夜明けの雷鳴 ―医師 高松凌雲 (文春文庫) (文春文庫 よ 1-38)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167169381

作品紹介・あらすじ

慶応三年、万国博覧会に出席する徳川昭武の随行医として渡欧した三十一歳の医師・高松凌雲。パリの医学校「神の館」で神聖なる医学の精神を学んだ彼は、幕府瓦解後の日本に戻り、旧幕臣として箱館戦争に身を投じる-。壮絶な戦場において敵味方の区別なく治療を行った、博愛と義の人の生涯を描く歴史長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 30年前のNHK大河ドラマ『獅子の時代』を観ていたときから、隠れ凌雲せんせいファンだったわたし。脚本を手掛けた山田太一さんはこの本を読まれたかもしれないと推測します。函館では幕府軍も官軍も区別なく治療するという方針を持ち、北海道から東京に戻ってからは、親の治療費捻出のために娘が身売りするような時代に、貧しい人も、裕福な人と同等の治療を受けられるように尽力し、政界や経済界からも賛同者を多く得るなど、日本赤十字の礎を築いた高松凌雲という、幕末から大正時代までを生きた医師の生涯を描いた本です。
    現在、函館の五稜郭の中には、官軍が病院に踏み込んできたときに凌雲せんせいが傷ついた兵士たちを身を挺して守っている場面のジオラマがあるそうです(プチ情報)。

  • 信念をもって生きることのものすごさを感じた。

    幕末から明治維新にかけて激変する世の中を、信念をもって生き抜いた医師、高松凌雲。箱館戦争で生命の危機にさらされても、自分の信じるところを貫く強さには圧倒される。維新後も官位を得ず、市井の一医師として生きながら、貧しい人が医療を受けられるように尽力していく。かっこいい。

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BA60401375

  • 4-16-716938-x 358p 2003.1.10 1刷

  •  吉村昭らしい重厚な小説。
    意外と知られていない函館戦争の悲惨さを描いている
    しかし、少々後半が単調。

  • 一死もって義に殉ずる覚悟……。美しいが、この時代にそこまでのものがあるだろうか?
    だからこそ、この史実に感動するのだろう。
    凌雲の行動は僕らの鏡だ。

  • 幕末を舞台とした歴史小説。主人公は幕府方の医師、高松凌雲。
    徳川慶喜の名代でパリ万博に行くことになった慶喜の弟である徳川昭武に伴いパリに渡り、西洋医学を学ぶ。
    その際のパリ万博を巡る薩摩の暗躍、老練なイギリス外交も巧く描かれていて興味深い。
    幕府瓦解後は、榎本武揚ら旧幕府軍に付き添い、函館戦争時に函館病院の頭取として全権委任され敵味方なく負傷者の治療にあたる。
    パリで彼が見た病院は「神の館」。富ある者にも貧しい者にも同じ治療を施し、しかも貧しい者は無料であり、それを近代国家を目指す日本でも実現しようと奔走し、日本赤十字の源流を作ったといわれている。
    本著は新政府側の医師、高木兼寛を主人公とする「白い航跡」(吉村昭著)を彷彿させる。幕末維新時に医者は特異な存在で、彼らを通じて欧米の近代国家の概念を学び、日本にその枠組み導入することに尽力してきた。

    以下引用~
    ・原市之進は、慶喜と相談し、慶喜の家臣である渋沢栄一を随行者に加えることになった。渋沢は27歳で、弾力性のある思考能力をそなえ、人との協調性にも富んでいた。
    ・これによってカションが昭武の教師になることはなくなり、憤ったカションは、薩摩藩の顧問であるモンブランとむすび、幕府に不利な論説を新聞リベルテに投書したりした。
    ・「戦争にあっても、敵方の傷病者を味方の傷病者同様、ねんごろに施療する。それが、神の館のみならず西洋諸国の病院の常となっている」
    ・榎本は、松本良順を艦隊に引き入れようとしたが、土方歳三が松本を説いてひそかに江戸に帰させたのだという。

  • 何の前智識もなく,手に取った本。ただ吉村昭が好きなだけで。

    医師,高松凌雲・・・という名も,この本で初めて知りました。
    感心したのはまず慶応三年のパリ万国博覧会。日本が出品した品々がこの当時に高い評価を受けていた,というのもとても興味深いです。
    (そして「日本」とは別に,薩摩藩が出品していたというのも・・・・。)
    そして凌雲が,パリで医学を修めたということ,そしてその熱心さにも驚愕しました。こういう優れた医師がこの当時から居たんだなーと。(しかもまだ31歳。この当時だったら,いいな年かもしれませんが)

    上記の内容は本題とは外れたところなんですが,この本が「箱館戦争」を扱ったものだというのも,読み進んでやっとわかりました。
    凌雲が医師として加わった旧幕府軍は榎本武揚が指揮をとり,指揮官の中には,兄である古屋佐久左衛門,元新撰組の土方歳三なんかもいたとは・・・・・全然知らず,自分の無知を恥じました。

    「戦争」と言えば,対外国のものというイメージで居たんですが,よくよく考えてみれば明治時代以前はほとんど国内で戦争していたんですよねえ・・・(元寇や朝鮮出兵もありますが)
    国内での戦争もこんなに激しいものだとは思いませんでした。当たり前のことなんですが・・・・。同じ日本人同士で撃ちあい,殺しあう。うー,日本が明治新政府のもと,統一?されてよかったとしみじみ。

    そんな中,パリで学んだ崇高な精神を持って,医学と向き合う凌雲の姿はとても好感の持てるものでした。医学界の腐敗が報じられる昨今ですが,医師というのはこういうものであってほしい,と思いますねー。厚かましいお願いですが,医者の方々にご一読願いたいですw

    幕末がおもしろい,と言われる所以がわかりました。
    近代史ばっかりに目を向けるのではなく,近代史の始まりの幕末をもっと勉強するのも面白そうですね。
    とりあえず榎本武揚に興味を持ったので,リスペクトする安部公房の「榎本武揚」に再チャレンジしようと思います。

    夜明けの雷鳴・・・・夜が明け(というか,眠らず朝を迎える),朝から砲撃戦の音が鳴り響く・・・というシーンが度々出てきましたが,私は,医学の夜明けに鳴り響いた雷鳴が,凌雲そのものだったのではないかと感思いました。
    面白い本でした。

  • 新選組函館戦争の小説から、高松凌雲に興味を持って読んでみた。
    名前と函館病院の医師としてしか知らなかったが、幕臣として医師として信念を持ち続け生き抜いた人生をすごいと思う。

  • 2011.3.22(火)

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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