蒲生邸事件 (文春文庫 み 17-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 6511
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  • Amazon.co.jp ・本 (686ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167549039

作品紹介・あらすじ

予備校受験のために上京した受験生・孝史は、二月二十六日未明、ホテル火災に見舞われた。間一髪で、時間旅行の能力を持つ男に救助されたが、そこはなんと昭和十一年。雪降りしきる帝都・東京では、いままさに二・二六事件が起きようとしていた-。大胆な着想で挑んだ著者会心の日本SF大賞受賞長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 宮部みゆきさんの初期のSF歴史ミステリ。
    大学の受験に失敗し、予備校を受けるために上京した主人公の孝史は、とある古びたホテルに宿泊する。ホテルの場所にはかつて陸軍大将蒲生憲之の邸宅があり、時折彼の幽霊が現れるとささやかれていた。さらに、ホテルの宿泊客には妙に暗い影を持つ薄気味悪い男もおり、孝史は落ち着かない気持ちで滞在する。

    受験を控えた深夜、ホテルが火災に見舞われる。絶体絶命の危機に陥った孝史の前に突然現れたのは例の薄気味悪い男だった。彼は孝史を連れてとある場所へと避難する。その場所とはなんと、昭和11年2月26日の東京都永田町、まさに2.26事件が始まろうとしている時だった。

    本書はいわゆるタイムトラベルものである。この手の話では、タイムトラベラーが歴史を変えられる場合とそうでない場合があるが、本書では歴史の大筋は変えられないという設定になっている。例えば、大事故を未然に防いだとしても別の形で同じような大事故が起こってしまう、といった具合である。本書がこの設定を取ることで、物語の中にタイムトラベラーの存在意義についての苦悩が生まれることになる。

    本書はまた、主人公孝史の成長ストーリーでもある。受験範囲に含まれない歴史はほとんど知らない現代の青年で、学歴のない田舎育ちの父親のコンプレックスに振り回され、自分に自信を持てずにいた彼が、昭和11年のリアルを体感することにより、一回り大きくなって現代に戻ってくる。実家に戻った彼が父親に掛ける言葉は、彼の成長を感じさせてじんとくる。

    さらに、未来を知ることができるなら、その情報をどう使うのか、といったことも、本書の大きなテーマの一つである。大きな歴史は変えられないけれど、自分や近しい人の未来はある程度コントロールできる。大切な人の有利になるように動くのか、あるがままの歴史の流れに委ねるのか。本書には、歴史に対するさまざまな哲学が描かれる。自分なら都合のいいように利用しちゃうかもしれないな、なんて反省しながら読んだ。

    文庫本700頁近くの長編ながらミステリの要素で一気に読み進められ、時にほろっとしたり考え込ませられる、内容の濃い小説である。

    • たなか・まさん
      積読でずっと読んでない本です。出張とかに持って行くと良いかな。
      積読でずっと読んでない本です。出張とかに持って行くと良いかな。
      2023/03/11
  • おもしろかった!

    日本SF大賞受賞作品だそうです。
    いわゆるタイムトラベルもので、前半はやや単調な感じで話の流れもよく見えないのですが、後半は見事な伏線回収でミステリーとしても楽しめます。

    ラストはホロリとなります。

    オススメ!

  • 10年以上本棚で埃を被ったままになっていた一冊。陸軍の青年将校たちが起こしたクーデターから87年の「2•26」を迎える前にと一念発起。SF大賞受賞&直木賞候補作、しかも題材は二・二六事件。骨太の歴史改変ものかと思いきや、やけに軽いタッチのSF×恋愛×ミステリーで正直拍子抜けした。語り手たる主人公に共感しづらいとか、無駄に長いとかいうのはあったけれど、終盤のまとめ方はさすがというか「ズルをしない時間旅行」という概念には好感が持てた。

  • 以前から読みたいと思っていて、本のボリュームと2.26事件という重みで時間がある時にと、今まで読んでなかった本。
    読み終わって今読んでよかったと強く思いました。
    この本が書かれた94年と今も時代が少し変わっています。
    そして2.26事件からの戦争へ向かうと時代。
    その時代を生きる人、色んなことを考えた本でした。
    本の厚さを忘れるくらいどんどん読んでしまいました。
    読み終わった後にジーンと
    改めて言うまでもなく良い小説、読んでよかった。

  • タイムトラベル物だが、これがまた引き込まれる。あまり勉強していない現代日本史の一片に触れ、色々ググッてウィキペした。私は一体何を学校で学んでいたのだろう…。

  • タイムスリップものだがミステリーとしての側面も持っている物語である。
    受験した大学はすべて不合格、駄目な奴だと自分に言い聞かせるように口にするどこにでもいそうな若者が主人公・孝史である。
    受験のために宿泊していたホテルの火災に巻き込まれ、間一髪のところを平田に助けられる孝史。
    時間移動の能力を持つ平田は自らの能力を嫌っている。
    危機に面した孝史を見捨てられなかったこと、無理をして現代に孝史を戻そうとしたこと。
    基本的に彼は善良な人だったのだろう。
    孝史がたどり着いたのは1936年2月26日の帝都。
    あの二・二六事件のあった日だ。
    平田の縁でしばらくの間住むことになった蒲生家では、同じ日に当主である憲之が命を絶っていた。
    戦争前夜ともいえる時代へ飛んだ孝史だったが、蒲生家で暮す人々は孝史の知る人たちと何ら変わらない人々だった。
    怒りや悲しみ、戸惑いやためらい、人としての感情は時代に関係なく誰にもあるものなのだから・・・。
    時間を遡り過去にたどり着いた者は歴史を変えてはならない。
    こんなルールを聞いたことがある。
    どんな場面に遭遇しても、未来に人間がそこに介入することは許されない。
    見守ることしか出来ないのだとしたら、何のための能力なのかと疑問に感じてしまうこともわかるような気がした。

    単なるミステリーやタイムスリップに終わらないところがこの物語の良さだ。
    結末に待ち受けている感動とあたたかさ。
    時を経てもつながっていく思い。
    読んでよかった・・・そんなふうに思いながら余韻を楽しめる物語だった。

  • 昭和ノスタルジーを体感できる感動作!昭和11年2月26日に勃発する二・二六事件をめぐるタイムトリップ物語。タイムトリップ系ベスト3に入る。大学受験に失敗した孝史はホテルでの火事に遭遇するが、平田に助けられ、移動した先は蒲生邸。陸軍大将の蒲生憲之の自決の真相が思いもよらぬ方向に動く。二・二六事件後に第二次世界大戦へと進む日本、誰もがそれを憂い、それを回避しようと努力するが歴史は不変。また、蒲生邸の女中のふき。ふきの愛嬌ある性格に好感を持つ。現代で生前のふきと会えず、ふきへの愛おしさが倍増した。

  • 高校3年生の尾崎孝史が東京の予備校を受験するために泊まったホテルが火事に会い、死を覚悟した時に謎の男に導かれて2.26事件の昭和11年にタイムトリップする。タイムトリップした場所は、そのホテルがあった場所、元陸軍大将蒲生憲之の屋敷だった。
    何故蒲生邸だったのか?何故2.26事件の時だったのか?蒲生憲之の死と遺書の秘密は?タイムトリップに導いた平田と名乗る謎の男の目的は何?
    蒲生憲之の長男蒲生貴之とその妹珠子の不可解な行動、蒲生憲之の年の離れた弟で実業家、貴之の叔父蒲生嘉隆、憲之の後妻で嘉隆と密通している鞠恵、そして女中のふきとちゑ。蒲生邸に居合わせる登場人物が絡み合って謎が謎を呼ぶ。
    蒲生憲之が拳銃で自決したのにその拳銃がなくなっていた。それが色んな思惑を呼び、物語が展開していく。2.26事件を起こした青年将校と同じ思想だったはずの蒲生憲之が途中で考え方を変えた理由こそが事件の核なのだとわかるが、現代の人間の平田が昭和11年に蒲生邸で下男となって働いているのは何故?色々な疑問がわかるまでワクワク感が続く。
    最後の現代での尾崎孝史の時代を超えた恋の行方には感動した。

  • 最初は主人公:孝史の身勝手さに不満も感じたが、読み進むうちに何となく理解できた。最後のところでの謎がすべて解けて、出会いがあり・・
    厚い本で、途中で投げ出したくなりましたが、後半から楽しく読み進めることができた。
    実際の出来事かと思ったが、後書きでまったくの架空の話とあったが、本当にあった話とおもってしまった。

  • ほぼ読んでいる宮部さんですが、時代物、SFは敬遠してしまっていた。言いたいことがわかってないと思うげど、歴史に抗えないからこそ、今を大切にと言ってくれてるのかな。今8月。期せずしてこの季節に読めたのは、ある意味よかった。
    この世の春も読んでみよう。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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