穢土荘厳 下 (文春文庫 す 1-11)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167224110

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  • (上巻から続く)この小説では奈良期の抗争を、蘇我氏の流れを汲む皇族たち(元明・元正天皇・御名部皇女ら)と藤原氏との歴史的相克とみる。乙巳の変の完全決着をつけるための闘いである。その決着は一旦は藤原氏に凱歌があがったかにみえたが、天は簡単な幕引きを許さない。哀れなのは両者の板挟みに懊悩する聖武天皇である。性善にして小心であるがゆえに藤原氏の横暴への無力感を強めてゆく。その精神的混迷は百官を引き連れての放浪と、度重なる遷都に表れる。苦悩する聖武帝は心の救いを仏教に求め、国分寺の創建と大仏建立を着想するが、それが民の呻吟の上に成り立つものであることに気がつかない。一方、帝と対比的存在として置かれているのが行基である。行基は大伽藍など求めることなく、民の中でひたすら汗をかき、身を粉にして橋をかけ、水を引き、池を掘り、道をつくる。真の仏の教えはどこにあるのか?

    生きることは苦であると仏陀は喝破したが、それは権力者も奴婢も同じである。世の非情に仏教者は何ができるのか?昭和61年度の女流文学賞を受賞した名作である。

  • 下巻は、藤原4兄弟が次々に疱瘡で亡くなるところから、毘盧遮那仏(大仏)造立、橘奈良麻呂の乱まで。
     陸奥の小田郡で黄金が発見され、年号が天平感宝と変更し、その黄金が大仏の顔に塗られることになる。本小説の冒頭で、三田五瀬が対馬で黄金が発見されたとの偽ったことから年後を大宝と改めてしまった(恥ずかしい)エピソードが語られており、ころころと年号を改める滑稽さが強調されている。黄金といえば、「風の陣」の冒頭に繋がるなあ。ここから朝廷と蝦夷の長い対立が始まるのだっけ。
     墾田永世私財法は、貴族や大富豪に「位階を餌にして喜捨を募り、見返りとして墾田面積の拡大と私有を許す」ものだが、やがて公地公民の原則を崩し、天皇先生の基盤にヒビを入らせることに。蘇我系女帝を完全に排除し、藤原氏系の天皇による盤石な体制を敷くために行われた数々の陰謀の中で、陰謀に抗せずに心を病んでしまった聖武天皇。その聖武天皇が恭仁京に遷都するなどさんざん流浪した後、大仏に縋ろうと必死になっている姿に悲哀を感じる。行基がその心を知った上で勧進聖を務め、夏雄が帰依して利他行に励んでいる姿が物語に救いを与えている。

  • 大地震、飢餓と疫病に見舞われる平城京。
    栄華を誇った藤原家の兄弟達が次々に倒れる。
    長屋王の呪いという風説も出て、聖武天皇は脅えて逃げだし、遷都を宣言、5年にわたって行きつ戻りつする有様に。
    しだいに重みを増していく光明皇后。
    娘の阿部内親王と共に、重臣達の若返りを図る。
    前作で事件を起こした手代夏雄は出獄後、行方が知れなかったが、行基の弟子となっていた。
    夏雄の話を聞き、心を病む病人として、行基自らが迎えに来てくれたのだ。
    夏雄に恋していた染め物師の皓英は、今は夏雄の朋輩だった大伴子虫の妻となり、息子の春雄を育てていた。子虫は春雄が夏雄の子だろうと思ってはいたが、かわいくてならない。
    天平15年、詔と共に、国中の富を集めての大仏建造が着手される。
    民のために尽くしてきた行基が、この時期に大仏に協力することを問われて、豊かな貴族が大金を出し、貧窮する民もわずかな額を寄進することで参加できると応える。
    大きな犠牲も伴いながらの大工事。
    大仏建立の様子も鮮やかです。

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著者プロフィール

杉本苑子

大正十四(一九二五)年、東京に生まれる。昭和二十四年、文化学院文科を卒業。昭和二十七年より吉川英治に師事する。昭和三十八年、『孤愁の岸』で第四十八回直木賞を受賞。昭和五十三年『滝沢馬琴』で第十二回吉川英治文学賞、昭和六十一年『穢土荘厳』で第二十五回女流文学賞を受賞。平成十四年、菊池寛賞を受賞、文化勲章を受勲。そのほかの著書に『埋み火』『散華』『悲華水滸伝』などがある。平成二十九(二〇一七)年没。

「2021年 『竹ノ御所鞠子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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