秘太刀馬の骨 (文春文庫 ふ 1-30)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167192303

作品紹介・あらすじ

北国の藩、筆頭家老暗殺につかわれた幻の剣「馬の骨」。下手人不明のまま六年、闇にうもれた秘太刀探索を下命された半十郎と銀次郎は藩内の剣客ひとりひとりと立合うことになる。やがて秘剣の裏に熾烈な執政をめぐる暗闘がみえてくる。

感想・レビュー・書評

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  • 1992年刊。
    蝉しぐれのムック本にて、宮部みゆきが藤沢ミステリのおすすめ3作を紹介するなかにあったので、たまたま古本屋で見かけて読んでみた。(ちなみに他は、闇の歯車、ささやく河。)

    犯人探し、というか、秘太刀である馬の骨という珍名の必殺技を授けられたのは誰か、を探る話。
    江戸から来た、家老の甥である石橋銀次郎がそれを探れ、と家老に命じられ、同じく家老の密命を受け、銀次郎の案内人となった地元の武士、半十郎が書き手となる。

    容疑者五名の各々と接触し、弱みを握り、なかば無理矢理、銀次郎と立ち合わせ、秘太刀を使うかを確認して行く。

    五人の人物にある弱みはだいたい女性絡み。
    もうちょっと違うネタも見たかったなと思うけど、封建制度の時代の姦通(というほどでもないが)はそれほど致命的なことなのかも。
    そして、書き手である半十郎もまた重い家庭問題を抱えて、妻との間がうまくいっていない。
    それらがうまくリンクしつつ、最後には藩政をゆるがす大きな事態が見えて来る…。という感じかな。

    ミステリとして先が気になる話なんですが、前半はいろんな人物が一気に出てきて覚えられず、読み進めるのが大変だった。
    下僕の死、から面白くなってきて一気に読んだ。

    結末は、なあーんだ、って感じでしたが、出久根氏の解説や他のいろんな人の意見を見て、多角的な読み方ができると分かった。しかも連載時と書籍で犯人が明確に違うらしい…。ええー。
    文庫でも、真犯人と目される人物の名を半十郎しか口にしないため、断定はできない、という。
    なるほどねー。
    エピローグは、私も、ワンチャンあるかも、と思っていた人物のことだったので、面白く読んだ。
    まあそんなことは本当はないと思うけど、こうだったかもしれないよ、という匂わせた、含みのある終幕エピソードとして書かれているのでは。

    銀次郎にはもっと裏があるのかと思っていたので、後半に潔く物語から消えてしまって残念だった。
    彼こそ謎の人物だったのになあ。

    五間川が登場するし、これも海坂藩が舞台なんですね。
    蝉しぐれにはなかった、方言セリフが飛び交っていて面白かった。
    全体に隠れた佳作といったところ。

    追記
    ここに登場する、金打を打つ(きんちょうをうつ)という言葉ははじめて聞いたので、あとで調べてみた。江戸時代に武士が刀を使って行う、キツめの約束げんまんかな、と思ったら、ほぼそのとおりでした。ひとつ賢くなった。

  • ☆4.0

    筆頭家老の小出帯刀に近習頭取に取り立ててもらった浅沼半十郎は、以前の筆頭家老の暗殺に使われた「馬の骨」と呼ばれる秘太刀の使い手を探る命を受ける。
    主に調べは小出の甥の石橋銀次郎が行うので、求められているのはお目付役といったところだ。
    剣を持つ者の噂話として「馬の骨」は矢野家に伝わると言われていた。
    早速話を聞きに矢野家へと向かうが、現在の当主の藤蔵は自分は受け継いではいないし、誰に受け継がせたかも知らぬという。
    銀次郎は後継者の候補として、先代の高弟五名の名前を聞き出し、藤蔵も含め立合を申し入れ実際に相手と戦っていく。
    やがてこの秘太刀探しには藩の派閥争いが関係していることがわかってきて……

    他流試合を禁じるが為に、なかなか立合に応じてもらえない銀次郎は"どんな手使っても戦ってやる"とかなり嫌な手段をとるので、どんどん嫌な奴になっていく。
    まぁ、好きになれんわな。
    振り回される半十郎が可哀想に思いつつ、でも半十郎もあまり好きになれないのだよね。
    杉江に対する態度のせいかな。
    半十郎の妻の杉江は、長男を病気で失ってから気鬱になってしまい、夫婦仲も良くない。
    でも時代を考えるとそんなものなのかという気もする。

    この作品は藩の政治の派閥争いと、秘太刀の使い手探しのミステリ的な部分の面白さもあるけれど、この夫婦、とりわけ杉江のことが書かれているのが良いなと思う。

    特に、娘の直江が野犬に襲われた後、半十郎に杉江が怒られるところ。
    それまで杉江は長男の病気について、医者を呼ぶのが遅れたから死んだのだと半十郎を責めていた。
    しかし娘が犬に襲われたときには、側にいたのに見ているしか出来なかった。
    幸い娘は無事だったが、半十郎をただ責めていれば良かった今までには戻れなくなったのだ。
    だからこそ、ラストに宿屋の息子を自らの手で救えたことが気鬱から抜け出るきっかけになったのだと思う。
    この流れがとても良かった。


    秘太刀の使い手については、出久根達郎さんの解説に随分混乱したし、まだ混乱してるんだけど、これは同じく読んだ人に意見を求めたくなっている。

  • 秘太刀の遣い手を探す過程を一緒になって探す気分にはなるがやや退屈してしまった。

  • 主人公の半十郎は、家老に命じられ、その甥の銀次郎と秘太刀「馬の骨」の遣い手探しに協力することになります。
    読み始めた時は短編集かと思いましたが、お話ごとに繋がりがある連作短編といった作品でした。
    途中までは淡々と読んでいましたが、途中から馬の骨の秘密に引き込まれました。巻末の解説を読むと、遣い手の正体には別の解釈もあるようですが、それ以上にラストの清々しさが爽快な作品でした。

  • とても面白かった。時代小説でありながら文体は現代的で新鮮、ストーリーははらはらするミステリーを思わせる。『秘太刀 馬の剣』の伝承者は誰か、馬の剣にまつわる藩の秘密はなにか。最後までワクワクしながら読めた。ただ、最後に馬の太刀の使い手を著者が明らかにしたと思ったのに、それは見せかけで、真の使い手は思いもかけない者だと解説者が説いていたのには、少々驚いた。

  • 藩の要人の暗殺に用いられたという秘大刀「馬の骨」。その遣い手を探るよう命じられた筆者。次第に明かされる藩の実態。

    五十を過ぎて藤沢周平に本格挑戦。第二弾で選んだのがコレ。ちょっとミステリー調。

    何より藤沢周平は季節の情景と女性を描くのが実にうまい。また文章だけでは難しいだろうチャンバラの場面も臨場感豊かで見事。
    この作品も海坂藩が舞台。

  • 歴史ミステリー小説ともいえるのだろうか、秘太刀、「馬の骨」を伝授した者を探し出すストーリー。
    藩内の政争がテーマであり、ストーリーの中で登場する人物を追いながら当時の藩の運営、武士の振る舞い等、知ることも興味深い。
    武士にとっては生死は身近なものであるが故に、ストーリーの展開に緊張感があるし、また武士が義の世界に生きるところに、爽快感を得ることができる。

  • 難しい言葉使ってないのに情景の表現が上手で毎度感心する。
    全体像が見えやすくて読みやすかった。
    誰が馬の骨の使い手なのかっていう謎も楽しめる。
    面白かった。

  • 本作品、藩内の内紛を解き明かすべく奔走する藩士達の剣士としての顔と彼らの身の上にある家庭人としての煩いが混じり合って話は進む。
    家族の問題を描きながら企業の派閥争いを描くドラマの時代劇版の様にも感じられた。

    文庫版巻末、出久根達郎氏の語る秘太刀「馬の骨」真の伝授者については同意できない。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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