賭博と国家と男と女 (文春文庫 た 33-2)

著者 :
  • 文藝春秋
3.43
  • (5)
  • (16)
  • (30)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 150
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167270032

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『賭博と国家と男と女』
    竹内久美子
    1996年
    文春文庫

    歴史本なのかジェンダー本なのか
    タイトルからは予想できない興味深い本だ。

    著者である竹内久美子は、
    動物行動学研家であり、本書に書かれている話は
    ユニークでどちらかといえば
    動物行動学エッセイとして捉えて読むことができるが、
    著者のいい意味でぶっ飛んだ思考が
    そのユニークさに拍車をかけている。

    1989年10月3日
    京大霊長類研究所からアイ(当時13歳)という
    チンパンジーがカギを4つ開け、
    同室のアキラ(チンパンジー)とともに
    檻の鍵を開けて脱走する事件が起こった。
    そんなアイには格別優れた才能が
    あることがわかってきた。数の能力である。
    彼女は史上初めて10まで数を数えた
    類人猿なのである。

    だがこれはアイですら10までしか、
    と解釈すべきことであり、おそらくチンパンジーは
    それほど厳密に数を数える必要に、
    今まで一度も迫られることがなかったのだと
    著者は考察する。

    ならば、人間に数の能力を進化させたものな何か?
    なぜ人間は数を厳密に数える必要に迫られたのか?
    人間の数の能力の進化に関わった重大な要因、
    それは何だろう?
    本書では主にこの観点から「人間」を考えていく。

    コンラート・ローレンツ、
    ダーウィンらを引用し「種の繁栄」や
    自然淘汰のかかる単位を個体であるとみなす個体淘汰、
    種や集団であるとみなす郡淘汰を解説し、
    この後もリチャード・ドーキンスの
    「利己的な遺伝子」をベースとして
    動物行動学のユニークな話が続いていく。

    アニメ映画『ファインディング・ニモ』でお馴染みの
    クマノミの生態から
    「妻が威張っていると夫婦は円満」と説き、
    一夫多妻のハーレムを形成するマントヒヒを取り上げ
    「夫が威張っていると"国家"は安泰」と説き、

    芸者にモテまくった伊藤博文を引き合いにして
    「組織の指導的立場にある男が好色でないことは
    断じてあってはならない」と言ってのける。

    そしてここら「国家」に対しての
    著者のぶっ飛んだ提言が飛び出してくる。
    ⚫︎処刑されたルーマニアの
    チャウシェスク大統領夫妻は、
    妻の尻に敷かれすぎたせいでルーマニアに
    国家規模の悲劇をもたらした。
    ⚫︎日本の天皇家へ「一夫多妻」をすすめ、
    まずは側室をつくることを提言する。

    その他、我が国における
    君主制の復活を説いたり、
    怒る人は起こりそうな内容が目白押しである。

    さて最後に本書のタイトルにある
    「賭博」についてだが、
    最初にチンパンジーのアイを引き合いに出して
    人間に数の能力を進化させたものは何か?
    という問いの答えが「賭博」だ。

    著者曰く、
    賭博の歴史は火の使用と同じくらいに古く、
    原始の人々は経験ではわからないことに直面したとき、
    例えばどちらの方向へ行けば
    獲物に出会えるかというときなど、
    石や棒を投げて決めた。
    それが長じて賭けになったそうだ。

    そして君主のいる国は賭博に対して大変寛容であり
    賭博の盛んな国では君主制が
    廃止されていないと言っても過言ではない。
    例)イギリス、スウェーデン、モナコ、タイ

    ここから利己心な遺伝子をベースとした
    動物行動学的な導き方をしている。

    男たちが賭博にハマる

    女は愛想をつかし家を出て、
    したたかに生きていく

    強靭な心と肉体をもった女性が生まれ、
    回り回って逆境に強い遺伝子的資質を持った
    子孫を残していく

    以上の手順を解説し、
    イギリスが賭博、君主、
    階級社会、学問といったものの
    絶妙のバランスの上に立脚し
    世界を制覇するに至ったことを例に挙げ、
    君主制復活を謳う著者である
    竹内久美子の説は極論か?暴論か?
    そういう視点を持つこともなく
    大変ユニークな一冊として楽しめた。

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

  • 久しぶりに同著者の本をさくっと読破。
    人類の進化に関し、独特かつ興味深い説明で解き明かそうとする。なるほど!と思わせるロジックが満載ではあるが、残念なことにそれらを実証することは難しい。

    P.26(アダム・スミス)
    スミスは次に、ならばなぜ神を我々に、かくも強い利己心をお与えになったのだろうかと考えた。神のし給うこおとだ、きっと何か深い理由があるに違いない、とこの時代の人らしく律儀に考えたのである。結局彼が到達した結論は、何とも逆説的、しかし現代の動物行動学者にしてみれば一瞬ドキリとさせられる、見事に革新をついたものである。スミスによれば、人間の協調には利己心こそが重要であり、神は一人一人のり子心が余すところなく発揮されることを望んでおられる。そのことが人間と社会とを幸福に導く唯一の道である、ということになるのである。

    P.53
    つきあいの長さがいかに人の行動に影響を及ぼすかということは、田舎の人の方が都会の人より相互協力的であること、学生街の定食屋が良心的な値段で営業しているのに、観光地の食堂がほとんど詐欺のような商売をしていること(すべてそうだとは言っていません)、農耕民(土地に縛られて生きている)に比べ、遊牧民の方が好戦的で激烈な戦争をしがちなこと、等々の例からも明らかだ。こういう現象は、遺伝、環境の両面から現れてくるものなのだろう。

    P.79(野外のコオロギについて)
    ある押すが実力の伯仲する相手と戦って惨敗してしまったとしよう。(中略)そういう場合はどうすべきか。休むに限る。彼は休もうという意識を持つわけではないが、ただ、なぜかしばらく戦う気力が失せてしまうのだ。ライバルに対する恐怖心も依然頭をもたげてくる。そこで彼は草陰などにじっと隠れている。これが結果的に彼を回復させることになるのである。(中略)
    気が弱くなることや自信喪失、ライバルを恐れるという心を我々は良くないことのように考えてしまうが、そうではない。野外で無事に生き抜くためには、むやみに気が強いことはむしろ都合が悪いのである。

    P.111
    人間も生物の一種であり、利己的遺伝子の乗り物である。利己的遺伝子の願いはただひたすらコピーを増やすことだ。そのために大切なことは、まず乗り物の生存、次に繁殖である。(それ以外のことは、普通それらの副産物でしかありえない。たとえば乗り物が国家の指導者になるなどとは遺伝子は毛頭考えていないだろう。)

    P.171
    J・P・ジョネスという研究家によると、賭博の歴史は火の使用と同じくらいに古いそうだ。彼によれば、原始の人々は経験ではわからないことに直面したとき、たとえば、どちらの方向へ行けば獲物に出会えるかというときなど、石や棒を投げて決めた。それが長じて賭けになったのだという。

  • 利己的な遺伝子を参照し賭博好きのカモ人種を支配する胴元人種がおり彼らは学問に夢中になり賭博にハマらないように出来ているという。なかなか面白い仮説。

  • 社会体制が違っても、時代が違っても、
    普遍的に賭博が存在してきたことをあげつつ、
    それが利己的遺伝子のなせる業だ、といわれると、
    思わず「へえ~」とうなずいてしまいます。
    軽く読めて面白いです。
    20141031

  • 竹内さんのことは、私が好きな日高敏隆さんの生徒さんとして知ったので、興味ありました。
    理系のかたのお話は面白いですね。

    クマノミは一夫一妻で、愛妻家(←私に言わせると。彼女はかかあ天下と呼ぶ)と知って、ますます「生まれ変わったらカクレクマノミになろう」と決意を固めました。

    私は頭良くないけど、「賭博のカモにはならない」「何の役にもたたない、金儲けになんか絶対ならない学問に夢中になる」そっちのタイプだと思いました。

    「しっぺ返し」説はとてもためになりました。裏切られたら直ちに裏切り返すが、お返しは一発だけ、そしてまたすぐ仲直りを提案するのがいい、というもの。

    しかし、いくつかの竹内さんの導き出した理論に、不快になりました。
    君主制、階級制、そして一夫多妻を推奨していることです!
    ここで彼女に対して悪意をいだきはじめました。

    なんでも昨年小保方さんが叩かれ始めたときに、竹内さんが表舞台に登場して、「女性の研究者が論文を発表して注目を集めると、男性研究者からの嫉妬や嫌がらせがあるというのはよくある話です。私の友人の女性研究者も『ネイチャー』誌に単独名で論文が掲載され、周囲からの嫉妬などで精神的に参ってしまったことがありました」と言っています。

    「一夫多妻」を薦めて、彼女は男性に媚びているのではないか?(100%私の偏見)

    そう思ったら、竹内さんが日高敏隆さんと親しそうに書かれている部分が不愉快。
    「わが日高敏隆氏」とか言っちゃって、何?!
    工藤静香がトーク番組でキムタクのことを得意気に話していたときの不快さが蘇りました。
    私の遺伝子は相当嫉妬深いようです。

  • 「賭博と国家と男と女」5

    著者 竹内久美子
    出版 文藝春秋

    p51より引用
    “しかしながらこういう点の取り方が、実はこれ以上の方法はな
    いと言えるほど完璧なものだったのである。”

     動物行動学者である著者による、人間を人間たらしめた進化の
    原動力について考察した一冊。
     アダム・スミスの考えについてから学問というものについてま
    で、有名な学者の学説を元に著者自身の理論を展開させて書かれ
    ています。

     上記の引用は、反復囚人のジレンマゲームのコンピュータープ
    ログラム選手権大会における、とある単純明快な戦略についての
    一文。付き合いが長くなるのであれば、その相手と上手くやって
    行こうとすることが大切なようです。
     著者の説が正しいかどうかはともかく、読み物として大変楽し
    く面白く読める一冊です。

    ーーーーー

  • 指導者は好色。

  • 本書によると、私たち人間も含めて動物の個体は、種の保存(繁栄)を目的に生きているわけではないという。自分の遺伝子のコピーが最大限に増えるように行動するのだという。動物行動学を研究したのち著述家になった筆者は、この利己的遺伝子説に基づいて個人、社会、国家の振る舞いを小気味よく解説してみせる。話の展開がやや強引に感じる個所もあるものの、タイトルからも推測できる通り、酒を飲みながら読める気楽な内容の本である。

  • 相変わらず面白い切り口だ

全14件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

竹内久美子
1956年愛知県生まれ。京都大学理学部を卒業後、同大学院に進み、博士課程を経て著述業に。専攻は動物行動学。著書に『そんなバカな! 遺伝子と神について』『シンメトリーな男』(ともに文藝春秋刊)、『女は男の指を見る』(新潮社刊)、『ウソばっかり! 人間と遺伝子の本当の話』(小社刊)、『女はよい匂いのする男を選ぶ! なぜ』(ワック刊)など。

「2022年 『66歳、動物行動学研究家。ようやく「自分」という動物のことがわかってきた。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

竹内久美子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×