冤罪者 (文春文庫 お 26-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167451028

感想・レビュー・書評

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  • 信用と信頼の折原一長編はやはり面白い。保証制度濃厚なので、この600Pを超えるぶ厚い作品でも躊躇せず手に取ることが出来るし、やはりあっという間に読み終えてしまった。

    連続婦女暴行殺人事件。被害者は真夜中開けっ放しの窓から侵入され陵辱された後、顔と足にガソリンを撒かれ火を放たれる。その容疑者として捕らえられたのが河原輝夫だ。彼は年月を経て拘置所からノンフィクションライターの五十嵐友也に冤罪を訴える手紙を出す。
    最後の被害者 水沢舞の婚約者であった彼は一から事件を見直す事となる。彼自身の心の葛藤、そして複雑に絡まる人間模様は容赦無く予想打にしない結末をとして我等読者に突き立ててくるのだからもう堪らない。

    歩みが遅いのは確かだが、この丁寧さが後のクライマックスを多いに引き立ててくれている。人物描写の作り込みは秀逸だし、背景をしっかり認識できるものだから面白いが止まらない。歯止めが効かなくなるので残りページが1/4を切った時、その後ゆとりのある時間を取れないようなら一旦ブレイクタイムを挟んだ方が良い。現実に戻れなくなり、確実に生活に支障が出る。実話だ。
    ーーーーーーーーーーーーーーー

    対象者が犯罪者の時点で致し方ないのだが、性描写の嫌悪は強めに出た。男尊女卑の言葉がメジャーと化した現代ではココを頷ける方は少ないと思うが、個人的には、この未来を知らない時代に作られた燃え上がる前の火種 原点を覗き見できた事に満足している。
    正常人枠である筈の主人公、五十嵐友也の奇行に詳しく触れていない事が男尊女卑の言葉を浮上させている気がするが、これも演出に一役買っている様に感じた。皆どこか狂っているし何かに取り憑かれている状態なのだ。この、終始薄気味悪い重たい空気が流れているのも魅力的だ。決してホラーで無ければファンタジーでもない、潜在意識として組み込まれた人の恐ろしい部分を皆絶妙に解放している。ここに恐怖を覚えるのは(恐らく)人として間違えていないはずだ、と妙に安心してしまう程だった。

    著者のミステリーは古風だが(事実、1997年の作品である)裏の裏をかいてくる複雑なトリックと、終盤のサスペンスな展開には毎回釘付けにされてしまう。推理を放棄し熱中、終わりの見えない転々連撃に自身のHPがみるみる減っていく。これには抗わず、素直に悦に入るのが吉かと思う。回復薬も必要ない、根性で乗り切ろう。
    このギリギリに削られた状態がサスペンスの醍醐味に感じているのだが、苦手な人は「こいつおかしいんじゃないか」と脳内で蔑んでいただければ...決して声に出さず... メンタル豆腐なので...(フェードアウト)

    ページ数と同じく内容も重厚感溢れる作品なので手に取る際は人によっては精神統一のプチ儀式が必要やもしれない。だがそれを経て得られる娯楽は大きいと思う。昔の作品に触れるとその時代の背景も見えてくるし、人の根源の恐ろしさを再認識すると一概に「過去の出来事」と一蹴する事は出来なかった。更に、警察捜査のもどかしさや横暴さも今と比べて善し悪しの判断材料になる。それを善か、悪か、と考えをまとめるのは個人の楽しみだ。
    色々な思想を生み出してくれる昔の作品は大好きだし、私的その筆頭が折原一という作家だ。
    ーーーーーーーーーーーーーー

    エピローグの昭和ロマンス感は最初こそ嘲笑したが一周まわってご愛嬌と化した。「僕は狩人さ」「まぁ、命中率の低い狩人さんですこと」
    ........これをノーリアクション、真顔で通過できた方は是非お知らせして欲しい。その鋼の精神是非御教示いただきたい。

  • 面白かった。

    これだけ枚数あると描写も丁寧だし状況が分かりやすい。その上2転3転4転…最後まで犯人がわからなかった。
    最後の最後まで読んで最後の一コマがカチッとハマって〜この爽快感。

    折原一さんの者シリーズ。まだ2冊しか読んでないけど大ファンとなりました。

  • ミステリの名手、折原一氏の著作。ミステリ作品自体あまり読まない方だったのですが、ブクログでレビューを拝見して手を伸ばしてみました。
    元々トリックとかあまり見破れない方なので(笑、そこらへんはあまり自分に期待せず、物語の世界に浸らせていただきました。
    本著、著者のホームページの「自選ベスト」5作にも入っていて、結構な分量だったんですが後半300ページくらいは一気に読んでしまいました。気味の悪さに衝き動かされたというか…お見事です。

    読了してみて、なるほどね!と気味の悪さが解消される面はありつつ、結末を踏まえると、「ってコトは…」と色々と恐ろしい気持ちになるし、一見明るいような描写に見えるエピローグも結構な気色悪さを感じます。
    解説にあるように、「感情移入可能な<まとも>な人間は殆ど登場しない」というのは全くその通りで、創造主たる著者が本作品を生み出すにあたって、ここまでバラエティに富んだヤなヤツが描けるというのは筆力と忍耐力の産物と言っても良いのではないかと…。

    また、個人的に着目したのは、本著表紙のタイトル脇に書かれている英語。"STALKERS"というのはタイトル「冤罪者」の訳ではないので、副題と捉えるべきでしょうか。
    この英語も、考えてみると味わいがありますね。単数形じゃないんだなと思って思いを巡らせてみると、登場人物がみんながみんな、そういうヤツばっかじゃないかと。。
    あと、本筋以外の細かいトコロでは、「昔の東京って、エアコン無い家が結構一般的だったんだ…」ってのも。あらためて考えると、気候変動も怖いなぁ。

    枝葉では、一部「こんな行動取るんかな…」と思う所もありましたが、それも登場人物の個性の枠内で吸収されるところかなと。非常に読み応えのあるミステリで、ちょっと余韻が残る感じがしますね。。

  • 久しぶりに折原一作品を読んだが、この狂気と拗れたプロットがクセになる。
    600頁超えの作品だが、リーダビリティはとても高く、一気に読み切れる。もはや登場人物が全員狂っているので、誰を疑えばいいのか分からなくなる。
    五十嵐の妻の正体ももちろんだが、河原が逆に監禁されていたという反転も面白い。一気に読み切ったあとでもう一周。
    読み応えのある大作だ。

  • 長い。上に重い……さらにあんまり救いがない
    主人公が軽薄だなー。クズはどうなってもクズだなー。って思いながら読んでた。
    犯人は真ん中くらいでなんとなく想像していた通りだったし、もう一人の犯人もその通りだった。
    娘を殺された親が、犯人(だと思っている)男に、一回も娘を殺したのはお前なんだな。と聞かなかったことにビックリ。
    ただ、後半はやっと話が展開していくので、ドキドキしながら読める。

  • 自分の婚約者が殺害された連続婦女暴行事件の容疑者として逮捕された河原輝男から、自分は冤罪であるため助けて欲しいと手紙が届く。
    葛藤を感じながらも過去の事件を調べていくうちに、河原は無罪放免となる。だが、河原の釈放後も事件は発生する。果たして河原は本当に無罪なのか……。

    やや長編気味の作品ですが、読みやすく中だるみもなく、一気に読めた作品でした。
    作品名から、河原は冤罪で真犯人がいるんだろうなと思いながら読んでいたのですが、河原が一癖も二癖もある人物で、本当に冤罪なんだろうかと途中で思ったりもしました。
    終盤は、さすがと思わせる展開で、十分楽しめたのですが、ある登場人物の性格設定には、少し無理があるかなと思いました。

  • 初めて読んだ折原作品。
    叙述トリックってやつにハマッた本。
    この作品で最後の最後に度肝抜かされる快感を知った。

  • ルポライターの五十嵐友也はその昔、ある婦女暴行連続殺人事件を追っていた。女性を暴行し殺害した後、被害者の顔に灯油をかけて燃やすという残虐なものだった。そして五十嵐と当時付き合っていた彼女までが、なんとその連続殺人事件の被害者となり、殺されてしまったのだ。
    やがて河原輝男という男が容疑者として浮上してくる。警察は河原を取り調べるが、決定的な証拠はなかった。そこで警察は、窃盗などの別件で勾留期間を繰り返し延長。ようやく河原は自白し、裁判で無期懲役となった。
    その事件から約10年経って、五十嵐は獄中の河原から「これは冤罪だ。自分の無実を証明するために協力して欲しい」という旨の手紙を受け取る。
    河原は本当に無実なのだろうか、もしそうであれば真犯人は今どこで何をしているのか。

    五十嵐は恋人を殺された後に出会った女性と結婚していたし、今更辛い過去を思い出したくはなかった。でも河原と面会したとき、以前の印象と違って誠実な真面目な人間のように見えたために、冤罪もあながちありえない話ではないと感じる。そこで、この事件をもう一度調べ、それを記事にすることに決めたのだ。

    この物語のいいところは、いろんな人が出てくるわりにはごちゃごちゃしていないところだ。あれー、この人なんの人だっけ?ということがない。
    怪しい人ばかりなので、もしかしたら連続殺人事件と見せかけて、本当はそれぞれ犯人が違うのではないかと予想してみる。犯行現場は2階なのでそれが何か関係があるのか、名前のよく分からない男女は誰なのか、自転車を乗り回す奇異な少年はどう関わってくるのだろうか。もう先が気になって仕方がないので、会社の休み時間も電車の中もひたすら読んで読んで読みまくる(とくかく分厚いから)。

    結構グロテスクな描写があり、女性の立場から言わせてもらうと、読むに堪えないシーンも多々ある。苦手な人もいるかもしれない。わたしもギリギリのラインだった。こういう犯罪を犯す人間には怒りしかないし。
    でもその怒りすらも、真犯人が分かった時点で吹き飛ばされそうになっちゃう。でも悪い人はやっぱり絶対許せないけどね。

    折原一、独特の面白さがあると思う。






  • 暴行殺人犯が冤罪を訴え出所したものの、そこか始まる惨劇の第2幕。
    意外といえば意外だが、納得といえば納得の真犯人。ちゃんとまとまり、落ち着くところに落ち着いた話だが、女性の扱いがちょっと不快。時代なのかな。

  • 2016.1/24〜29。折原ワールド全開の本作。ノンフィクション作家・五十嵐の元に届いた一通の手紙から、物語は複雑に交差していく。キャラクターが皆どこか怪しく、共感できない人物ばかり。深読みせずに一気に読んでいただきたい一冊。

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著者プロフィール

埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者を経て1988年に『五つの棺』でデビュー。1995年『沈黙の教室』で日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞。叙述トリックを駆使した本格ミステリーには定評がある。『倒錯のロンド』『倒錯の死角』『倒錯の帰結』など「倒錯」シリーズのほか『叔母殺人事件』『叔父殺人事件』『模倣密室』『被告A』『黙の部屋』『冤罪者』『侵入者 自称小説家』『赤い森』『タイムカプセル』『クラスルーム』『グランドマンション』など著書多数。

「2021年 『倒錯のロンド 完成版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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