三国志 第五巻 (文春文庫 み 19-24)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (393ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167259259

感想・レビュー・書評

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  • いよいよ曹操の時代となっていきますが、曹操が周囲を従えてぐいぐい前に出ていくわけではありません。
    彼は実によく周囲の意見をよく聞くのです。
    そして人を見る目があります。
    敵の将を捕虜としても、有能な人材であれば官職を与えて仕事を任せます。

    曹操の瑕疵は2つ。
    出身が宦官の家であること。
    当時の有力者の中で曹操を忌避する人の理由は、これが一番多いように思います。
    そうそう自身は宦官ではありませんし、仮にそうだったとしても、曹操が私腹を肥やすことはないでしょう。
    ただ、感覚的に宦官は嫌、と思われていたのです。

    もう一つは、そうです、父の仇を討つために、徐州で大虐殺を行ってしまったこと。
    庶民はこちらに拒否反応を覚えたようです。
    テレビも新聞もない時代、どこまで情報が広まっていたのかはわかりませんが。

    これを除くと、勉強を怠らず、情報の大切さを知り、嫡男を亡くしたため別れることになった奥さんにも生涯礼を尽くし、軍律厳しく…ちょっといいところしか見つかりません。

    対する袁紹
    ”生まれながらに人を使う立場にいる人は、学問の力を必要としない。学問の力とは、けっきょく人を知る力である。それが袁紹にはない。”

    ”強大な武力をもって世論を弾圧しても、その世論は伏流水のごとく地下で路をつくり、やがて合流し、岩をも動かし、山をも崩す力をあらわす。それほど世論には力がある。袁紹と劉表にはそういう意識が欠如しており、特に袁紹は軍事の成功で世論を動かすことができると誤解している。”

    官渡の戦いで大敗を喫したことから、みるみる人材が離れていってしまった袁紹。
    というか、聞きたい意見以外は聞く耳を持たないという姿勢が、自ら人材を遠ざけることになってしまったわけですが、最終的には病死です。
    心身ともにダメージが大きかったのかもしれません。

    劉備は戦に負けそうになると逃げ、頼った先を裏切っては逃げ、未だ大した業績を上げてはいません。
    とにかく妻子も配下も捨てて、身一つで逃げてしまうので、ついに関羽まで置いてきぼりにしてしまいます。
    曹操は関羽を重用したいと思いますが、関羽は劉備に忠義を尽くします。

    ”これほどの傑人を棄てて逃げた劉備は、関羽に甘えているともいえる。(中略)最大にその器量を発揮することのできる職と場を与えることが、主としての愛である。”
    劉備はどうも感情というか愛情が希薄な気がします。
    喜怒哀楽の激しい中国の人にしては珍しいですが。

    さて、若くして才能を現わした孫策の周りにも人材が集まってきます。
    ”団体や組織が活気を帯びると、まったく無関係であった外の異能をひきつけもするが、もともと内部にあった才能が急成長するということもある。”

    しかし、若いがゆえに苛烈であったその戦いぶりのために敵も多く、一瞬の隙を突かれて孫策はその短い一生を終えます。

    曹操が傍にいることによって帝は、そして後漢王朝はその命を繋いでいるのですが、帝自身は曹操のせいで窮屈な思いをしていると感じていたのでしょう。
    曹操を殺せ、と密詔を出します。
    同じように家臣のせいで窮屈な思いをしていた徳川慶喜は、それでも勝海舟を殺せ、とは言っていなかっただけ賢いのでしょう。
    いや、もしかして言ってたのか…?

  • 私の知識が及ぶ範囲で2点の誤謬があった。
    今更述べるまでもなく宮城谷昌光のファンだからこの『三国志』を読んでいるのだが、この誤謬は残念に思う。
    ━━━らしくない━━━
    のだ。

  • 官渡の戦い編。
    父の仇として大虐殺を行った曹操が、息子を殺したカクを赦し使うところは、思うものがあります。

    宮城さんの描く曹操は魅力的ですが、いわゆる聖人君主の皮をはがした上で、劉備を魅力的に描くのは難しいのでしょか。蒼天航路の劉備は、魅力的だったんですけど。

    一方、関羽と曹操のかかわりは、宮城谷さん版でも昔ながらの英雄物語の風合いです。

  • 派手な面々が退場する。
    呂布は董卓暗殺の鮮やかさがあるから、どんどん精彩を欠いていく姿を見るのが苦しい。そんな呂布に従った陳宮はただひたすら曹操を嫌っていたという解釈が好き。
    決断力に欠ける袁紹、この人も後年残念になるパターン。対比して、そじゅの潔いこと。
    孫策は一瞬のきらめき。振り向かず前だけむいて突き進んだ結果、暗殺という形で生を終えてしまった。えっていうか小覇王の活躍あれだけ??フォローしてくれる誰かがいてくれたらなあ……

    宛城そして官渡。
    荀彧、荀攸、郭嘉、程昱ら能臣の活躍もめざましく、人材バンク曹魏の様相。徐晃とか張コウとかかくとかも集まってきた。
    宛城に鄒氏なんて出てこない、けれどこの戦いはやっぱり心が痛くなるんだ。

  • 官渡の戦い。 奢れる袁紹をついに撃破。曹操の勢力拡大。逃げ回る劉備には呆れるばかり。

  • 正史ベースの三国志。
    天下分け目の官渡の戦い。
    曹操の非凡さは言うまでもないが、のらくらしているようで生き抜いている劉備も凄い。

  • 風は季節によって変わるということを本当に分からせてくれるのは豊富な経験であり、積み重なった年齢である。何度も死地を素足で踏破した曹操には密かな矜持がある。献帝にはかつての皇帝にはないしぶとさがあり強運というが、それをはるかに超越したものを具有しているのが曹操であり、人徳の清々しさに激しく打たれるものがあった。三国志演義には書かれていない、あるいは故意に隠されたものが本書では洗いざらい描出されている。脈絡のなかったものがしっかりつながったといった興奮を味わわせてもらった。歴史の真実に触れ純粋な感動をおぼえた。

  • 第5巻では三国志前半のクライマックス、華北の覇者を決めた官渡の戦が描かれる。曹操は袁紹を破り、漢の皇帝をも掌中に治め、天下の第一人者に躍り出る。

    殷の紂王は徳を失い、新たに徳を備えた王者が求められた、と孟子は易姓革命を定義した。司馬遷は更に一歩進めて、秦王朝の失徳は当然として、戦に長けた項羽よりも人を惹き付ける魅力のある劉邦の方が王者に相応しいとした。陳寿もその構図を継承していて、名門のアドバンテージを抱えながら人を活かしきれない袁紹と、酷薄だが有能の士を登用しリーダーシップを発揮する曹操を、鮮やかに対比させている。

    曹操はかつて中原と呼ばれた地域を制覇し、次は南方、劉表の荊州へ目を向けるのだろう。三国志の面白いところはそこから話が単純には進まないところ。負け続けた劉備も次第に不思議な徳を放ち始め、関羽、張飛に加えて趙雲を得ながら南方へ向かう。真の天下人に相応しいのは誰か、陳寿の問いかけは続く。

  • 曹操と奥さんの別れがなんか悲しかった。

  • <作品紹介>
    曹操はついに立った。天子を奉じることを決断。七年前に脱出した洛陽へと向かう。時代は、攅峰を均すという作業をはじめた。ひときわ高い山だけが残る。たれに帰服すればよいか―志のあるものは、高山の麓に集まりつつある。呂布、袁術らが舞台から姿を消し、いよいよ曹操と袁紹は天下分け目の「官渡の戦い」へ。文庫版オリジナル書き下ろし『後漢と三国の仏教事情』(三)収録。

    <感想>
    第5巻のメインは官渡の戦い。曹操はここでの勝利で中原の覇権を納める、いわゆる三国志前半のハイライト。
    しかし、猿紹に関しては、ストレートに言えばばボロカスに描かれていて、これまでの複数の作者の三国志の中でも一番ケチョンケチョンに表現されていた気がする。
    また、宮城谷三国志は正史を基にしているため、あらためて感じるところだが、この作品は曹操が主役で劉備はあくまで脇役であるところが面白い。
    今後、孔明や周瑜、司馬懿などがどう描かれるかが楽しみである。

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著者プロフィール

宮城谷昌光
1945(昭和20)年、愛知県蒲郡市生れ。早稲田大学文学部卒業。出版社勤務のかたわら立原正秋に師事し、創作を始める。91(平成3)年『天空の舟』で新田次郎文学賞、『夏姫春秋』で直木賞を受賞。94年、『重耳』で芸術選奨文部大臣賞、2000年、第三回司馬遼太郎賞、01年『子産』で吉川英治文学賞、04年菊池寛賞を受賞。同年『宮城谷昌光全集』全21巻(文藝春秋)が完結した。他の著書に『奇貨居くべし』『三国志』『草原の風』『劉邦』『呉越春秋 湖底の城』など多数。

「2022年 『馬上の星 小説・馬援伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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