うたかたの (文春文庫 な 2-35)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167200350

感想・レビュー・書評

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  • 短編集なのだけど、全てお話は繋がっています。
    1人の男の話としても読めるし、別々の話として読むことも可能。
    なんだか不思議な読み心地のする本でした。

  • 永井さんというと戦国物、王朝物のイメージが強かったのですが、これは
    強いていうなら「市井物」。珍しいと思います。
    インスパイアされた実在の人物はいたようですが、あくまでも架空のお話。

    主人公は....名前を転々と変えるのでだれだれと言えません。
    一人の、野心溢れる儒学者。若いときに千載一遇のチャンスを得て、藩政
    どころか幕政にまで乗り込もうとしたものの挫折、妻子を失い、ひたすら
    「暇つぶし」をすることに達観していく姿を、本人の内なる声は一切書かずに、関わる女たちに語らせるという手法です。
    関わる女たちも皆一筋縄でいかないというか、芯の強い、頭のいい女性たちで、彼を理解し、見守りながらも自分の道を選びます。
    誰一人、彼と心中しようとはしません。

    最初は自信に満ち溢れ、はっきりいって傲慢だった「男」は数多の挫折と
    こうした女性たちを含む人々との関わり合いのなかではっきり変化していきます。
    そして辿りついたところが「人の世は、死ぬまでの暇つぶし」という考え。
    「その成否だけで計ってはいかんのよ。そういうことから心をほどくんだな。
    すると、なにかが見えてくる」
    「それからさ、死ぬまでの命をみきわめ、ゆっくり暇つぶしをする、と肚を決めたのは」

    ただ一人の妻だった女性は心のうちで断言します、「だって、あなたは不運な方ですもの」。不運な男は関わる女性を積極的に幸せにしようとはしません。それを見極めて、女性達は皆、自分から離れていきます。
    しかし、その後の人生に「彼」との関わりは影響を与え、結果として(妻を除いて)幸せにしている。永井路子さんらしい、単純なフェミニズムでもなければヒーロー像でもない、深い人間関係のあり方の描き方だと思いました。

    「覚悟を据えて暇つぶし」...正直言って実感はまだ湧かない言葉です。
    でもずっとアタマの隅に残る言葉になりそうです。

  •  ユニークな形式で軽く読めそうでいて、読後感の深い、連作時代小説。
     一人の男の生涯を描きながら、彼を主人公には置かず、その都度そばにいた女性たちの視点から、人生の断面を切り取ってみせる。
     続き物のようで、微妙に接点を浮かせた接続の仕方が、妙に現実味を呼び込む。
     作中の時間の流れと、作品を手掛けた時期が一致しないことも気になる。
     散発的な取り組みのようで、おそらく順番そのものに『計算』が働いているのでは。
     創作する立場からの、構築の過程への挑戦とでもいうか。
     読み手とアングルを共有する、六人の女性の描き分けがまた巧い。
     年齢も性格も境遇も、口調も反応も、一つ一つがきちんと異なり、それぞれに奇妙な説得力を持たせる。
     女だから女を描ききれるとは必ずしも限らないけれど、この著者は本当に『女性』の裡の語彙と思考が豊富。
     ――本当のことは、口にしてしまうと、却って別のものになる――。
     言葉とは、心とは、人間とは。
     その重い問いかけを、脂ぎった引用でなく、さらりと投げ掛けてくるのが尚更胸に来る。
     “人の世は、死ぬまでの暇つぶし”。
     退屈凌ぎとは違う。
     自らの人生を、命を見極め、覚悟を据えて、ゆっくりじっくり暇つぶしをすること。
     若い時分に読んだとしたら、上滑りの了解しかできなかったろう。

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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