妖怪と歩く: ドキュメント・水木しげる (文春文庫 あ 22-3)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167344054

作品紹介・あらすじ

水木しげるという人はいつどこにいても自分の心を楽しませるものを即座に見つけだすことができる、だから幸せなのだと思った。『ゲゲゲの鬼太郎』『悪魔くん』『河童の三平』などで知られる漫画家・水木しげるに二年にわたり密着取材し、手塚治虫と並ぶ巨匠の実像を多面的に描く渾身のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 好きな作家だ。初読は「日本海のイカ」。華やかさには欠けるが丹念な取材の積み重ねによりイカを通して日本を語ってみせた。一方好き嫌いはあれど知らぬ者はいない妖怪漫画家・水木しげる。名もなき市井の人々を描き続けて来た著者が果たしてこの超有名人をどう料理するのか?一見取材に協力的な水木であるが頁が進めど一向に素顔が見えてこない。失敗作か?やがて食い違う二人の会話を読みながら題名がふと浮かぶ。これは著者の計算づくの構成か!いずれにしろ著者と歩いたのは確かに妖怪だ。背中を向けてペロリと舌を出す水木の顔が見えるようだ。

  • 朝の連ドラ「ゲゲゲの女房」は、3週目くらいからだいたい見ている。(今週は、こんな俗悪なものを子どもに読ませないよう要望する!という圧力団体が、貸本屋の店先で、しげる作の『悪魔くん』を罵っている)

    ドラマのせいか、図書館では原作だという『ゲゲゲの女房』や、娘の『ゲゲゲの娘、、、』には、けっこうな予約がついているが、水木しげる本人の本は(たくさんあるせいもあるのだろうが)けっこう空いている。

    父ちゃんの手術のもろもろに付き合ったあと、日曜の帰りに、本屋で『ミーツへの道』を買い、図書館では珍しくカードが空いていたので、ぶらぶらと書架をまわって、美術付近の棚でみつけた『妖怪と歩く』を借りた。水木しげるに2年くっついて書いたという人物ドキュメントである。

    この、足立倫行という著者の名も、どこかで見たことがあるような気がするが、何か読んだことがあるのかとあれこれ検索してみても、どうもぴんとくるのがない。

    帰って、布団にころがって、『ミーツへの道』を読んでしまい、それから『妖怪と歩く』を読んだ。

    最初の章はいきなり「正体不明の人」とタイトルがつけてある。たぶん、フツーに思ってるようなことでは、水木しげるのことはワカランという意味だろう。こんな人かな…と思うと、ちがう。じゃ、こんな人かな…と思っても、ちがう。そういうようなことが書いてある。

    最初のあたりに、水木の言葉が引かれている。

    「本当は、目に見えないものを形にするのが芸術本来の姿だと思うんですよ」 (p.7)

    これを読んで、『はなげばあちゃん』の作者、山田さんに聞いた話を思い出した。ほうぼうの出版社へ持ち込んでまわったとき、画面に描かれている人たちの顔の色のことを、「こんな人はおらん」と、何度もなんども言われたらしい。

    写生で描いた絵本というのもあっていいだろう。でも、「肌色」という「色」がないように、こんな人もおってええやろと、山田さんの話を聞いて私も思った。

    「事実」とか「現実」というものについては、著者の足立倫行が書きとめているこの言葉も印象的だった。水木と、かつてラバウルの野戦病院で水木を診察したという軍医・砂原との対談を聞いていての話である。
    ▼事実は事実でも人間関係にかかわる事実というのは不思議だった。ある人にとって無かったに等しいことが、別の人には圧倒的影響力を持ちその人の人生を変えてしまうのだ。(p.168)

    そして、水木の周りの、水木にかかわった人たちの話から見えてくる、水木のさまざまな像。

    「とにかくあの人は"しちゃいけない"ということを必ずやってしまう人です。…"あそこは危ないですから行かないで下さい"と言うと、必ず行っちゃう。今、その瞬間に興味あるものがすべて、なんです。あの好奇心のすさまじさは二十代の青春期の人間そのものですよ」(p.213) これはパプアニューギニアへ行く水木に同行した加藤の話。

    「…普通の人なら隠してしまうそういうマイナス面を実に素直に見せてしまう、そこがまた何とも言えずいいんですね。それを人間的な魅力と呼んでいいのかどうか、よくわかりませんけど…」(p.233) これはハイグレードな水木本を出すための編集工房「籠目舎」を旗揚げした伊藤の話。

    「…水木さんが関心があるのは、一人一人の人間じゃなくて、この世界の構造そのものなんじゃないかと思う。その意味では、手塚治虫に始まる近代主義、心理主義に頑として背を向けている作家は、現在のマンガ界では水木しげるしかいないと思う」(pp.244-245) これは小学生の頃から大の水木ファンだという、映画監督・天願の話。

    著者の足立が書きとめる、水木の労働観。これがなかなかいい。
    ▼水木はふだん「あくせく働く生活はバカバカしい」と公言している。「猫のように、生活のための労働をいっさいしないのが理想」だが、それが不可能ならば「ニューギニアの土人たちのように、一日二時間ほど働いてあとは遊んで暮らしたい」と言う(土人というのは"大地の人"という意味で、水木にとっては最大級の称賛語であり、決して差別語ではない)。(p.26)

    ところが、水木ははなはだしく言動不一致で、日常は絵に描いたようなワーカホリックである。ドラマでもやっているように、貧乏とたたかうために働いて働いて働いて、それでも報われず貧乏だったせいもあるのかもしれないが、それでも南方への憧憬、こんな暮らしがええなあという思いは、ラバウルで兵隊だった頃からずっと、この人の中にあるらしい。

    「正体不明」の水木しげるは、えらいおもしろかったので、自伝もそのうち読んでみようかなと思った。
    ・『のんのんばあとオレ』
    ・『ほんまにオレはアホやろか』
    ・『怪感旅行』
    ・『ねぼけ人生』
    ・『娘に語るお父さんの戦記』

  • 先生の著書ではないですが・・・

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著者プロフィール

1948年鳥取県境港市生まれ。早稲田大学政経学部中退。在学中にアメリカや北欧の旅に。70年秋からは約2年間、世界各地を見て回る。沢木耕太郎、吉岡忍らとともに「漂流世代」を代表するノンフィクション作家。

「2021年 『イワナ棲む山里 奥只見物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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