兄弟 (文春文庫 な 25-2)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167152062

作品紹介・あらすじ

作詞家として活躍する著者のもとへ、十六年間絶縁状態だった兄の死の報せが届いた-。胸中によみがえる兄の姿。敗戦後に故郷小樽で再会した復員帰りの兄は、どこか人が変っていた。以来、破滅的に生きる兄に翻弄され、苦渋を強いられた弟が、兄の実像と兄弟のどうしようもない絆を、哀切の念をこめて描いた記念碑的傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 母に勧められて。
    昭和の有名作詞家なかにし礼が破天荒な兄について書く自伝的小説。あまり期待せず読みはじめたが、とても面白かった。

  • 中西礼さん 初の小説。
    個々は別の人格・・・だが、人は血のつながりを意識しないではいられないのかも知れない。

  •  このような古く珍しい本を手に取る機会に恵まれたことを、改めて幸運に思う。
     稀代の作曲家なかにし礼が小説なんか書いて、豊川悦司とビートたけしの主演でドラマ化されていたことも知らなかった。
     満州生まれの弟であるなかにし礼その人の、特攻隊の生き残りと自称し虚無的で刹那的な生き方をする兄との葛藤をほぼ自伝として描いているのはともかく、この一冊の本の持つ素晴らしい文学性には驚愕させられた。
     「兄さん、死んでくれて有難う」と兄の死によって始まる回想、そしてラストに衝撃の終章が待つ。
     敗戦で満州から小樽に引き揚げてきた一家の元に兄が復員した時点から一家の運命の歴史が始まる。
     鰊漁に投資し増毛の海で群来を待つ荒々しいシーンに始まり、なかにし礼の作曲家としての栄華、兄の借金による一家の衰退。究極から究極へ移り変わる運命の渦に揉まれる兄弟、親子、夫婦の描写が素晴らしく、一気に読まされた。
     小樽の旧青山亭入口に建つ、なかにし礼の『石狩挽歌』の歌碑の前にぼくは何度も立ったことがあるが、この歌碑が実はこの物語の重要なエピローグを象ることになろうとは流石に読み切れなかった。
     この歌碑は、作詞家であり作家でもあるなかにし礼という自己確立にも重く関わったものだったのである。
     各地流転の人生の海の上を風とゴメたちが今日も飛び続けている。そんな風景が忘れ難い一冊である。

  • なかにし礼と、実の兄との関係と葛藤を元に描かれた小説。
    映画では兄役をビートたけしが演ったけれど、私は観てないので、どうだったのかわからないけれど、原作から受けるイメージは違う感じがした。
    中西一家は、満州で一家の大黒柱である頼もしき父親を亡くしているので、日本へ引き上げて実家の小樽へ戻り、そこへ長男が復員してくる。
    この長男が、一家の長として家族を養っていくわけだけれども、母親似で大胆な性格の故、やる事なすこと浮き沈みが激しいと言うか、一発当ててもそれが持続しなくて、すぐに凋落する。
    そんな兄に一家は翻弄され、まだ幼い弟も様々な苦難に見舞われる。
    それでも、戦争へ行く前は両親に嘱望され、姉弟からも慕われていた立派な長男への想いの方が強くって、弟は何度も何度も酷い目に合わされても、兄をすぐに許してしまう。
    やがて弟は作詞家として大成し、大金を稼ぐようになるが、それらも全て兄に騙し取られ、巨額な借金を背負わされ、返済に追われるようになる。
    借金を返しても、すぐにまた実印などを持ち出されて保証人にされてしまう。そんな事を何度となく繰り返していて、読んでるこっちは、どうして?と理解に苦しんだ。
    簡単に「兄弟の情」とは言い切れない何かがそこには存在していたのかな。
    兄も弟も、満州での体験や戦争の体験が、その後の人生に大きく影響を与えていたように感じた。そこに雁字搦めにされていたような。
    戦後の日本が抱えた問題の1つがそこに凝縮されているような気もした。
    ある意味、被害者だったのかもしれない。
    それにしても、こんな兄がいたら、普通ならやっていけないね。
    って言うか、弟があまりに巨額な収入を得るようになったから、兄の性癖に拍車を掛けてしまったのか・・・?
    でも、普通のサラリーマンであったとしても、きっと同じだったのかも。やりきれないお話だ。

  • 手練れの技といいたくなるような文章力。怪物である兄をそれでも捨てきれず根っこにあるものを理解しようとする作者の、一方で自分に関わってきた女性たちへの酷薄な無神経ぶりには所々鼻白んだが、それでもやはり引き込まれて読んでしまう。戦前からの昭和の一家族の歴史としても面白い。

  • なかにし礼さんのドキュメンタリーを偶然TVで見た。自分の人生の中で兄の存在がいかに重くのしかかっていたかを、作詞家として大成功をおさめ、高所得者にもなっているにもかかわらず、自分たちの生活は困窮していたこと、兄からの度重なるお金の要求、事業を興す度に失敗し、莫大な借金を肩代わりし、印税がすべてそれらに消えていってしまった事。実の母が亡くなり、ようやく兄からの呪縛もとけ、義絶。そして、その兄が死んだという一報を受けた時に思わず「万歳」と思ったと語った。兄の事を包み隠さず本に書いたと語っていたので読んでみたくなった。さすがだなぁーと思ったのは、言葉だった。数々の作詞を手がけ、大ヒットした作品も沢山あるから当たり前と言ったらそうなのだが、流れるような文、ニシン漁の時の描写は躍動感が溢れている。まさしく昭和の時代を駆け抜けた人だった。牡丹江市からの引き揚げ、小樽、青森、大井町、浅草、中野、鎌倉、戦中、戦後を生き抜いた全ての経験が作詞家の根っこに息づいている。義絶したはずの兄に対して「もう一人の自分を失ったようで、自分の影を失くしたようで、むしょうに淋しい」と最後の最後に書いている。兄との経験から生まれた「石狩挽歌」。作者の体験を知ってから改めて歌詞を読むと大漁で浜がにわかに活気づき、男も女も総出で行き交う姿が浮かんでくる。ヤン衆のざわめき、不漁の時のよどんだ空気、あの時、肌で感じた事がこの歌詞に刻まれているんだなぁーと思った。憧れていた兄、その兄を捨てきれずどんどん苦境に追い込まれていく自分、義絶し、兄が死んでようやく解放されたと思っていたのに何故か淋しい、人からみたら理解不可能であってもやはり家族って当の本人たちにしかわからない繋がりがあるんだなぁーと思った。作詞家から作家へと転身した作者の他の作品も読んでみたいと思った。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    作詞家として活躍する著者のもとへ、十六年間絶縁状態だった兄の死の報せが届いた―。胸中によみがえる兄の姿。敗戦後に故郷小樽で再会した復員帰りの兄は、どこか人が変っていた。以来、破滅的に生きる兄に翻弄され、苦渋を強いられた弟が、兄の実像と兄弟のどうしようもない絆を、哀切の念をこめて描いた記念碑的傑作。

  • 読んで損なし。

  • なかにし礼さんの自伝小説です。
    先にレビューを見てなかったら普通の小説だと思って読んでいました。

    破天荒な兄と、兄に振り回される弟-なかにし礼さんの長年の確執を描いた作品。
    これを読んで猛烈な憎悪を感じました。
    見栄っ張りでひと山当てたいともくろむ兄。
    所が何をやってもうまくいかない。
    それに比べて弟は作詞家として有名になり、着々と自分の座をかためてゆく。
    そんな弟に対する妬み、憎しみ。
    それを弟の金を食いつぶす事によって表現した。
    そして弟はそんな兄の借金の分、兄を憎んだ。

    兄弟、姉妹って何だろう?
    両親の血を引き継ぎ、血縁者の誰よりも近い血をもつ存在。
    それなのに、あっさり他人よりも遠い存在になってしまう。
    そのくせどこかでつながっていて・・・。
    そのつながりはこの兄弟の場合、憎しみであり、表に出る所ではお金だったのだろうと思いました。
    兄が亡くなった所から始まるお話ですが、弟は兄が死に喜び、周りの家族も淡々としている。
    この兄の人生って、何と空々しいものだったのだろうと思いました。

  • 許せないものはいつまでも許せないのである。。。
    ロクでもない家族はどこにでもいるのだなぁ。。。
    ここまで壮絶な経験する人も少ないだろうなと思う。
    誇張されている部分はあるだろうがまるでフィクションの小説を読んでいる気分。
    事実は小説より奇なり。。。

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著者プロフィール

1938年旧満州牡丹江市生まれ。立教大学文学部卒業。2000年『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞。著書に『兄弟』『赤い月』『天皇と日本国憲法』『がんに生きる』『夜の歌』『わが人生に悔いなし』等。

「2020年 『作詩の技法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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