玄鳥 (文春文庫 ふ 1-28)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167192280

作品紹介・あらすじ

無外流の剣士として高名だった亡父から秘伝を受けついだ路は、上意討ちに失敗して周囲から「役立たず」と嘲笑され、左遷された曾根兵六にその秘伝を教えようとする。武家の娘の淡い恋心をかえらぬ燕に託して描いた表題作をはじめ、身の不運をかこつ下級武士の心を見事にとらえた「浦島」など珠玉の五篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • これで文春文庫で未読の藤沢周平作品は未刊行初期短編集の「無用の隠密」だけになってしまった、と私は思った。もちろん困らない。どうせ読み始めれば、初めてのように読んでしまうことを経験的に知っているからだ。これも再読でも構わないと思い買ったのだ。兎も角、ふと久しぶりに読みたくなった。そしたら思いがけず五篇とも未読だった。

    「三月の鮠」には「窪井信次郎は胸に簡単に消えない鬱屈をかかえていた。」とある。この短編集は、初期作品を集めたのだろうか。私は疑う。藤沢周平が「胸に簡単に消えない鬱屈」のために小説を書き始めたことを知っているからである。ところが、信次郎の「鬱屈」は青年のかかるいっときの挫折であることが知れる。それは一つの「恋の力」で簡単に解決されるだろう。

    「私、兵六さんのお嫁になりたい」
    と妹の節が言った。
    「どうして?」
    「だって、あのひとおもしろいから」
    「だめ。身分が違うでしょ」
    路は叱ったが、路自身も粗忽でおもしろい兵六の嫁になりたかったのである。路は十五で、節は十三だった。そういう時は終わって、巣をこわされたつばめは、もう来年は来ないだろう。すべてが変わったのだ。(42p「玄鳥」より)

    表題作「玄鳥」も、ストーリー的には哀しい話であるにも関わらず、節の物言いに、幸せを取り戻した藤沢周平の家族の姿が見える。愛娘の展子さんの言ったであろう言葉から、おそらく十数年経って、初めて作品として結実しただろう柔らかい空気が読み取れる。

    「闇討ち」は定年3人組の友情物語であり、実は非常に現代的でかつ、ミステリー趣向も濃い。
    「鷦鷯(ミソサザイ)」は冒頭の季節の移り変わりの描写が上手く、その季節と共に、頑固親父の気持ちも移り変わる。
    「浦島」の孫六の、理不尽に左遷させられた中年男のなんとも言えない「面白味」が、最後まで余韻に残る。

    決してすべて楽しい話ではないが、全体的に「おかしみ」を描いた、正に藤沢周平晩年の円熟期に達した佳品ばかりを集めた本であった。

    2016年8月8日読了

  •  藤沢周平「玄鳥(げんちょう)」、1994.3発行、玄鳥、三月の鮠(はや)、闇討ち、鷦鷯(みそさざい)、浦島の5話。短編だけど読み応えがあります。弦鳥と三月の鮠がお気に入りです。武家の妻、武家の娘の心のさまがよく描かれた作品だと思います。
     藤沢周平「玄鳥」、1994.3発行、再読。弦鳥、3月の鮠、闇討ち、鷦鷯、浦島の5話。3月の鮠(はや)がお気に入りです。

  • 今回も藤沢周平の、美しき日本の描写、人の心の機微の描写に酔いしれた。乙な短編集。

  • 五編からなる短編集。御前試合での失態から人に会うのを避け釣りばかりするようになった男を描いた「三月の鮠」が良かった。

  • '「つばめが巣づくりを始めたと、杢平が申しております。いかがいたしましょうか」路は夫の背に回って裃を着せかけながら、つとめて軽い調子で話しかけた'で始まり、「杢平、来年はつばめは来ないでしょうね」との路の言葉で終わる表題作『玄鳥』以下4編。人生の移ろいを季節に模して描く円熟の筆さばきは変わらず。心地よいマンネリズムを今回も堪能。

  • 武家物短編集。暖かい話、ほっこりした話が多くて読みやすかった。

  • 海坂藩が舞台と思われる、5作の短編が収録されています。
    こうした短編集だと、いくつかは自分の好み好みに合わない作品もあるものですが、この本では5作それぞれに異なる魅力があり、全ての作品がとても良いと思いました。
    初めて藤沢周平さんの作品を読まれる方にも、お薦めしたい1冊だと思いました。

  • 玄鳥だけ読みました。

  • 読了 20210730

  • 1994年第1刷、文藝春秋の文春文庫。全5編。解説は中村孝次。『闇討ち』闇討ちに失敗した友人の敵討ち。「家に代えてもつらぬきたい一念」という言葉がぐっとくる。『鷦鷯』貧乏だが誇り高い男。その誇り高さが最初にうまく提示されている。そして、娘の婚姻相手として浮上してきた男への感情の揺れが面白い。全体に滑稽な部分と剣を使って悪役を断つ部分(決して剣豪な部分ではない)がマッチしていて面白い。

    収録作:『玄鳥』(げんちょう)、『三月の鮠』(はや)、『闇討ち』、『鷦鷯』(みそさざい)、『浦島』、解説:中村孝次

    少し考えたこと:滑稽さというのは対外的に対面を保とうとする(いわゆる「武士は食わねど高楊枝」)ところからくるような気がする。江戸時代には、対外的には体面を保させて助けることができていたように感じる。まぁ、助ける町人は身分が下ということもあるでしょうが。現代は、対外的に対面を保ちたいと考えている人は多い一方で、体面を保たせたまま助けることができないようになっているように思う。なんともならないような気もするが、何とかならないものだろうか。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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