敗れざる者たち (文春文庫 さ 2-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167209025

作品紹介・あらすじ

クレイになれなかった男・カシアス内藤、栄光の背番号3によって消えた三塁手、自殺したマラソンの星・円谷幸吉など、勝負の世界に青春を賭けた者たちのロマンを描く。(松本健一)

感想・レビュー・書評

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  • 6篇のスポーツノンフィクションから成る。作者20代、50年近く前の作品。結果が決まっているノンフィクションだが、小説を読むように熱くなってページを読み進めていった。特に最後の輪島功一の話は、これ以上ないボクシング観戦記となっている。みる者としてのボルテージの上がりぶりが直に伝わり、私まで熱くなった。今まで読んできた沢木耕太郎の文章の中でも、この表現力は抜群だと思う。こんな熱い試合を観たい。体感したい。そして、このような熱くみずみずしい文章を書いてみたい。

  • 本書は、沢木耕太郎(1947年~)が、1976年、28歳のときに発表した2冊目の著作で、1979年に文庫化されたものの新装版(2021年)である。
    収録されているのは、以下の6篇。
    「クレイになれなかった男」・・・燃え尽きることなく翳りゆくボクサー/カシアス内藤
    「三人の三塁手」・・・英雄を頂点に運命を交錯させる三人の打者/長嶋茂雄・難波昭二郎・土屋正孝
    「長距離ランナーの遺書」・・・夭折する栄光の長距離走者/円谷幸吉
    「イシノヒカル、おまえは走った!」・・・良血馬たちとの一度限りの決戦に臨むサラブレッド/イシノヒカル
    「さらば 宝石」・・・戦いの舞台から降りてなお狂気を放つ名選手/榎本喜八
    「ドランカー(酔いどれ)」・・・無謀と嘲笑された挑戦へと疾走する元王者/輪島功一
    スポーツ・ノンフィクションというジャンルが確立する前に発表された本書の、その先駆け的作品集としての評価はいまさら言うまでもないが、新装版において加えて語るべきは、報知新聞記者・ノンフィクションライターの北野新太氏による解説にあるかもしれない。
    私はこれまで、『深夜特急』にはじまり、『凍』、『キャパの十字架』、『バーボン・ストリート』、『流星ひとつ』、『世界は「使われなかった人生」であふれてる』、『旅の窓』ほか、沢木の様々な作品を読んできたし、最も好きな書き手は誰かと問われれば、迷わず沢木の名を挙げるが、中学時代に沢木の作品を読み、大学時代に出版社のアルバイトで沢木と頻繁に接したことにより、ライターの道を志したという北野氏の解説は大変興味深い。その中には、以下のような印象的な記述がある。
    「沢木耕太郎という人は、今までの自分が知り得ていた世界、あるいは想像し得た世界にいる誰とも似ていなかった。会いたい人に会うこと。行きたい場所に行くこと。書きたい何かを書くこと。誰とも群れず、何にも属さず、しかし、あらゆる世界や人々と柔らかく繋がっている。私立探偵のように何らかの発端を得て、人や出来事に深く関わり、ある時間を共に過ごし、去っていく。何かが残れば作品として発表する。」
    「長い歳月の中で沢木作品を読み続けると、あることを思うようになる。ノンフィクション、エッセイ、紀行、小説、写真、絵本とあらゆる表現を横断し、連動しながら、彼は「沢木耕太郎」という名の長篇を書き続けているのではないか、と。」
    「沢木耕太郎は「夢の作家」である。ノンフィクションの系譜の中では「方法の作家」と語られる。正確な評価だろう。彼が続ける「スタイルの冒険」はノンフィクションの持つ可能性を拡げている。でも、とも思うのだ。「方法」という個性の前には「夢」があるのだと。沢木耕太郎は自分の夢を生きる。そして人に夢を与える。」
    沢木ファンには嬉しい新装版である。
    (2021年3月了)

  • 20200511 事実を追っているので経過についてどう捉えるかがポイント。タイトル通り、勝ち負けはどう判断するか。勝負としては明確なのだが本人がどう思うか、経過なのか?結果なのか経過なのか?結局、真っ白に燃え尽きる事ができたかを基準にまとめているように思った。

  • 同業界の内定者から勧められた沢木耕太郎さん。

    確かに読んでおいて良かったと思わせる作品だった。

    ノンフィクションライターということで全て実話で書かれている。普通実話って、フィクションのように劇的なことは起こらない。しかし、丹念な取材と自身の切り取る角度から読ませる文章に仕上げている著者の魅力が溢れていた。

    この小説の題は「敗れざる者たち」。その名の通り、スポーツ界において、眩しい日の目を浴び続けた人が取り上げられはしない。誰しもが自己の内に燃やしきれない燃料のようなものを抱え、苦闘していた。

    その事実描写と著者の肌感。全てが実際にその場に読者を連れていくように丹念に描かれていた。
    どの話も鳥肌モノの引き込む話だが、円谷幸吉さんのお話なんかは、その人となりまで伝わってきて、取材力と文章の流麗さが際立ってた。

    他の作品も読んでみようかなと思う。

  • 沢木先生のエッセイを好んで読んでいたところ、そろそろ"本業"にも触れておかねばなるまいと思い立ち、まずはこの言わずと知れた代表作から。
    人は完成へ向かう時よりも、崩れ落ちていく時のドラマの方が「面白い」。月並みに過ぎるが、スポーツという題材でここまで斜陽感をたたえた切り口で、かつ読ませる文章を紡げるのは流石。

  • 自分もランニングをするので「長距離ランナーの遺書」が一番印象深かったけれど、20代の沢木の筆が最も冴えるのはボクサーを題材にした二編だと思う。闘う人間の悲哀が良かった。古本市で3冊1000円の1冊。

  • 「勝負の世界に何かを賭け、喪っていった者たち」を描いた六篇のノンフィクション短篇。

    不完全燃焼のプロボクサー、カシアス内藤を描いた「クレイになれなかった男」、長嶋茂雄と三塁手を争った不運の野球選手二人(難波昭二郎、土屋正孝)を描いた「三人の三塁手」、東京オリンピックのマラソンで銅メダルを取った後自殺した従順な走者、円谷幸吉を描いた「長距離ランナーの遺書」、日本ダービーで敗れた競走馬イシノヒカルを巡るドラマを描いた「イシノヒカル、おまえは走った!」、報われないバッティングの求道者、ミスターオリオンズ・榎本喜八を描いた「さらば 宝石」、老いた元チャンピオン・輪島功一の世界タイトル・リターンマッチを描いた「ドランカー<酔いどれ>」。

    滅びの美学を追求した著者の筆致、若い頃の作品であるためかちょっと大仰だが、読みごたえはあった。特に、「長距離ランナーの遺書」、「さらば 宝石」が印象的だった。

  • 東京五輪のマラソン銅メダリスト、「規矩の人」円谷幸吉の話が面白かった。愚直。
    そしてボクシングってとことん孤独だ。沢木耕太郎の筆を通すと、悲壮感とか、空虚さしか伝わってこない。

    円谷幸吉の遺書が印象的だったので抜粋

    父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました。干し柿、もちも美味しゅうございました。
    敏雄兄、姉上様、おすし美味しゅうございました。
    勝美兄、姉上様、ブドウ酒とリンゴ美味しゅうございました。
    巌兄、姉上様、しそめし、南ばん漬け美味しゅうございました。
    喜久造兄、姉上様、ブドウ液、養命酒美味しゅうございました。又いつも洗濯ありがとうございました。
    幸造兄、姉上様、往復車に便乗さして戴き有難うございました。モンゴいか美味しゅうございました。
    正男兄、姉上様、お気を煩わして大変申しわけありませんでした。
    幸雄君、秀雄君、幹雄君、敏子ちゃん、ひで子ちゃん、良介君、敬久君、みよ子ちゃん、ゆき江ちゃん、光江ちゃん、彰君、芳幸君、恵子ちゃん、幸栄君、裕ちゃん、キーちゃん、正嗣君、立派な人になってください。
    父上様、母上様、幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません。何卒 お許し下さい。気が休まる事なく御苦労、御心配をお掛け致し申し訳ありません。
    幸吉は父母上様の側で暮しとうございました。

  • 懐かしい作品。これぞニュージャーナリズムっていうやつなんですかね。この文庫本に収録されている解説が個人的に好きなんですが、本当にそこにも書いてあるとおりなんです。著者は取材対象にギリギリまで行動をともにして密着する一方、一歩引いた冷静な「観察者」としての視点もしっかり兼ね備えている。そこがこの絶妙な熱量の文章を産み出してのだと思うし、そこが好き。

  • 人の業や性を照らした作品を20年以上ぶりに再読。あの時間を切り取った沢木さんのルポに感動。輪島さん、こんなに凄い人だったんだと改めて感激。自分がちびだった頃の時を思い出せ、日本が一生懸命前向いていた時を再認識。読み返し甲斐がありました。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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