収容所(ラーゲリ)から来た遺書 (文春文庫)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167342036

作品紹介・あらすじ

敗戦から12年目に遺族が手にした6通の遺書。ソ連軍に捕われ、極寒と飢餓と重労働のシベリア抑留中に死んだ男のその遺書は、彼を欽慕する仲間達の驚くべき方法により厳しいソ連監視網をかい潜ったものだった。悪名高き強制収容所に屈しなかった男達のしたたかな知性と人間性を発掘して大宅賞受賞の感動の傑作。

感想・レビュー・書評

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  •  本書が原作の映画『ラーゲリより愛を込めて』が昨年末公開され、映画ノベライズも刊行されました。私は未鑑賞・未読ですが、「ここはやはり原作を」と思い、本書を手にしました。
     単行本は1989年刊です。まず本書の目次の次ページにある、見開きの「旧ソ連領内抑留日本人収容所分布図」を見て驚きを隠せません。広大な土地に記された夥しい数の収容所。そこに60万人が俘虜となった‥。唖然とします。

     物語では、戦争が産んだ悲惨で過酷な収容所生活、仲間との絆、家族への想い等が描かれます。
     読み進めるのが辛く感じるほどの重苦しさです。しかし、私たちはこの事実を知らねばならないでしょう。なぜなら、過去の歴史と多くの犠牲の上に生きているのですから。(偉そうですけど‥)

     しかし本書の肝は、戦争の悲惨さを背景にして、どんなに理不尽でも絶望せず、置かれた状況下で喜びや楽しみを見出し、それを他人へも波及させてしまう精神の強靭さと凄さを持ち合わせた一人の人物の生き様です。この山本幡男さんの存在を広く知らしめ、その崇高さを存分に謳いあげた物語と言えるでしょう。
     山本さんの、(個人の遺書を超越し)亡き収容所の仲間を代表した、祖国日本人宛の願いに通じる遺書を、仲間が分担し「記憶」の形で届けるという、奇跡的な帰還を果たした事実に、涙します。
     感動などという、ありふれた薄っぺらい言葉では伝えられないほどの深い感銘を覚えました。

     戦争、極寒、飢え等のマイナスイメージから敬遠されそうですが、若い世代の皆さんにほど、おすすめしたい一冊だと思います。
     ロシアのウクライナ侵攻からまもなく1年になります。一日も早い終結を願うばかりです。

  • 第二次世界大戦の敗戦のあと、シベリア各地の収容所で12年もの長い年月を送らねばならなかった日本人捕虜たちの群像を、主人公である山本幡男氏の生涯を描いたノンフィクション。

    著者によると、シベリアに抑留された日本人捕虜は60万人。収容所の数は1200ヶ所。酷寒と飢えと重労働のせいで亡くなったのは70000人超。

    山本が書き残した遺書を記憶し、日本に持ち帰って遺族に渡そうとした元捕虜たちの物語である。

    本書を通じて戦争について、また人間としての壮大な思想や友情、あらゆる事を考えさせられる作品でした。

    • aoi-soraさん
      TOMさん、こんばんは

      昨年末に映画「ラーゲリより愛を込めて」を鑑賞後、この本を買って帰りました。
      感情の高ぶりが落ち着いてから読もう。
      ...
      TOMさん、こんばんは

      昨年末に映画「ラーゲリより愛を込めて」を鑑賞後、この本を買って帰りました。
      感情の高ぶりが落ち着いてから読もう。
      と大切に積んでおいて、まだ未読です(^_^;)
      捕虜60万人って、すごい数ですね。

      早く読もっ(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)
      2023/03/21
    • TOMさん
      aoi-soraさん
      コメントありがとうございます♪

      私はまだこの映画を観てないんですよ。
      過酷で酷寒な地での収容所生活がどう描かれている...
      aoi-soraさん
      コメントありがとうございます♪

      私はまだこの映画を観てないんですよ。
      過酷で酷寒な地での収容所生活がどう描かれているのか、ただ本を読んで、この先にある希望や絆、そして愛情がとても深く感じられる作品に仕上がってるんじゃないかなって想像しちゃいます。

      早く観てみたいですっ!!!
      2023/03/21
    • aoi-soraさん
      映画、とっても良かったですよ。
      でも私は、たいした予備知識もなく観たのでめちゃくちゃ感動しましたが、原作を知っているとどうなのかは分かりませ...
      映画、とっても良かったですよ。
      でも私は、たいした予備知識もなく観たのでめちゃくちゃ感動しましたが、原作を知っているとどうなのかは分かりません(^.^;

      そうそう、以前TOMさんに教えて頂いた「螢草」を借りてるんです。
      いま読んでる本を終えたら次に読む予定♪
      2023/03/21
  • 良作の一冊。

    シベリア抑留という理不尽かつ過酷な日々を描き、命を落とした一人の日本人、山本が死の間際に渾身の思いでしたためた遺書が心を力強く打つ物語。

    この時代、極寒の地でいつか祖国の大地を踏むために俳句を通じて希望という灯を灯し続けた日本人の底力に、仲間の力に、優しさに心揺さぶられてやまない。

    手紙一通がどれだけの生きる希望になりその手紙にどれだけの防御が必要だったか、平和ボケの自分をまた思い知った。

    "言葉の旅"、仲間、犬との絆まで…人は常に支え合いつつ生きていることを痛感した11年間の"時"が心に残る良作。

  • 第二次大戦終戦後、俘虜(捕虜)として、収容所で強制労働を強いられた日本人達を描くノンフィクション小説。登場するご本人たちへの取材を行い、書かれた本だ。

    戦争を知らない、ましてや捕虜になどなったことがない。
    私は、この物語を通じて何を想うか。
    語ることなど決して出来ようもない。
    今はこの本から、知ることだけで精一杯だ。

    山本さんの放つ生命力。国へ帰ることを決して諦めず、囚われの身ながらも前向きに生きた男だ。
    最後に彼は、病のために生きて日本へ帰ることが、叶わないことを悟り、家族へ遺書を残す。

    厳しい検閲を潜るために、遺書は複数の有志に託され、記憶として日本へ持ち帰られる。山本さんを慕った男達は、山本さんの妻モミジさんに、各々の方法で遺書を送る。こうして戦争の時代から、新しい時代へと一歩踏み出していった。

    読了。

    • nejidonさん
      ツカチヨさん、こんばんは(^^♪
      コメント欄でははじめまして。
      いつもお読みいただいてありがとうございます。
      これは、良い本ですよね。...
      ツカチヨさん、こんばんは(^^♪
      コメント欄でははじめまして。
      いつもお読みいただいてありがとうございます。
      これは、良い本ですよね。
      何度読んでも泣けてしまいます。特に必死で遺書を書く場面。すごい精神力です。
      私が読んだのはずいぶん前ですが、これを紹介したくてブクログを始めたようなものです。
      レビューを見て、つい嬉しくてコメントしました。失礼しました。
      2020/09/03
    • ツカチヨさん
      コメントありがとうございます。

      戦後の省略された記憶であり、目を逸らしてきた現実だったのかもしれません。
      日本の終戦が、彼らの終戦では無か...
      コメントありがとうございます。

      戦後の省略された記憶であり、目を逸らしてきた現実だったのかもしれません。
      日本の終戦が、彼らの終戦では無かったのでしょう。
      敗戦がもたらした一つの事実を知ることは意義がありました。

      2020/09/03
  • 歌人でもあり、ノンフィクション作家でもある辺見じゅんさんは、角川書店の創設者・角川源義の娘さんです。
    この『収容所から来た遺書』で、89年に講談社ノンフィクション賞、翌90年には大宅壮一ノンフィクション賞とを、ダブルで受賞しています。

    『収容所』というと、囚人や捕虜を強制的に入れる施設のこと。
    『遺書』とは、死後のことを考えて書いた手紙や文書。
    さて、どんなひとがどんな経緯でどんな遺書を書いたのでしょう?

    その前に、この実話の背景を、簡単におさらいしてみます。

    終戦前、もう戦争はやめるとロシアに伝え、やめる際の仲介役を頼んでいました。
    日本が戦争をやめるのを、ロシアは予め知っていたのです。
    その頃ロシアは他の国と、日本の領土のどこをぶんどるか、相談をしていました。

    しかし、米国のルーズベルト大統領が急死して、千島列島と北海道を半分もらう約束がご破算になりそうでした。
    後任の米国大統領・トルーマンが、千島列島も北海道もロシアには与えないと言ったからです。

    そこでロシアは、「日ソ中立条約」をかわしていたにもかかわらず、また終戦となるのを知っていたにもかかわらず、8月9日突然宣戦布告をして満州に突入したのです。

    その後のことは、戦争ですからここで書くのもおぞましいほどです。
    満州や朝鮮にいた多くの日本人が虐殺され、女性たちは犯され、赤ん坊までが殺されました。
    中国にいた日本人も、同じような運命をたどりました。

    このことは、あまり日本国内では語られることがありません。
    わたしはたまたま学生のときに、同級生の祖父にあたる方から聞きました。
    その方はシベリア抑留から帰還された方でした。

    その後、およそ50万人とも60万人とも言われる日本人が、捕虜としてシベリアに送られたのです。
    すでに武装も解除し夏服のままでした。
    酷寒の地へ連行され、極度の飢餓と強制労働のなかで亡くなったひとの数は、ヒロシマで亡くなったひとの数とほぼ同じだそうです。

    そのとき、満州鉄道で働いていた『山本幡男(1908~1954)』という人物も、収容されていました。
    この本で言う「遺書」とは、山本幡男氏が日本にいる家族に宛てて書いたものです。

    しかし、その届き方が尋常ではありませんでした。
    山本幡男氏が亡くなったのは昭和29年8月25日。
    ハバロフスクの強制収容所です。
    一通目の遺書が日本の家族のもとに届いたのは、昭和32年1月半ば。それも、彼の書いた文字ではありませんでした。
    そして、最後になる七通目の遺書が届いたのは、山本幡男氏が世を去ってから33年目にあたる、昭和62年夏のことなのです。
    何故、こういうことが起こったのでしょう。
    それこそが、このノンフィクションの示すところです。

    一片のパンさえも奪い合う過酷な条件のなかで、多くのひとは心身ともに虚脱状態になっていく。
    しかしそれに屈しなかったひともいたのです。それが山本氏でした。
    「生きて、必ずみんなで帰国しよう。その日まで、美しい日本語を忘れないように。」そうみんなを励まし続け、道具など何一つ無くても出来る「句会」を、収容所内で開き続けたのです。

    文字など見つかったら即没収。
    スパイの嫌疑がかけられ厳しい懲罰を受けます。
    最初は地面に書いて、読んだら消すという繰り返し。
    集会を開くことも難しいなか、何度か解散の憂き目にも遭い、それでも人数は増えていったのです。
    それはひとえに山本幡男氏の人柄によるものでした。

    何気なく見ているもののひとつひとつが季節の言葉になると教える彼は、収容所のひとたちに新しい息吹を与えたのです。

    望みは叶うことなく、彼は収容所内で死の床につきます。
    そして、ノートにして15ページにもおよぶ遺書を書きました。
    しかし、収容所からメモなど持ち出すことは出来ない。
    彼を慕うひとたちは、それを驚くべき方法で日本国内に持ち込んだのです。
    実に4,500文字にもなるその遺書を、彼らはしっかり暗記したのです。何通にもなったのは、もしもの場合を考えて分担したからでした。

    そして、住所さえも分からなかったのに探し当てて、山本幡男氏の遺族の元にすべて届けられたのです。

    帰国の日を待ちわびながら亡くなった多くのひとたち。
    その棺には、名前を書くことさえ許されませんでした。
    しかし、山本幡男氏の詩や俳句、短歌や文章の大半は、友人たちの記憶によって復元され、また辺見じゅんさんの丹念な取材で本になっているのです。まるで奇跡のような一冊です。

    たとえどんな過酷な状況にあっても、人間らしく生きることが出来る。
    わたしはそのことを、たとえようもなく美しいと思うのです。

    抑制された静かな文章は、時間軸にそって淡々と進みます。
    収容所内の悲惨な有様は、ときに目を疑いたくなるほどです。
    そして、終盤は涙なしでは読めません。

    北海道が日本の領土として残ったのは、米国がロシアに対して、捕虜を連れて行く代わりに北海道は残すようにと言ったからだそうです。
    すると、今の北海道があるのは、こんなに多くの犠牲のうえなのですね。

    • nejidonさん
      お読みいただいた皆様へ

      長文にお付き合いいただき、ありがとうございます。
      ブログ記事を貼り付けたもので、文章も長さも当時のままです。...
      お読みいただいた皆様へ

      長文にお付き合いいただき、ありがとうございます。
      ブログ記事を貼り付けたもので、文章も長さも当時のままです。
      学生時代にこの本に出会ってから、ただこの一冊を紹介する機会が来ることだけを願っていました。
      ブログと、そしてこのブクログでレビューを載せることが出来て非常に喜んでおります。
      どうかひとりでも多くの方に本書を手に取っていただけますように。
      2020/08/05
  •  シベリア抑留中に亡くなった男の遺書はある方法をによって厳しいソ連の監視網を潜って家族のもとに届けられた、真実の物語。

     映画「ラーゲリより愛を込めて」を観てとても良かったので、原作を手にしてみました。

     映画との違いに初めは戸惑いましたが、事実に迫る描写に捕虜生活の過酷さを読み取ることができました。

     そして、俳句という日本の文化がこの捕虜生活の中でとても重要な救いであったことも強く伝わってきました。

     家族のもとに届けられた遺書が全文残っており、涙なしでは読めない内容でした。

     これらのことから、俳句をはじめ、日本語の表現や文化がこの過酷な捕虜生活を支えていたのではないかと感じました。

     日本語という言葉の力の素晴らしさを再認識することができたと思います。

  • 二宮和也 主演の映画『ラーゲリより愛を込めて』の原作本。
    高校生ぐらいの課題図書にしてほしいぐらい、とにかく今だからこそ読んでほしいノンフィクション。

    日本敗戦後のロシアにある収容所での12年間を語るノンフィクション作品。
    明晰な頭脳を持ち、収容所に入られた捕虜たちに慕われた山本幡男さんを中心に語られる。
    まさに『能ある鷹は爪を隠す』がピッタリな人です。
    ロシア語が堪能で収容所でも通訳をしていた程の人が、スパイと見なされ理不尽な対応を受ける。
    捕虜となった人々も様々な理不尽に遭い、過酷な労働をさせられる中、帰国の日を夢見て生き延びる日々。
    自然環境も生活環境も過酷な中で日本へ帰還できる望みを決して捨てず、自身の持つ教養を活用して人々の心を救う姿に胸を打たれます。

    やがて山本さんはガンを患い、日本への帰還を待たずに、この世を去ってしまう。
    その前に書かれた遺書を、どうやって遺族に届けるか。
    書面に残せば没収され、スパイ行為とされ監獄送り。
    そんな厳しく理不尽な環境で、人々は自身たちの記憶を頼りに遺族へ伝えることを考える。
    何年かかるか分からないし、自分たちか生きて帰国できるかも分からないのに。。
    結果、捕虜とされていた人々は日本へ帰還。
    遺書は山本さんの遺族に届けられ、最長で33年かかって届けられた書面もあったそうです。

    遺書を記憶する人も選抜しないといけないところが、また辛い。。
    遺書の存在がバレて、ロシア側にスパイ行為として密告される可能性もある。
    覚書ですら、見つかれば没収・監獄へ。
    まさに人が人を信じたからこそ起こった奇跡だと思います。

    そして、その遺書は山本さんのお母さん・奥様・子供たちへと宛てられているのですが、子供たちへ宛てた部分は未来の日本人への願いだと感じました。
    また、山本さんの行動からは教養の大切さを学びました。
    自身の持つ教養を共有すること(句会を主催していた)で人々の心の慰めになり、人々の心を動かした。
    柔軟さもありながら自分をしっかり持つ強さも見習いたい。

    この本に携わった全ての方々へ、しきれない程の感謝を。

  • 以前、私の周りにはキャラの濃い友人が多いと書きましたが、その中の1人に本人は読書をあまりしないのに何故か私の読書事情を把握したがる女性がいます。
    そんな彼女に「そろそろ部屋で軍歌を流し出しそうやな、そうなったら絶対に遊びに行かへんから言ってよ。」と、あらぬ疑いを掛けられましたので暫く第二次世界大戦関連の本から離れようと思っていたのに、気付けばまた手を出してしまいました。

    もういっそ大音量で『日の丸行進曲』でも流してやろうかと思う私ですが、本作は敗戦後にソ連軍に捕われ、極寒と飢餓と重労働で有名なシベリア抑留をされていた山本氏と、山本氏と関わった仲間達のお話です。(嫌な知名度ですけれど)

    タイトルでお分かりのように山本氏は残念ながら抑留中に病死をされてしまうのですが、6通の遺書を仲間達があの手この手を使って(この方法が本当に凄い…。こっちまで冷や冷やしました)厳しいソ連監視網をかい潜って持ち出し、遺族の元へ。
    遺書すら持ち出させない徹底ぶりにやりかねないなと得心しつつも少し苛立ちましたが…。
    これがノンフィクションだと言うのですから、畏敬の念が溢れるあまり敬礼しそうになりました。
    本当に凄い。そして仲間をここまで駆り立てる山本さんのお人柄…。

    いつも明るく前向きに、41歳の山本さんが「まだまだ若いから未来がある」と生きる希望も体力も失いかけている同胞に勇気を見せ、スポーツ大会では実況で皆を笑わせ、俳句の回を催して皆を癒し…

    これはフランクル著の『夜と霧』日本人バージョンだと感動しました。
    人種が違えど、どんな時でも希望を失わず周りの同胞を慮り愛情を忘れずに接する。
    私に同じ事が出来るとは到底思えません。

    最近あまりにも本に泣かされるので、今回は泣くもんか!と耐えていたのですが、祖国に戻って瀬戸内海を見つめ、同胞であった野本さんが山本さんを想って彼に教わった詩を涙ながらに詠む場面で「もう知るかぁー!!悲しいもんは悲しいんやー!!」と軍歌の流れていない部屋で涙腺ダムを崩壊させました。

    遺書が遺族の方に届いたのは山本さんが抑留されてから12年後。戦後もご家族の戦いは続いていたんですね。今後の長い人生において挫けそうになった時や人道を外れそうになった時は(そうならない事を切に願いますが)本作を思い出し、戦って下さったご先祖さまやご家族の方に恥じぬような生き方をしようと心に決めました。
    手始めに私をおかしな目で見る友人達を笑って許そうと思います。(人間が小さすぎる)

    最後に、山本さんの詠んだ句では無いのですが、句会で仲間の方が詠んだ詩があまりにも美しかったので置かせて頂きます。

    『祖国近し 手にゆく雪の すぐ溶けて』

  • 大宅賞と講談社ノンフィクション賞のダブル受賞作品。
    題名から、文書で届いた遺書に基づく作品かと思っていた。
    しかし、強制収容所から出るときには、紙類など記録媒体は持ち出せず、何と抑留されていた仲間たちが頭の中に記憶し、あるいは小片に折りたたみ肌着に縫い付け、日本に帰ってから一字一句を文章化して遺族に届けたという。
    彼らの巧まざる努力と知性に、驚嘆するばかり。
    その遺書とは、ダモイ(帰国)情報で彼らを励まし、収容所生活に少しでも潤いをと俳句を主宰した山本幡夫のもの。
    その彼自身が病に倒れ、帰国を果たせなかったとは。
    著者による、帰国した人びとに対する綿密な取材が、リアリティに満ちた感動の傑作となっている。
    遺書を託された人物が何度も書き写したという、山本の関心が日本の将来に向いていたという言葉。
    「日本民族こそは将来、東洋、西洋の文化を融合する唯一の媒介者、東洋のすぐれたる道義の文化――人道主義を持って世界文化再建に寄与し得る唯一の民族である。この歴史的使命を忘れてはならぬ」
    些か誇大的ではあるが、傾聴に値する言葉と言っていい。
    重苦しい話が続く中、収容所に紛れ込み、彼らに懐いて、帰国の船を追って海に飛び込んだ犬のクロを救い上げたという逸話には、ホッとさせられる。

  • 映画の公開と同時にネットに掲載されたコラムに書いてあったので、読んでみたかった作品。
    映画を観て、その足で本屋へ。
    もっとルポタージュっぽい作品なのかと思っていたが、文章が小説のような感じで描かれているので、すごく読みやすかった。
    第二次世界大戦後、満州に残された男性たちは捕虜となり、旧ソ連に連行された。
    その中に元満州鉄道の職員だった山本幡男と言う人物がいた。
    ロシア語が堪能で、ロシア人との通訳も勤めた山本だが、人柄が良く、重労働や極寒の中で疲弊していく捕虜たちを励まし、どんな状況でも「ダモイ」を諦めなかった。
    しかし、元々身体が弱かった山本は「ダモイ」を前に癌で亡くなってしまう。
    手紙を始め、文章など残せなかった山本の「遺書」を6人の仲間たちが11年越しに、山本の遺族に届けると言う実話。
    正直、「ラーゲリ」と言う言葉を映画になったことで知ったし、たくさんの戦争関係の書物を読んで来たと思っていたが、旧ソ連の捕虜の方の話は無知であったことを恥じた。
    山本は決して派手に何かをした人物ではない。
    しかし、仲間たちがそれぞれ家族の元へ「遺書」を届けようと思うほどなのだから、きっと描き切れない優しさに溢れた人であったのだろうと想像するしかない。
    元々の映画の原作である今作。
    今作では「遺書」を届けるのは6人であるが、映画では登場人物を集約する為、4人となっている。
    映画に登場する4人は架空の人物と言うことで、それぞれの登場人物のエピソードを組み合わせているとのこと。
    どのエピソードが誰の物語になったか、考えながら読むとなかなか興味深かった。

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