ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫)

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著者 : 猪瀬直樹
  • 文藝春秋 (2007年3月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (556ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167431136

ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 非常に面白かった。太宰治の評伝であると同時に、盗作作家・井伏鱒二の告発本。自らの生を引き受け作品を作り続けた前者に対して、後者は何事もないように、嘘を重ね、他者の作品により名声だけを得てしまった、まさしく「悪人」。処世術のみを心得た善人面の、正に我々世間そのものであった。

  • 膨大な資料を当たった労作だと思います。
    分厚いけれど、興味深く読めました。

    『太宰治伝』というタイトルですが、太宰治と井伏鱒二のダブル主人公と思ってよいでしょう。

    ISBNコードの分類ではドキュメンタリーやノンフィクションではなく、エッセイの扱いですね。
    著者の主観が加えられていることを念頭に読んだ方がいいと思います。

    太宰の遺書にある「井伏さんは悪人です」の言葉の意味とは…?

    3分の2ほどまで読み進むと、仕送りを止められそうになると同情を引くために自殺未遂をはかり実家の長兄を困らせ、女を持て余すと心中(狂言を含む)をはかり、借金は返さない、いい歳してすぐにメソメソ泣く、薬中、同情してもらいたい病、嘘つきでプライドばかり高い、芥川賞を取ることに異様に固執…
    といった、太宰像が浮かび上がる。
    ここで「生まれて、すみません」と言われると、「そうですねぇ~」と返してしまいそうである。

    そして、太宰の兄が仕向けたお目付け人たちから、無理やり太宰の保護責任者を押し付けられ、関わりたくないのに小心者ゆえ断れず、女子供抱えて必死に雑文を書く一方で、太宰に振り回されて大迷惑を被る井伏に「真面目な小心者なのにかわいそう」と、同情してしまうのである。
    では、井伏は善人なのか?
    いや、彼はとんでもない秘密を隠ぺいしている。

    著者は、二人とも、タイプの違う(あるいは真逆、もしくは裏返し?)悪人であると記している。
    面白かった。

  • 太宰治をいろいろ読んでから読むと、なるほどと思えておもしろい。そしてもう一度太宰治の本を読み返したくなる。

  • 人間・太宰の様々なエピソードが満載。
    女性との関わり、周囲との関わりが興味深く読めた。
    心中事件の顛末、井伏や中原中也、壇一雄などとの交友録も面白い。
    初めて知ることも多く、彼の著作をもっと読みたくなった。
    彼はボーダーライン症候群だったとも言われているけれど、
    極めて人間くさく、極めて繊細な才能を持った人だったのだろう。
    彼の娘、津島佑子にその文才は受け継がれていると思う。

  •  太宰治の遺書のなかにあった一言「井伏さんは悪い人です」
     この言葉の意味は何だったのか。太宰治とその師であった井伏鱒二を通して、その生涯をミステリアスに斬る。

     猪瀬直樹は「ペルソナ―三島由紀夫伝」と「マガジン青春譜―川端康成と大宅壮一」を上梓している。
     作家の伝評のひとつのジャンルを開拓したらしい。
     今まで食指が動かなかったのだが、この「井伏さんは悪い人です」というひと言が効いた。井伏鱒二といえば、「黒い雨」や「山椒魚」の、あの井伏鱒二だ。
     学生の頃「山椒魚」が教科書にのっていた。あの不愉快さはいまだに強く残っている。閉塞感や不愉快さがあっても、必ずしも読後が不愉快というわけではない。不愉快であってとしても、それだけでない何かがあるものだ。しかし「山椒魚」はただただ不愉快だった。これが本当に「名作」なんだろうか。と、自分の価値観まで否定された気になってしまったの思い出す。
     が、あれから大分たった。もしかしたら、子供だったから未熟だったから、わからなかったのかと、そういう気持ちをもって読んだ。

     やっぱり、あの感じは正しかったのだと実感した。
     太宰治の計算されたような狂気を描きながら、同時に井伏の俗悪さを糾弾しているような作品になっている。その入れ子のような構成が、よくできている。
     
     しかし、人は先入観とか、刷り込みとかに、簡単に左右されるもんだなと思う。
     そして、それが上手く作用した井伏は、運がいい人なんだろう。

     …ともあれ、とっても面白かったので、ペルソナも読んでみようかと思う今日この頃。

  • 「あとがき」で著者は、「死のうとする太宰治ではなく、生きようとする太宰治を描きたかった」と書いているように、文学的な成功を望み悲喜劇的な振る舞いを繰り返す太宰の姿を描き出しています。太宰治の作品に登場する人物の自意識のねじれ具合は、現代の小説の登場人物たちに通じるようなところがあるように感じていたのですが、著者はそうした彼の内面に共感を寄せるのではなく、かなり距離を置いて観察しているような印象を受けます。

    文庫版カバー裏の解説文に「傑作評伝ミステリー」とあるように、ドキュメンタリーな構成で太宰治の生涯をたどっており、読み始めるとページを繰る手が止まらなくなります。

    文庫化に際して付け加えられた「増補」には、井伏鱒二の『黒い雨』の種本となった『重松日記』の刊行時に著者が書いた文章が加えられています。作家として生きるということは、井伏にとっては他人を欺くことであり、太宰にとっては自分を欺くことだったのかもしれません。

  • 正直、猪瀬直樹は苦手なのでおずおずと読み始めたが一気に読まされてしまった。この強引なまでの筆力がプロの仕事である。タイトルの「ピカレスク」とは「悪漢」のこと。この評伝は太宰と師匠の井伏に焦点を当てて進んでゆくが、太宰を「悪漢」と捉える視点と井伏もまた「悪漢」であったとして捉えた視点に分かれている。井伏ひとりというよりも井伏は太宰を取り巻く周囲の人々の代表として悪漢の立場に立たされているという印象を持った。本作の太宰は虚無的だが、太宰を取り巻く周囲は更に冷たい。読み応えはあるが苦手な作品。

  • 猪瀬直樹、作家で留まっていればよかったのに。残念

  • 太宰治を描いたノンフィクション。
    井伏鱒二との関係も興味深いが、『斜陽』などの名作がどんな状況で書かれたのかなど、制作秘話としても楽しめた。

  • 今年はたくさんの太宰作品を読んで、その締めくくりとして
    読んだ本。
    太宰がどういう人なのか、自分の中での答えを出しかねて
    いたけど、この本を読んだらもっと分からなくなった(笑)
    俗に広まっている太宰像をずっと押し広げたものが、現実の
    姿だったんだろうなとは思いました。
    あそこでまた自殺未遂に終わっていたら、太宰はあの先、
    どんな作品を残したんだろうなあ。

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ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫)の作品紹介

「井伏さんは悪人です」。太宰が遺書に書いた言葉の意味は何だったのか?親兄弟、友人知人を騙り、窮地に陥る度に自殺未遂を起こした太宰。その太宰を冷徹に観察し、利用した井伏。二人の文士は、ともに「悪漢」であった。師弟として知られる井伏鱒二と太宰治の、人間としての素顔を赤裸々に描く傑作評伝ミステリー。

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