- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167557034
感想・レビュー・書評
-
震災のあと、現実の重さに押しつぶされそうで、しばらく本が読めなくなった。その後初めて手に取ったのが、突然の暴力によって慎ましい日常を奪われた人々を描いた『人質の朗読会』。これが震災前に書かれていたことが奇跡かと思ったことをあざやかに覚えている。
小川洋子さんの作品はそれ以来。まず、日本語の美しさに圧倒された。たとえば川上未映子さんの日本語もとても美しいが、彼女の文には「いたいけさ」「けなげさ」が漂うのに対し、小川さんの文章には毒や不穏さが見え隠れして、ホラーっぽかったりもする。
主人公は、自らの意思で大きくなることをやめた、天才的なチェス少年、リトル・アリョーヒン。どことなく無国籍感漂うおとぎ話のような世界が、デパートの屋上から降りられなくなった象のインディラ、太りすぎてバスから出られなくなったマスターなど、魅力的なキャラクターの数々とともに、構築される。私が一番好きなのは、終盤に登場する、ゴンドラの運転係の双子の兄弟。うわああ、ここに双子かよ……と、たとえそこで繰り広げられるのがどんなに残酷な物語であろうとも、この世界に浸っていたくなる、不謹慎なまでのワクワク感に胸が震えた(人間チェスの場面もまたしかり)。
暴力に蹂躙される運命を前に、ただ無力な人間として、いかに生きるか、いかに生きたか。正直、私はまだジタバタしてしまっているかもしれない。あんな風には最後まで生きられないかもしれない。そこにちょっと落ち込んだりもしつつ、読後もずっとかみしめ、味わっていたい作品だ。
この文庫版には、山崎努さんによる素晴らしい解説も収められています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今まで読んできた本の中で五指には確実に入る、美しい物語です。これは、読まないと、もったいないっ!
自分が気に入った本を人にオススメするのって何となく躊躇うこともありますが、断言できます。これは、読まないと、もったいない!!(二回目)
少年とチェスの出会いから、少年がリトル・アリョーヒンになるまでの経緯、彼をリトル・アリョーヒンにした場所との決別、そして彼の最期。
淡々と描かれる少年の小さな世界は、その静かな筆致のせいか、ファンタジックな設定の割にダイナミックなドラマはありません。それなのに、このメッセージ性の強いエネルギーはすごい。
表紙をパッと見た時は伊坂作品か?と勘違いして、冒頭数行を読んだ時は村上春樹みたいな世界観かしら?とかチラッとよぎったんですが、文章の好みでいったら断然こっちが好き!
とにかく、本を読むのが好きな人、チェスに興味がある人には、ぜひ読んでほしいです。
もちろんチェスのルールを全然知らない人も楽しめると思いますよ〜。むしろ、チェス始めたくなると思う^^
この作品を読んだ後にパソコンのチェスゲームをやったら、いつもより手を考える時間がふえたのは私だけではないはず…^^
「大きくなることは悲劇である」
少年にチェスを教えてくれたマスターを、ある日襲った悲劇。それをきっかけに大人になることを拒んだ少年は、やがてチェスの深海世界を漂うようにチェスを愛する人々と出会い、からくり人形「リトル・アリョーヒン」となる。盤面からあらゆるものを読み取り、どんな対戦相手にも美しい棋譜を残すリトル・アリョーヒン。
「盤下の詩人」として称えられる彼の生涯。-
「ダイナミックなドラマはありません」
小川洋子の作品の中では一番好き。不思議な世界にドップリ浸かって夢の中にいるようだから。。。「ダイナミックなドラマはありません」
小川洋子の作品の中では一番好き。不思議な世界にドップリ浸かって夢の中にいるようだから。。。2012/12/17
-
-
リトル・アリョーヒンがミイラとの対局を長く味わうことを望んだように、ずっと作品を読んでいたい気持ちになりました
-
五年後、十年後、読み返したらどんなことを思うのだろう。
みんな自分の場所で、出来ることを精一杯やっていたように思う。しかもその場所はあまり良くは見えないけれども。文句も言わないで、本当に頭が下がります。
どんなところにいたって、そこをいい場所にするか悪い場所にするかは自分次第なのかな?
でもそれはどうやって?
五年後、十年後の私がどういうふうに考えるのか気になるなぁ。“自分”の扱い方が大きな要素になるような気がするけども。 -
この本を読み終えてから、なかなか次の本を読み始めることができない。この本に描かれた静謐で無常な世界が残す余韻は、それだけ強かった。
一文一文時間をかけて、丁寧に書かれた文章だと感じる。著者は作中の主人公と同様、「最善の一手」を考え抜き、小説という詩を綴ったのだろう。私はこの本のおかげで自分の中の大海を、宇宙を知ることができた。-
urayuさんの、『自分の中の大海を宇宙を知ることができた』という文章が素敵だと思いました。
自分も、本書は、ずーっと心に残っていて忘れ...urayuさんの、『自分の中の大海を宇宙を知ることができた』という文章が素敵だと思いました。
自分も、本書は、ずーっと心に残っていて忘れられません。あのバスに乗ってみたいな…と、妄想してしまいます。2022/03/12
-
-
小川洋子さんの紡ぐ物語は何でこんなに美しいのか。そして哀しいのか。気がつくと、私はいつも泣いている。
-
人身事故でダイヤの乱れた電車の中で読み終わった。
人は何かひとつその人だけのものがあると信じている。
それを見つけ、続けること。
私はその何かを探していて、見つからないかもしれないし、もう近くにあるのかもしれない。
たくさんのことから逃げてきた。
学校も仕事も趣味も。
体も心もクセがついてしまったくらいに。
リトル・アリョーヒンはチェスを見つけ、
最後までチェスを続けた。
私も死ぬまでに何かを見つけることができるだろうか。
死ぬときに隣にあるものは何だろうか。
電車の前に立った人は何もなかったのだろうか。
今日は少し優しい気持ちで。
最善の気持ちで。