長い旅の途上 (文春文庫 ほ 8-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167515034

感想・レビュー・書評

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  • 最後の一編、これまで巡ってきた旅路を振り返り、また、アラスカの地に家を建て根を張ろうと決意する文が、しみじみと良い。
    去年「旅をする木」を読み、星野道夫さんを好きになり、他の本も読みたいと思った。思わぬ出会いから、出会いがつながっていく。
    いくつかの本を並行して読みながらだったのでなかなか進まなかったが、それでもこの本を開けば遠いアラスカの地に住む人々に会えたから不思議だ。

  • 「旅をする木」に感銘を受けて手にとった星野道夫さんの2冊目。
    既発表だが単行本未収録の文章を集めた"遺稿集"だという。そうした事情があるからか、「旅をする木」でも綴られた星野さんを象徴するようないくつかの考え方が、何度も何度も繰り返し、出てくる。

    「自然は人間のために存在するのではなく、ただそこに在る」「雄大に見える自然は実は脆く、私はその脆さの方に惹かれる」「いまこの瞬間に北海道にクマが生きているように、アラスカでクジラが突然ジャンプするように、いま自分が生きている世界に別の時間が存在する。自分の中にそうした複数の時間を持つことはとても豊かなことだ」「子どものころの忘れ得ぬ体験や出来事は、種となってその子の中に根をはり、10年15年たって花が咲く」・・・

    全く正確な引用ではないが、こんなような言葉やその基となった体験にまつわる話が、何度も、何度も出てくる。
    さらに、同じ人物についての話も何度も出てくるものだから、不思議なことに、全く会ったこともないアラスカに生きる彼らと自分が友達なんじゃないかという錯覚すらも覚える。

    そういう意味で「旅をする木」を読んでから、本書「長い旅の途上」を読んだ感想を一言で言うなら、"星野さん練習帳"という感じ。アラスカの自然や動植物、そしてそこに生きる人々と静かに向き合い続け、紡がれた言葉や思いを何度も何度も咀嚼し飲み込みを繰り返す。そうすることで、自分に染み渡らせていく…そんな本だった。


    ***
    いま、2020年の4月23日。世界はコロナ禍にある。日本も、「自粛を要請」みたいな訳の分からない言葉がはびこっていることが象徴するように、混乱の中にある。言葉が混乱しているということは、人々が、社会が混乱しているということなんだと思う。

    自分自身も、もう在宅勤務になって1ヶ月半以上。買い物などを除いて、基本的に外には出ない。
    とはいえ、さすがにそれだと心と身体に悪いような気がしてきて、マスクをしたうえで、人の密集を避け、少し近所を散歩する時間を意識的に作っている。ウイルスとの戦いも、"長期戦"の様相もあるし。
    ここ数日、弱いながらも冷たい雨が降って気温がぐっと10度ぐらいまで冷えることもあるが、晴れた日には「自粛」などという言葉から最も離れたところにあるような穏やかで気持ちの良い陽射しが差す。近所の少し大きめの公園も、まるでもう5月かのように既に新緑で埋め尽くされている。
    ずっと同じ色しかない家にこもっているからなのだろうか、外に出て目に映る新緑の鮮やかなこと。こんなに、緑ってきれいだったっけ?陽射しって、こんなにきらきらと、いろんな色に見えるんだっけ?と、ただ街路樹の新緑が陽射しの中に揺れているだけなのに、なんだか見とれてしまう。そうしていると、ハトやカラスやスズメなんかが、ちょんちょんパタパタと歩きまわっていたり、虫をついばんでいる姿も目にする。
    そんな生き物たちの様子や、毎年と変わらずに生い茂っているのであろう緑をみていると、ふと星野さんの言葉がどこからか蘇ってくる。

    「すべてのものにただ平等な時間が流れている」「自然やその中の生命はただこの瞬間を生きている」…

    世界的で未曾有な混乱はまったく収束する気配はない。そんな中、近所の公園にて、ただ「ああ、本当に星野さんの言っていた通りだ」と、私は思った。

  • アラスカで暮らした写真家/作家、星野道夫さんの遺稿集。
    都会に暮らしていながらも、同じ時間でアラスカのような場所で豊かな自然が存在していることを意識できるだけでも、人生は豊かになる。なるほどな、と思った。

  • 1年の半分が冬、という厳しい自然環境のアラスカに生きた、探検家のエッセイ。
    アラスカの大地、自然、そこに住む人々、に対する愛がひしひしと伝わってくる文章である。
    ひとつの風景を描写する際にも、その風景がどんなにか素晴らしいか、を伝えるために考え尽くして選ばれた言葉で語られてる。
    その言葉は美しく、想像力をかき立てられ、豊かな気持ちにさせてくれる。
    星野道夫さんの作品には初めて触れたのだが、おそらく、繊細すぎる感情を持つ作者が、だからこそ、雄大なアラスカに憧れ、作者から見た、素敵な世界としてのアラスカを皆に届けることができるのだと感じた。

  • 星野道夫の本には、愛が溢れている。厳しい大地を闊歩するムース、空に揺れるオーロラ、時代の狭間に翻弄されながらも生き抜く住人達。これらに星野道夫は魅せられていたのだろう。確かにアラスカに身を固めるのは大きな決断だと思う。けど、なんというか、星野道夫のアラスカへの動機にとても共感できる。今ここに、中目黒行きの東武スカイツリーラインの中に僕がいる一方、アラスカの大地では厳しい冬の中ムースが闊歩している。別にアラスカだけじゃなくて、深海ではシーラカンスが何かを食べていて、アフリカでは象が戯れている。それが同時に存在している、それを不思議に思う感性と、それを想像することで心が豊かになる気持ちに、とても共感できた。

    手元にいつまでも置いときたい1冊でした。

  • 星野さんの遺稿集との事で過去に著者の本を読んだ人は見たことのある文があると思います。

    この本を読んだ時分、台風6号の影響で停電している真っ只中で、テレビもスマホも見れない状況下でした。
    こんな状況においても過去に読んだシシュマレフ村やブルックス山脈、トーテムポールの話…何も出来なかった時にこそ、想像力を広げる良い機会を与えてくれた本でした。

    ネット社会の今、自分にとって豊かだと思うのはどんな生活なのか考えさせられます。

  •  本書を読む前に自分の頭の中で勝手に思い描いていた漠然としたアラスカが、読後には生き生きと広がりと深さをもった場所として記憶に残りました。アラスカに魅せられた著者の温かいエッセイ、それに添えられた美しい写真が印象的です。

     動物や季節の推移についてのエッセイは、無機的なモノトーンに感じられる氷と雪が限りなく広がる世界を背景に、わずかな点のような生命が色鮮やかに輝いているように描かれます。冬の厳しさが、生物の持つ温もりをさらに際立たせているように感じられます。

     人物を描写したエッセイでは、日本に住んでいるとほとんど感じることのない、原住民のスピリチュアルな世界観がさり気なく描かれています。目に見えない心に価値を置く社会が、ここにあるようです。登場人物を通して描かれる彼らの感性はどこか温かく、また何か忙しい普段の生活で忘れているものを思い起こさせます。これもまたアラスカの寒さが、人の心を温かくしているのかもしれません。

     ちょっとアラスカに行ってみたくなりました。

  • "人間のためでも誰のためでもなく、それ自身の存在のために息づく自然の気配に、ぼくたちはいつも心を動かされる"

    "雪に閉じ込められた暮らしはどうだろう。太陽が沈まないアラスカの夏、人々はずっと忙しく働き続けてきた。夜のない暮らしはすばらしかったけれど、夏の終わりには、人々はもう長い一日に疲れている。夜の暗さが無性に恋しいのだ。季節が秋から冬に移ってゆくにつれ、自然は人々の暮らしにブレーキをかけてゆく。まるで私たちの気持ちをわかってくれていたように。その不思議な心地良さは、子どもの頃、雨の日に家の中で過ごすうれしさに似ている。雪に閉じ込められる日々は、人々の心にある静けさを取り戻させるのだろう。"

    (出身が同じ有名人を知っても、いつだってへえーって感じだったけど、星野道夫のことが好きすぎて、千葉県出身と知って飛び上がるほどに嬉しかった。彼の通った喫茶店にもよく行っていたので、なんだかもう、ときめき)

  • アラスカに散った星野道夫さんのアラスカを愛する本。彼の撮った数枚の写真がアラスカそのものを見せてくれる。
    あなたの子供は、あなたの子供ではない。彼等は人生そのものの息子であり、娘である。…
    彼等はあなたとともにいるが、あなたに屈しない。
    あなたは彼等に愛情を与えてもいいが、あなたの考えを与えてはいけない。
    カリール・ギブランの詩と共に始まる人生の書である。

  • 星野道夫は、私たちが普段追いかけている時計やカレンダーとは別の時間軸があることを知っている。私たちが生きる半径の外側にも広い世界があることを知っている。それがとても羨ましい

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著者プロフィール

写真家・探検家

「2021年 『星野道夫 約束の川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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