怪しい来客簿 (文春文庫 い 9-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167296049

作品紹介・あらすじ

私が関東平野で生まれ育ったせいであろうか、地面というものは平らなものだと思ってしまっているようなところがある-「門の前の青春」。亡くなった叔父が、頻々と私のところを訊ねてくるようになった-「墓」。独自の性癖と感性、幻想が醸す妖しの世界を清冽に描き泉鏡花賞を受賞した、世評高い連作短篇。

感想・レビュー・書評

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  •  戦中から活躍し戦後に没落した知人、芸人、スポーツ選手などを描いている。
     相撲力士の出羽ヶ嶽文治郎、プロ野球の木暮外野手など、幸せと言える晩年を送った人物に救われる。
     多く没落して亡くなり、知人など、亡霊として現れたりする。
     仕舞いの「たすけておくれ」では、自身の胆石手術(こじれて危篤に陥った)をも、戯画化してユーモラスに描く。まるで亡くなった人たちの、仲間のように。

  • 戦中戦後の不気味な感じが伝わる。その時代に生きた人の感じた空気なのか色川さんの感じ方なのか分からないけど。色川さんの個人的なことが書かれてて、こういう生き方もあるのだなと肩の力が抜けた。文章がスルスル流れるようです。

  • 異形巨躯な相撲取り、白痴の少女、一発屋の歌手、香具師のお婆さんetc...

    世間で言う、「一風変わった人物」達を各章で取り上げ、各々のエピソードを色川氏の想像と感性を加えて語られた短編集。

    色川武大。
    幼き頃に容姿に劣等感を持った事を契機に、以後の人生をずっと劣等感と屈託に彩られた人生を送られたようだ。

    人と馴染む事が出来ず、人と競争することも出来ず、人と同じ生き方を選ぶことも出来ず、だから、人と違った独特な生き方をしないと生きて行けないという苦い心情の中をもがき続けた人。

    この色川さん、独特な生き方でなければいけないという一心から、
    一時はスリになろうともしたような面白い方。

    そんな厭世的な特色を持った方だが、この人は心から好感が持てるんです。
    苦しくても辛くても、どんなに嫌であれ、どれだけ風変わりだろうとも、頑張って生きていた人。
    厭世的な代名詞と言えば太宰治が思い浮かぶが、太宰治の場合はもっと押し付けがましくて可愛げが全く無いのだが、色川さんは、何と言うか健気さが感じられる。

    本書で色川さんが取り上げた人物達はみな、
    色川さんのように「生きにくい」人生を送った人達。
    時に注目を浴び、時に嘲笑われるような人生を送った人達。

    そんな人達を色川さんだからこそ分かる心情と優しい眼差しを持って描いた、不思議とホッと心温まる作品。

    本当にこの方の作品は、色川さんの人生そのもの、「独特」です。

  • 本当に上手い文章って、こういうモノを言うんだろう。
    なんたる余韻というか。
    色川氏の目を通した様々なインプット&アウトプット、その人間愛や達観に、痺れまくる。
    戦後初期の混沌をベースに、そこに生きるニンゲン達の業や哀しさが、色川氏自身の生き様も含め濃縮している。
    しかし、こんなにも鋭敏な感性と伍しながら生きた色川氏って、
    あまりにも剥き身というか、例えるならば、皮膚さえ削がれていたかのようなクリアさというか鋭敏さであって、
    とかく鈍感でこそ凌げる浮世を思えば、それはそれはきっと生き辛かったのではなかろうか、とも思う次第である。
    否、だからこそ、アウトローに徹せざるを得なかったのか。
    戦後成長から飽和、そして停滞の今こそ、凄まじいリアリティと共に読むヒトに迫り来る最高の随筆といえよう。

  •  
    ── 色川 武大《怪しい来客簿 1977 19891007 文春文庫》第5回泉鏡花文学賞
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4167296047
     
    (20231201)

  • 色川武大の視線は優しさにあふれている。
    本人の写真からもそれが滲んでいる。

    生きにくさを感じている人は一読すると価値観が変わるかもしれない。

    「怪しい来客簿」の時代は戦後の混乱期或いはその名残の時代のもので、生きていくのに各人の「地」がより試された頃。色川武大はそこで日々を必死に生きる人々を深い洞察力と暖かい目で見事に描いている。

    どうにもうまくいかない、器用に生きれない自分と重ね合わせながら読める。

    引き込まれるエピソードや個性的な人間模様、色川武大の社会に対する視線に触れたりする中で、どこかいまの自分もそれでいいのかもしれないと、そんな感じに自分の背中をおしてくれるような気持ちになった。
    また戦前の空気感とともに、戦後間もない頃の混沌としたなかで新たな社会がつくられていく日本の当時の様相に、どこか不思議な羨ましさを覚えた自分がいた。同時に死がいまよりもずっと身近であったことも感じた。
    中でも印象的だったのが、『右向け右』等のほか、『サバ折り文ちゃん』のエピソードだった。

    一見順調に見える人も含め、皆どこかで折合いをつけて日々を凌いでいる、とこの本を紹介してくれた方は話していた。

  • 戦前から戦後付近の時代の仄暗い、そして猥雑な感じが目の奥に見えるような本だった。
    その時代に実際にいた人、有名だった人などを筆者の独特な目線にてその数奇な運命や生き様を静かに物語っていて、心がざわつきながら時にゾクっとしたりして惹かれる内容だった。
    わたしは昭和のまぁ、終わりの方の生まれだが、子供の頃にはまだそういう昔の時代の仄暗さや猥雑さの残り香みたいなものが残っていて、「あぁ、こういう人、時々いたよな…」と妙な懐かしさも覚えてしまった。

  • 語り手も語り手以外の人物たちも、世界にうまくはまり込めない人たち。疲れ切って学校をずる休みしていたときの感情が甦ってしまい、読むのが苦しかった。高校を卒業して何十年もたっているのに、忘れられないものだ。

    描写にどん底暮らしを経験した者ならではの非情さがあり、一文一文句点にたどり着くまで気が抜けない。読む体力があるうちに読むべき本。

  • 文学

  • 泉鏡花賞受賞作。「空襲のあと」 8回も9回も空襲で焼け出された婆さん。「墓」 亡くなった叔父が頻々と私のところを訪ねてくるようになった。等が良かった。川上弘美の『<a href=\"http://mediamarker.net/u/nonbe/?asin=4122041058\" target=\"_blank\">あるようなないような</a>』で知って、興味を持ったので購入。次は<a href=\"http://mediamarker.net/u/nonbe/?asin=4061960830\" target=\"_blank\">田紳有楽;空気頭</a>を買ってみよう。色川さんので「狂人日記」も読みたいのだが、amazonにない。残念。[private]諫早に持ち帰る2007/1/1[/private]

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