄くべったりとした不安感がある。個人的には十分許容の範囲内だった。当時の僕は単に堪え性がなかったのだろう。

    燃料自体が時間の影響を受けており、古びていて使えないという絶望的な状況からの、飛行機の中は時間そのものがまだ生きているというどんでん返しには息を呑んでしまった。また、異世界に迷い込む時は全員意識を失っていたので、起きたままだと異世界に放り出されてしまうというクライマックスの展開のおかげで最後まで気が抜けず、飛行機内の気圧を下げるというアクロバティックなアイデアまで繋がるのはカタルシスを感じた。手に汗握るとはまさにこのことだろう。中編でそれなりに長かったが、読み終わると短いような気がするという、キングのいつもの読後感だった。

    「秘密の窓、秘密の庭」は謎の男に盗作疑惑をかけられた小説家が主人公なのだが、当初まともにとりあわず、相手にしなかった狂人が、小説家の自宅への放火事件で一気に深刻さが増すというのが面白い。この段階でこいつはヤバいやつだという認識の共有が読み手と主人公の間でなされており、これは凡百の作家にはなかなかたどり着けない境地だろう。盗作を咎める男が戸口に現れたところから始まる冒頭の切れ味が素晴らしいが、話はやや退屈で、盗作でないことを証明できる雑誌が家にある→自宅の放火の流れは謎の男ジョン・シューターへの恐怖感が際立っていて端的に言って最高なのだが、そこから主人公が警察に相談しなかった時点でやや冷めてしまった。泣きつくのではなく、盗作でないことを証明して相手にぎゃふんと言わせた、失礼な男を屈服させたいという欲はわかるのだが、それにしても警察に相談しないのは展開の異常さから考えても違和感しかなく、そのせいでジョン・シューターの正体→作家の作り出した別人格で妄想というオチも途中で読めてしまった。

    ただ、妄想を文章化して商売する人間が、過去に犯した罪のせいとはいえ、別人格を作り出して自分を罰しようとするのは生々しい恐ろしさがあるし、それを否定する材料(盗作でないことを証明する雑誌のバックナンバー)を持ち出すと、それを破棄しようとするのはゾッとしてしまった。まさに自己否定の究極系である。現実と妄想の区別がつかない、というのは案練りしたり小説を書いたことのある人間なら誰しも見に覚えのある感情なのではないだろうか。そう思えば、確証のないままに警察に行くというのを避ける気持ちもわかるし、主人公が周囲に嘘をついていたのも、無意識的な逃避感情の表れなのだろう。

    ランゴリアーズが星5、秘密の窓、秘密の庭が星3なので、間を取って星4としておく。

  • あくまでも好き嫌い・合う合わないでの判断で言うと、私には合わなかった。

    どっちかって言うと後編「秘密の窓、秘密の庭」の方が良かった。

  • 2020.09.03 読了。

    うわー、面白かった。
    キング作品のホラーって、ちゃんとホラーしてるのよね。
    単なるスプラッター(の話もあるけど)では無いところが良い。

    ◎表題作『ランゴリアーズ』
    はじめの方から不穏な空気。
    乗客が全然いない謎。
    めちゃくちゃ面白そうだったが、読んでみるとズコー、だった。
    モンスターはやめてくれ。
    冷めてしまう。
    しかもビーチボールみたいなモンスターってなんなんだ。
    TVドラマ版をつべで流し見したら、このモンスターの口が想像と違ってまた冷めた。
    個人的には真っ黒なパックマン、というかブラックホールの球体版、なイメージだったけど、ドラマ版はパクパク食べててうーん、な感じ。

    んで、生還方法が無理があるでしょ。
    こんな一、小説家が考えた方法でちゃんと帰れるのおかしくない?だったらそもそもこの異空間へワープする方法が解明されてる世の中じゃない?これだと。

    乗客達が個性豊かなので飽きずには読めたけれど、独特な話なのでエンタメとしては楽しめたかな。
    TVドラマ版はほぼ完全再現出来ているので、450ページ程あるのを読むのが辛い方は映像化作品で観たら良いかと。

    ◎『秘密の窓、秘密の庭』
    『ランゴリアーズ』よりもページ数が少ないからあっという間に終わる話かと思って読んでいると痛い目にあう。
    普通に一冊の作品として出版しても全然おかしくないボリューム。

    はじめは本当にホラーで、ジョン・シューターが気持ち悪くてどうなるの!?とハラハラ読めた。
    後半になるにつれて、「あぁ〜」とオチが見えてきて、なるほどなるほど。
    二重人格ね、ハイハイ。
    とか思っているとまさかのオチどーん。
    本当にいたのね、ジョン・シューター!!
    じわじわ怖さが来る。

    こんな話が一冊の本で読めるっていうのは素晴らしい。
    割と夢中になって読んだ。

    恐怖の四季シリーズも、フォーパストミッドナイトシリーズもあと一冊積読なので読んでいく。

  • ランゴリアーズ
    飛行機が飛んで同じ空路を戻っていくストーリーなのでわかりやすい。
    天才少女と白人のタフガイ2名が主要登場人物になっており、登場人物の半分は死亡します。そしてキングの小説にはおなじみのクズ野郎役トゥーミーさんは天才少女になにかの役に立つといわれ生き残りますが飛行機が離陸するときにおそってくるランゴリアーズのえじきになり皆の役に立ちます、両親に甘やかされて育っただけなのにかわいそう。離陸した飛行機から見える地上の様子、ランゴリアーズが物体を食べ尽くし無の状態になっているは映像が浮かんできます。

    秘密の窓秘密の庭
    アガサ・クリスティの小説のようなトリックで驚きます。2重人格者になった小説家が完全犯罪を目論むという非常に複雑なはなしです。盗作したことを忘れていったというか、記憶外に押しやっていた過去がなにかの拍子に復活するときに2重人格者になるのでしょうか。多分そんなに確信にせまっていない別荘の管理人2人を、なんとなく殺してしまうところがキングらしさです。

  • ※図書館→古書で購入

  • 二本収録、両方ともに映像化。

    「ランゴリアーズ」はDVDパッケージ、スチールを見て映像を観る気にもならなかった作品。クリーチャーものかと思いきや心理的な怖さが味わえるしっかりしたキング風味。

    もう一つの方は映画を観に行っていたのであらすじ追うだけになってしまった。惜しい。

  • むかし深夜テレビで何気なくみたこれのドラマがすごく面白くて読んでみたが、正直ドラマのほうが面白かった。無人の空港や乗客の消失した機内の描写は、映像のほうがより無機質な感じがよく出ていたからだろう。併録されている盗作をモチーフにした「秘密の窓、秘密の庭」のほうが小説としては面白かった。

  • 蔵書。中編2本収録。キングでは一番好き。ランゴリアーズを読むと、あまり子供に勉強しなさいと言いづらくなる。
    中編2つ目はそれ程好きではない。

  • 4-16-714818-8 716p 2004・8・10 3刷

  • 「ランゴリアーズ」、ドラマになってるんですね。観たいなあ。
    「秘密の窓、秘密の庭」は先に映画で観た。
    ラストが違うのはまた一興。デヴィッド・コープ粋ですな。

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著者プロフィール

1947年メイン州生まれ。高校教師、ボイラーマンといった仕事のかたわら、執筆を続ける。74年に「キャリー」でデビューし、好評を博した。その後、『呪われた町』『デッド・ゾーン』など、次々とベストセラーを叩き出し、「モダン・ホラーの帝王」と呼ばれる。代表作に『シャイニング』『IT』『グリーン・マイル』など。「ダーク・タワー」シリーズは、これまでのキング作品の登場人物が縦断して出てきたりと、著者の集大成といえる大作である。全米図書賞特別功労賞、O・ヘンリ賞、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞など受賞多数。

「2017年 『ダークタワー VII 暗黒の塔 下 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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