遊動亭円木 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167316075

作品紹介・あらすじ

真打ちを目前に盲となった噺家の円木、金魚池にはまって死んだ、はずが…。あたりまえの夜昼をひょいとめくると、摩訶不思議な世界が立ち上がる。粋人のパトロン、昔の女と今の女、わけありの脇役たちも加わって、うつつと幻、おかしみと残酷さとが交差する、軽妙で、冷やりと怖い人情噺が十篇。谷崎潤一郎賞受賞の傑作短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 盲目の落語家の、少し不思議な日常と周囲との交流を描いた10篇の連作短編集。
    この主人公の盲の目を通して見る、幽界と現実の狭間を揺蕩う様な掴みどころの無い作品世界で、時としてリアルよりも迫真に人の機微が映し出され、ハッとする。
    頻出する落語の噺も、気が利いていて面白いが、各篇連作ながらそれ自体が噺のような展開で完結しており、メタ的構造も持ち合わせる。
    楽しめるレイヤーが非常に多く、久々に好みど真ん中の作品だった。

  • ありそうで、無い、無さそうで、ある。そんな世界を円木から感じ取った。円木の回りにいる人たちはみんななにかを抱えていて、悪人はおらず、良い人とは限らない。円木がゆるゆると世界を歩くのにみんなまとわりついているような気がした。

  • 一章ごとに落語を聞いているような感覚になる。「円木さん」「はい」「わたしのこと、忘れたりしない?」「忘れたり、思い出したり・・・」「いいの、それで。ありがとう」と、いい会話がそれぞれの章にある。

  • エンターテインメント小説の面白い条件をすべて満たしている。魅力的な人物、新奇な情報、意外性、そして時代性。
    下手な時代小説や純文学よりも、辻原登。

  • 思わず唸るほど上手い。
    そりゃ、芥川賞、川端康成文学賞、司馬遼太郎賞、大佛次郎賞と文豪の冠の賞を総なめ、この本だって谷崎潤一郎賞受賞なわけで上手いのは当たり前なのだが…。(その割には知名度が低いのはなぜ?)

    たとえば、
    第3話の冒頭、体が動かなくなる奇病に冒され入院する女性について、彼女の肌にとまる蚊の視点、
    刺される女性のかゆくてもかけない恐怖、そして訪ねてきた円木の視点と変化させながら書く病室の描写。
    ・・・唸る。

    物語は、糖尿病からの不摂生で目が見えなくなった噺家・遊動亭円木を主人公とする連作で、人情話としてさらっと読めばいいんだけど、どうもひっかかる。

    第1話で円木が相撲を桟敷席で観ながら、「呼び出しで出身地を言うのはいいなあ」と思う。
    すると、第2話「大切な雰囲気」で、円木の昔の女が、テレビでアナウンサーが同じようなことを言っていたのを聞いて
    「きっと遊動亭円木の話を読んだのに違いない・・・」という話をし、それについて問い詰められてごまかしたり、
    第6話「金魚」で、見知らぬ男が、
    「遊動亭円木さんでしょ。読みましたよ。江ノ島でもご活躍。・・・」
    と声をかけ、土方巽(!)の語りのテープを渡す。

    とか、メタフィクションの様相を示す。特にそれが全体に関係してくるかというとそうではなく、それだけ。
    これは何なんだ??

    最後に遊動亭円木の
    「わたしは落語になります」
    という決意。

    落語をすべておぼえて落語の図書館になる、ということなのだが、
    円木自身が物語へとなってしまうような錯覚を覚える。

    聞くように噺を語るというという円木の話芸。

    この「遊動亭円木」という物語自体を、円木が聞いているのか?

    ザワザワとした気持ち悪いズレを感じる。

    辻原登の「夫婦幽霊」もそうだが、落語というのは、メタフィクションと相性がいいのかも、
    というか落語自体がメタフィクション的?

    たまに噺家が、自分のことや、寄席の状況、ニュースなどを噺の中の登場人物に語らさせるというわかりやすいメタフィクション的な側面ももっているが、
    単に古典落語をきっちりとやる場合でも、落語自体の「物語」を聞くのではなく、喬太郎、談志、志ん生の「語り」として楽しむという二重構造を持っているというメタフィクション的な構造がある。

    うーん、うまく説明できないので別の機会に。

  • 辻原登という作家を知らなかった。昭和20年生まれで103回目の芥川賞受賞作家。芥川賞はつい最近では136回目の授賞式が行われたばかり。年に二回受賞者が誕生するので…という言い訳をしながら殆ど受賞作を読まなくなった。『エーゲ海に捧ぐ』あたりからかもしれない…と調べてみたら大岡玲氏も受賞者なんだ…。
    話がそれてしまった。
    和歌山の文化人として著名な方と親しくお会いする機会をいただいて「辻原登」さんのことを知った。彼女は「ひろしちゃん…(本名)」とまことに親しげで誇らしげ。
    「和歌山県出身の作家は佐藤春夫、中上健次だけじゃないのよ。ひろしちゃんは芥川賞、読売文学賞、谷崎潤一郎賞、川端康成文学賞、大佛次郎賞と全部の文学賞を取ったから、次はノーベル賞しか残ってないの」
    内心の太宰治賞は?というつっこみはなしにして、芯から驚いた。そして知らなかったことを恥ずかしく思った。
    さらに「芥川賞の頃の小説は何を言ってるのか難しくてわからなかったけど、この頃のはかなりやさしくなってきてるの」と彼女は仰った。
    そこでまずは読まなくてはと『百合の心・黒髪―その他の短編』と1999年出版の『遊動亭円木』(谷崎潤一郎賞)2004年『枯葉の中の青い炎』(川端康成文学賞)の三冊を取り寄せた。最近作の『花はさくら木』(大佛次郎賞)はこれらを読んでからのことにした。

    『百合の心・黒髪』はたしかに難解だ。この難解さは中上健次の読み辛さとは別種でサスペンスなのに哲学的すぎて読解できないという悲しい結末。が、『遊動亭円木』にはたちまち引き込まれた。
    遊動亭円木というのは主人公の名前。公園にある遊具ではない。彼は「自分の闇を忘れたり思い出したり」している盲目の落語家だ。この設定だけでもすごい。そして、そういう主人公だからこそ人の世話になることが多く、無数の傷もついているから、ほんとに触れあう人々にやさしい。そんな馬鹿なと思う場面でもその優しさに説得されて納得し、涙ぐんでしまうほどだ。
    一話読み切り短編の人情話が十。その中で遊動亭円木は生き続け真打ちにまで昇進してゆく。

    小説家って凄いな。
    遊動亭円木という噺家が実在してるように思った。
    浅田次郎のホテルシリーズが頭の端をよぎったけれど、いや、違う!私にはやくざと噺家の違いだけではなく、凛とした自尊心がバックボーンにあるのが面白いのひとことで片付けられないように思われる。
    カバーで金魚が泳いでいる。これは読めばなるほどと思うだろう。

    実は一緒に野沢尚氏の小説とシナリオも届いていて、早く読みたくて仕方ない。でも、まず、彼女の声が消えないうちに辻原さんの三冊を読んでしまわなければならない。さあ!これから『枯葉の中の青い炎』の扉を開こう。
    これも短編小説が六つ。短編小説は構成が命。楽しみ。
    「あの子、うちに来ても小説家になりたいって言ってたけど、ほんとになっちゃったのよ」
    彼女はコロコロと笑っていた。
    やっぱり、凄い。スゴスゴ

  • 盲目の落語家の不思議な話。
    なんかいい本ないかな、とネットで検索していたとき偶然みつけたんだったかな……。
    近所の本屋で探して買ってきました。

    本当に不思議な雰囲気の話なんですが、それが気に入ってます。
    冴えない落語家が主人公なのですが(でも落語は上手です。真打ちだし)、何だか色っぽいですよ。
    これの続編が読みたくて他の短編集も買ったのですが、そこではちょっと落胆しました。おもしろくなかったのではなく、円木さん、あんた……と思った……。

    まあそれはそれとして。

    文章もうつくしいです。

  • 落語家が主人公と言うと「しゃべれどもしゃべれども」を思い出してしまいますが、青春小説っぽい「しゃべれども」とはちょっと趣の違う人情物語です。
    すごく存在感のある小説でした。しかし、どこが良いのかと聞かれても答えには困ってしまうのです。そこでとりあえず箇条書きででも。
    ・川上弘美さんほどではないにしろ、現実の中に時に幻想が混じりこみます。不思議な感じです
    ・落語家が主人公ですから落語の話が出てきます。これがなかなか良い
    ・教養小説の趣もあります
    ・登場人物がみな存在感があります
    何か言い尽くせませんが。。。
    円木を主人公にする短編は、こんな形で一冊にはまとまって無いのですが他にもあるようです。これから探して読んで行きたいと思います。

  • 傑作中の傑作

  • 盲目の落語家。けっこうしたたか。その後が気になる。

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著者プロフィール

辻原登
一九四五年(昭和二〇)和歌山県生まれ。九〇年『村の名前』で第一〇三回芥川賞受賞。九九年『翔べ麒麟』で第五〇回読売文学賞、二〇〇〇年『遊動亭円木』で第三六回谷崎潤一郎賞、〇五年『枯葉の中の青い炎』で第三一回川端康成文学賞、〇六年『花はさくら木』で第三三回大佛次郎賞を受賞。その他の作品に『円朝芝居噺 夫婦幽霊』『闇の奥』『冬の旅』『籠の鸚鵡』『不意撃ち』などがある。

「2023年 『卍どもえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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