ブラック・ダリア (文春文庫 エ 4-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (577ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167254049

作品紹介・あらすじ

1947年1月15日、ロス市内の空地で若い女性の惨殺死体が発見された。スターの座に憧れて都会に引き寄せられた女性を待つ、ひとつの回答だった。漆黒の髪にいつも黒ずくめのドレス、だれもが知っていて、だれも知らない女。いつしか事件はと呼ばれるようになった-。"ロス暗黒史"4部作の、その1。

感想・レビュー・書評

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  • 実際にあこった未解決事件ということで、読者は想像を掻き立てられ妄想を膨らませ充実した読書タイムを味わえることとなった。真実は闇の中とはいえ、ストーリーを追ううちにこれはフィクションとは思いつつもストンと腑に落ちる解決の技に納得。

  • <L.A.を震撼させた猟奇殺人に迫る、怪しく濃密な筆致>


     40年代のL.A.を騒がせた猟奇殺人「ブラック・ダリア事件」をもとに展開する、怪しいムードに満ちた分厚い小説★
     惨たらしい骸となって公園に投げ出された、美しき夜の蝶「ブラック・ダリア」。果たして美貌の彼女を殺したのは誰だったのか? 「オレこそが彼女を殺した」と名乗り出る男だらけで、謎は深まるばかり。また、作中では、屈強な刑事たち(元ボクサーが二人もそろって!)まで、死したブラック・ダリアの幻に魅入られて精神を蝕まれるのです。リミットが外れた欲望の暴走を追った大長編です。

     読む側もかなり苦しい目にあいます。ですが、最後までこの本を狂ったようにめくり続けたのでした。私は、頭を大きな氷の塊でガツン☆ と殴りつけるような衝撃をもたらす作品に出会いたいという、人に打ち明けにくい(ここに書いたけど★)マゾヒスティックな願望を抱えているのです。そのような暗い欲求に応える本だったとは言えます。
     執拗、異様、というワードさえ思い浮かぶほど、濃密な筆致。著者自身もこの事件に魅入られてしまったことは明らかです。あまりに危険で恐ろしいんで、暗いままではなく結末に浄化作用がある点は、読者にとっても作者にとっても救いかもしれません。

     事件以前に、この街(ハリウッド)がおかしい★ と思いました。レズバーでの調査、絵に描いたようなセレブ一家、女優を夢見る女性にXXをさせる悪のエージェント等々、何もかも作り物めいた設定。何かの役柄を演じているかのような人々ばかりぞろぞろ立ち現れる様は、映画のようでもあり、漫画のようでもあり、滑稽でもある……。それでも現実に起きた事件なのですね。
     なお、作者エルロイ氏はこの事件を活字化しただけでなく、フィクションとは言え気の済むまで分析し解釈し尽くしています。異常殺人に詳しい人に、「この本、ぶっちゃけどこまで真相に近いと思いますか?」と聞いてみたい気がします。

  • ノワールというジャンルがありまして。
    ノワールというのはフランス語で黒という意味で、ジャンル的には暗いもの、といっても寝たきりのおじいちゃんがこれまでの人生を振り返って後悔のうちに死んでゆく、といったものではなく、犯罪とか悪意とか、そういう。ノワール小説とか、フィルム・ノワールとかあります。

    今年はLAノワールという、フィルム・ノワールを題材にしたゲームが発売された関係で、ラジオ番組、ウィークエンドシャッフルでフィルム・ノワール特集が組まれたりもした。
    http://www.tbsradio.jp/utamaru/2011/07/2212011702.html
    Podcastは、こちらから。2011年7月2日「ロックスター特集2」(前編・後編)をお聞きください。
    http://www.tbsradio.jp/utamaru/labo/index.html
    上記サイトで、映画の他にジェイムズ・エルロイ「暗黒のL.A.」4部作が紹介されていて、その第1作目にあたるのが『ブラック・ダリア』である。

    この番組で説明されていたノワールの定義は、「ある女性によって、人生を転落してゆく人間の物語」。ブラック・ダリアももちろんその定型に当てはまる。が、その転落はダリアのせいとはとても言えないようなものだった。

    ダリアによって人生を転落してゆく人たち。彼らはしかし、もともと嘘や秘密、欺瞞を抱えた、いびつな人間関係の中に生きていた。「嘘で固めた土台」の上で生きていた。そして彼らは、それを壊したい、すべてぶちまけてしまいたいという欲求を絶えず抱えていた。
    彼らはダリアと関わることによって、自らその欲求に抗うことができなくなる。ダリアは彼らに対して何もしていない。これを、一人の女性によって人生を転落する、と言っていいものかどうか。少なくとも僕は、ダリアの事件そのものや、ダリアに関わっての人生の転落は、「嘘で固めた土台」のいびつさからの当然の帰結のように思えた。

    そう思うと、このブラック・ダリアという話は、人間関係のいびつさを、外部要因(ここではブラック・ダリア)をきっかけとして白日の下に晒す、わりとよくある物語のパターンなのではないか。
    ブラック・ダリアが特徴的だったのが、それぞれの抱える闇があまりに深すぎて、土台を壊した後に、それを修復しようという動きが一切無いことだ。唯一の例外はあるが。

    そしてこの作品での転落は、人間関係のゆがみに決着を付けるものでもある。だから転落自体にカタルシスを感じるのだ。

  •  ううむ、凄い小説。こんな凄い小説を今まで放置して読まずにいた自分がとっても愚かに思えるくらいの、凄い小説。単細胞さんからぜひ読んでみて下さいと言われて、なんだか楽しみに取っておいた気分もあるんだけど、その期待全然裏切られませんでした。本当に圧倒されました。ヴァクスに圧倒されて以来、久々に圧倒されました。

     ただの警察捜査小説っていうのではないな、と感じたのは、まず事件に至るプロローグの長さ、ストーリー展開の奔放なまでの自由さ……。ロス暗黒史4部作の1作目とあって、史実に基づいた事件に現存した有名人たちの顔や名前が出てくるというのも驚いたけれど、多くの人間たちの情念や破滅をこれほどまでに追い続ける主人公の狂気にもくらくらと来てしまった。

     物語の残酷さにも、エピソードの多さ、伏線の複雑さにも、本当にいろいろな意味で圧倒されました。こんな作家は他にいない!

  • 原題 BLACK DAHLIA

    人の持つ弱さのありのままが、
    残酷なまでにさらけだされて、
    人の持つ病的なまでの信念が、
    信じられない強さを発揮して、

    ノワールは綺麗事を許さない。
    でも誰もがわかり得る、怖さ。
    人の営みは実はこうなんだと。

    倫理はあっても絶対じゃなく、
    堕ちるしかないんですよね…。

    咲くはずのない、黒いダリア。

  • 『ホワイト・ジャズ』読書会にむけて再読。暗黒のLA4部作の第1弾。1947年、若い女があまりにも哀れな遺体となって発見された。この〝ブラック・ダリア事件〟の捜査にあたるのは、いずれもボクサーあがりで、対抗心と奇妙な敬意を抱きあうバッキー・ブライチャードとリー・ブランチャード。事件はふたりの私生活までも蝕んでいく。三角関係、裏切り、癒着、汚職、横溝正史に通じる暗黒。次々と明かされる新事実に翻弄され、それは幕切れまで続く。密度が濃いので一見とっつきにくそうなエルロイだが、物語が動きだすときに読み手を引きこむパワーが桁外れに大きい。ブラック・ダリア事件は実在の未解決事件。似たような状況で母親を殺害された過去をもつエルロイがモチーフとしてとりあげた。ジョシュ・ハートネット、アーロン・エッカート、スカーレット・ヨハンソン、ミア・カーシュナーらの出演で映画化されている。

  • 《ブラック・ダリア》とは、ロサンゼルスで惨殺されたひとりの女に献じられた呼び名である。

    猟奇的な殺人事件とその核心に迫ろうとする警官が主人公という点で、これはれっきとした犯罪小説であるが、と同時にこのフィクションの肝はもっと別のところに、《ブラック・ダリア》という女の存在によってはからずも自身が抱える心の闇に向かい合わざるをえなくなった人々の孤独な葛藤とその悲劇的結末を容赦なく描き出すところにあるようだ。ひとつの事件をきっかけに、平和な日常がアリ地獄のようにグズグズと崩落してゆくことの恐ろしさ。息をのむようなスピード感とは無縁。物語は、からまった糸を忍耐強くほどいてゆくようにジリジリした歩みで進んでゆく。

    全編を貫く生々しさ、不吉さは、ロサンゼルスの暗部を身をもって知りつくした著者ゆえだろうか? 読者にもそれ相応のタフさが要求される。

  •  若い女性の惨殺死体から始まる、緻密で濃厚な海外ミステリー。
     物語にハッピーエンドや爽快感を求めるなら、この話はまるで薦められない。
     だが、そのあたりに構わない、自分の弱さに足掻いて苦悩する主人公を求める筋には是非薦めたい。
     

     まず、冒頭から明るさなど欠片も無い死んだ‘彼女’の紹介とボクシング語りから幕開けする物語であるが、その陰鬱さ自体が、全編を通して不思議な中毒性を持っている。
     この話には、どこにも完全で万能な、いわゆる格好良いヒーローは出てこない。
     主人公の警官は常に未知のものに怯えているし、その出世や左遷などの進退と絡めて、物語には常に挫折と嘆きが絡まり合う。 
     真実があらわになるにつれて、前半で見えていた物語の輪郭線が形を変えて行き、事件の真相が気になって後半になるとページを捲る手を止めさせない。
     物語らしい物語を読んだ、と読了して後に感じた。
     
     
     
     

  • これからは簡単に感想を書いていこうと思う。「ダリア」によって人生が狂ってしまった人々の話。勝者はいないが、ラストに救いがあるのがいい。初期作品だからか、文体はエルロイにしては大人しい。

  • 2009/08/28読了。

    おもしろかった〜〜!
    「アメリカ文学界の狂犬」とか呼ばれてるエルロイだから、どうなるんだろうと構えていたのだけど、純粋にミステリーとして面白い。
    たたみかけるようなプロット、数十頁前の気にもとめないような雑談、電話での会話が、一つの謎が解き明かされることで凄まじく重要な意味を帯びてくる。

    「ブラック・ダリア」と名付けられた一人の娼婦の惨殺死体。センセーショナルだがしかし連続殺人が普通のミステリ小説では「たった一人」の殺人である。
    しかし、その事件の余波はLAPD(ロサンゼルス市警)の全てを洗う。
    そして、次々と違う「事件」として人々の人生に甚大な影響を与えてしまうのだ。

    何度でも読み返したくなるほど、素晴らしい構成。
    結末は「風の影」っぽくて、意外とクラシカル。そこも良い。
    エルロイ、文学とか小難しく考えなくて、本当に面白いミステリ。
    こんな織物を紡ぐようなカオス的プロットをよく組み立てられるなあと思う。

    シリーズの続きも読みます。

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