〔貞観政要〕の読み方 帝王学 (文春文庫 や 9-9)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167306090

作品紹介・あらすじ

平和な「守成の時代」に、どのようにしたら組織を活性化できるか。リーダーはいかにあるべきか。リーダーとして終りを全うするにはどうすべきか。こうした今日の経営者・指導者にとって最重要な問題に関して、古来日本人の"リーダー学"の教科書として読まれてきた『貞観政要』に基づき、その要諦を教える。

感想・レビュー・書評

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  • 帝王学のテキスト「貞観政要」の解説書
    唐の2代皇帝太宗:李世民の言行録であり、呉競が、則天武后後の唐再建のために、復位した中宗に上進されたものである。
    北条政子や、徳川家康も愛読したと伝えられる書は、王者の創業後の守成:組織の維持管理の心得を、今日に伝えている。

    気になったことは以下です。

    ・帝王学はかつて権力・権限が一人に集中していたから、その一人が学べばよかった。しかし、今日、民主主義で権力が分散する。このために、多くの人が帝王学を学ばなければならない。
    ・嗜欲喜怒の情は、賢愚皆同じ。いかなる賢者であっても、権力をもてばおかしくなる。「三年でバカになる」
    ・草創(創業)と守文(維持)といずれが難き とは、貞観政要の言である。草創とは陽性であり、守文とは陰性である。守文とはすでに組織ができあがってしまっている状態である。
    ・唐太宗の時代は、「貞観の治」とよばれ、理想的な統治が行われた時代として語られる
    ・実におもしろいのは、部下たちは李世民に、実にずけずけと率直に意見をいっていること、同時に李世民はこれを当然として、自分の案がみんなから拒否されても少しも感情的にならないことである。
    ・太宗は、仇敵を重要ポジションに任命したことだ。その仇敵が自分の上司に誠心誠意仕えたものである。そして、期待にたがわず、太宗が嫌な顔をしても、かまわず強く諫め、非をなすことを許さなかった。
    ・何かの権限をもつと、人間はどうしても、情報遮断の状態となるか、自ら不知不識の状態となってしまう。一方通行の情報しか来なくなったがために、滅亡、失敗、失脚をしてしまう。

    ・十思とは
     ① 欲しいと思うものを見たら、足ることを知って自戒することを思い
     ② 大事業をしようとするときは、止まることを知って民の安楽を思い
     ③ 高ころびそうな危ないことを思うときは、謙虚に自制することを思い
     ④ 満ち溢れるような状態になりたという願望が起これば、満ち溢れる海はすべて川より低いことを思い
     ⑤ 遊びたいとと思うときは、限度をわきまえ、狩りのとき、一方に逃げ道を用意してやることを限度とすることを思い
     ⑥ 怠け心が起こりそうだと思えば、始めを慎重にして、終わりを慎むことを思い
     ⑦ 自分の耳目をふさがれているのではないかと心配ならば、虚心部下の言葉を聞くことを思い
     ⑧ 中傷や讒言を恐れるなら、まず自ら身を正して悪をしりぞけることを思い
     ⑨ 恩恵を与えるときには喜びによって賞を誤ることがないように思い
     ⑩ 罰を与えようとするときには怒りによって重すぎる罰にならないように思う

    ・九徳とは
     ① 寛にして栗(りつ) 寛大だがしまりがある
     ② 柔にして立 柔和だが事が処理できる
     ③ 愿(げん)にして恭 まじめだがていねいでつっけんどんでない
     ④ 礼にして敬 事を治める能力はあるが、慎み深い
     ⑤ 擾にして毅 おとなしいが、内が強い
     ⑥ 直にして温 正直・率直だが温和
     ⑦ 簡にして廉 大まかだがしっかりしている
     ⑧ 剛にして塞 剛健だが、内も充実
     ⑨ 彊にして義 強勇だが、義(ただ)しい

    ・人はみな、他人の欠点はすぐ気がつくが、自分のことはわからない

    ・六正 とは

    聖臣 兆候も明確でないのに、存亡の危機を見て未然に封じる
    良臣 すぐれたはかりごとを進言し主人の美点をのばし、欠点をすくう
    忠臣 精励し、賢者の登用を進めることを怠らずりっぱな行いを説いて主人を励ます
    智臣 事の成功・失敗を正確に予知し、危険を防ぎ、食い違いを調整してその原因を取り除く
    貞臣 節度を守り、法を尊重し、倹約を旨とする
    直臣 へつらわず、主人の面前でその過失を述べて諫める

    ・六邪 とは

    見臣 地位に安住して、高給をむさぼりだけで、ただ、周囲の情勢をうかがっている
    諛臣 主人に迎合し、ただ楽しんで後害を考えない
    姦臣 ねたみ嫌い、推挙したいものは長所を誇張して短所を書くし、失脚させたいものは短所を誇張する
    讒臣 自分の主張を通すことで骨肉を離反させ、もめごとを創り出す
    賊臣 自分に都合よく基準を定め、自分中心の派閥をつくって自分を富ませ、勝手に主人の命を曲げ、自分の地域や名誉を高める
    某国の臣 主人にへつらい、主人を不義に陥れ、仲間どおしでぐるになって主人の目を くらまし、主人の悪を国中にながして、世界にまできこえさせる

    ・よい臣下を集めるには、①スカウト と ②選抜試験 である。

    ・人間には必ず虚栄心がある

    ・人間が生きていくために絶対に必要なものを、「必需」という。それは驚くほどすくない。寝るための1畳のスペースとか。一日に必要な食物とか。
     常識的に必要なものは、「常需」
     必要でないものは 「虚需」  である。

     必需をベースと考えて、虚需を追い求めない

    ・一見強大に見える権力が、崩壊するときはどれだけもろいかを、隋の崩壊でみてきた

    ・絢爛豪華を誇る伝統よりも、質素を尊重する伝統のほうが、立派で健全である

    ・伝統的な絶対規範のある社会は、どのように崩れてもまた持ち直す復元力がある

    ・漢書曰く「賢者、財多ければ、其の志を損じ、愚者、財多ければ、其の過ちを生ず」

    ・リーダの絶対禁止事項
     ① 迷信にまどわされるな
     ② 宗教にこるな
     ③ 妻に口をださせるな
     ④ 前例を超えるな
     ⑤ 情実人事をするな
     ⑥ 縁故を採用するな

    ・一代目は苦難の中から立ち上がり、二代目はそれを知り、ある程度は苦難を共に分かち合うという形で学習をした。三代目になると危ない

    ・二代目のもとでは、意見は自由に言わせても決断は彼が行い、そして命令を下すのが当然で、また命令が下れば服従するのは当然と部下は考えていた。二代目の死後に、三代目が同様のことをできるわけではない

    ・子どもが、いかに、できがわるくとも、人間はその死後に、なお、直接影響力をこの世に行使することはできない。

    ・栄貴より徳行こそ肝要

    結論は、「各々汝の誠をつくせ、もし是非あらば、直言して隠すことなかれ」


    目次

    1 いま、なぜ「貞観政要」なのか
    2 「兼聴」 情報を吸い上げる
    3 「十思」「九徳」 身に付けるべき心構え
    4 「上書」 全能感をすてる
    5 「六正・六邪」 人材を見分ける基本
    6 「実需」 虚栄心を捨てる
    7 「義」と「志」 忘れてはならぬ部下の心構え
    8 「自制」 縁故・情実人事を排する
    9 「仁孝」 後継者の条件
    10 「徳行」 指導者に求められるもの

    資料 年表・地図
    解説

    貞観政要そのものは、以下があります。

    講談社学術文庫 呉競、石見清裕
    ちくま学芸文庫 呉競、守屋洋
    KADOKAWA ビギナーズ・クラシックス 湯浅邦弘
    ウエツジ 呉競、夏川賀央
    角川新書 出口治明
    能文社 水野聡
    明徳出版社 中国古典新書 他

  • 中国唐の太宗のあり方をまとめた貞観政要の解説。
    この中で、創業とそれを維持するのはどちらが大変かという問いがある。その答えとしては、創業も大変だが、それを維持するのはもっと大変だというもの。
    苦楽を共にした旧臣。しかしそれで特別待遇するのは私人の関係のみ。公人となってからやると派閥を生む。
    もう少し時が経ったときにまた読み直したい。

  • 日本の帝王学は貞観政要の考え方を引き継いでいる、らしい。

    唐の太宗は、諫言専門の役職を置いてまで、家臣に自らの誤りを正させた。そのような態度がひとつの理想、ということのようだ。

    そして、太宗を立派、といって讃えることはできても、それを己の身に照らして考えることのできる人は、稀なのだろう。

  • ひと流し完了。固有名詞や引用も多く繰り返し読まないと空で引けるレベルにはならないが、一種の時代小説のように読めるのがよい。名君も長所短所両方あったけどそれでも世の中は治まったんでその行いから治世の法則を導きましょう、ってことでいい?

  • 「帝王学」ってタイトルがとっつきにくい。「貞観政要の読み方」だけでよかったのに。
    とはいえ、きょうび「貞観政要」と言われて、「ああ、李世民ね」と答えられる人がどれだけいるだろうか、と思うと、それもまた。うーん。

    中国思想の本を読む人が本当に少ない。
    結論だけが書いてあって、それを導くものは全部事例ベース、という欠点こそあれど、もはや「徳目」を説く本が少なくなっている昨今、改めて必要なんじゃないかと思う。
    お涙頂戴の感動ものだけでは、極めて貧困な倫理観しか育たないのではなかろうか。

    それはさておき、「貞観政要」の目的は、「良い政治をするにはどうするか」ということだと思うので、「士としてこうあるべき」という儒学よりはるかにわかりやすい。若干ビジネス書くさい感じすらする。

    で、例によってポイントは以下。
    ・多くの意見を聞きましょう
    ・諫言には耳を傾けましょう
    ・よからぬ人物は近づけないようにしましょう
    ・必要以上の物・財を求めないようにしましょう

    というわけで、結局のところ「謙虚になりましょう」の一言につきる。
    その構成要因が上記の諸々なわけだけど、裏を返せばそれが結構大変なのだろう。偉い人にとっては。

    が、その「良い政治」というものって、そのまんまの政治やお仕事だけじゃないはず。
    自分の人生に関する局面全てにあてはまるものだと思って、いろいろ思いを巡らせてみると、若干耳が痛くなる。はあ。

  • 創業者でありながら、守成の大事さをわかっていた唐の太宗の話。

    要はおごり高ぶるな、と。
    印象に残ったのは、結局後世に残るのはその人柄だけだということ。
    確かに、東大寺見て、聖武天皇偉いなあなんて誰も思わない。

    三国志やら史記やら十八史略読んで思うけど、昔の中国人はたとえ話がうまいなあ。
    貞観政要が日本の江戸時代までは上に立つもののバイブルだったわけで、時代は少し違えどマキャベリらの主張と比べてみたら、その違いは顕著。だと思う。

    現在の国、会社、色々と思わせるところがあった。
    その結果、うちの国も、うちの会社もいかんな、と思った。

  • 帝王学って、気になりません?

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著者プロフィール

1921年、東京都に生まれる。1942年、青山学院高等商業学部を卒業。野砲少尉としてマニラで戦い、捕虜となる。戦後、山本書店を創設し、聖書学関係の出版に携わる。1970年、イザヤ・ベンダサン名で出版した『日本人とユダヤ人』が300万部のベストセラーに。
著書には『「空気」の研究』(文藝春秋)、『帝王学』(日本経済新聞社)、『論語の読み方』(祥伝社)、『なぜ日本は変われないのか』『日本人には何が欠けているのか』『日本はなぜ外交で負けるのか』『戦争責任と靖国問題』(以上、さくら舎)などがある。

「2020年 『日本型組織 存続の条件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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