新装版 炎環 (文春文庫) (文春文庫 な 2-50)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167200503

作品紹介・あらすじ

京の権力を前に圧迫され続けてきた東国に、ひとつの灯がともった。源頼朝の挙兵に始まるそれは、またたくうちに、関東の野をおおった。鎌倉幕府の成立、武士の台頭-その裏には彼らの死に物狂いの情熱と野望が激しく燃えさかっていた。鎌倉武士の生きざまを見事に浮き彫りにした傑作歴史小説。直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 鎌倉時代を勉強しよう第4弾
    そろそろ小説を読んでも良かろう
    知識のないまま歴史小説を読むと、そのイメージが自分の脳に定着してしまうので、我慢して最後に取っておくことに

    剥き出しの野望と血で血を洗う時代にふさわしく妖しく激しく美しいタイトルと装丁

    こちらは4編から成り、それぞれの人物の視点で描かれ、歴史を動かされる構図

    阿野全成(僧侶である源頼朝の弟)
    梶原景時
    阿波局(全成の正室であり北条政子の妹)
    北条時政、義時親子

    頼朝や政子じゃないところがイイですね

    ここでの阿野全成は野心をひた隠し陰鬱でダークなキャラになっている

    梶原景時は割とイメージ通り

    一番小説の醍醐味的に読めたのが阿波局のストーリー
    痩せ型のきりっとした美人と描かれる姉北条政子と真逆の容姿をもつ妹保子
    ふっくらした色白の底抜けに明るいお喋りが止まない屈託のないキャラ…
    阿野全成の正室となり阿波局と呼ばれる
    少しずつ少しずつ阿波局が「お喋り」と「平凡な女」という武器をフルに使い無意識のうちに、仕掛け出す
    他意があるのかないのか
    阿波局の口からは一言も本音が出ないため、読み手にもわからない
    が気付けば彼女の意に沿う展開に…
    小さな蜘蛛の子が気付かぬうちに蜘蛛の糸を張り巡らせ、敵が気づいた時にはもう身動きが取れない
    その影に隠し持つ計算高い野望とは…
    まるで北条家の黒幕かのように描かれ一番小説らしさが見える
    政子、娘大姫、阿波局
    それぞれ女性の個性と強さと弱さ…
    また湿度と粘度あるドロっとした部分が見え隠れする

    最後の北条親子
    こちらだけ他の3編と比べるの異質感があり
    どうやらこちらのみ後から付け加えた一編とのこと
    ここでの北条義時の描き方も実に興味深い
    父時政の心情は描写されるが義時の心情は全く描写されない
    頼朝や政子に対する観察や気持ちは描かれるが、自身については語られない
    人の話しをよく聞き、よく観察、洞察し、無口でスルリと逃げるのが上手く、何を考えているのかよくわからない義時
    父以外の兄弟たちからの受けは良い
    頼りにならない義時にいつも歯痒くやきもきしていた父時政だが、いつの間にか冷静で計算高くなった義時に気づき距離を置くように…
    本人の心情を描かぬことで浮かび上がる構図は好みだ
    恐らく永井路子氏は義時の性格や人柄をこう想像しているのだろう
    今まで知り得た北条義時像と異なる部分もあるが、この想像力と解釈はなるほどなぁと実に面白い
    そして義時は冷たい炎を燃やし、権力の道を上りつめたのだ


    この時代はわからないことも多いため、エンタメ要素を入れ盛り上げやすいだろうが、そこを結構グッと堪えて堪えて際どいあたりを攻めている内向きの圧が何とも良い

    永井路子氏のあとがきを見ると
    昭和39年とある
    ここにも歴史を感じる
    この積み重なって層を成す時代に感動を覚える
    年を取るとこんな風に歴史を捉えられるんだ
    なんだか新鮮である
    さて三谷大河のそれぞれの人物像はどう表現されるのか…
    引き続き楽しみである

  • さらに奥を観た一冊。

    4人の人物にスポットをあて、それぞれのあの時、そして野望に迫る今作は権力争いのさらに奥を観たよう。

    大河ドラマのキャストのおかげで物語に入り込めたのも良かった。
    中でも、阿波局 保子に迫った章が心に残る。したたかだな。前から嫌いだったけれど、もっと嫌いになった。

    時政の義時への胸の内、義時の人物像もちょっと知れてなんだか意外感を味わう。

    今後のドラマの楽しみも増した。

    あとがき、解説を読むとこのタイトルがぐっと際立つ。
    いつの時代もこうやって歴史が創り上げられてきたのかと思うと感慨深い。

  • 1964年の直木賞受賞作品。鎌倉時代の歴史小説。物語は四つに分かれそれぞれ阿野全成、梶原景時、北条政子と保子姉妹、北条四郎義時を中心に描かれている。冷静な描写と表現は歴史小説というより、ノンフィクションを読んでいるよう。全てを読み終えると鎌倉幕府、源頼朝、北条家などが立体的に浮かび上がってきて面白い。ただ歴史に造詣が深くないと少しハードルが高くなるのだけが残念(←私だ)。

    同じ直木賞受賞作品で、松井今朝子「吉原手引草」が少し似た構成で物語を魅力的に読ませていたのを思い出した。

  • 大河鑑賞の副読本として2冊目だが、鎌倉幕府の初期の4人を主役とした連作形式だった。「悪禅師」は阿野全成(源頼朝の異母弟)、「黒雪賦」は梶原景時、「いもうと」の北条政子の妹の保子、そして「覇樹」は北条時宗と北条義時らが主人公。
    4編ともそれぞれの視点で面白かったが、特に「黒雪賦」と「いもうと」が印象に残った。読み始めたころ、石橋山の合戦で梶原景時が源頼朝を見つけながら見逃すシーンがオンエアーされていた。景時は大庭に頼朝の首を差し出せば殊勲を立てられたはずなのに、どんなつもりで頼朝の命を救ったのか表情から察することができなく図り兼ねた。しかし本作で、旧知の仲である土肥実平が頼朝を買っていたからとの筋書きになるほどそうかと合点。
    歴史書『吾妻鏡』をもとに、小説家がさまざまなフィクションを展開していくのが面白い。小説家の手腕に驚きながら、真実を知りたくなり、また別な本を探して読みたくなるのだ。
    「いもうと」の主人公・保子は「悪禅師」で主役だった全成の妻。彼女のおしゃべりは単なる話し好きからではなく、計算された悪意あるおしゃべりだったと匂わせてある。”尼将軍”と呼ばれた政子に隠れ、目立たぬ曲者のよう(笑)。保子は実朝の乳母となり夫の全成と共にのし上がっていく。権力を持つ者同士の姉妹の確執は想像に難くない。
    泰時は裏で巧みに北条家を動かしているように感じられて仕方がない。永井路子さんの文体も読みやすく耽読し、鎌倉時代を行きつ戻りつしました。さてさて、三谷幸喜さんはこれからどう描くのだろう? ずっこけるのはほどほどにして下さいな。

  • 先日ふらりと立ち寄った書店で、POPに来年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の文字を見つけ、素通りできずに手にとった作品。
    歴史好き、大河ドラマ好きではあるが、『鎌倉殿の13人』の登場人物のイメージがなかなか湧いてこず(もちろん頼朝や政子といった超メジャーな人はわかるんだけど、有力御家人クラスとかがあやふや……)、そろそろ予習をしなくちゃなーと思っていたところで。(←マジメか!)
    読み始めたら、なんとまあ面白い!
    不勉強ゆえ著者の名前を見ても、まったくピンとこなかったのだが、私が生まれる前に直木賞をとった作品でした。
    やっぱり直木賞(特に昔の)は面白いなぁ。
    読み始めは、登場人物の大河ドラマHPの人物相関図や歴史人物図鑑と首っ引きで読む。(何せ予習なので・笑)
    そのペースでも、読む熱量はまったく失われず、著者の落ち着いた筆致のなかであぶり出される人間らしい感情が、なんだろう、じわじわくるというか。
    これまでもっていた頼朝像も政子像も、ちょっぴり覆され、「本当の黒幕は誰だ……?」と心がざわざわして。

    連作短編という構成も素晴らしく、「あとがき」「文庫版解説」も必見。
    このタイミングでこの作品と出会ったのは、私の中ではちょっとした運命だったのでは、とまで感じてしまった。
    この年の瀬に、文句なしで★5つの作品に出会えてよかった!

  • 【本棚を探訪】第23回『炎環』永井 路子 著/大矢 博子|書評|労働新聞社
    https://www.rodo.co.jp/column/133522/

    鎌倉幕府誕生、そして崩壊。騒乱の時代を重層的に描く戦中派作家の肚のくくり方 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/728866

    文春文庫『炎環 』永井路子 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167200503

  • 再読。

    大河ドラマの影響で引っ張り出して、久しぶりに読ませていただきました。
    相変わらず、『いもうと』のインパクトは強いなぁ。
    こういう女性の方が怖いんだよなぁと改めておもったりして( ̄▽ ̄;)

    やはり楽しいですね♪

  • 久しぶりの永井路子さん。
    苦手な時代だが、大河ドラマで少し触れたので挑戦してみた。

    が…やはり前半はページが進まず苦しみました。
    全成、景時、保子、などの目線での短編集のよう。
    感情移入し始めたところで次の人に移ってしまうのが、長編好きとしては辛い。

    ただ歴史というものは、こうやってそれぞれの人の中に、自分なりの軸があるのだなと、改めて感じることが出来た。
    そして永井路子さんは、特に女性の描き方が上手くて引き込まれる。

  • 「悪禅師」・・頼朝の異母弟、全成(幼名今若)
    「黒雪賦」・・梶原景時
    「いもうと」・・北條保子(政子の妹で、全成の妻となる)
    「覇樹」・・北條義時 

    4つの題名をつけ、それぞれに主人公を据え、鎌倉幕府の中での消長を描く。いやー、おもしろかったです。大河「鎌倉殿の13人」がおもしろく、図書館の大河コーナーにあったので読んでみましたが、政子の妹保子、アリャー、こんな人でこんな人生を送った人だったのか、けっこう鍵の女ですね。宮沢エマさん、これからどんな風になるのか楽しみです。

    梶原景時が石橋山の戦いで敗れた頼朝を岩穴で見つけて見逃す、といった、よく言われている場面も出てきます。ここらへんの景時の心理とか、その後の景時の心理、頼朝に対する感情が微細に描かれています。これから獅童さんがどう演じるのか、楽しみ。

    頼朝は主人公になっていませんが頼朝との関係性で描かれるので、頼朝の人間像も浮かび上がっています。

    永井さんは「吾妻鏡」とか読んで想像をふくらませたのでしょうか。「覇樹」の章では、頼朝が挙兵だ、といって兵を募る時、やってきた武将に
    「今日の忠節、頼朝生涯忘れはせぬぞ」
    「頼りになるのは、そなたたちだけなのだ」
    「誰にも言っては困るが・・・」
    「そなたたちだけ打ち明けるのだが・・」というのを小四郎(義時)が部屋の前で聞いている場面があります。これ、もう放送されましたが、セリフもけっこうこんな感じでした。

    それぞれの主人公の心理が微細に描かれ、またそれを俯瞰する感じで、〇〇はこの時そこまで考えていたのかどうか・・ という2重の書き込みで、複雑な人間関係、当時の東国の武者たちの様子が、静かな文面で伝わってきました。

    あとがきには、
    「近代説話」に発表したもののうち、最後の「覇樹」を加えた四編。それぞれ長編の一章でもなく、独立した短編でもありません。一台の馬車につけられた数頭の馬が、思い思いの方向に車を引張ろうとするように、一人一人が主役のつもりでひしめきあい傷つけあううちに、いつの間にか流れが変えられてゆくーーそうした歴史というものを描くための一つの試みとして、こんな形をとってみました。とある。・・ちょっと米澤穂信氏の「黒籠城」の読み口と似ていた。「炎環」は1964年第52回直木賞。


    1978.10.20発行 光風社刊 図書館

  • 年明け一発目に読むのって、この辺りの時代が多い。なんか、冬に読みたくなるんですかね。

    しかし、自分でも意外なんだけど、頼朝の話って読んで来なかったことに気付く。
    弟の全成と、その妻阿波局が視点人物になる話がそれぞれ入っていて、頼朝の台頭から、実朝が殺されてしまうまで、一気に読めてしまう。
    敗者の儚さ。親子の野望と絆。
    きれいな部分だけでなく、支える者の陰謀や、妬みまで……ドラマだなぁ。

    この作品中で北条政子は、阿波局の策略?にはまり、うまく精神を削られていく役所だけど、表舞台ではどんな活躍をしていたんだろう。
    確かに、こちらも読みたくなる!

    他の方のレビューを読んでいると、ファンの多い作家さんなんだということも知った。

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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