巨いなる企て 下 (文春文庫 さ 1-6)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (465ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167193065

感想・レビュー・書評

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  • まだ石田三成が今ほど評価を見直されていなかったときに、堺屋さんが大阪万博のイベントプラニングの際の経験と照らし合わせて石田三成の [企て]プラニングについて語っている。
    関ヶ原の戦いで敗将としての名が永らく残ってしまったが、徳川家康に迫る軍勢を整え、対抗できる形に持っていった石田三成の手腕を再評価する本である。

  • 石田三成を事業創造者と表現し、関ヶ原に至るまでの過程を巨いなる企てと評す。太閤秀吉に忠義を尽くし、事業を成すには「大義名分」「弘宜衆知」「象徴」とし、日本を東西二分とし当に天下分け目の戦いに仕立て上げた三成。文官であった彼は現代の官僚(のなかでも志の高い優れた者達)に近く、現代人の我々が共感するところも多い。

    通過した歴史を振り返れば家康の勝利は確定的であったかに錯覚するが、知略を持って家康の動きを抑え自身の暗殺危機を佐和山へ隠居し巧みに交わす様は実に見事だ。

    生きた歴史を感じさせてくれる一冊だ。

  • 日本史上初のプロジェクトメーカーとして石田三成を挙げ、その視点から関ヶ原の戦いに至る過程を描いた大作。
    全く新しい視点もさることながら、堺屋太一氏自身が若手官僚ながら万国博の開催にこぎつけた経験からくる強い説得力がこの小説を際立たせている。

    随所に語られるプロジェクトメーカーの手法、そしてその難しさは並大抵の意志では遂行出来ないと感じてしまう。
    しかし、キャッチアップ型の成長が頭打ちとなった現代の日本社会において今後必要とされるのは、「どうやるか」ではなく「何をやるか」を提案し、その道筋を示すことである。
    まさにプロジェクトメイキングが求められているのである。

    そして、堺屋氏が指摘する日本型組織の特徴は、それが中堅の構成員によって可能だという点である。まさにその例が石田三成の関ヶ原であり、堺屋氏の大阪万博なのである。

    こうしたプロジェクトメイキングは、手法だけでなく、強い意志、そして最後まで出過ぎない忍耐力など、あらゆる要素を要求される。
    今の自分にこれを達成する自信は残念ながら持てないが、こうしたことの出来る人材となることを目標に進んで行きたいと思っている。

  • 一貫して、石田三成が、
    いかにして反徳川陣営を形成し、
    諸将を関ヶ原の戦いに引きずり出すか、
    という筋で描かれています。

    その時代特有の雰囲気やロマン的な描かれ方がされていないというのは新鮮です。
    それくらい、現代の合理的な考え方に沿って物語が進められる。
    現代の社会構造に譬えて解説されるのは面白いです。

    その分、力強さというか、血生臭さはありませんでした。
    合戦が描かれなかったから、というのもあるかもしれません。
    物語は、関ヶ原の合戦が始まる前で終わります。
    それでも、軍事力を背景に、徳川の人を巧みに動かす様は多分に暴力的でした。

    関ヶ原の戦いをひかえた最後の最後に、
    大谷刑部にこの計画の失敗を指摘されるという物語の展開は、
    無情な感じも含めて、私は好きでした。

  • ストーリーは関ヶ原へと進展してゆく。徳川という「強きもの」になびく者が後を絶たず、豊臣家の重臣を自負する加藤清正や福島正則でさえ徳川に味方するという状況。その中で、豊臣家への義を貫いた石田三成、宇喜多秀家、上杉景勝、直江兼続、佐竹義宣、平塚為広、そして「負ける」とわかっていながらも石田三成との友情に殉じた大谷吉継らの美しさが際立ってくる。戦国時代をたった一日の戦いで終わりへと導いた関ヶ原。それは日本史上最大のドラマ。

  • 石田治部が必死にこしらえた巨いなる企てにトドメを刺す大谷刑部のくだりが良かった。しかし語尾に必ず三点リーダを付けるのはなぜなんディス…

  • 本の読み方は、人それぞれで異なった読み方があり、「なるほどなあ、こんな読み方もあるんだなあ」と思わされることもしばしばである。
    同じジャンルの本に絞って読む。
    同一作家の作品を読破する。
    とにかく速読で、次から次へと読み進めていく。
    同じ本を何度何度も丁寧に繰り返し読む。
    私はといえば、これが実に浮気な読み方である。
    常に3冊から4冊の本を併読している。
    と言っても同時に読めるような特殊な技術を持っているわけではないので、TPOによって異なる本を読むというわけだ。
    バッグの中には、いつでもどこでも読めるような文庫サイズの小型本があり、ベッドルームには心地よく眠りに誘ってくれる1冊があり、リビングには腰をすえて「耽読」できるような本が置いてある。
    そしてテーブルの上には時間つぶしにパラパラする雑誌が何冊か…
    こういう状態なので、同時進行といってもどうしても後回しになる本がある。
    バッグの中に入れられたままで何日も開かれることがないままになっていることもしばしばで、そんな1冊がこの「巨いなる企て(下)」だった。
    上巻を読み終えたのが昨年11月上旬のことだったので、それから約2ヵ月後に下巻をやっと読み終えたわけである。
    豊臣政権から徳川政権に移行する時期の石田三成の政策を描いた長編だが、現代の企業に当てはめて描かれた史実は、歴史や時代物に疎い私のような読者には、かなり理解しやすい歴史ドラマであった。
    次のような描写に、頷く企業戦士も多いのではないだろうか。

    「これを今日の企業に譬えれば、こんなっ光景にとなるだろう。偉大な創業者社長が死亡したあと、跡取りの二代目若社長を無視して実力副社長がワンマン経営をやり出した。しかもその副社長は、別に有力関連企業のオーナーでもあり、独裁的な権限と豊富な財力にものを言わせて、工場長や支店長を盛んに手なずけている。副社長を牽制すべき立場にあった専務取締役は、スキャンダルを種に嚇し上げられて代表権を放棄し、有能な部長たちは次々と地方支店の窓際族に追われた。今では本社部長は総務部長ただ一人しかいない有り様だ。それをよいことに、副社長は本社ビルの数フロアを占領して自分の私的事務所を開設し、主要な経営業務はそこでやっている。にもかかわらず、身の安全と出世を求める部課長はこれに抵抗もせず、かえって喜々としてここに出入りしている、といった格好だ。」


    いまや企業戦士といわれた団塊の世代の人たちが戦列から離れるときがやってきた。
    これからの時代であれば、堺屋太一は、この戦国時代の史実をどんな風なドラマに仕立てるのだろうか。

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著者プロフィール

堺屋太一

一九三五年、大阪府生まれ。東京大学経済学部卒業。通商産業省(現経済産業省)に入省し、日本万国博覧会を企画、開催したほか、沖縄海洋博覧会や「サンシャイン計画」を推進した。在職中の七五年、『油断!』で作家デビュー。七八年に退官し、執筆、講演、イベントプロデュースを行う。予測小説の分野を拓き、経済、文明評論、歴史小説など多くの作品を発表。「団塊の世代」という言葉を生んだ同名作をはじめ、『峠の群像』『知価革命』など多くの作品がベストセラーとなった。一九九八年から二〇〇〇年まで小渕恵三、森喜朗内閣で経済企画庁長官、二〇一三年から安倍晋三内閣の内閣官房参与を務めた。一九年、没。

「2022年 『組織の盛衰 決定版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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