心の砕ける音 (文春文庫 ク 6-11)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167527846

感想・レビュー・書評

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  • 第二次世界大戦が始まる前、1930年代後半のアメリカ東部のメイン州が舞台。キャルとビリーのチェイス兄弟は、メイン州のポート・アルマという小さな町で生まれ育った仲の良い兄弟だ。その町に、ドーラ・マーチという若い美しい、謎に満ちた雰囲気の女性がバスに乗りやって来る。弟のビリーは、彼女に恋をし、そして、兄のキャルも自分が彼女に恋をしていることに気がつく。しかし、ドーラは突然町を去り、後には弟のビリーの死体が残されていた。兄のキャルは、ビリーの死の原因を知るために、ドーラの跡を追う。そして、ドーラの出生地で、真相を知ることになる。
    他のクックの物語と同じく、美しい文章と、そして、おそらく悲劇が起こるのだろうと予想させる文体とストーリー。そして、悲劇はやはり起こり、残された兄のキャルのドーラを追う孤独な旅が始まる。
    いつものように、最後まで、ほとんど一気に読んだ。自分にとっては、とても面白い小説だった。解説にも書かれているが、クックのいつもの話と異なるのは、最後に、兄のキャルが、この悲劇を乗り越えて、おだやかに、幸せに生まれ故郷で暮らす将来が暗示されていること、ハッピー・エンドとまでは言えないが、エンディングがおだやかなことである。

  •  弟の殺人事件の真相を追う兄の姿を回想と交えて描くミステリー。

     回想を交えながらゆっくりと主人公の心の機微を美しい表現で描いていくクック作品らしい小説だったと思います。

     ミステリとしてもひねりが効いているというか、思わぬ真相があり、そしてそうしたサプライズを娯楽として提供するのではなく、
    あくまで事件のもの悲しさを描くためのものだというのがクックのミステリの美しさなのかな、と思います。

     展開や文章は少しまどろっこしく感じるところもありましたが、ところどころの表現がまた文学的で美しくラストの穏やかさも印象的でした。

    2002年版このミステリーがすごい! 海外部門5位

  • 運命の残酷さを描かせたらトマス・H・クックに勝る人はいないだろう。そのくらい残酷さ、それもどうしようもない運命、まるで蜘蛛の巣にどんどんからまっていく無情さが読者を導いていく結末の悲しさといったら凄いことこの上ない。
    人間は最終的に決着をつけるために「しょうがない」と言って諦めることがある。その時の哀しさを思い出させる。

    本書では1人の女と全く正反対な気質の兄弟の、3人の運命の歯車が、1つの事件(正確には2つ)によって翻弄される。
    結末へと進むうちにどんどんやり切れない気持ちになっていった。
    がんばっても立ち向かっていけない不条理さ。本書でも暗くなれること間違いなし(笑)。
    時々、神様というモノが存在し、地上の人間を弄んでいるんじゃないか?って本当に思うことがある。
    クックの作品を読んでいると、クック自体に興味がどんどん湧いてきます。この人には何があったんだろう?って。

    新作がでるたびに読まなくては!と思ってしまう作家です。暗く嫌~~な気分になるのはわかっていても、やめられない!
    それは作品の中に流れる美しく哀しい雰囲気にのみこまれるからだろうな~きっと。堪能しました。

  • クックらしい、悔恨の念とか、どうしようもない悲しみだとか、暗い気持ちになるようなストーリーは相変わらずなんだけど、まさか、こんなどんでん返しの結末が待っていようとは。
    しかも、2重3重の。

    そのどんでん返しにしても、結末はやっぱりクックらしい、悲しみに満ち溢れている。

    時々、フラッシュバックのように現れる過去の場面、言葉。
    もちろん、それがどんでん返しへの伏線にもなっているんだけど、それがミステリーとしての楽しみというか、どういうことなんだろう? という、真相を知りたいという気持ちに駆られる。

    さすが、クックはうまいね。

    ラストは少し、ほんの少しだけ、救われる。

  • ミステリーでありながら、主人公キャルと不慮の死を遂げたその弟ビリー、そして失踪した弟の恋人ドーラを中心として彼らの心の中の淋しさ、悲しさに迫っていきます。弟の死の謎について最終段階で明らかになるのですが、ミステリーとしてはその謎解きよりも、彼らの心の孤独が強烈な印象です。そして謎が判明した後の歩みに救いがあったことが何よりこの小説を素晴らしいものにしていると思います。むしろ純文学といっても良い重みでした。
    全編にあまりにも美しく通奏低音のような悲しさが支配しているだけに。「心の砕ける音」というタイトルそのものがそれを象徴しています。時系列が度々錯綜しますが、全くわかりづらくなく、自然に読めるのも不思議な本です。

  • 用意されていたラストはそこまで驚くものではなかったが、端々にあふれる叙情的な悲哀はさすが。自分が求めていたクックの文章は堪能できた。

  • クックのミステリー小説は以前「緋色の記憶」を読んだ時もそうですが、過去 と現在が交錯して書かれているので自分が主人公になり代わったような感覚が 得られます。
    今回は兄と弟がひとりの謎の女性を巡って悲劇的な結末に至るストーリーを 辿ります。冒頭で出てくるシーンがこの兄弟の関係とその両親との後々の関係 までを象徴することになります。 兄弟の相反する性格と価値観と各々の両親から受け継いだ役割が成長した二人の生き方に現われながら、思ってもみなかった愛憎に翻弄される兄と弟の心境は人間の悲しさを醸し出します。 謎の女性ド―ラの正体は予想もしなかった人物だったのですが、真相を知り、この一家の行く末を見守った兄の穏やかな心境が救いになっています。

  • 著者の代表作、記憶4部作並のへヴィネス。が、読後感は4部作ほど悪くはない。
    しかし、そもそも従来のクック作品も世間で云われているほど救いのない話ではないのだが。

  • クックはどっぷりハマれる作品が多いので、余計なことを考えたくないときにオススメ。

  • 初めて読んだらきっと驚くだろうが、この人のプロットだいたい似たような感じだから一冊読めばいいかぁという感じ。

    「夜の記憶」のほうをおすすめする。


    ただ今回それぞれの人物の心の機微がトリックと相俟ってミステリらしからぬ人間臭さが出ていたのが記憶シリーズとは違うところかな。


    わたしは記憶シリーズのほうが好きだけど

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