誰か―Somebody (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167549060

感想・レビュー・書評

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  • 数年振りに再読。ペテロの葬列(ドラマ版)を観終えたところなので、この頃の杉村氏と奈穂子の仲睦まじさが切ない。奈穂子との馴れ初めも語られる。

    今多コンチェルン会長の運転手を勤めた梶田氏が自転車で轢き逃げされ、亡くなった。父親についての本を書きたいという、10歳違いの美人姉妹(聡美、梨子)の想いにほだされて彼の人生を辿り始めた杉村。

    逆玉と言われ、実家の両親にすら奈穂子との結婚を祝福されなかった彼に純粋な祝いの言葉をくれた数少ない人として記憶に残る梶田氏。だが彼もまた、ある秘密を抱えていたのだ…

    轢き逃げの犯人を追ううちに杉村が知ってしまった二つの秘密。その一つは結婚を間近に控えた聡美を傷つけるものだった。






    姉妹丼とは浜田氏、最低だ…。梨子許せん。

  • 素人の杉村が、こんがらがった糸を解いていく。そこに、現れる人の業は数学のように明確に割り切れず、国語辞典のように明瞭に語られない。傍観者として、解した糸が、あらぬ方向に繋がり、思いがけない模様を作り出す。人は自分の見たいものしか見ていない。同じものはない。

  • 本作は90年代終わりぐらいからの宮部みゆき作品の特徴になってきた、日常に近い悪意を描く作品だ。主人公となる杉村三郎(新本格に出てくるキャラクターに比べればいかにも平凡な名前だ)は巨大企業グループ創業者の一人娘と結婚した・・という設定だが、それは本作のいわば「ガワ」の話であって、本作で取り上げる謎そのものとは直接的には関係ない。

    ではその杉村が本作で取り組むことになる謎は何かというと、彼の義父である今多コンツェルンの総帥の個人運転手が、ある夏の日に路上で自転車とぶつかり死亡したという事件だ。一見するとただのアクシデントに見えるこの事故が「事件」となってしまうのは2つの理由がある。一つはこの事故を起こした犯人が明らかになっていないことだ。夏のある暑い日に起こった自転車と老人の衝突を見ていたものは誰もおらず、犯人(あるいは加害者)が不明のまま、この老人は葬式を迎えることになる。

    もう一つの理由は、この亡くなった運転手の2人の娘のうちの長女が、幼い頃に誘拐されていたことを思い出したことだ。正確に言えば彼女の心の中にはずっとこの幼い頃の事件が彫り込まれていたのだが、彼女の中ではこの2つの事件が一つに結びつき、過去に彼女を誘拐した犯人が父親に改めて危害を加えてきたのではないかという妄想に囚われてしまう。


    杉村は義父の嘉親から相談を受けて、この2人、聡美と梨子の手助けをすることになる。2人は情報提供と警察を積極的にさせるために、亡くなった彼らの父親、梶田信夫の伝記を出版することを思いつき、父親の雇い主だった嘉親に相談をしたのだった。
    一方で杉村はかつては小さな出版社の編集者であり、今では義父の会社で社内報の編集を担当している人間だ。義父からみれば本作りは三郎のプロフェッショナルであり、この問題を解決するのにぴったりの人間に見えたのだろう。

    平凡だが人並みの正義感を持つ杉村は、義父の要望に応えるために2人の娘と本づくりを開始する。同時にその活動は自然と梶田信夫の犯人を探すと言う方向性と、聡美が抱える暗い過去の謎を解き明かすという方向性を持つことになる。

    本書のクライマックスでは、その両方の謎がある程度説明がつく形で読者の前に提示される。ただし、本作はいわゆる探偵が活躍して犯人を名指しするようなタイプの小説ではないため、提示される解は劇中においてですら「極めて可能性が高い説明」を超えない。本書はそういった意味では謎を解くことを主題に置いたミステリーというよりは、結果的に謎を生み出すことになってしまう人間達の業にフォーカスしたものだと言えるだろう。

    そして本作の最後まで、その深い人間の業の一つは解かれぬままに投げ捨てられてしまう。齢80歳を超える嘉親であれば過去に見てきたであろうその光景は、まだ30代の平凡な人間である杉村には衝撃として受け止められる。そして、その結末はミステリーの最後にカタルシスを求める読者にも思いがけない傷として提示されることになるのだ。
    読んだ後に嫌な気持ちになるミステリーは嫌ミスと呼ばれ、そのカテゴリーでは湊かなえが女王として君臨していると思っていたが、本作も立派に嫌ミスとして語り継がれる資格がある作品だった。飄々とした宮部みゆきの頭の中には、本作で書かれたような得体のなさが常に存在しているのだろうか。

  • あまり重たくないミステリーを読みたくて、選びましたが、面白くて一気に読んでしまいました。
    小泉孝太郎主演のドラマを以前やってて、好んで見てたことを思い出しました…。
    主人公の杉村三郎が幸せそうなのに、なぜかその幸せがいつか壊れるんじゃないか、と思ってしまう、この危うさが、このシリーズの肝なんだと思います。

  • 杉村三郎シリーズ第一作目。
    一作目の杉村さんは菜穂子さん、桃子ちゃんと仲良し親子である。
    でも、桃子ちゃんの送迎のために運転手を雇うと言う菜穂子にちょっと驚く。
    子どもが心配するほど親が悪人じゃなかった、というところは、希望荘と似ている。
    おもしろかった。

  • ミステリ要素は薄いが、文章による素描の極地。そのテクニックが勉強になる。一人称なのに深い。

  • 深い読み物なのかな。

    ページ数の割に感動もビックリもない。

  • ドラマが面白かったので読んでみた。
    続編「名もなき毒」よりまとまっていて面白かった。
    しかし、宮部さんは人間を書くのが上手いなあ。
    (図書館)

  • 88888!
    すごく面白かった!
    ラストに向けて畳み掛ける感じが火車みたい!
    続編も早く読みたい!

  • 読みやすい内容で一気に読めた。特に人物像の描写が、生い立ちから想像すると分かりやすく良かった。最後まで読むと読者としてはスッキリするが、他人の秘め事をどこまで明るみに出して良いかという倫理観の観点では考えさせられた。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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