分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか 精神と物質 (文春文庫 た 5-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167330033

作品紹介・あらすじ

20世紀後半になって分子生物学は飛躍的な発展をとげ、いずれは生命現象のすべてが物質レベルで説明がつくようになるだろうとの予測すらある。その中で100年に1度という利根川進のノーベル賞論文はどのような意味をもつのか。立花隆が20時間に及ぶ徹底インタビューで、私たちを興趣あふれる最先端生命科学の世界にいざなう。

感想・レビュー・書評

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  • 何かを発見するという事は、研究者の努力の積み重ねだけでできるというものではない。科学というのは自然の探求で、ネイチャー、特に生命現象はロジカルではない。何億年にもわたる偶然の積み重ね、試行錯誤の積み重ねであり、必然性がない。大発見した人は、みんな自分がラッキーだという。

    謙遜ではなく、素直な発言なのだろう。ノーベル生理学医学賞を受賞した利根川進。対談相手の立花隆が珍しくついていけない程の専門知の領域。

    対比が面白いのは次の内容。人間の精神現象なんかも含めて、生命現象は全て物質レベルで説明が付けられると言うことになるのかと立花隆。それに対し、結局は脳の研究によって、認識、思考、記憶、行動、性格形成等の原理が科学的にわかってくれば、現象を現象のまま扱う人文科学が解体し、ブレインサイエンスになると利根川進。立花隆が納得したのかは分からない。しかし、利根川進の考え方はよく分かる。よく分かるし、究極形なのかも知れない。だから今AIが擬人化し境目が分からなくなりつつある。

  • もう博士課程が終わってしまうタイミングですが、ずっと気になっていたこの本をようやく読みました。

    生命科学を研究する者としては、分子生物学の歴史という意味でも興味深く(と言っても現時点では利根川さんはまだ現役の研究者ですが)、また科学者としては耳が痛くなる意見もありました。

    生命現象は何億年にもわたる偶然の積み重ねであり、現在の在り方に必然性があるわけではない。そして、自然観が本当の自然の在り方と近くかつ運もある研究者ほど、大きな発見に近づく可能性があるという点は特に印象的でした。

    また、人間の能力は限られているため、良いアイデアを思いつく人と画期的なテクノロジーを開発する人は多くの場合に別である、という指摘は科学に限らず広く当てはまると思う。そして、利根川さんのアイデアを実現するにあたって、その当時の最先端で、人脈や情報のハブとなっていたダルベッコの研究室でポスドク時代を過ごしたことが大きな意味を持っていたのだろう。

  • 実は田中角栄とかじゃなくて科学ライターがやりたかったらしい立花さんの利根川さんとの対談本。事前準備で全部の利根川さんの論文読んだりしてそうな立花さん。そういう相手と楽しそうに話す利根川さん。それを横で聞いている幸福な体験。サイエンス業界の利根川さんの分析がすごい。

  • 2001年に、この本と出逢わなかったら、今の自分はない。それくらい大きな存在である。
    書いてある内容そのものよりも、その背景にある信念が当時の自分にインパクトがあった。

  • 1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進博士の研究の内容を、立花隆氏が直接のインタビューで詳しく解説してくれている。

    ノーベル賞の対象となった抗体の多様性の背景にある遺伝子の組み換えの仕組みの解明だけでなく、分子生物学の黎明期からの歴史や、自然科学研究の現場でどのように発見が生まれてくるのかといったことも、インタビューの中で臨場感をもって語られており、大変興味深かった。

    利根川博士のノーベル賞に至る研究の過程は、遺伝子を直接解析する技術の発展途上の段階であり、遺伝子配列を直接解析することはまだできなかった。そのような制約条件の中で、制限酵素やハイブダリゼーションといった技術を使いながら、遺伝子の構造とその働き方を明らかにしてくという研究は、発想力と地道な実験の両方が求められる、非常にチャレンジングな研究の世界だったということがよく分かった。

    さらにこの本は、研究の成果だけではなく、それらを踏まえた、インタビュー時点での利根川博士の遺伝子や生命の進化に対する考え方も取り上げられている。

    例えば、遺伝子にはタンパク質の生成に使われず何の機能も果たしていないと思われる部分の方が多い。利根川博士と立花氏の議論の中で、このことこそが生命が偶然の積み重ねで進化してきたことの一つの結果であるという考え方が出てくる部分があるが、遺伝子や生命に関する新しい見方をすることができ、目が開かれた。

    また、利根川博士が発見した抗体遺伝子の持つ組み換えの仕組みが、高等生物に特徴的なものであるということ、情報を保持する能力があり、ネットワークによって機能するといった神経細胞とも共通する性質を持っているということから、免疫システムの進化と脳の進化の間には関係があるのではないかといった話も、興味深かった。

    本書で取り上げられた研究内容やそこで検討されている様々な仮説については、現在ではさらに研究が進み、大きく修正されているものもあるであろうが、ノーベル賞を受賞した研究のプロセスをこれだけ詳しく知ることができるのは貴重な事ではないかと思う。

    立花氏の徹底したインタビューと、分かりやすくかみ砕いた解説に感謝したい。

  • 「サイエンスでは、自分自身がコンヴィンス(確信)するということが一番大切なんです。自分がコンヴィンスしていることなら、いつかみんなをコンヴィンスさせられます。」
    利根川先生の力強い言葉。

    2000年代で学んだ高校生物は、かなり真新しい内容の学問だと感じた。
    最先端にいることは非常に意義がある。同時に、最先端を知ることは未来を予見することだ。
    自分がいる場所がいかに情報的に乏しいか。痛感させられた。
    失敗を重ねること。軌道修正すること。また実験に取り組むこと。科学だけじゃない。人生も同じだ。
    少なくとも自分の信念は間違ってない。前に進む気持ちを再燃させてくれる本だった。

  • 本書は、立花氏の著作の中でも必読すべき1冊であると考える。ブクロクへ登録するために再読したが、やはりそれは変わらなかった。とりわけ、文系、理系を問わず研究者を目指す者と、ジャーナリストを目指す者は本書を読むべきである。

    本書は1987年にノーベル生理学賞・医学賞を受賞した利根川進氏へのインタビューを中心に構成されているが、利根川氏の研究への姿勢およびあり方は、大いに学ぶべきである。「仮説が間違っていればどんな実験も意味がない」というくだりが出てくるが、これは大部分の学問分野に共通することであって、だからこそ仮説に対して頭を絞るべきであろう。

    またインタビューを行うにあたり、立花氏は利根川氏の論文および関連分野の基礎文献を丹念に読み込んでいる。だからこそ、利根川氏からこれだけの話を引き出しているのである(もちろん、インタビュー当時で進行中の研究など、話していないことも多々あるだろうが)。このことは、ジャーナリストにとって最も重要なことである。時には立花氏が疑問を投げかけ、利根川氏が反論する場面もあるが、きちんと文献の読み込みをしたからこその疑問であり、ちゃんと下調べをしている相手だからこそ利根川氏もしっかり反論しているのである。

    話を聞く相手の著作をきちんと読んだり、関連分野の基礎知識をある程度学ぶことはジャーナリズムの基本であると思うが、記者会見などを見ているとこれができていない人が思いのほか多いように思われる。こうした人は本書を読むべきだろう。

    ノーベル賞を受賞した研究に関するインタビューであるため、決して易しくはないが、所々で立花氏が解説を加えており、まったく分からないというわけではない。高校で生物を取った人であれば問題なく理解できると思う。

  • 2020.8.21 読了
    父親に薦められて中学の時に読んだ本を引っ張り出して再読。
    10年たった今、理系大学院生になって新たな視点が獲得できた。
    それは、「探究心」という言葉に集約されると思う。
    本書の中では利根川氏はノーベル賞受賞者にもかかわらず全くもって自分を盛ろうとせず、ありのままの形でインタビューに答えていたのがとても新鮮だった。大学時代のエピソードやその後の研究生活なんかでも私達と遜色がなく、かなり共感できる点が多かったように思う。
    私はそんな中でも「何かを発見したい」「真理を見つけたい」というような熱い志で研究生活を送ってこられた話に心を打たれた。特に、『世界のみんなが知りたがっていることを、自分だけが知っていて、それをみんなに聞かせてやるんだというような心の余裕』のノーベル賞受賞前のエピソードにはひどく感激した。
    最後の「精神とは何か」というテーマの内容も濃く、考えさせられる時間だった。

    人生はやはり哲学。そしてそれは飽くなき真理の探究。

  • 分子生物学を学ぶ上で非常に役立つ情報が多かった。分子生物学の発展の歴史、研究者としての心構え、実験の原理なども一般向けに簡単に書かれていて良かった。何気なく僕が利用している技術が多くの人の知恵によりもたらされたものであるということには、ただ頭を下げるのみである。

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著者プロフィール

評論家、ジャーナリスト、立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授

「2012年 『「こころ」とのつきあい方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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