ひるめしのもんだい (文春文庫 し 9-6)

著者 :
  • 文藝春秋
3.23
  • (4)
  • (14)
  • (53)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 251
感想 : 16
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167334062

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 椎名 誠の【ひるめしのもんだい】を読んだ。

    懐かしき我が青春の椎名 誠である。懐かしいって言っちゃ失礼か。

    なにを隠そう僕は高校二年生の時に椎名 誠の【インドでわしも考えた】という本を読んで、「物書き」

    という職業をはじめて意識し、「作家」になりたい!と思ったのである。

    いうなれば今こうして、つまづき、転がりながらも夢を追っているきっかけが椎名 誠なのだ。

    椎名流に言えば「ズバズべギンギラ光線」にあっという間にやられてしまったわけです。

    この【ひるめしのもんだい】は1990年の1月〜12月まで週刊文春に連載されたエッセイ。ちなみ

    に椎名さんは今現在も週刊文春に【風まかせ赤マント】というエッセイを連載中である。

    なんなんでしょうかね?この人の独特な着眼点は。よくそんなことに目が行って、そんなこと考えられる

    なぁと感心しきりでございます。

    表題作の「ひるめしのもんだい」は僕らのようなサラリーマンにはとても笑える内容。「何時頃、どこで

    何を食うか」という問題を真剣に語るのである。

    まず、目の前に「生蕎麦」という暖簾をさげた蕎麦屋があったとするとそこにひとりで入るという事が難

    しいと言う。知らない店だからどんな味なのかわからないと言うのだ。そしてふと交差点の先を見ると向

    こうにも「更科」などと書いた蕎麦屋が見えたりする。以下本文より抜粋。

    『―どうもこの店よりもあっちの方がうまいのではないか、とそこでフト思う。フト思いつつ目の前の店

    を眺め、再び更科の方を眺めると、もう圧倒的にむこうの方がうまそうに思えてくる。交差点を渡り、更

    科そばの前にやってくると、どうもそこは客の気配がない。さっきの店の方がざわついていて活気があっ

    た。客がいない、というのはつまりここはおいしくない、ということではないのか。あまり客がこないの

    で、来週あたり店をたたんで長野の実家に帰ろうとしているのではあるまいか―。疑心はすばやく暗鬼を

    誘い込み、その店の奥でいま丁度店をたたむ打ち合わせをしているところではないか、などと思えてく

    る。フト、舗道のすこし先を見ると焼き肉屋の看板が見える。そうか焼き肉定食という手もあった

    な・・・と思う。あったかーいゴハンに、焼けたばかりのカルビ、ロースなどを特製タレにたっぷりつけ

    てフハフハ言いつつ食べていくのも、平凡な日々の昼食としてはかなり充実したものではないか―とフト

    思う。とにかく店の前まで行ってみようと歩いていくと、その隣に「スパゲティ」の文字がチラリと見え

    る。―そうだなあ、昼間から一人でビールも飲まず焼き肉定食を食べている、などというのもわびしいな

    あ、と思い、方針を急遽スパゲティの方向に切り換えてそのドアをあけようとすると、ガラスごしに中に

    高校生ぐらいの女の子が七、八人、わあわあ言いながら食べているところが見える。この手のけたたまし

    さの中でスパゲティを食べるのはたまらない。やはり中年は中年らしく、「生蕎麦」の方でおとなしくう

    つむいて「モリソバ二枚」などを食べ、静かに「ハアーッ」とため息などついているべきかもしれない。

    そう思って振り返るのだが、もうさっきの店からずいぶん遠くまで来てしまっているのに気づくのだ。気

    がついた時はああふるさとはあんなはるか・・・、という心境で、なんだか自分はとりかえしのつかない

    ことをしてしまったような気になる。』

    わかる、わかるよ、椎名さん。思わず笑ってしまいつつも、思えば僕だっていつもラーメンにするか蕎麦

    にするか、吉野家に行くか、はたまたカップラーメンで済まそうかホカ弁にしようか迷うのだ。

    そんな日常のシーンが椎名さんの手にかかれば見事な椎名ワールドに変貌を遂げていくのだ。

    他にもラーメン屋などによく飾られている芸能人のサインについて考察する「色紙エレジー」や、どうぞ、

    どうぞと気を使い合う「全日本おしゃく問題」など抱腹絶倒のエッセイが満載の作品であった。

    いや〜椎名さん、やっぱりあんたは最高ですよ。久しぶりに【わしら怪しい探検隊】シリーズ(椎名誠と

    その仲間たちが繰り出す旅のエッセイ集)が読みたい気分になりました。

著者プロフィール

1944年生まれ。作家。1988年「犬の系譜」で吉川英治文学新人賞、1990年「アド・バード」で日本SF大賞を受賞。著書に「ごんごんと風にころがる雲をみた。」「新宿遊牧民」「屋上の黄色いテント」「わしらは怪しい雑魚釣り隊」シリーズ、「そらをみてますないてます」「国境越え」など多数。また写真集に「ONCE UPON A TIME」、映画監督作品に「白い馬」などがある。

「2012年 『水の上で火が踊る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

椎名誠の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×