黄昏のベルリン (文春文庫 れ 1-16)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167420161

感想・レビュー・書評

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  • 謎についての設定は、見事だと思う。

    主人公はドイツからやって来た女性から、自分の出生について告げられ、その謎を解き明かしていく。

    各国の登場人物たちが、一つのストーリーにまとまっていく過程を読み進めていくのは面白かった。

    が、しかし、である。

    主人公を始めとして、急に恋人から別の女性に心変わりしたり、また別の女性から元の恋人に戻ったりと、全世界を舞台をしている割に心情を描く部分についてはリアリティに欠けてしまう。

    限られたページの中に収めていくには、しょうがない部分があるにしても残念である。

    できれば、ラストの終わらせ方についても、もう少し突っ込んで話を終わらせてほしかった。

  • 冒険小説、国際謀略小説の名作との誉が高いがいかがだろうか。

    流石に30年以上前の作品なので、ベルリンの壁も健在で古さは拭えないが、昨今の世界的な右傾化を見ていると全くリアリティがないわけではない。

    ロシアのウクライナ侵攻でも、ロシアがウクライナをネオナチ呼ばわりしている事(とんでもない錯誤と言うか言いがかりだと思うが)をとっても、ヨーロッパの人々にとっては今もリアリティがあるのだろう。

    典型的な巻き込まれ方のストーリーで話は進むが、お話そのものは派手なアクションがあるわけでもなく淡々と進んでいく。大風呂敷を広げた割にはエンディングは尻すぼみの感がある。

    大風呂敷を広げたついでに行くとこまで行った方が面白い物語になったかもしれない。

    やはりこの手のお話は外国の作家さんの方が一日の長がある気がする。

  • 東西冷戦下。壁によって東西に分断されたドイツを舞台にした国際謀略小説。

    日本人画家の主人公・青木が自身の出生の秘密を探るうちに、ある国際的な陰謀に巻き込まれるストーリー。

    第二次大戦下、ナチスの強制収容所でユダヤ人の父と日本人の母の間に生まれた子が青木であると、謎のドイツ人女性・エルザから打ち明けられる。ここから反ナチのユダヤ人団体の助けを受けて青木は母親を探しにヨーロッパへ渡る。が、知らず知らずに巨大な謀略に巻き込まれていく。

    精緻な構成と人物の造詣は抜群。細かい情景描写の筆致も内容と相俟って重さとミステリアスな世界観を醸しだし、ストーリーと調和している。最後まで読ませ飽きない。

    物語は二つの謎(青木の出生秘密と彼を手助けする反ナチユダヤ人組織の目的)とエルザと青木の恋愛を軸に成り立っている。これらの展開は構成が緻密で読ませるのだが、肝心の謎解きの結末がいささか陳腐だ。

    ネタバレを書くと、青木の出生の秘密が、実は日本人女性との間にできたヒトラーの子であることが明るみに出る。さらに青木を助けていたユダヤ人組織は、実はこの事実を利用しナチス再来を目論む反ナチ組織を装ったネオナチのグループだったことが分かる。
    このオチは、冷戦が終わり東西ドイツが統一されてから20年以上経つ現在から読むとすんなり腹に落ちない。というかピンとこない。。
    サスペンスとしても物語の構成としても、謎解きのスリリングは重視していないのかもしれない。困難と危機のなかで燃え上がるエルザと青木との恋を描くことが重点で、ヒトラーの子であった出生の経緯や、その事実を利用したい組織の謀略などは物語のツマである可能性もある。が、結末が結末なだけに読後の驚愕と納得感が少ない。


    ただ、この結末を以ってしても筆致と構成の素晴らしさは補って余りあるほどの魅力を湛えている。この点だけでも一読の価値あり。

  • 2014.8.3ー55
    ナチスによるユダヤ人虐殺から戦後のネオナチにより謀略と題材が興味深いものの、相変わらずの恋愛上の裏切りの二転三転は少々シツコく鬱陶しい。

  • 1988年の作品、「このミス」第一回3位です。

    この作家さんは最近『戻り川心中』という短編集を読み、その完成度の高さに感服しました。さらに前に直木賞受賞の『恋文』(どちらかというと恋愛モノ)を読んでます。

    今作は現代(20年以上前ですが)の東京~パリ~ベルリンと舞台を移し物語が進みます。旧ナチ残党が絡む国際謀略サスペンスと一言で言えないこともないでしょう。

    主人公は出生の謎を持っていて、自分の母親を探す旅がついには出生の謎に辿りつく…というのが大筋です、しかしストーリー自体は荒唐無稽というか、「なんじゃそりゃ?」と、突っ込みたくなる出来栄えでした、個人的にですけど…

    それでもそれなりに楽しめたのは、男女の感情の機微についての描写、背景、町並み、部屋の中等々、色彩を読者に感じさせる描写、この二つが非常に優れていて読者を魅了するのだと思われます。(解説に書いてある通りに納得です)

    既読のモノもそうですが、世界は男と女でできている!的な恋愛感情の交錯がストーリーに絡んできます、エロい描写はないのですが行間にそれを感じさせる書き方が個人的に好むところですし、その風景に色彩が鮮やかに入り込んできます。小説は言うまでもなく文字を読んで、読者が脳内でその世界を構築していくわけですが、その世界に色をつけていく作業がこうもたやすく可能せしむる、のはやはり作家の力量なのでしょう。

    旧ナチ残党絡みの小説といえばフレデリック・フォーサイスの『オデッサ・ファイル』が世界的に有名でかなり昔に読みました。主人公が真相に近づくプロセスのドキドキ感、結末の反転と読みごたえ充分でした。

  • 「連城三紀彦」の長篇ミステリ作品『黄昏のベルリン』を読みました。
    『夜よ鼠たちのために』、『運命の八分休符』に続き、「連城三紀彦」の作品です。

    -----story-------------
    画家「青木優二」は謎のドイツ人女性「エルザ」から、第二次大戦中、ナチスの強制収容所でユダヤ人の父親と日本人の母親の間に生まれた子供が自分だと知らされる。
    平穏な生活から一転、謀略渦巻くヨーロッパへ旅立つ「青木」。
    1988年「週刊文春ミステリーベスト10」第1位に輝いた幻の傑作ミステリーがいま甦る。
    -----------------------

    1988年(昭和63年)に発表されたスパイ小説… 東西ベルリンに集まるスパイ群像を描いた幻の傑作とも呼ばれている作品です。

     ■一章 最後の一日
     ■二章 過去への国境線
     ■三章 亡霊たち
     ■四章 第三のベルリン
     ■五章 黄昏から夜へ
     ■解説 戸川安宣

    日本人の母親、外国人の父親を持つ画家の「青木優二」は、見知らぬドイツ人女性「エルザ」から接触を受けた… 「エルザ」によれば第二次大戦中、ナチスドイツのユダヤ人収容所ガウアーで、ユダヤ人の父親と日本人の母親の間に生れた赤ん坊が「青木」だと言うのだ、、、

    「青木」は平穏な生活から一転、謀略が渦巻くヨーロッパへ旅立つ… 四十余年を隔てて蘇える驚異の謎とは何か? 東京―パリ―ベルリン―ニューヨーク―リオデジャネイロを舞台にネオナチと反ナチの陰の戦い。

    あの戦争終結直前、日本人「青木」の体に埋めこまれたナチの印しとは? 二転三転、意外極まる結末へ… 壮大かつ緻密な仕掛けの長編推理ロマン……。


    日本の作品にしては珍しいグローバルな視点での作品でしたね… かなりインパクトの強い解なのですが、あの男が画家志望だとを知っていれば、主人公の職業が画家という点で、真相に気付く読者も多いかもしれませんね、、、

    荒唐無稽な展開ですが、これくらい大胆な展開の方が中途半端な展開よりも清々しい感じがして良いですね… 東と西の入れ替えや、父親の正体、ネオナチとユダヤ人の保護組織等、巧くミスリードさせられる展開も愉しめました。

    視点が目まぐるしく変わるし、変わるタイミングが分かり難いので、今が誰の視点なのかちょっと戸惑いもありましたが、中盤以降は文体に慣れて意外とサクサク読めました… 最後の最後まで誰が真実を語り、誰が嘘をついているのか、疑心暗鬼の状態が継続する展開も好みでしたね、、、

    1980年代の謀略が渦巻くヨーロッパ、冷戦時代のベルリンを舞台にした、恋愛あり、アクションあり、トリックありの本格スパイ小説… ヨーロッパの香りのする日本産のミステリ小説でした。


    以下、主な登場人物です。

    「青木優二」
     画家、美術大学の講師

    「エルザ・ロゼガー」
     ベルリンからの留学生

    「マイク・カールソン」
     ニューヨークの清涼飲料水会社社員

    「ソフィ・クレメール」
     ガウアー強制収容所の生存者

    「ブルーノ・ハウゼン」
     東ベルリンから西ベルリンへ脱出した青年

    「ホルスト・ギュンター」
     東ドイツの元大物政治家

    「エドワルト・ヘルカー」
     ブルーノの世話をする男

    「エディ・ジョシュア」
     ユダヤ系の演劇青年

    「マリー・ルグレーズ(マルト・リビー)」
     元ナチス将校。「鉄釘のマルト」

    「ハンス・ゲムリヒ」
     元ナチス親衛隊

    「野川桂子」
     青木の生徒

    「三上隆二」
     リヨンの通訳の青年

    「山崎三郎」
     ベルリンの通訳の青年

    「ニシオカ」
     ベルリンの日本人商社マン

    「リタ」
     リオデジャネイロの娼婦

  • 注!思いっきり内容に触れています



    途中までは、これは今まで読んだ連城三紀彦の中で一番! 間違いなく★5つ!と思っていたんだけどなー。
    なぜか後半、真相が明らかになってきた辺りから、急にイマイチっぽくなっていく。
    特に、最後でのブルーノと青木の関わりの展開が、丸っきり見えてしまうのはなー。
    よって、★は4つ(他の連城三紀彦の本との兼ね合いがなかったら、もしかしたら3つにしたかもw)

    後半辺りからイマイチになってしまうのには、その辺りから話のスケールがなぜか小さくなってしまうように感じるところにもあると思う。
    導入部のリオデジャネイロから、ニューヨーク、東京、東西のベルリン、パリ、そして、また東西のベルリンと舞台は広がっていくのだが、青木が東西のベルリンに行ったの辺りから、なぜかその空気感が青木とエルザが最初に逢った東京に戻ってしまうのだ。
    ま、話の主題は、あくまで青木とエルザの悲恋で。青木のルーツを巡る国際的な謀略ではないんだと言ってしまうならそれまでなんだろうけど。
    変な話、最初のベルリンとパリ、リヨンは確かにその場所の空気感を感じるのに。最後のベルリンだけ、それが妙に希薄なんだよなぁー。

    希薄といえば、マルタ・リビーの存在も、妙に希薄な感じ。悪役キャラとして、もっとストーリーに食い込んできてもいいのになーという感じがする。
    せっかく、青木がパリに来た時に刑事が絡んでくるのだから。彼辺りを使って、(ここは読者サービスでw)華々しく最後を遂げさせてもよかったのでは?(爆)
    …と思うのだが、それは著者の作風ではないのだろう。
    作風といえば、これは「わずか一しずくの血」の感想でも書いたのだが。これは特に、今風にパート分けして書き分けて最後にガッチャンコしたら、すごく“映える”話になったんじゃないかなーと思う。
    ていうか、実は著者、これはそれっぽく書いているのだ。
    ただ、その場面転換が同じ行の中で“――”が入るだけで行われるから、とにかく読みにくいのなんの!
    パートが変わる“――”をうっかり読み飛ばして、いつの間にか話が全然わからなくなっているということが何度あったことかw

    著者の作風ではないといえば、著者がこの手の国際謀略小説を書くというのは面白いし。
    また、よくここまで書いたなーとも思うのだが、いかんせん、やっぱり著者の本籍地ではないんだろうなぁーという気はする。
    というのも、敵側(敵側というのも変だけどw)にあまり冷徹さを感じないのと、あと妙に陳腐(中二病っぽい?w)なんだよね。
    ぶっちゃけネタバレしちゃえば、要は第三帝国の復活のために、ヒトラーの息子をその旗印にしようと画策する連中なわけだ。
    なら、とっととかっさらって。薬でも拷問でもやって、廃人同様にしちゃってでも、とにかく彼が生きていて、人前に姿を見せられればいいわけだ。
    なのに、若い女性を使って(ま、それにはもう一つ理由があったわけだけど)、彼を誑し込んで、ヨーロッパに連れてきて。自分がヒトラーの息子だと納得させた上でその役割を強いるなんてまどろっこしいこと、かの総統ならやらないだろー!って話だ。
    ま、ただ、それはヒトラーは、あの混乱した時代においても選挙で政権を握ったというのに。
    冷戦時代とはいえ、一応は平和が保たれていたあの時代に、ヒトラーの息子を旗印にすれば第三帝国が復活できるなんて甘っちょろいことを考えているその組織自体が中二病の集まりなので、しょうがないといえばしょうがないんだろうけどさw
    ていうか、ヒトラーという人は、東洋人の女性には魅力も何も感じないどころか、エッチするなんてことは(ヒトラーからすると不潔で)耐えられない、そういう人だったんじゃない?
    ヒトラーというのは、彼独特の美意識の外にあるものは絶対認めない。そういう人だと思うのだ。
    だからこそ、その美の実現のために突っ走っちゃった挙句、ああいうところにまでいっちゃったわけだ。
    この本は1988年の刊行となっているが、そういう意味では、ドイツ人と日本人は世界相手に一緒に戦った仲であり、戦後に日本人がドイツ人が会うと「今度はイタリア抜きでやろうな」と握手を求めてくる、あの話が生きていた頃だからこそ生まれた設定なのかなーと思った(今になってみると、だがw)。

    と、★4つのわりに批判的なことばかり書いたが、ストーリー自体は悪くない。
    “――”でつなぐ、あのやたら読みにくい場面転換も、最後の最後、青木とエルザが逢うシーンでは効果的に使われている。
    国際的な謀略が絡む話とはいえ、そこにはいかにも今風なアクションやミステリーはない。あるのは、著者特有のじとっと暗い男女の愛の話だけ。
    そう思って読んでしまえば、充分面白い小説だと思う。
    春江一也の「プラハの春」や、佐々木譲の「ワシントン封印工作」。あとは池上司の「真珠湾・十二月八日の終戦」辺りが好きな人なら、たぶん面白く読めるんじゃないだろうか。

    しかし、連城三紀彦というのは、不思議な小説を書く人だ。
    読んだ後、しみじみと感慨を抱いてしまう「戻り側心中」よりも、こういう、どこかイマイチな小説の方が惹きつけられるのだからw
    「わずかひとしずくの血」の感想でも書いたけど、連城三紀彦という人は、「読者が期待している展開の話なんか、死んでも書くか!」をポリシーに小説を書いていたような気がしてしょうがない。
    それは、定番な展開を求める読者を秘かに馬鹿にしていたということでもある反面、プロの作家たるもの、常に読者の期待の上を書かなきゃ駄目だみたいな、捻じくれ曲がった意地だったんじゃないだろうか。
    この「黄昏のベルリン」や、前に読んだ「わずかひとしずくの血」を読む限り、その捻じくれ曲がった意地は必ずしも成功しているとは言えないような気がするのだが。
    でも、その心意気は買う!w

  • ちょっと期待外れでした。
    今読むには時代が進み過ぎているかな?

    ストーリーの奇想天外さは面白いけど、「一」で場面が変わるので、混乱して読みにくい。
    これが作者の狙いかもしれませんが、自分には馴染めませんでした。

  • 再読、あえて★一つとす。
    まず要の題材が大減点、ヒトラー自体をこのように扱うこと自体面白くもなんともない。これは結構強めに言いたい。
    まぁこれはあくまで個人的見解の域を越えないかもしれないのだけれど、(途中から分かりましたが)出生の秘密あたりから終結に向けての展開、何というかそれはないわ、酷すぎるぞという感じ。
    もう一つ付言するなら場面転換が急すぎる。意図的なものだろうが、滑らかさに欠けるので誰の話なのか、どの筋に自分がいるのか一瞬戸惑ってしまう。
    あれやこれやで前半結構楽しめていたのですが、結局非常に苦々しく後味が極めて悪い小説でした、はい。

  • スケールの大きな作品で、これまでの連城作品とは趣向が異なる。
    良い意味で裏切られ、期待を超えてきた。

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著者プロフィール

連城三紀彦
一九四八年愛知県生まれ。早稲田大学卒業。七八年に『変調二人羽織』で「幻影城」新人賞に入選しデビュー。八一年『戻り川心中』で日本推理作家協会賞、八四年『宵待草夜情』で吉川英治文学新人賞、同年『恋文』で直木賞を受賞。九六年には『隠れ菊』で柴田錬三郎賞を受賞。二〇一三年十月死去。一四年、日本ミステリー文学大賞特別賞を受賞。

「2022年 『黒真珠 恋愛推理レアコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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