新装版 美貌の女帝 (文春文庫) (文春文庫 な 2-51)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167200510

作品紹介・あらすじ

壬申の乱を経て、藤原京、平城京へと目まぐるしく都が遷る激動の時代。その裏では、皇位をめぐり歴史の節目となる大変革が進行していた。繰り返される裏切り、陰湿なる策略…その矢面に立たされた氷高皇女=元正女帝が自身のすべてを政治に捧げ、守り抜こうとしたものとは。悲劇の女帝を描く長編歴史小説。

感想・レビュー・書評

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  • 百数年続く、天皇家の妃として名高い蘇我の女帝たちと、その皇位を奪おうとする藤原氏のお話。

    後に元正天皇となる氷高ひめみこを主人公に
    持統天皇、元明天皇、元正天皇、3人の女帝たちが活躍し、そして滅びるまでが
    壬申の乱、藤原京から平城京への遷都や、薬師寺建立などの史実とともに描かれていて大変面白かったです。

    薄紅天女の世界観がすごくよかったので、この時代のお話をもっと読みたいと思って本書に辿り着いたのですが、すごくよかった。
    貴族という華やかさの裏にある、血統を守るためだけに行われる政治。
    度重なる政略結婚、近親結婚で家系図が出てくるたび、蘇我氏の執念を見た気がしました。
    かと言って、藤原の側が正しいのかと言えばこちらも私欲私怨にまみれていて、なんとも浅ましい。しかもやりかたが汚い。
    長尾王が追い詰められて自害してしまった場面は読んでるほうまでしんどかったな。いいひとだったのに...ぐすん。

    最後の最後で氷高が「政治は妥協と融和のうえに成り立つ」と悟るのだけど、もっと早くに気づけていれば死なずに済んだ者が何人居たことかと。
    誇りなんて一円にもならないのに!というのは平和ボケした現代人ならではの感覚なのかななんて思ったりもしました。

    薬師寺が持統天皇の病気平癒のため建立されたとか
    藤原京から平城京へ都が遷るのと一緒に薬師寺も移されたとか
    おなじく遷都の際に、藤原不比等が厩坂寺を移したのが現在の興福寺だとか。
    もともと奈良や仏像がすきでいろいろ本を読みましたが、困ったことになかなか憶えられなかったんです。が、今回こちらを読んだことで完全に頭に入りました。ありがたや。

    そしていま猛烈に奈良にいきたくてうずうずしています。
    平城京跡も飛鳥もまだ行ったことがないので行ってみたーい!

  • 元明・元正両天皇は日本史上初めて母から娘に皇位が譲られた稀有な例の証人であり、かつ元祖スーパーキャリアウーマン親子である。

    飛鳥・奈良時代に異常に女帝が多い理由を、「母系の通じて天皇家における蘇我氏の血を死守したかったから」という点から繙いた永井氏の観察眼には驚かされた。そうか、そういう見方があったか、という感じ。しかし黒岩重吾の『斑鳩王の慟哭』といい、本作といい、女帝たちは信じられないほど血統に固執する。それがいいことなのかどうかは別として、やはり自ら子を産む女性の性質がそういう風にさせる部分はあるのかもしれない。さらに、この時代に顕著な天皇家内部の複雑極まる婚姻関係が、血にしがみつくもう一つの理由なのかもしれない。つまり自分の親が夫を、あるいはイトコがキョウダイを、殺したり殺されたりしている中で、「許せない」「なんとしてもあの家に帝位は渡せない」とのっぴきならぬ感情が生まれてしまうのかもしれない。

    母から娘への「結婚してはならない」という呪い、その呪いは受けなかったけれど悲劇的な死を迎えたもう一人の娘…しかし本作の恩恵(?)に一番与ったのは長屋王ではないだろうか。長い長い間の汚名を雪ぎ、日の目を見たのはこの作品において、が初めてだったのではないかと思う。

  • 氷高皇女が好きなので手に取った小説。
    氷高や母親の元正天皇の行動原理が、蘇我倉山田石川の血を繋げること、というのがおもしろい着眼点だった。藤原氏とのバチバチの対決も手に汗握る。
    本作では長屋王と氷高に恋愛感情のようなものが、という設定で、妹の吉備がちょっとかわいそう。
    重責を担って生き延びた女帝の闘いの有様が美しかった。

  • 悲しくも気品のある女帝の姿にうっとりといたしました。それはなにも華やかで豪華絢爛だからではありません。むしろこの作品の主人公、元正天皇の生涯は苦難に塗れています。孤立を深めていく中、蘇我の娘としての誇りと意地をよりどころに己を滅し政(まつりごと)の世界で痛々しいまでに戦い抜く姿は感情移入をしないわけにはいきませんでした。もしかしたら、即位時の年齢が現在の私と同じというのも共感を生んだひとつの理由かもしれません。また藤原氏の面々が演じる腹黒い悪役ぶりは物語をひきたててくれます。

  • 昔って普通に女性天皇がいたのよね・・・

  • 持統・元明・元正の3人の女性天皇を主役にした
    生き方を描く小説。面白くて一晩で読めた!

  • 女性のつよさ、優しさ、儚さ。女帝として時代を背負って生きることの意味。抗うことなく立ち向かい、苦しみ、それでも戦う姿。女性の視点と強さは、凄まじい。そして逞しい。

  • 氷高の皇女ーのちの元正天皇の物語。
    話は、氷高の祖母である持統天皇の晩年から始まる。弟である文武、母である元明、そして自身の元正、甥の聖武の時代にかけて綴られている。

    天皇家の女性たちを中心としながらも、やはり政治の面になると欠かせないのが藤原氏。
    天皇家VS藤原氏の行く末に、歴史を知っていながらもハラハラドキドキしてしまう。

    改めて、藤原氏は狡猾というか、とても頭の良い政治家だったのだな、と思わざるを得ない。

    ところどころ、急に話が進んでしまうように感じるところもあったので、永井路子さんの文章が大好きな私にとっては少し残念。
    好きな時代だったこともあり、とても面白く、時代に引き込まれて一気に読み上げました。

  • のちに元正天皇となる氷高皇女が主人公である。
    著者によると、歴史的には地味な人物であるようだ。
    それでも、奈良時代に生きた彼女の壮絶な人生は小説にするに値する。
    妹吉備と長屋王の結婚、側近の裏切り、為政者であった当時の天皇の苦悩は計り知れない。
    自身の血筋を守るという大きな使命を背負い、巧妙な駆け引きが繰り広げられる。
    一人の女性として様々な思いを持ちながら、天皇という職務を全うした彼女の本当の思いはいかばかりだったのだろうか。

    当時は、腹違いの兄弟姉妹や、姉妹で伴侶が同じだったりと、家系が複雑で少し混乱してしまった。
    人物の関係性をしっかりと把握していれば、もう少し滑らかに読めて、ストーリーに没頭できたかもしれない。

  • なぜ遷都が繰り返されたのか、なぜ四代だけ女性天皇だったのか、その答えかもしれないと思いながら読むとハマる。それにしても血統が複雑。それも原因だったのかもしれないが。元正天皇だけは独身で突出した美貌。井伊直虎のときのように妄想してしまう。こんな見方、不謹慎だろうか(笑)

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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