鍋の中 (文春文庫 む 6-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167318024

感想・レビュー・書評

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  • 作者独特の異様で不可解な世界感を漂わせた4編の作品集。
    表題作「鍋の中」は芥川賞受賞作。夏休みに田舎の祖母の家で過ごす孫4人の物語であるが、ノスタルジックな雰囲気の中で祖母のきょうだいの秘密を知って変わる孫の心理や成長を描く。祖母がハワイにいる弟の話になると口を閉ざし、それが何故なのか解明されないまま、終わってしまい、気分的にスッキリしなかった。
    「水中の声」は貯水池で幼い娘が水死したことから「全国子供を守る会」という子どもを事故で亡くした遺族の活動団体に入った女性の話。活動に没頭するあまり、子どもに対する過激な指導から団体を退会させられるが、指導に逆らっていた子どもが事故死する。
    「熱愛」はオートバイでツーリングに出た二人の少年の話。いつしか二人の距離が開き先行する友人の姿が見えなくなった「ぼく」はなんとか目的地に着くが、先についている友人がいない。来た道を引き返して友人を捜索するが、見つからない。不安と緊張、ミステリアスな雰囲気が付きまとい最後まで胸騒ぎが絶えない作品。
    「盟友」は片やスカートめくり、片や喫煙で罰を受け、便所掃除をさせられるはめになった男子高校生二人の話。ところが、この二人が便所掃除にやり甲斐を見いだし、便器をピカピカに磨きあげる。コミカルな青春ドラマの面白さと排泄物や便器への異様な執着が入り交じって、混沌として割りきれない不思議な作品だ。

  • 再読…の筈なのだが、相当昔に読んだこともあってか、収録4篇中「水中の声」「盟友」は読んだ記憶が全く残ってない。これでは60年前の記憶が抜け落ちている「鍋の中」のお婆さんより余程酷い。
    千野帽子氏が「鍋の中」と「第七官界彷徨」の共通点について思いつきって感じで書いていたが、「すると音の欠けたオルガンの曲だがなにしろ『のばら』の終章の部分だったので、緑色の唐辛子はまるで物哀しい雰囲気に満ちて、鍋の鶏肉の上へと降りそそいでいったのだった。」なんてくだりは、(尾崎翠全集の付録に村田さんが一文を寄せていたこともあって)何となく「第七官界―」を想起させるようにも思う。
    「鍋の中」はやっぱり村田さんの原点というか、村田さんの数々の小説の要素や素材が煮込まれている作品だなあと感じる。
    これにて単行本化された村田さんの小説作品を全て読み終えた(筈)。満足感と共に読み終えてしまってほんの少し残念な気持ちも。未読だったエッセイを読もうか思案中。来月刊行予定の『飛族』が待ち遠しい

  • 表題作の一部だけ読む機会があったので、これ続きどうなるんだと思って入手。

    先に読んだ母曰く、「何も起こらないけれどドロドロ」。

    …確かに。最初だけ読んだらひと夏の孫と祖母の交流ものかと思ってたのに。ふえー。



    実体験じゃないのにその人に成り代わったかのように心情を紡ぎ出す、作家を生業にする人は凄いなあとなる1冊。

  • おばあさんからにじみ出る味わいがなんともいい。
    彼女を通して初めて知る、過去の話と親類縁者たち。
    ちらりと見せる彼女の哀しみも含めて、ちょっと不気味でちょっとユーモラスな田舎での夏休み。 
    同じ話を聞き同じ経験をしたとしても、こういうふうに心と体全体でうけとめられるのは、この世代くらいまでかもしれない。
    のちのち感慨深く思い返したりすることもありそうな夏のひとこま。

    逆に、心の中のしこりとして残りそうな、ごく普通の誰もが引き起こしてしまいかねない身近な恐さがあるのが「水中の声」と「熱愛」の2作。
    ずしりとした重みが引く。

    そして「盟友」
    青春のすがすがしさを感じた。続編があるなら読んでみたい。

  • 1987年上半期芥川賞受賞作。村田喜代子は、これまでに『縦横無尽の文章レッスン』を読んだが、小説は初読。タイトルの『鍋の中』は、およそ芥川賞作品らしくもないし、魅力的ではない。九州の田舎での祖母と4人の孫たち(大学1年生~中学生)の一夏を、主人公たみ子の1人称語りで描いてゆく。選考委員の評価は総じて高いのだが、私には小説としての斬新さが感じられなかった。そこで描かれる世界も、感性も妙に古いのだ。かといってノスタルジーを喚起するのでもなく、ある種のリアリティだけがあり、そこに小世界が完結しているかのようだ。

  • 2013年6月22日(土)、読了。

  • 芥川賞受賞の表題作よりは他の3作品の方が良かったか。
    黒澤の「八月の狂想曲」の原作ということに興味を持っていたが、映画の脚本とは似て非なるものと感じる。
    映画の出来不出来はさておき、黒澤は自らに残された時間の短さを自覚した上で反戦(反原爆)の態度を世界に訴えたかったのだろうか。
    公開当時、少々波紋を呼び本人は否定のニュアンスで語っていたと記憶しているが、やはり本音はそこにあったのだろう。
    映画作家がどのように小説を読みこみ、自らの主題を投影するのか、ほんの少しだけ垣間見えた気がした。
    (小説の感想から遠く離れてしまったか、、、)

  • 父母がハワイへ行き一夏をおばあさんの家で暮らす事になった私と弟、従姉妹の4人。私はおばあさんから出生の秘密を聞いてしまう『鍋の中』、4歳の娘を事故で亡くし、「全国子供を守る会連盟」に入会するが行き過ぎた行為で近所の子供達から悪魔と呼ばれる女を描いた『水中の声』、友人とツーリング中に行方不明になった友人を捜す不安と不快の心象風景『熱愛』、禁煙宣言をした僕とスカートめくり常習犯の塚原がトイレ掃除を通じて友情を深める『盟友』の4篇を収録。おばあさんの頭の中も、人間の思惑も、鍋の中の様にごっちゃ煮になっている。

  • 田舎のおばあちゃんを囲む。親戚いとこが集まり、賑やかな輪が開く。懐かしい光景。

  • 「盟友」と「熱愛」が堪らなく好き。前者は女の子より可愛いのにちょっと不思議な同級生とのトイレ掃除が取り持つ縁、後者は爽やかながら不吉で不穏な雰囲気が漂うツーリング。男の子同士の友情を深読みした小説の内の一つ。

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著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村田喜代子の作品

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