漆の実のみのる国 下 (文春文庫 ふ 1-33)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167192334

作品紹介・あらすじ

天よ、いつまでわれらをくるしめるつもりですか。改革はままならない。鷹山の孤独と哀しみを明澄な筆でえがきだす下巻。けれど漆は生長し熟しはじめていた。その実は触れあって枝先でからからと音をたてるだろう。秋の野はその音でみたされるだろう-。物語は、いよいよふかく静かな響きをたたえはじめる。

感想・レビュー・書評

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  • 下巻読了。

    絶望的な藩財政の立て直し策として、家老・竹俣当綱が、漆・桑・楮をそれぞれ百万本づつ植えてそれらが育った際に利益が出るという殖産計画を実施しようとしますが、中々うまくいきません。
    そうこうするうちに、当綱が失脚。さらに治憲と共に改革を頑張ってきた他の家臣たちも次々と辞めていきます。
    人材不足と限界ギリギリの倹約策。ずっとしんどい米沢藩の状況に、“一体いつになったら、漆の実がみのるのだろう・・”という思いで読み進みますが、結局“めでたく再生!ハッピー!”とはなりません。
    というのも、本書は藤沢周平さんの遺作で、本来はもっと長く書く予定だったのに、体調の悪化できちんと終わらせられなかったようです。
    本書は当時の米沢藩の状況が、ルポのように詳細に書かれているのが印象的なのですが、上杉鷹山(治憲)という人が、すごく人間ができた殿様だなという事は伝わってきます。
    今、日本が辛い状況の時に、この本を読んだのも何かの縁かも、と思いました。

  • 努力を続けてもなかなか結果が出ない時の人間の苦しさが伝わります。途中で絶筆となっていますが、味わい深い物語でした。

  • 本書で大国主義と言っている、伝統と格式を重んじて改革を忌避する姿勢。為政者に人材が不足。
    今の日本に似ているよ。

  • 出羽米沢藩の重臣の中条至資には、古雅の風をそなえる菓子器を盃に転用した逸話がある(藤沢周平『漆の実のみのる国 下』文藝春秋、2000年、257頁)。本来のジャンルを超えた利用法をすることが創意であり、イノベーションである。
    茶道具のジャンルは便宜上のものに過ぎない。「一井戸 二楽 三唐津」と呼ばれる高麗茶碗の最高峰の井戸茶碗も朝鮮では日常雑器に分類される。桃山時代にはルソンの壺が茶器として豊臣秀吉はじめ諸大名に重宝された。しかし、これは現地では便器として使われたものであり、本来のジャンルは便器になる。各ジャンルの物を一通り揃えなければ茶会ができないものではない。それは先人の創意工夫に対する侮辱である。ジャンルに拘泥する主張は茶人らしからぬものである。

  • 以前、新古書店で購入したまま積読になっていたもの。藤沢周平の最後の作品ということで、時間をかけてゆっくり読みたいと思っていたもの。この新型コロナ禍自粛中に「今でしょ!」ということで読んでみた。前半はなかなか重厚な歴史小説。後半は創作部分と歴史叙述部分がちょっとかみ合っていないというか創作部分が少々端折った感。最後もやや尻切れトンボ。著者の体調の問題だろうが、もう少し長生きしてもらっていればさらに完成度の高い歴史小説になったと思われる。とはいえ、現状でも十分読み応えのある作品になってはいる。
    歴史的に見ても徳川吉宗の政治の限界とか田沼意次の再評価など、新しい歴史学的流れを把握しているところはさすが。司馬史観などを振り回す小説よりはるかに基礎的知識がしっかりしている。
    あと10年活躍してもらいたかった人である。

  • さらなる藩政改革を初め、これからの展開が気になるところで本作は終了。著者の絶筆なのが大変惜しまれる。

  • 藤沢周平の最後の小説。上杉治憲(鷹山)を中心に、藩の立て直しに苦闘する米沢藩の姿が描かれている。
    上杉鷹山といえば名君として後世にも名を遺す。しかしその道のりは、まぁ、壮絶。先代からの借金、なかなか結果の出ない改革、人不足で適材適所ができず、外部環境(飢饉や、幕府からの工事依頼等)で財政はひっ迫。そんな中で、硬軟いろいろやりながら、あるべき姿を示し続ける姿は、すばらしい。

  • 藤沢周平 「 漆の実のみのる国 」


    上杉鷹山、竹俣当綱、莅戸善政らによる米沢藩の財政再建の物語。派手なドラマや奇跡が起こらないことに 産業育成による財政再建のリアルを感じる。


    著者は 上杉鷹山の成功物語を描きたかったのではなく、長い時間をかけてでも 地域産業を育成する政治の姿を描いたのでは?


    産業育成型の財政再建の特徴
    *寛猛二つの心得による民衆養育→農民人口を減らさない
    *政治と民衆が一体となった支出削減→借入返済
    *領内だけでなく領外からも資金調達
    *材料調達から製品化まで領内完結



    序盤は まるで ヨブ記のような不幸続き。貧しさが 人間の外見や建物だけでなく、心の貧しさとなっている〜武の道も廃れ、藩を支える道義は権威を失い、金の力が権威となった社会





  • 為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり。
    改革はなかなか進みません。
    治憲は隠居し、政務を離れ、客観的な目で改革をみていきます。
    「天よ、いつまでわれらをくるしめるつもりですか。」
    鷹山は孤独と哀しみに耐え、新たな改革を進めるべく、陰ながら支援していきます。
    著者未完の大作。
    鷹山の名君ぶりが描かれます。

  • 2018.2.2(金)¥200(-2割引き)+税。
    2018.4.14(土)。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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