- Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167557010
感想・レビュー・書評
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双子の幼虫。毛虫でもなく芋虫でもなく青虫が近いかもしれない。双子の幼虫はやがて離れれ、違う双子の幼虫の片割れと一緒になって新たな双子の幼虫となる。セックスしないと新たな双子の幼虫は出来ないの。おねいちゃんが妊娠したのは義兄としたのね。でも想像は出来ない。覗いてみたくもない。そういえば小さい頃、おねいちゃんと産婦人科の裏窓覗いたことある。双子の幼虫がちゃんと育つ様に、人間の染色体を破壊する防カビ剤が塗布されてグレープフルーツのジャム作ってあげる。アッ 双子の幼虫、破壊されちゃわない?
そうそう、双子の幼虫って染色体の事よ。コボさん(安部公房)の初期短編集を読んだら、知っていたコボさんのイメージとは異なる感覚で刺激的な体験でした。では最近嵌っている洋子さんの初期作品はどうなのか?と思い、この本を読んでみた。基本毎度の洋子さん感。ストレンジガール登場。って姉、私どっち?「妖しい&艶めかしい」はまだありませんが、科学大好き少女感は伺えます。なんたっておねいちゃんの妊娠状況観察日記。実験までしちゃう。一寸嫉妬してるでしょう。私もおねいちゃんもストレンジガールだったのね。
「博士の愛した数式」の原点は「ドミトリイ」にありました。私といとこと先生。ほらこの3人パターン。そして先生の身体の状態とその状況からくる死の匂い。ハートウォーミングとゾクゾクの共存。もう洋子愛が止まらない。Myヨコフェス 第10弾。
中村さん、洋子さんは初期の頃から「物語は既にここにある」ですね。姉が妊婦となったことで今までにない生活環境。普通ならお目出たい、幸福話になるんですが、私の生活は一転、日常生活の冒険を体験する感覚へ。「私」は感情を表現しないので私の行動は姉に対するプチ復讐ともとれるし、妊婦となった姉の双子の幼虫観察日記とも取れます。(エサは私が作ってあげているからね)この感覚が読み手の想像が膨らんで面白いからやめられません。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「妊娠カレンダー」「ドミトリィ」「夕暮れの給食室と雨のプール」の3つの短編集。どれももやっとした終わり方で怖いです。特に「妊娠カレンダー」は怖いですね。私には妹も姉もいないのですが、姉妹って嫉妬したりすることが多いのかな。この話の中のお姉さんは少し神経質で妹さんの気持ちがわかるわ。私の周りにこんな人はいないけど、自分がお姉さんみたいにならないように気を付けなくては。
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なんともいえない後味…。
なんとなくこの描写、伝わってくるなぁーってのが
所々あったよー。
妊娠カレンダー
(毒薬のついてるジャムを妊婦に食べさせる)
ドミトリイ
(学生寮にいとこが入る。でも、会えない。蜜蜂の巣発見)
夕暮れの給食室と雨のプール
(最先端の給食室。難儀ってなんだろうね。)
「夕暮れの…」の話の中で、
「夕暮れの給食室を見ると必ず、あの頃の、
通過儀礼に手間取っていた頃の、
胸の痛みを思い出すのです。」って言葉に、
あぁー、なんとなく伝わるって思ったよ。
何かと何かを連動させてたりして記憶にあると、
1つのことがキッカケで思い出すことあるもんね。
どの話も、スッキリとはせず、
なんとなく含みを持たせたまま終わったーって感じ。 -
小川洋子さんの短編集。
表題の「妊娠カレンダー」と、「ドミトリー」「夕暮れの給食室と雨のプール」の三篇から成ります。
背表紙にある紹介文を読んだ感じでは、悪意を持った妹が妊婦である姉に毒入りジャムを食べさせる……という感じで書かれていますが、実際にはもっとソフトな感じでした。
思うに、この姉妹は“妊娠”というものに対して人並み以上に恐怖や憧れ、赤ん坊に対する神聖視があったのだろうと思います。それが、姉は神経質に理不尽なことを言い散らすようになってしまい、見た目もどんどん崩れていくので、妹はある意味で(「仕返し」「罰」などではなく)「救済」の意味を持ってジャムを作り、食べさせたのではないかと私は考えました。
実際問題、グレープフルーツの農薬については不確かな情報だけを頼りにジャム制作に踏み切っているわけですから、ラストシーンで対面した赤子にも、彼女の姉にも何ら異常はなかったでしょう。
それでも、三階から覗く顔に幽霊めいた不気味さ、もの悲しさを感じ取っていたのは、彼女が妊娠というものに対しての憧れと過度な期待を持っていたからではないでしょうか。
実際に彼女たちは疲れ果てていたのかもしれないし、この先々を想うと憂鬱だったのかもしれない。
けれど、この妹の中には幼い頃から妊娠に対する好奇心めいたものが根を張っていて、実際に姉が妊娠してからの行動を間近に見るにつけ、「こんなものなのか」と驚いている。つわりが突然に始まり、突然終わったことを心の隅では同情しながら、しかし一方で面白がるというのか、少し冷めた目で観察している。
その「妊娠」への憧れを交えた妄想が現実になって、それほど素晴らしくないと分かると、妹は姉を助けたくなってくる。そうしてジャムづくりが始まる……私にはそんなお話のように思えました。
描写のところどころにグロテスクで鮮明すぎる(?)描写があり、グラタンを食べるシーンなどはホラ―小説かなと思うくらいでした。そこがまた好きなのですが(笑)
残りの二篇も素敵な作品で、「ドミトリー」はミステリーチックな話の構成でどんどん世界に引き込まれましたし、「夕暮れの給食室と雨のプール」は情景描写が美しく、熱気に溢れた給食室と雨が降る外の温度差が肌に感じられるようでした。
しかし、どの作品を読んでも思うのですが、登場人物が悉く「小川洋子」なんですよね(当たり前といえば当たり前ですが)。男性も女性も、子供もおじいさんも、表現とか感受性が寸分たがわず脳内小川洋子、という感じです。
おじいさんに見えていない世界が主人公である女性には感じられる、とかではなく、この世界に登場する人物は全員が小川洋子とまったく同じ水準で世界を見ているんです。
それってある意味では、大枠のSFチックだなと思ったりもしないではないのですが、いかがでしょうか。
「妊娠カレンダー」という題名と、あらすじを見るといかにもドロドロした物語のように思えてしまいますが、実はそうでもないので、興味のある方は一度読んでみると良いかもしれません。 -
自分には、表題作の「妊娠カレンダー」よりも「ドミトリィ」の不気味な怖さの方が読んでいて面白かった。
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3編とも、ザワザワした感覚が読了後に残る。だからといってイヤな感じではない。どこまでも上品。
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静謐さの中の緊張。
嗚呼小川洋子さんだ。 -
妹が姉の妊娠から出産を見守り観察して綴った日記形式の短編。家族愛を感じるほのぼの系かと思いきや若干ホラー味を感じさせる不思議系でした。妹は姉を憎んでいるわけでもなく義兄も義兄の両親もいい人なのに、なぜ妹は猛毒の防カビ剤使用の危険な食品であるグレープフルーツをそうと知ってジャムを作り姉に食べさせ続けたのか?姉のグレープフルーツの食べ方も異常。マタニティブルーというのは本来妊婦本人がかかるものだがひょっとして妹は姉と共に暮らしながらそれにかかってしまったのだろうか?と思えるほどに不安定感、不安感に溢れていました。得体の知れない不気味さはなんとなく、その昔見た映画『ローズマリーの赤ちゃん』を彷彿とさせました。赤ん坊がどのような姿で生まれたのか見せないで終わってるところがいいかも。案外普通の姿で生まれているかもしれないですね。
『 ドミトリイ』『夕暮れの給食室と雨のプール』も独特の謎めいた不安感や孤独感が漂っていてなかなか良かったです。 -
あまりにも美しい言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。
かの有名な純文学の賞を受賞した作品とあって、純文学らしく大きな事件が起こるわけではない。不思議な謎もない。
でも、日常のちょっとした出来事が美しい言葉で彩られたらその瞬間から物語になる。
それは、鍋で煮込むジャムだったり、古びた宿舎で食べるケーキだったり、犬の散歩だったりと本当に些細な事であるが、読み終えたときにはそんな日常の美しさが眩しい。 -
作者の描く人物は人間として何処か欠落していて何処か切ないが。表題作に関しては、他の作品が欠落しまくりの人物だらけな感じなので物凄くフラットな神経の一般人にしか見えない(笑)