- Amazon.co.jp ・本 (445ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167220037
作品紹介・あらすじ
紀州・太地は鯨取りの村である。将来の筆頭刃刺と目されながら、鮫に片腕を奪われ失意のどん底にあった青年・甚助に、ある日ひとりの武士が声をかけた。紀州藩士松平定頼である。「江戸へ出ないか」定頼はそう言った。-構想8年、若者の夢と野望を軸に、西洋との出会いに揺れる幕末日本をドラマチックに描いた歴史絵巻。
感想・レビュー・書評
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和歌山太地のクジラ漁師を紀州藩の侍松平の交流を通して幕末の日本を描く小説。
先日ニコルさんの訃報をきいて読むことにしました。
翻訳がいいのか日本語もよくかけていてストーリーも面白い。飽きさせない展開、鯨漁の描写も見事。
一気によみまいた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
太知の鯨取りの頭領は刃刺の仕事を代々行う。刃刺は長子の仕事であり、達太夫の号をもつ頭領は鯨漁をする太知全体を束ねる長でもある。甚助はその頭領の長子として生まれ、また当時の日本の水準では並み外れた体格と胆力で若者の中でも抜きん出た存在であった。その甚助はある日の漁で痛手を負った鯨を深追いし孤立したところシュモクザメに襲われ左肘から先を奪われ隻腕となり失意に沈んでいた。時は黒船来航前夜、国中が攘夷か開国で揺れる中、為政の中心にいた識者は圧倒的な海軍力を持つ西欧列強の前に開国しながら国力をつけていくという妥当な選択をするものの黒船来航を機に国体として崩壊しつつある幕府に対し、天皇を推し奉って一気に幕府の転覆を図る薩長が対峙していく混沌に国中が向かっていく。
太地を管轄する紀州藩は徳川御三家で開国派の急先鋒、井伊直弼大老も関係する幕府側の中心である。この紀州藩の松平定頼は国中の海岸線をくまなく歩き海岸線防御の書をなす藩士であるが、事あれば鯨捕りを組織して外敵に向うことを考えており、太地にも度あるごとに訪れていた。旧知である甚助が隻腕になったことを聞き知った定頼が甚助を密かに訪ね、米国の捕鯨船に乗りながら自分宛に造船や装備などの情報を送ってくれないかと持ちかける。私設スパイである。上巻では太地を出た甚助が長崎を経由して沖縄に達する場面が描かれる。 -
日本古来の鯨鳥の方法が良く判る小説。現在狂った白人共が鯨鳥の日本人を貶めているが、この中ではむしろ白人の方が残酷で、これを知らん振りして言っているのが良く判る。ただ残念なのは中に一部ポルノまがいの表現があるので所によっては18禁になるだろうと思われるところ。ここまでリアルに書かなくても良いのになあと思った。
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「いさな」と読む。くじらのこと。日本の鯨取りの話。歴史の話でもある。幕末を舞台にした壮大なハーフフィクション。捕鯨マニアは必読。
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和歌山の太地(タイチ)を舞台に、くじら漁師の数奇な人生の幕開けをきる本作。
タイトルの「勇魚(いさな)」は、くじらをあらわす呼び名。
くじら一頭、七浦潤す・・・といわれていたぐらい、鯨が日本人の食文化と密接な
かかわりを持ってきていた、古きよき時代の鯨採りが主人公。
時代は江戸末期という設定で、幕末の志士と主人公がからみあっていくストーリーは、
幕末時代好きの日本人に読みやすい物語にしてくれたかと思わせる。
鯨をどのように獲っていたか、克明に記されておりダイナミックであらあらしい作風に
つながっている。
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理屈抜きに面白い。これを外国人が書き上げたということは想像を絶する時間や労力が費やされたんだろうな、と驚かざるを得ない。
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男に生まれたからにゃ
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ゼミの課題本で16年前に読んだが、外国人が日本の伝統的な捕鯨の有様を書いた事にとても胸を打たれた。鯨をとる男たちの姿はまさに戦いである。捕鯨は伝えるべき日本の伝統ではないかと、しみじみと感じる良い本である。