新装版 関東大震災 (文春文庫) (文春文庫 よ 1-41)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167169411

作品紹介・あらすじ

大正12年9月1日、午前11時58分、大激震が関東地方を襲った。建物の倒壊、直後に発生した大火災は東京・横浜を包囲し、夥しい死者を出した。さらに、未曽有の天災は人心の混乱を呼び、様々な流言が飛び交って深刻な社会事件を誘発していく-。二十万の命を奪った大災害を克明に描きだした菊池寛賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 吉村昭『関東大震災』文春文庫。

    関東大震災から丁度100年という区切りの年。我々日本人は、この100年の間に阪神淡路大震災、東日本大震災という2つの震災を経験している。日本列島が大陸のプレートの狭間に存在する以上、これからもこのような大震災を経験するのは間違いない。大切なことは震災への備えと心構えといざという時の知恵、情報であろう。

    記録文学の第一人者である吉村昭の菊池寛賞受賞作。

    少し前に読んだ江馬修の『羊の怒る時 関東大震災の三日間』では、当時の東京市とその近郊の混乱の状況が生々しく描かれていたが、本作では関東大震災の8年前の前震と思われる群発地震から震災当日からその後の状況までが、様々な視点で描かれている。

    最近放映されたNHKスペシャルでも当時の大災害の様子がカラー映像で紹介されていたので、本作を読んでいると頭の中に映像が浮かんで来る。

    関東大震災が起きる8年前の大正4年に大震災の前震と思われる群発地震が起きていたのは知らなかった。その群発地震を巡り、当時の地震学者が大地震の予兆か否かで議論しているのも興味深い。

    東日本大震災の時も2日前の昼前にM7.3の大きな地震があり、それ以降M6クラスの地震が何度も発生していたことを覚えている。しかし、この時の群発地震が東日本大震災につながることを注意喚起した学者は居なかった。今の科学では地震を予知することは出来ないというのが定説である。


    今から100年前の大正12年9月1日、午前11時58分に相模湾を震源とするM6.9の大きな地震が関東地方を襲う。多くの建物が倒壊し、直後に発生した大火災は東京や横浜を焼き尽くし、20万人にも上る多くの死者を出した。中でも最も悲惨な出来事は、大火災は火災旋風を巻き起こし、本所被服廠跡地で3万8千人もの人びとの命を奪ったことだろう。

    こうした中、再び大地震が来るとか、大津波が来るなどといった流言が飛び交う。さらには朝鮮人が火を放っている、井戸に毒を入れているなどという流言蜚語は、朝鮮人の虐殺という悲劇を生み出す。


    本体価格770円
    ★★★★

  • 今年で関東大震災からちょうど100年。その間にも大きな地震を何度も体験してきた。将来、また大きな地震が起こると言われているが、過去からどれだけのことを学べているのだろう。

    本書は、関東大震災の発生前、発生後の様子、それによって起こったデマ、どさくさ紛れに起きた甘粕事件について、まるで見てきたかのような解像度で描かれている。

    建物の耐震性は向上し、関東大震災のような被害は多少起きにくくなったかもしれないが、津波への対策などまだ課題はある。また集団心理については、あの頃とあまり変わってないのではないかとも思った。

    • mei2catさん
      おはようございます。
      吉村昭さん大好きですが、この作品は未読です。登録しようと思います!
      おはようございます。
      吉村昭さん大好きですが、この作品は未読です。登録しようと思います!
      2023/09/04
  • 大正12年9月1日に起こった関東大震災の克明な記録。
    震災の起こった9月に読んでみよう、と手に取った。

    本書は、地震の見解に対する二人の研究者の対立から始まり、大正12年の地震発生と被害状況、地震後に広まった社会主義者や朝鮮人に対する流言、復興に向かう街の様子、の順に描かれる。読んでいて、コロナに翻弄される現代の日本と共通点が多いことに驚かされた。

    関東大震災の18年前の明治38年、東大地震学研究室の今村助教授は、今後50年以内に東京地方に大地震が起きる可能性が高く、その際には火災による被害が甚大になる恐れを指摘した論文を発表した。このことによる社会の混乱を案じた上司の大森教授が今村の説を全否定したことから、二人の間に深い溝ができてしまう。
    結果的には今村が予想した通り18年後に関東大震災が発生するのだが、コロナ禍の日本でも、特に初期には様々な意見が入り乱れ、社会が混乱に陥ったことを考えると、不確実な情報を発表することによる大森の懸念も理解できる。

    震災発生後、東京や横浜の都市部では、特に火災による死者が膨大な数となった。広い空地に避難し、ようやく一息ついた避難者の荷物に火が付き、あっという間に火に取り囲まれてしまった本所被服廠跡では、3万8千人以上が亡くなったという。また吉原では、火災に乗じて逃げ出さないよう建物から避難させてもらえずに亡くなった女郎たちも多かったそうだ。

    震災後は、社会主義者の煽動により朝鮮人が襲撃してくる、というデマがまことしやかに流れた。もともと悲惨な境遇に追いやられていた朝鮮人に対し負い目を感じていた世間の人たちの間で、この機会に襲撃されてもおかしくない→襲撃されるかもしれない→襲撃されるらしい、と話が伝言ゲームのように変化していき、警察やマスコミも一部事実認定してしまったのだ。
    本書によると、デマが広がってから警察がそれを否定するまで5日ほどだったようだが、疑心暗鬼になった人々により多くの朝鮮人たちが虐殺された。
    現代でもコロナに関する怪情報がネット上を飛び交ったが、ワンクリックで世界中に発信できる時代においてはなおさら、正しい情報を見極めて行動することの難しさを感じる。
    ただし、社会主義者に対する流言については、むしろそれに乗じた憲兵や警察が彼らを取り締まるためのきっかけにしたという側面があったようだ。本書では、社会主義者大杉栄と妻の伊藤野江、その甥が殺害された「大杉栄事件」について関係者の証言をもとに詳しく述べているが、その内実は驚くほど何の根拠もないただの殺人であったことがわかる。

    本書は、病床にある大森と今村の和解、そして地震学研究室で観測をする今村が、自身の予測に反して地震計の針が動く様子に愕然とするところで終わる。
    完全な地震予知を行うことは不可能に近いという。それでも災害大国日本で暮らしていくために、一人一人が被害を最小限に抑える対策を行う必要があること、正しい情報を得るための情報リテラシー向上の必要性を改めて感じた。

  • 100年前に起きた関東大震災の状況を丹念な取材と著者の筆力で当時の惨状が生々しく再現されています。
    飛んできたトタンで首が切り落とされた話や火災旋風やデマの恐怖などこれから起こると言われている大地震のイメージトレーニングとしても役立ちそうです

  • 烈震、大火、突風、津波、伝染病…ありとあらゆる脅威が一気に首都圏を襲った巨大地震、その凄まじい惨状の記録。流言による虐殺の横行はその時代の空気を感じさせるが、実は人心が一番怖かったりする。地震対策も情報化もはるかに進んでいるとはいえ、現在東京の人口は当時の 3 倍以上。ネットによるデマ拡散のスピードも比較にならない。同レベルの地震が起きたら今度はどんなパニックが起きるのか想像もつかない。大正 12 年はスペイン風邪大流行の数年後、そして98年後の今新型コロナのパンデミック…全く根拠なく、まさかとは思うが、南関東一帯を揺らす大地震がいつ再来してもおかしくないだけの時が流れたのは確か。震源地・相模トラフの間近に住む者として、昔話で済ますことはできない。自分の身は自分で守る!そのときに慌てないよう日頃の備えをしっかりしておこうと改めて思った次第。

  •  関東大震災が起こった当時のことを生々しく克明に描いています。吉村昭の作品はしばしば記録文学と呼ばれますが、本作品では小説とか文学とかいう以前に、記録そのものが読者に迫ってくるようです。

     地震により建物が倒壊し、続いて大規模な火災が起こり、人や建物までをも巻き揚げるほどの烈風が吹き荒れて延焼が拡大し、逃げ惑う人たちの荷物や体が燃え始め…… 死者20万人。繰り広げられる光景は、想像を絶するものです。

     流言飛語により自警団が暴徒化して多くの朝鮮人や日本人を殺害し、ついには千人ほどにも膨れ上がった群集が警察署を襲い、留置所に匿われていた人たちまでを皆殺しにしてしまったという事実も衝撃的です。当時の日本人が今とは別人種のように残虐だった訳ではないでしょう。人々の不安が高まれば、今でも同じようなことが繰り返されてしまうのかもしれません。

     さらに、大杉事件も異様です。これにはオウムによる坂本弁護士殺害事件を連想させられました。小さな子どもまで殺してしまったのですから! 何によって事件が引き起こされたのか、本当のところは分からないと思います。組織の上部への忖度があったのかもしれません。ごく普通の善良な人が組織の力学の中で取り返しのつかない犯罪を起こしてしまうことは、オウムの事件などでも見られたことです。

     ところで、東北での大震災が起こってから七年が過ぎました。震災直後には津波の衝撃的な映像がテレビやインターネットに溢れていましたが、最近では見かけません。忌まわしい記憶を忘れたいという心理が働いているのではないかと思います。しかし、それでは大きな犠牲が将来への教訓として活かされないでしょう。

     東海地方や首都圏でも大きな地震が来る可能性が高まっていると思います。これに備えるためにも、この本に記されたような貴重な震災の記録は、少しでも多くの人に読み継がれるべきものだと思います。

  • NHKスペシャルで関東大震災の特集を放送した。
    積読に成っていた本書を読みながら、テレビで見た映像を思い出した。
    火災旋風により、人や物が宙を舞うという。まさに地獄絵図だ。
    持ち出した火災道具に火が付き、災害を増加させる。江戸時代には守られていた火災時の教訓が、大正になって守られず、むしろ後退していたとは、愚かなことだ。
    朝鮮人への根拠の無い迫害行動など、生々しく綴られていて、憤りを感じた。
    パニックを起こした人々が集団心理により、簡単に狂暴化する。
    幸い、東北大地震ではこのような事が起きなかった。過去の教訓が生かされたのだろう。
    2035年前後には東北大地震の何倍もの威力の南海トラフ地震が、必ず起こると言われている今日。
    あの東北大地震を、身をもって実感した自分としては、生きている間には2度と体験したくないものだ。
    日頃の備えは大事だ。

  • NHK大河いだてんで1話分とりあげられて登場人物が1人行方不明になった。新書よりも読みやすい小説を選択。ネットがない時代とはいえ、ラジオもテレビもない時代の大災害、想像以上の惨状でした。
     20万人以上の死者のうち、建物倒壊による直後の死者は少なく、むしろ火災がひどかった。本所陸軍被服本廠跡地(いまは墨田区の横綱町公園)を避難場所として知らされた5万人近くが家財道具を持ち出したので正午の地震後に発生した大火災が延焼し3万8000人が焼死しその7割近くが性別不明の真っ黒こげだったとか、火災で起きる突風に飛ばされたトタン屋根に一緒に手をつないで走って逃げてた友人の首がスパッと切り落とされ、つないでいた手を放すのに指を1本1本解かないといけなかったとか、遊女は囲われていたため逃げるべき方向がまるで分らず吉原公園に集まっていたところ同じく延焼した火災で丸焼けになったとか。
     なによりひどかったのは、全く暴動や毒混入した事実がないのに、そういう事実があるという流言が広がりマスメディアも流言の裏を取らずそのまま新聞に乗っけたあげく、朝鮮人が何千人も日本人により撲殺されたこと。マスコミ全ての誤報がかえって政府による言論統制への介入の口実をつくったこと。
     大杉栄と妻と甥が陸軍により罪ないのに社会主義者という理由で戒厳令下でリンチで絞殺されたにもかかわらず、指揮者の1人甘粕大尉は3年間の懲役で釈放され、その後満州で大活躍したという歴史の異常さ。
     冒頭が地震学者同士の東京で大地震の起きる確率をめぐっての論争から始まるというところも著者の腕の妙といえる。やっぱり吉村昭はすごい

  • 大正12年9月1日正午に起こった大地震での死者は約20万人。その多くは地震による直接被害よりもその後の火災や逃走中の事故によるもの。

    中でも悲惨なのが、2万坪の空き地である被服廠跡地での災害。広大な空き地は絶好の避難地として、多くの人々が大量の荷物を抱えて逃げ込んでくるが、そこに巨大な竜巻が発生し、人間や荷物を吹き飛ばす。さらに火災が引火。足の踏み場もないほどに集まっていた群衆は逃げることも容易ならず、死者は38千名。

    著者はその現場で数少ない生存者たちへ取材し、その地獄絵を明らかにする。折り重なった死体を踏み越えて逃げる群衆。踏みつけられた死体から内臓がはみ出す。転倒したために生きたまま踏みつぶされた死体も。人間が意外と燃えやすいことを知ったという生存者の言葉が印象的だ。

    さらに情報網が遮断され、人々の不安定な精神から様々な流言が放たれたのもこの地震の特徴。朝鮮人が暴動を起こす。次なる大地震が発生する。などのデマを民衆だけじゃなく、取材力を失った新聞社までもが鵜呑みにしてしまう。混乱した人間の集団心理がいかに不確実なものなのかがよくわかる。

  • 有名な関東大震災ですが、実際にどうだったのか?というのが克明にわかる小説でした。怖いです。本当に怖いです。よく復興したなあ、と感心するくらい未曾有の災害でした。が、人災の部分も多かったと思います。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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