指揮のおけいこ (文春文庫 い 7-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167271053

感想・レビュー・書評

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  • 江戸っ子のべらんめえ調の語り口。
    馴染むまでちょっと時間がかかったが、名エッセイ。
    最初はゲラゲラ笑えるけれど、やがて満身創痍で指揮台に立ち続けるマエストロたちへの尊敬の念がわいてくる。

    取り上げられる話題は幅広い。
    指揮の実際、どのような勉強をするか、指揮棒はどんなものがいいかといった「本筋」から、指揮者の体の故障や指揮台からの転落事故、衣装や靴のことまで。

    演奏会が終わったら、岩城さんはなんと楽譜を棄ててしまう。
    その理由は、書き込みがあるスコアを手元に残すと、次の演奏の機会にしっかり勉強しなくなるから、だそうだ。
    苛烈な勉強ぶりが窺えるエピソードだった。

    今となってはこんな大指揮者が、体を張った企画をしていたんだ、というものもあった。
    普段通り、無表情で、顔だけでの三通りの指揮をしてどう演奏が変わるかというテレビの企画だ。
    無表情バージョンをつくるために、なんと石膏で顔型を取ってマスクを作り、それを付けて演奏したそうだ。
    今、若手指揮者であっても、そんなこと応じてきれるんだろうか?

    決してなくしてはいけないスコアを失くした話もあった。
    なんと武満徹『テクスチュアーズ』の自筆スコア。
    七十段もあって、カバンに入れられず、ツアーの移動中、手に持って歩いていたからこその悲劇。

    雑誌連載コラムだったようだ。
    折々差しはさまれる、お仲間たちの訃報。
    武満徹さん、山本直純さん、朝比奈隆さん…。
    岩城さん自身も、すでに鬼籍に入っている。

    指揮台から落ちる、奈落に落ちる、指揮者って、意外と命がけだ。
    岩城さんによると首を痛めやすいそうで、体質とはいえ、大きな手術もしたそうだ。
    たしかに、小澤征爾さんは腰を痛めているニュースがあった。
    佐渡裕さんのドキュメンタリーでは、専属のカイロプラクターなしではいられないほど、肩や腰に負担がかかっていることも見た。
    指揮は楽器演奏より歴史が浅いのかもしれないが、体を痛めない指揮法なんていうものは教わらないのだろうか?
    この本を読み終わると、指揮者はかくも身を削って音楽を作っているのだなあ、と思えてくる。
    90歳を超えて世界を飛び回って指揮をしているブロムシュテッドさんなど、もはや超人だ…。

  • 指揮者としてどのように暗譜するのか?答えはフォトメモリ。楽譜を映像として記憶して、頭の中からイメージとして引き出すのだそうです。

    凡人は指揮者にはなれないという点が、指揮者の視点からわかりやすく解説された、興味深い一冊。

  • 【本の内容】
    指揮者は、一日何回指揮棒を振るのか?
    無表情で指揮をしてみたら、どうなる?
    指揮者は怪我をする確率が高い、キケンな商売?
    かっこいい燕尾服とは?
    後ろ姿からだけでは知りえなかった指揮者の秘密を、世界的マエストロである著者が初公開。
    人知れぬ苦労の数々に抱腹絶倒すること請け合いの名エッセイ集。

    [ 目次 ]
    何のために指揮者はいるのか?
    無表情で指揮してみたら
    指揮者はキケンな商売
    楽譜の持ち歩き方
    「ガクタイ」の性質
    指揮者の夏休み
    いよいよ実技
    実技の練習、落とし穴
    女には向かない職業?
    名指揮者と譜面の関係
    ルービンシュタインに教わったこと
    大物指揮者に見せるには
    指揮者のファッション
    服は揃った。次は靴の問題だ。
    指揮棒のナゾ
    指揮とはスポーツだ
    偉大な指揮者が舞台を去るとき

    [ POP ]
    指揮者はなぜ必要か、無表情で指揮してみたらどうなったか、指揮者のファッション、カラヤンとトスカニーニの秘密……指揮者の知られざる姿や内心をエピソードと共に伝える。

    ユーモラスな楽しいエッセー。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 「週刊金曜日」での連載以来の再会であります。
    『男のためのヤセる本』で、岩城宏之さんの文章の面白さを知つた私でしたが、この『指揮のおけいこ』を通して読むのは初めてでした。
    読者を生徒に見立てて全17レッスン(おけいこ)の講義(?)が展開されます。

    指揮者といふ存在は過大評価と同時に過小評価されてゐると著者は言ひます。それはどういふことかといふと、まるで理解されてゐないといふことであります。で、素人にも分かるやうに指揮者の生態を解説するのであります。それは良いのですが、諧謔精神に満ち満ちてゐるので、どこまでが冗談なのか本当なのか良く分かりません。
    指揮棒はなくても何とかなるとか、若い頃レコードに合せて棒振りの練習をしたとか、ステージでは2センチ高い靴を履いてゐるとか、隠したくなるやうな事も開陳してゐます。私ら門外漢には意外な話ばかりで、声を出して笑つてしまふ。同時に指揮者を目指さうとする人たちには、勇気を与へる内容ではないでせうか。

    その岩城さんが逝つて早4年。もう新しい文章は読めないと思ふと、残念であります。


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    ここで、前回『大予言者の秘密 易聖・高島嘉右衛門の生涯』について訂正といふか補足。
    私がとりあげた角川文庫版は確かに絶版でありますが、実は昨年に光文社文庫から『「横浜」をつくった男―易聖・高島嘉右衛門の生涯』と改題された上で復刊してゐました。こちらは容易に入手できるのであります。
    ま、どうでもいい情報でせうが、自分としては気になつてゐましたので、これですつきりしました。では。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-163.html

  • 日本人指揮者が書いた、読みやすい本。指揮・音楽の枠を超えた、大切なことがぎゅっと詰まった一冊。借りて読んでから数年、幾度も頭の中で反芻しています。読み返したい一冊。

  • 知られざる指揮者やオーケストラの日常に、笑いながら泣きながら触れることができます。
    特にクラシック好きなわけでもない自分にも楽しく読めて、岩城さんが好きになりました。

  • どこまでが冗談で、どこからが本気なのかよくわからないエッセイ集でした。

    普通、ある程度権威のある指揮者なら絶対に言わないような企業秘密や失敗談からどーでもいい話まで、様々な「おけいこ」が受けられます。
    笑えるところもたくさんありますが、時々岩城さんのエッセンスみたいなものが見えてハッとさせられました。

    練習時の言葉(言語)の問題は、アマチュア(特に学生オケ)が普段音楽をやっていても実感するし肝に銘じておくべきことだと感じました。
    故障からの復帰話は、最近の小澤征爾と重ねながら読んでしまったなあ……。


    軽いノリでさらっと読めるけれど、岩城さんの「おけいこ」から学ぶことはたくさんあるはず。おすすめです。

  • 指揮者の仕事の舞台裏。
    これも、抜群に面白い。何度も笑えた。
    岩城さんの仕事は、超一流だったが、
    こういう洒落たエッセイをたくさん残しているのに、改めて驚かされる。

  • 現場指揮者としての傾聴すべきお話が2割、おじいちゃんの語りにつき合わされている部分が8割といったところか。雑誌の連載ならこんなものだろう。ネタを小出しにして細く長く続けようという意図が感じられる。お亡くなりになる前に言いたい事は全部言えたのだろうか。

  • 【librray222所蔵】

    ちょっとだけクラシックをきくようになったら、みんなにたくさん聞かれる質問が「指揮者ってなにしてるの?」
    私は答える代わりに、この本を差し出す。
    もう一体何冊この本を友の手に渡したことだろう。

    顔を動かさないで指揮をしてみたり、デスマスクを作って表情を殺して指揮をしてみたり、一生の間に何回指揮棒を振るのかをまじめに計算してみたり、とかく抱腹絶倒のエッセイである。





    200yen

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著者プロフィール

1932-2006。東京藝術大学在学中にN響副指揮者となり、56年デビュー。以後、世界のトップ・オーケストラを指揮。エッセイストとしても知られ、著書に『フィルハーモニーの風景』『音の影』など多数。

「2023年 『指揮のおけいこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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